歌い手さんも役に立つボーカルエフェクト辞典 歌を重ねればどんどん豪華?ダブリング [vol.032 難しさ:やさしい]

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歌い手さんにも知識として役に立ちそうなボーカルエフェクト辞典、第2回。

今回は「ダブリング」という手法をご紹介。

実はこのダブリング、最近の曲では当たり前のように行われているのでダブリングされた音が普通と思ってしまうこともあるかもしれません。仕組みを理解すれば自ずと作り方やより良くする方法もわかってきます。このダブリングという手法を改めて紐解いてみましょう。

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歌い手さんも役に立つボーカルエフェクト辞典 歌を重ねればどんどん豪華?ダブリング [vol.032 難しさ:やさしい]

ダブリングとは?

同じ歌は2度と歌えない

最初に結論から申し上げましょう、ダブリングとはどういう手法か?

同じパートを何回も歌って、それらを同時に再生することで広がりや豪華さ、盛り上げ演出を行う手法です。

「同じ歌をいくつ再生しても同じじゃないの?」

これが同じにならないのです。

音と演奏、歌の奥深さがここにあります。まず知っておくべきは、人間は2度と同じ歌を歌うことはできないのです。何度歌っても必ず少しずつ違いがあります。ピッチやタイミング、声色、表現、少しずつ異なってしまいます。

もちろん上手なシンガーであればズレを少なくすることはできますが、全く同じというのは不可能なのです。

このズレを逆用した手法が「ダブリング」です。全く同じなら一緒に再生しても音量が大きくなるだけなのですが、ズレているなら、、、?一緒に再生すると独特の効果を生み出します。

同じ音は合成されると音量が大きくなるだけ

同時に再生することで生まれる「揺れ」

ダブリングでは「ピッチのズレ」が有用に作用します。

少しだけピッチの違う音を合成すると揺れのある音になり、これは「コーラス(Chorus)」というエフェクトの仕組みとほぼ同じ原理です。コーラスエフェクトでは機会的にピッチのズレた音を作り出して合成しますが、もともと違う音を合成するのが「ダブリング」です。つまり、手動コーラスのようなものです。

コーラスエフェクトとダブリングの概念図

ではコーラスエフェクトで同じ効果が作れるのでは?

となりますが、ひとつの素材から作るコーラスエフェクトと、2つ以上の素材から作るダブリングでは同じ音にはなりません。ダブリングの方が自然、かつ豪華な雰囲気がでてきます。やはり手間暇かけたほうが良い結果が出ることが多いのです。

ダブラー(Doubler)というエフェクトもありますが、これもコーラスの仲間。よりダブリング用途に特化したコーラスがダブラーと言えるでしょう。コーラス、ダブラー、ダブリング、仕組みは同じようなものです。

※もちろんコーラスエフェクトはコーラスエフェクトなりの良さと使い所があります

ダブリングのメリットとデメリット

メリットもデメリットもありますので整理しておきましょう。

メリット

  • 揺れによって柔らかく聞きやすい音質が得られる
  • ダブリングのある無しで2つの音が生まれ、曲の演出に活用できる
  • 複数の音を再生することで基準点が曖昧になり、歌の粗さを隠すことができる

1,2は音の演出的効果であり、ダブリングは演出効果を狙う手法に見えます。

が、実は3の効果を狙って使われることが多くあります。ざっくり言うと、ダブリングによってボーカルが上手く聞こえます。

デメリット

  • 音が少し引っ込む
  • ボーカルのリアリティがなくなる
  • ボーカルの本数が増えるので録音時間、作業量、使用する機器すべて増える

1,2のデメリットは音量調整や音質調整である程度補完できるため気になることは少ないでしょう。上手なボーカリストの場合、表現力豊かなボーカリストの場合は、ダブリングをしないほうが歌の良さやリアリティが出てくることがありますので注意が必要です。

注目すべきは3で、音の問題ではなく工数の問題です。

3本のボーカルトラックでのダブリングでボーカル編集を必要とする場合、編集工数は通常の3倍になります。時間が無制限にある場合は気になりませんが、お仕事の場合や時間が限られている場合は工数を踏まえて考える必要があるでしょう。現実的に時間は有限なので、ダブリングでどういう音を出したいかをよく考えて取り組むと良いでしょう。ダブリングは必須項目ではありません。

実際のところは

メリットの3とデメリットの3が相互に関係しており、粗を隠すために良いテイクを仕上げるのに時間を使うか、ダブリングのためにたくさんボーカルを録るかを決めていくことになります。ご自宅で録音をする歌い手さんの場合は、良いボーカルを突き詰めたいというのが大方の意見でしょう。(仕事だとそうでもないこともあるのです、、、)

従って、「いいテイクを録るためにたくさん録音」を行い、その「副産物をダブリング素材として活用する」のが最も良い方法でしょう。

ボツテイクを捨てずにとっておけば、ダブリングに使えますということです(^o^)

ダブリングの作り方

ボツテイクを同時に再生する

先述の通り、いいテイクを目指して録音した時のボツテイクをダブリング素材として活用します。OKテイクの他に1本のボツテイクを用意し、OKテイクと一緒に再生しましょう。

