歌ってみたMIX コーラス・ハモりトラックの音作り イコライザーやコンプのかけ方 [難しさ:ふつう vol.072] コーラスのミキシングの方法

歌ってみたをはじめ、歌もののミキシングでは多くの場合メインボーカル以外にもボーカルのトラックがあります。ダブリングによるメインの補助トラックや、ハモりのパートを歌ったトラックなどなど。これらのトラックはボーカルと同じような音作りで良いのかどうか、迷うところですよね。

本記事ではメインボーカル以外のトラックの考え方について説明していきます。

動画版はこちら!

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https://soundworksk.thebase.in/items/59372493

曲名:Re:GO
アーティスト:キニナルコ

https://linkco.re/XGDGe0eD?lang=ja

どのような目的のトラックなのかを見定める

コーラストラックと言ってもアレンジ上の役割やイメージは様々ですから、最初にどのような方向性の音作りをするべきなのか見定めましょう

色々な視点で考えられますが、「メインボーカルと同列に扱うのかどうか」ということを決めましょう。言い換えれば同じ音量で聞かせるべきトラックかどうか、ということです。

メインボーカルと同列に聞かせるべき内容であれば、メインボーカルと同じ音づくりをすれば良いということになりますね。

したがって、本記事で説明していくのはボーカルより目立たせない、ボーカルよりも重要性が低いアレンジとしてのコーラスやハモりの音作りです。事実上ほとんどの場合はボーカルより重要性は低いでしょう。

ここで重要なのは、ボーカルが最も重要であり、最もよく聞こえてほしいということを再認識することです。

以降、メインボーカル以外のトラックをまとめて「コーラスパート」と呼称していきます。

コーラスパートの基本的な音作り

音をきれいにする

まずはメインボーカル同様に音をきれいにする作業です。低域のノイズカットやリップノイズの除去、部屋鳴りの低減などを行いましょう。この点についてはメインボーカルと全く同じだと考えて差し支えありません。

  • 空調等のノイズ除去:iZotope RXやWaves X-Noise/Z-Noise等を使用してノイズをカットする
  • リップノイズ除去:iZotope RXや波形編集を用いてリップノイズをカットする
  • 低音の不要音除去:イコライザーのLCF(ローカットフィルター)を用いて低音の不要帯域をカットする
  • 部屋鳴りの低減:イコライザー等を用いて録音時に入ってしまった部屋鳴りを低減する

これらはメインボーカルと全く同じなので、メインボーカルのトラックからコピー・ペーストしてきてもOKです。むしろその方が良いです。

参考までに、以下のイコライザー(Waves F6-RTA)は、題材曲のメインボーカルにかけたイコライザーです。低域をカットし、部屋鳴りが気になる3箇所をカットしています。

このメインボーカルにかけたイコライザーをコーラスパートにペーストして使用しました。同じ部屋で同じように録音しているのであれば、同じ特性が現れるはずですから、同じイコライジングが有効となります。合理的な時短ですね。

コンプレッサー選びとかけ具合

ここから先はコーラストラック特有の音作りになっていきます。

コンプレッサーをかけていきますが、その目的は音作りというよりは音量を自動的に整えることを目的とします。メインボーカルでは音質変化のあるコンプレッサーを使いますが、コーラスパートでは音質変化の少ないものを選びましょう

また、筆者はアタックタイムが0msに設定できるものを使用します。アタックタイムを0msに設定すると、音のアタックをコンプレッサーが潰してくれるので、音が目立たなくなります。筆者がよく使用するのはWaves Renaissance AXXです。設定がかんたんで音の変化が少なく、アタックタイムを0msにできるコンプレッサーです。

設定ができたら強めにコンプレッサーをかけましょう。メインボーカルではかけすぎ注意ですが、コーラスパートでは強めにかけて強めの音量調整をしてしまいます。

音が目立たないコンプを選び、アタックタイムの設定によって立ち上がりを圧縮、強めのコンプレッションをすることで、程よく目立たない音が出来上がります。結果、メインボーカルの方が自動的に目立つ音になります

その他、無料のコンプレッサーではMelda Production MCompressorはアタックタイムを0msに設定できます。Cubase標準のCompressor/Vintage Compressorは0msにはできませんが、0.1msにはできます。0.1msであればほとんど音は通過しませんので、同じように使用できると考えて良いでしょう。

おわかりの方もいるかもしれませんが、コンプレッサーというよりはリミッターに近い使い方です。したがってリミッターやマキシマイザーで代用してもOKです。

イコライザーで音質調整

イコライザーについてもコーラスパート独特のかけ方をします。イメージはコンプレッサーと同じく、メインボーカルより目立たない音です。

シェルビングを使って高域と低域を数dBカットしてみましょう。

  • 高域:シェルビングEQ、3kHzくらいから上、3〜5dB程度カット
  • 低域:シェルビングEQ、500Hzくらいから下、3〜5dB程度カット
低域と高域をシェルビングでカット

2箇所のイコライジングによって、輪郭がぼやけ(=高域EQ)、圧力の無い音(=低域EQ)になります。この状態でメインボーカルと重ねると、自動的にメインボーカルがコーラスパートの前に出てきます

イコライザーについては先程不要音のカット用に使ったイコライザーをそのまま使ってもOKです。上記の画像では、初段のEQに追加でシェルビングEQを行っています。コーラスパートではCPU負荷を抑えておきたいので、なるべく少ない数のプラグインで音を作るようにしましょう。(もちろんCPUパワーに余裕があれば、この限りではありません)

前後イメージや音質の調整

上記のコンプレッサーとイコライザーをかけてみると、いかがでしょうか?

