パラミックス徹底解説 Pistaさん編2-1 〜マスタートラックと音圧調整〜[vol.101 難しさ:ふつう]YouTube投稿における音圧調整の目安
DTMerやパラミックスに興味がある人なら誰しも気になる「ミキシングの中身」。今回より4回にわけて、Pistaさんの生演奏アレンジ歌ってみた「チーズケーキクライシス/西沢さんP」のパラミックスのポイントを解説していきます。ひとつでも役に立つ技があれば嬉しいです。
第1回はマスタートラックのプラグイン設定や音圧調整について解説しています。
各回の内容の目安は以下の通り。パラミックスではなく歌ってみたMIXの参考にしたい場合は、今回と次回(1と2)を御覧いただけばOKです。3と4では各トラックの中身を説明しています。
もちろん全ては解説できませんので、ポイントを絞っています。知りたいことなどがあれば、動画のコメント欄等でぜひお知らせください(*^^*)
- マスタートラックと音圧調整のポイント
- ボーカルとハモリのトラックのミキシングのポイント
- ドラムとベーストラックのミキシングのポイント
- その他の楽器のミキシングのポイント
動画版はこちら

目次
題材となる動画
甘い歌声と高い歌唱力で人気の歌い手Pistaさんが歌う、西沢さんPさんのチーズケーキクライシスが題材です。歌ってみたながらもマルチトラックのパラミックス音源で、生演奏のトラックも多く含まれる豪華な歌ってみたです。筆者がミキシングを担当させていただきました。
本記事、動画をご覧になる前にぜひ御覧ください。

原曲の西沢さんPさんのチーズケーキクライシスはこちら!POPS&バンドサウンドが大好きな僕としてはGUMIの歌声がぴったりはまる原曲のアレンジも大好きの一言につきます\(^o^)/

トラック構成
ミキシングはProToolsを使用しており、トラック構成は以下の画像の通り。なかなかのトラック数で、モノラル23トラック、ステレオ13トラックの合計36トラックです。

マスタートラックの構成とポイント
最初にすべてのトラックに対して影響のあるマスタートラックを見ていきましょう。

5つのプラグインを使用しています。
- Waves F6-RTA(イコライザー)
- T-RACKS MasterEQ 432(イコライザー)
- T-RACKS Precision Compressor(ステレオ・コンプレッサー)
- Sonnox Oxford Inflator(マキシマイザー?)
- Waves L1+ Ultramaximizer(マキシマイザー)
これらのプラグイン・セット(プラグインチェイン)は筆者のスタンダードセットであり、以下の記事で解説しているものと全く同じです。
それぞれのセッティングを解説します。
Waves F6-RTA
全体の周波数特性(バランス)の調整と、音溜まりのカットによる耐久性向上を狙っています。
LCF:32Hz, 24dB/oct・・・安全のための低音カット
1:624Hz,+2dBシェルビング・・・全体の重心を下げて質感を柔らかくする
2:223Hz,-2.0dB・・・音溜まりカット
3:307Hz,-4.0dB・・・音溜まりカット
4:137Hz,-2.5dB+Dynamic EQ・・・音溜まりカット
5:OFF
6:4833Hz,+0.5dBシェルビング・・・全体の高音の出方を調整

異なる再生環境での聞こえ方の違いの補正が主な目的です。この調整ではスモールスピーカーやスマホチェック、カーステ、ヘッドホン等、様々な再生機器でチェックした上での調整をしています。
T-RACKS Master EQ 432
ブースト側へのおおざっぱな調整はMaster EQ 432を使っています。不足していると感じた280Hz/500Hz/10kHzの3ポイントをブーストしています。特に難しいことはせず、普通にL/Rモードで使用しています(M/S処理は行っていません)。

前段のF6-RTAと同じようなイコライジングが見られますが、役割が異なっています。Master EQ 432は音作り用途であり、F6-RTAは再生環境に対応するための調整用途です。
T-RACKS Precision Compressor
特に難しい設定はしておらず、このコンプレッサーの音がほしいという理由と、ステレオコンプをかけることでサウンドの一体感をアップすることが目的です。
従ってコンプレッションは弱めの設定。Gainは+6dBとなっており、後段のInflatorに入力される音量をここで調整しています。

