パラミックス徹底解説 Pistaさん編2-2〜ボーカルとハモリのMIX〜[vol.102 難しさ:ムズい] 歌ってみたボーカルMIXのポイント
DTMerやパラミックスに興味がある人なら誰しも気になる「ミキシングの中身」。4回にわけて、Pistaさんの生演奏アレンジ歌ってみた「チーズケーキクライシス/西沢さんP」のパラミックスのポイントを解説していきます。ひとつでも役に立つ技があれば嬉しいです。
第2回はボーカル及びハモリトラックのミキシングに関する説明です。歌ってみたをセルフミックスしたい歌い手さん、MIX師さんには参考になると思います。
各回の内容の目安は以下の通り。パラミックスではなく歌ってみたMIXの参考にしたい場合は、今回と次回(1と2)を御覧いただけばOKです。3と4では各トラックの中身を説明しています。
もちろん全ては解説できませんので、ポイントを絞っています。知りたいことなどがあれば、動画のコメント欄等でぜひお知らせください(*^^*)
動画版はこちら

前回の記事もあわせてお楽しみください。
題材となる動画
甘い歌声と高い歌唱力で人気の歌い手Pistaさんが歌う、西沢さんPさんのチーズケーキクライシスが題材です。歌ってみたながらもマルチトラックのパラミックス音源で、生演奏のトラックも多く含まれる豪華な歌ってみたです。筆者がミキシングを担当させていただきました。
本記事、動画をご覧になる前にぜひ御覧ください。

原曲の西沢さんPさんのチーズケーキクライシスはこちら!POPS&バンドサウンドが大好きな僕としてはGUMIの歌声がぴったりはまる原曲のアレンジも大好きの一言につきます\(^o^)/

ボーカルトラックの構成
トラック構成

ボーカルトラックは1トラックですが、ミキシングの作業効率向上のため、もともとのデータが置いてあるトラック(Main Vo.01)と、音作り用のモノラル・AUXトラック(Vo MIX)に分けています。2トラックで1セットという感じで扱います。ボーカルはトラックの切り分けや加工、音量調整等、色々な作業を行うため、2つのトラックに分けて作業しています。
今回はMain Vo.01トラックでMelodyneによるピッチ・タイミング補正、波形編集を行い、Vo MIXトラックで音作りをしています。トラックが2つあることで全体の音量調整や、コンプレッション具合の一括調整、パラレルコンプレッションなどが容易になります。
ハモリはダブリング用で2トラック用意していただいたので、そのままLとRとして扱い、AUXトラック(Hamo)にまとめています。
ダブリングとは?以下の記事で解説しています。
ピッチ・タイミング補正
ピッチ・タイミングの補正はProTools内でARA2機能を用いてMelodyneを使用しています。Melodyneのバージョンは複数のトラックを効率的に扱うことができるMelodyne Studioバージョンを使用しています。歌ってみたMIXをするなら圧倒的にMelodyne Studioグレードが便利です。少々お高いですが、、、(^_^;)

ボーカルトラックのプラグイン
Pistaさんの場合もともとの音が良いということもあり、あまり大掛かりなことはしていません。6つのプラグインで音作りをしています。
- Waves F6-RTA(基本調整・カット用イコライザー)
- Waves Vocal Rider(コンプへの入力音量調整)
- Sonnox Oxford Dynamics(コンプレッサー・サチュレーター)
- Waves Vitamin(音質調整・倍音付与)
- Avid Pultech EQP-1A(音質調整・高域ブースト専用)
- Waves Sibilance(歯擦音減衰)
ご覧の通りで、コンプレッサーは1台のみです。最近は、「コンプレッサー実は不要?」という思考がマイブームなので、コンプレッサーの台数を減らし、MelodyneとVocal Riderで音量を整えてしまうことが多くなりました。
Waves F6-RTA
不要音をカットし、周波数特性を整えるためのイコライザーです。