OKテイクと一緒に没になったテイクを再生してみましょう

再生時の音量は以下のイメージで始めてみて下さい。

  • OKテイク(OKトラック):8
  • ダブリングトラック:6

ボーカルの本数が増えているということは、音量は大きくなります。ダブリングを行う場合は音量に注意してください。

ダブリングトラックの音作り

ダブリングトラックのEQ/コンプ処理をOKテイクと変えることでOKテイクがより際立ちます。

  • EQ:高域・低域ともにOKテイクより弱める・・・シェルビングで500Hz/3kHzくらいでそれぞれ-3dBくらいカットする
  • コンプレッサー:アタックが出ていない方が良い・・・アタックタイムをOKテイクより早める(最速でもOK)、レシオもOKテイクより強めに設定する
ダブリングトラックの処理は音が目立たないような音作りをする

目立たせたい音と引っ込める音を明確に決めて異なる対応をしていくことは、ミキシングにおいてとても重要な考え方です。

2本をそのまま再生してもOKですが、バス(グループ)にまとめると音量調整などが簡単になります。

ダブリング用の素材を新たに録音する

ダブリングはメインのボーカル(OKテイク)とのズレが少ない方がクオリティが高くなります。OKテイクとのズレが気になる場合は、新たにダブリング用素材を録音しましょう。

ダブリング録音のコツは

「OKテイクを再生しながら歌うこと」

です。

マイクや録音セッティングなどはOKテイクと同じで大丈夫。OKテイクの再生音量はお好みですが、歌いにくかったら小さくしていくと良いでしょう。何回かやれば慣れますので、OKテイクに合わせていくようにダブリング用ボーカルを録音してみてください。録音後は前述の割合で再生してみましょう。

※本当はピッチやタイミング編集が終わった後のOKテイクを聞きながらダブリングトラックを録音するほうが望ましいのですが、そうもいかないことが多いと思います。

ダブリング応用編

ステレオ・ダブリング

OKテイクをセンターに、ダブリングを左右に配置することで広がりのある音になります。サビの盛り上げ施策として有効です。

方法は簡単で、ダブリング素材を2本用意し、それぞれL/Rに配置しましょう。PANの幅はどのようなボーカル音像にしたいかで変えてみて下さい。

  • 広がり弱め:L/R=30/30〜50/50くらいに配置
  • 広がり強め:L/R=80/80〜100/100くらいに配置
PAN幅はお好みで調整!MAXでなくてもOKです。

2つを使い分けることも可能。例えば、A〜Bメロでは広がりを弱めておき、サビでPANを全開に振ると、サビで広がって盛り上がります。

さらに重厚感を出すマルチトラック・ダブリング

すごく単純で申し訳ないのですが、本数を増やせば増やすほど豪華になります。

OKテイクは1本に対してダブリングを4本〜8本くらい再生してみてください。録音が大変なので、サビ用リーサル・ウエポンにお勧めです。

サビの一番サビらしい歌詞をマルチトラックダブリングで盛り上げる

ダブリングの本数に制限はありません。時間の許す限り重ねてみると色々発見があるでしょう。(手間は増えますので注意!)

複数トラックでひとつのボーカルとして考える

ここまでの説明はあくまで1本のOKテイクを主体に、OKテイクを目立たせるという視点で説明してきました。

一方で、3本録ったら3本ともメインボーカルとして考え、同列に扱うという方法もあります。リアリティは薄れる一方でデジタル色の強いエフェクティブな音になりますので、テンポの速いボカロ曲やEDM系の曲ではお勧めの手法です。

複数ボーカルを同じ音量、狭いPANで再生する

この方法を採る場合は、ダブリングトラック間の差が極力少ない方がうまくいきます。ピッチ、タイミング編集で各トラックを修正し、差を少なくしておきましょう。どこまで修正しても全く同じにはならないので大丈夫です。

その上で、3本をグループチャンネルにまとめ、同じ音量で再生します。それぞれのトラックのPANは狭い方が一体感が出ます。一方でボカロ・EDM系では広がりが必須ですので、広がりと一体感を両立したい場合は本数を増やしましょう。

歌い手さんはどうやって準備すれば良いか?

結局のところどの部分をダブリングにして、何本録音して、、、と考えるのはアレンジ脳が必要で、レコーディング・エンジニアやアレンジャー、プロデューサーが決めることが多いものです。MIX師さんに頼む歌い手さんは判断がつかないことも多いでしょう。

お勧めの方法は、とにかく使えるテイクを複数録音しておくこと、です。筆者お勧めの初期パッケージは以下です。

  • OKテイク(いいと思う場所を選定済):フル尺(フルコーラス)で1本
  • その他のテイク:できればフル尺(フルコーラス)で3本(OKテイクとできるだけ同じ歌い方のもの)
  • ハモり・コーラス:できれば各パート2本以上

つまり、ダブリングするかどうかはMIX師さんの方で決めてくれたり提案してくれることが多いので、素材としてたくさん録音しておいてほしいということ。あとは渡してあげれば色々とお料理してくれると思います。この「その他のテイク」はOKテイクに問題があった場合のバックアップとしても使用できるので、ぜひ用意しておいてください。

ただし、「テイクを選んで下さい」というのが実は結構困ります(苦笑)。

テイク選びはかなり好みが出るので、おまかせしていただいても結局意見がズレることも多く、また、テイク選びというのはかなり時間がかかります。自分的OKテイクは1本にまとめていただけると大変嬉しいですし、結果的に出来上がるものの質にも満足できることが多くなると思います。

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