メインボーカルをいじっていないのに、自然とメインボーカルが目立ってくることが感じられたと思います。コーラスパートは徹底的に脇役として扱い、メインボーカルを引き立たせることを重要視した音作りをしていくのです

ミキシングとは何を出して、何を出さないかを決めることでもあります。全部前に出たら、それは立体感のない音になってしまいます。最も重要なボーカルが目立つように作っていきましょう。

最後に上記で調整したポイントの微調整を行いましょう。

  • もう少し前に出す:アタックタイムを長くする、EQの高域カットを弱める
  • 低音ハモりの重厚感を出す:EQの低域カットをやめてブーストする・・・メロディラインが低いパートの場合のみ
  • もっと後ろにする:EQの高域カットを強める

役割を明確にしてエフェクトをかけておけば、自ずと調整できるようになると思います。メインボーカルとの位置関係を考えながらエフェクトを調整してみてください。

コーラスパートの広がりをコントロールする

メインボーカルはモノラル(1本)でセンターから聞こえれば良いのですが、コーラスパートは広がりがあったほうが良いことがほとんどです。言い換えると、左右の広がりをコントロールできる状態になっている方が、盛り上げやすいのです。

録音の時からダブリングで複数トラックのコーラスパートを録音してある場合と、1本しか録音されていない場合があると思いますので、それぞれ説明しましょう。無論、たくさん録音されている方が様々な選択肢がありますから、可能であれば同じパートを2本以上録音しておきましょう。

エフェクトを使ってステレオ化する

モノラルで録音されている場合はコーラスエフェクト等を用いてステレオ化します。筆者のオススメはWaves Doublerです。名前の通り単一のトラックでもダブリングしたような音になるエフェクトで、ほとんどの場合はDoublerで対応できます。

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設定もどんな場合でもほぼ同じなので、以下にスタンダードセッティングを記述しておきます。

  • [Direct]をオフにする=原音をミュート(またはオンにしてGainを下げる)
  • [Pan]を左右等間隔配置に変更する・・・-45/-25/25/45くらいが多いです
  • [Detune]を弱める・・・-6/-3/3/6くらいが多いです
  • イコライザーをオフにする

Doublerは原音とそれ以外に2つ、または4つの音に広げることができますが、原音をミュートしてしまうことが多いです。この設定によって、メインボーカルの場所が自動的に空いて聞こえやすくなります。

その他で筆者が同じ用途に使うのは、OVERLOUDのGem Mod。現在は単体ではなくMODULAというバンドルの中にDIMENSIONという名前のプラグインとして入っているようです。昔あったROLAND DIMENSION Dという名機を模倣したもので、弱めにコーラスをかけると程よいステレオ感が得られます。

注意点はCubaseではトラックへのインサートで使用する場合はモノラルでしか動作しないようなので、ステレオに広げる効果が出ません。Cubaseで使用する場合はFXトラックに立ち上げてセンドリターンで使用してください。

その他ではハードウェアになりますが、BOSS CE-300というアナログコーラスでステレオ化しています。ROLAND JC-120に搭載されていたコーラスを摘出したようなエフェクトで、アナログ独特の自然なかかり具合をします。

ポイントは、シュワシュワせずに自然とステレオ化できるエフェクトを使うことです。あまりエフェクティブな音になってしまうと目立ってしまいます。コーラス系のエフェクトなら代用できると思いますので、探してみてください。

ダブリングで複数トラックになっている場合のエフェクト

ダブリングされている場合はそのままでも大丈夫ですが、エフェクトをかけることでより広がり感が強くなります。また、エフェクトをかけることで位相と呼ばれる音の性質が変化して、音が前に出にくくなります。位相の良い音と位相の悪い音を同時に出すと位相の良い音が前に聞こえます。つまり、またしてもメインボーカルを前に出す効果があります。

コーラス全部をグループトラック(バス)にまとめて、エフェクトをかける

筆者の場合はコーラスパートをバスにまとめて、ステレオバスでDoubler等のエフェクトをかけることが多いです。

PANで広がりを調整する

ステレオ化できたらPANの幅を調整して広がりをコントロールしましょう。

ポイント1:PAN MAXはあまり使わない

PAN 100%にすると、センターに定位するメインボーカルとは完全に分離して一体感が弱くなります。また、広げすぎることによって中抜け感が強くなり、左右の点に聞こえてしまいます。PANの幅は70%程度を基本に調整してみましょう。

PAN MAXを基本としない

ポイント2:演出に合わせてPANを変化させる

単純に言えば幅が広く数が多い方が盛り上がって聞こえますので、サビではPAN広く、それ以外では狭くするだけでサビが盛り上がって聞こえます。オートメーションを使ってPANをコントロールしましょう。


まだまだ技はありますが、今回はこのへんで。

意味を持ったエフェクト調整をしてくれば、自ずと何をすれば良いか見えてくるものです。AIプラグインとプリセットで時短する前に、基本的なエフェクトを自分で設定して試行錯誤してみましょう。コーラストラックは人によって音作りがかなり異なると思います。みなさん独自の手法を持っていますので、試行錯誤してぜひご自身のコーラス処理を見つけてみてください。