LCF:106Hz,18dB/oct・・・散発的に入っている低音ノイズのカット
1:OFF
2:OFF
3:232Hz,Dynamic EQ-11.0dB・・・散発的な低音の音溜まりを抑える
4:621Hz,-2.0dB,Dynamic EQ-9.1dB・・・中域の音溜まりカット、部屋なり減衰
5:3153Hz,Dynamic EQ-8.5dB・・・大音量時の耳に痛い感じを低減
6:OFF
ご覧の通りダイナミックEQを多用しています。もともとの音が良いので、通常時は音質変化を少なく、不要な音が来たときだけ大きく確実にカットするように設定しています。
LCFが今見るとかなり派手にカットしてありますが、低域の情報量がもともと少なかったこと、低域に散発的にノイズがいたことが原因です。
Waves Vocal Rider
Vocal Riderは手でフェーダーを操作するように、マイルドな音量操作を行うことができるプラグインです。プラグイン類の一番うしろ(最後段)で使用することが多いのですが、今回はコンプレッサーより手前で使用しています。音量調整というよりは、後段のOxford Dynamics(コンプレッサー)のかかり具合を均一化することが狙いです。
Oxford Dynamicsはコンプレッサーとしての目的の他、サチュレーションを狙っているため、ある程度入力音量が整っている方が音質が安定して聞きやすくなります。
「Range(=音量調整幅)」は比較的大きめで、最大値:5.5dB・最小値:-2.0dBという設定で、最大7.5dBの幅でフェーダーが動くことになります。ボーカルの最後段で使用する場合はもっと小さな動きに設定しますが、前段での使用(=コンプで音量調整前)なので、調整幅が大きめです。

後段での使用説明は以下の記事で行っています。
Sonnox Oxford Dynamics
コンプレッサーとサチュレーターです。複数のモジュールが組み合わされた構成になっており、「COMPRESSOR」と「WARMTH」モジュールのみ使用しています。
「COMPRESSOR」モジュールは「COMP TYPE」を「CLASSIC」に設定していることがポイントです。CLASSICモードではLA-2Aのようなオプトコンプ(光学式コンプレッサー)をモデリングした動作とサウンドになります。CLASSICモードではアタックタイムやリリースタイムの設定もありません。

Oxford Dynamics特筆すべきは「WARMTH」モジュールです。このモジュールはOxford Inflatorと同じような効果を得られるモジュールで、このWARMTHモジュールのためにこのコンプレッサーを使っていると言っても過言ではありません。概ね70%程度のかなり強いかかり具合にして使います。

Waves Vitamin Sonic Enhancer
任意の倍音を付加できるプラグインで、簡単に説明すればクリアになりすぎたサウンドに中低域の温かみを付加するようなイメージで使っています。部屋なり等のカットを行うと、綺麗にはなりますがやや寂しい感じにもなります。Vitaminの「LOMID」「MID」の帯域を用いて、人間っぽさのようなものを足しています。

Avid Pultech EQP-1A
高域をブーストすることで声を前に出すためだけに使用しています。なかなか派手にブーストしており、8kHzを+6.0dBです。この楽曲に合うように、かなり明るい音にしています。この技は詳細は別の記事で紹介していますのでご参照ください。

Waves Sibilance
最終段は歯擦音除去のためのSibilance。知りうる限り最も自然に歯擦音を減衰できるエフェクトであり、どの楽曲でもSibilanceを使っています。他のディエッサーを使用することはほぼありません。

ポイントがあるとすれば「MODE」と「RANGE」の設定です。「MODE」はほとんど90〜100という設定値(SPLIT側)で使用しています。また、どの程度カットするかを決める「RANGE」は、-25dBと強めの設定です。僕は歯擦音が苦手なので、かなり強めにカットします。Sibilanceはかなり自然なので、-40dBくらいまでは実用範囲です。
以上がボーカルのプラグイン群です。筆者としてはゴールデンコンボとでも言うべきスタンダードな組み合わせです。カット>音量調整>ブーストという並びになっているのがおわかりかと思います。
歯擦音除去だけはカット側プラグインですが、最終段になっています。Sibilanceは音が自然で違和感がないので、最終段で使用するほうがかかり方が均一で扱いやすいと感じています。他のディエッサーの場合はコンプ前段で使用することが多いです。
ハモリトラックのプラグイン
ハモリトラックは同じ場所で同じ人が歌っているということで、プラグインの基本構成は同じですが、以下の通り一部のプラグインがありません。また、コンプレッサーがボーカルトラックと異なります。