Master EQ 432とPrecision Compressorは、ご本家サイトでの単体販売の他、T-RACKS 5 MAXバンドルに収録されています。
Sonnox Oxford Inflator
僕のサウンドの要であるInflator。EFFECTを80%にしてやや弱めに、音の質感をCURVE=20.0にすることで調整しています。Inflatorは入力を大きめにすることでテープコンプレッションのような効果が得られるため、サビで入力のメーターが+5程度まで振れるように調整しています。
今回のようなバンド・POPSの場合はINPUT大きめのEFFECTやや下げが多いです。EDM等になればINPUT大きめ&EFFECT100%という感じです。

Waves L1+ Ultramaximizer
L1ではピークを整えているだけで、音質変化が出るほどのマキシマイズはしていません。音圧は前段のInflatorでほぼ決まっており、L1で適正化している感じです。24bit/48kHzの音源で、マスターも動画用で24bit/48kHzのまま完成させるため、ディザは不要ということで、オフになっています。

結果的な音圧
以上のようなマスタートラック設定で、以下のような音圧に調整されました。
- トゥルーピーク:-0.869dB
- ラウドネス:-13.83LUFS

ラウドネスの変化は以下のようになっています。
インテグレーテッド・ラウドネス値は-14前後に落ち着いていますが、サビとそれ以外で音量差を作ることでサビが大きく聞こえるように調整しています。
正直なところ、ミキシングしている最中はインテグレーテッドラウドネスを横目で見る程度で、全く気にしていません(目標にしていません)。音を聞き、VUメーターを見ながら感覚で音量調整して、完成間際になった段階でラウドネスメーターを最終確認するイメージです。結果が-13.83LUFSです。

個人的には、最近はインテグレーテッドラウドネスが-10〜-12LUFSとなる「やや大きめの音圧」が好きなのですが、この曲は大音量が必要な楽曲ではないと判断したため、標準的な音量感に抑えました。
YouTubeに投稿して出てきた結果は以下の通り。

この画面はパソコンでYouTubeを閲覧し、右クリック>詳細統計情報で確認できます。
「content loudness 3.3dB」とありますが、これは「投稿された状態から3.3dB音量を下げました」ということを意味しています。
YouTubeのラウドネス基準値は-14LUFSとされていますから、-14LUFSを超えた分だけ下げられたような、概ね想定通りの挙動です。YouTubeのプログラムでは小さい音源は音量をアップしてもらえませんし、大きすぎるとかなり音量を下げられてしまいます。下げられる幅が大きいと、音質の変化も大きいように感じています。
「content loudness ***dB」の範囲が、3.0dB〜6.0dBくらいが、変化が少なく、音量が小さく聞こえないということで、好みの音量です。
ラウドネス時間変化のコントロール
筆者はサビがドッカンと来るミキシングが好きなので、サビとそれ以外でこっそりと音量差が生まれるように調整しています。この調整にはマスタートラックのフェーダーオートメーションを用いています。-1.5dB〜0dBの間で、セクションを区切りにして動いています。

上記のフェーダーの動きの結果得られた音圧変化が先程の画像です。(再掲)

ProToolsの場合、マスタートラックのフェーダーは、マスタートラックのプラグインより前段にあります。従って、フェーダーを下げるとマスタートラックのプラグインに入力される音量が下がることになります。
ProToolsでは マスターフェーダー>マスタートラックのプラグイン>出力
他のDAWではプラグインより後段にマスターフェーダーがあることが多いと思います。アナログ・コンソールにおけるマスターフェーダーは一番最後にあるものなので、その方が自然であるとも言えますね。
ProToolsは上記の通りプラグインより前段なので異質ではありますが、逆に前段であるがゆえにフェーダーを動かしてもバレにくいという結果が得られます。マスタートラックのフェーダーが動くことで特にコンプレッサーのかかり具合が変わるため、サビでコンプ感が強くなり(オーバーコンプ方向)、パンチのある、音圧の高いサウンドになるという仕組みです。
プラグインより後段にマスターフェーダーがある場合は音量変化がバレやすいので、気をつけて動かしましょう。
次回はボーカルトラックとコーラストラックを紹介していきます。お楽しみに。
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