- Waves F6-RTA(基本調整・カット用イコライザー)
- Waves Vocal Rider(コンプへの入力音量調整)
Sonnox Oxford Dynamics>Waves Renaissance Compressor(コンプレッサー・サチュレーター)Waves Vitamin(音質調整・倍音付与)Avid Pultech EQP-1A(音質調整・高域ブースト専用)- Waves Sibilance(歯擦音減衰)
ご覧の通りで、サチュレーター(Oxford Dynamics)、ブースト側プラグインがなくなっています。ハモリのトラックはボーカルトラックより目立つ必要がないため、音を前に出すプラグインは不要というのが理由です。ボーカルトラックは徹底的に前に、ハモリは前に出ないように対策することで、自然とメインボーカルが際立って聞こえます。
コーラス2本をまとめたAUXトラック(Hamo)において、さらに2つのプラグインを使用しています。
- Waves F6-RTA(音質の再調整)
- Waves Doubler4(音を広げる、質感の調整)
Waves Renaissance Compressor
ボーカルトラックで使っていたキャラクターの濃いOxford Dynamicsに代わって、キャラクターの薄いRenaissance Compressorを起用しています。アタックタイムは0.5ms、スレッショルド・レシオも強めの設定にして、音を大きく抑え込んでいます。ボーカルより前に出ないようにしています。

Waves F6-RTA(AUXトラック用)
個別のハモリトラックではカット側への調整をしていますが、AUXトラック(Hamo)でのF6-RTAは、よりコーラストラックらしい音質への調整を目的としています。

2ポイントのみ使用しています。
LCF:OFF
1:OFF
2:OFF
3:268Hz,Dynamic EQ-10.5dB・・・瞬間的に膨らむ帯域をさらにカット
4:OFF
5:3025Hz,Dynamic EQ-8.5dB・・・大音量時の耳に痛い感じをさらにカット
6:OFF
どちらも前段のF6-RTAですでにカットしている帯域をさらにカットしたイコライジングです。前段EQを強めても良かったのですが、前段EQはボーカルトラックと共用していたため、わかりやすくするためにコーラストラックとしての調整を行うEQを分けました。
どちらもボーカルと同時に再生されることで特に気になってしまう帯域を調整したものです。
Waves Doubler4
こちらも筆者としては定番のコーラス・ハモリ用セッティングです。かかり具合は曲それぞれですが、ほとんど同じセッティングでほとんどの曲に使用しています。

詳細は別記事で解説していますが、ポイントを挙げるとすれば高域をさらにカットしていること、そして「Direct(直接音=DRY音)」をオフにしていることです。つまり、原音は出していません。ボーカルと一緒に再生した時に、ボーカルに対してうまく混ざるように調整した結果です。
フェーダー・オートメーション
以上のような音作りを行った上で、メインボーカル、ハモリ共にフェーダーオートメーションを用いて音量調整をしています。以下は1番サビの部分です。

音量変化の幅はさほど大きくなく、最大で3dB程度です。しかし効果は大きいので、特にグッと来てほしい部分でフェーダーを大きくして(フェーダーを突くと言います)、歌のインパクトを上げています。
「〜の歌詞の一文字だけ聞こえない」ような細かい音量調整はMelodyneで行っているため、文字ごとの音量調整はしていません。あくまで「グッと来る調整」という位置づけです。
オートメーションの書き込みにはフェーダーコントローラーPresonus FADERPORTを使用しています。絶版品なので、必要な方は現行品のFADERPORT2、または他社同等品を探してください。
以上、ボーカルトラックの音作りを説明しましたが、いかがだったでしょうか。ボーカルはどのような音で録音されているかですべてが変わります。振り返ってみると、Pistaさんはもともと声も音も良く、仕上げも生音を活かす方向であるため、あまり大掛かりなことはしていません。基本に忠実な音作りにとどめました。
次回からはパラミックス特有の楽器ごとの音作りに迫ります。
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