パラミックス徹底解説 Pistaさん編2-3〜ドラムとベースのMIX〜[vol.103 難しさ:ムズい] パラミックスの方法・やり方
DTMerやパラミックスに興味がある人なら誰しも気になる「ミキシングの中身」。4回にわけて、Pistaさんの生演奏アレンジ歌ってみた「チーズケーキクライシス/西沢さんP」のパラミックスのポイントを解説していきます。ひとつでも役に立つ技があれば嬉しいです。
第3回はドラム及びベーストラックのミキシングに関する説明です。音楽の三要素の中でも最重要とされるリズム隊のミキシングです。すべてを解説すると膨大なので、ポイントを絞って解説していきます。知りたいことなどがあれば、動画のコメント欄等でぜひお知らせください(*^^*)
各回の内容の目安は以下の通り。
動画版はこちら

目次
題材となる動画
甘い歌声と高い歌唱力で人気の歌い手Pistaさんが歌う、西沢さんPさんのチーズケーキクライシスが題材です。歌ってみたながらもマルチトラックのパラミックス音源で、生演奏のトラックも多く含まれる豪華な歌ってみたです。筆者がミキシングを担当させていただきました。
本記事、動画をご覧になる前にぜひ御覧ください。

原曲の西沢さんPさんのチーズケーキクライシスはこちら!POPS&バンドサウンドが大好きな僕としてはGUMIの歌声がぴったりはまる原曲のアレンジも大好きの一言につきます\(^o^)/

ドラムトラックとベーストラックの構成
ドラム、ベースともに生演奏で、Pistaさん(またはPistaさんが依頼した方)がリハーサルスタジオで録音した音源です。
- BD.03.L:ステレオ録音されていたバスドラムのL側だけ使用したトラック
- BD Re:BD.03.Lで音作りした後にアウトボード(VINTECH DUAL72)でリアンプした音
- SN top.03.L:ステレオ録音されていたスネアドラム(トップ)のL側だけ使用したトラック
- SN Re:SN top.03.Lで音作りした後にアウトボード(VINTECH DUAL72)でリアンプした音
- SN bottom.03.L:ステレオ録音されていたスネアドラム(ボトム)のL側だけ使用したトラック
- FT.03.L:ステレオ録音されていたフロアタムのL側だけ使用したトラック
- LT.03.L:ステレオ録音されていたロータムのL側だけ使用したトラック
- HT.03.L:ステレオ録音されていたハイタムのL側だけ使用したトラック
- OH.04:オーバーヘッド(ステレオ)
- Dr MIX:以上のドラムトラックをまとめたAUXバス(グループチャンネル)
- Bass Dry.01.R:ステレオ録音されていたベース(ライン録音)のR側だけ使用したトラック

全体でのポイント〜ステレオ素材のL/Rどちらかだけ使用〜
トラック名からも推測できる通り、すべてのトラックがステレオ素材として届きました。
しかし楽曲の構成及び検聴から、全てのトラックでステレオの情報量は必要ないと判断し、L/Rどちらかのトラックのみを使用しています。OH(ドラムのオーバーヘッド)トラックのみステレオのまま使用しています。
各トラックの名前に.L/.Rがついているのは、その名残です。左右トラックで全く同じ音ではなかったので、聞いてみて音質が優れている方を残しました。ドラムではL側、ベースではR側を採用した、ということです。
最近はステレオ素材として届くことが多く、特に打ち込み音源ではステレオ化の傾向が顕著です。
しかし、ステレオの必要性があるかどうかは一考の価値があります。楽曲やアレンジ、音質、等々の条件によって変化します。ステレオの情報量が不要と判断した場合はL/R分割してどちらかを採用しています。もちろん音源に対して特別なこだわりや思い入れがあるかどうかでも判断は変わります。事前のヒアリングでお任せということでしたので、上記の判断をしました。
ミキシングは取捨選択。必要か不要か、何を大きくして何を小さくするか。判断の連続で、全部大事にすると結局まとまりません。勇気をもってミキシングしましょう。
ドラムトラックのプラグイン
色々なプラグインで音を組み立てたところサウンドのキャラクターが多すぎる感じがしたので、同じようなプラグインを使っています。音質補正用のイコライザーはWaves F6-RTAで統一しています。コンプレッサーは1176タイプのAvid BF-76。アナログ感が不足するトラックにはWaveArts Tube Saturator2を使用しています。

- Tube Sat2:WaveArts TubeSaturator2(サチュレーター、アナログ風味付加)
- F6-RTA:Waves F6-RTA(EQ、音質補正、特性の調整)
- BF-76:Avid BF-76(1176タイプコンプレッサー)
- C1 gate:Waves C1 Gate(ゲート、バスドラムのリリースを短くする)
- SmckAtc:Waves Smack Attack(トランジェントシェイパー、バスドラムのトランジェント調整)
- Vitamin:Waves Vitamin(ソニックエンハンサー、スネアの中低域増強)
- RBass:Waves Renaissance Bass(ソニックエンハンサー、フロアタムの低域増強)
- TR5WhtCh:T-RACKS White Channel(SSLタイプチャンネル・ストリップ、OHの音質調整)
- EKramrDR:Waves Eddie Kramer Collection Drums(ドラム用チャンネル・ストリップ、アグレッシブな音への加工)
- MAGNETI:Nomad Factory MAGNETIC2(テープエミュレーター、ドラム全体の質感調整)
- L1 Limiter:Waves L1 Limiter(マキシマイザー、ドラム全体のピーク潰し)
ドラムトラックの音作りのポイント
バスドラムとスネアドラムのリアンプ
バスドラムとスネアドラムについては、外部マイクプリアンプVINTECH DUAL 72を経由して再度録音するリアンプという手法を採っています。DAW内での音作りでしっくりこない、納得感が足りない時によく使う手法です。


バスドラムは後述のように苦労したので、試行錯誤の結果F6−RTA>DUAL72、その後再度F6-RTA>BF-76>C1 gateというフローになりました。スネアドラムはフローが異なり、Tube Saturator2>F6-RTA>BF-76>Vitaminの後にリアンプ(DUAL72へ外部出力)しています。従って、リアンプ後のスネアトラックはプラグインが少なく、F6-RTAのみとなっています。
バスドラムはパート数が少ないセクションではリアンプ前の音を、パート数が多いセクションではリアンプ後の音を採用しました。
バスドラムの作り込み
この曲で最も苦労したのがバスドラムの音作りです。単体で聞くと良い音なのですが、ややエアー感が強く遠い音で、パート数が多い本楽曲ではマッチしにくいと判断しました。従って、タイトな音になるように調整を行っています。
EQでミッドレンジの響きを大きく抑えたことで全体の特性が変更され、低域の鳴りが強調されます。続いてBF-76コンプレッサーでタイトなサウンドに仕上げ、最後にトランジェントシェイパーWaves Smack Attack、及びWaves C1 gateでさらにタイトに仕上げています。かんたんに説明すると、余韻を短くしています。
重要なことは、全体で混ざった時にどうなるかを重視しているということです。単体で聞くとちょっとアグレッシブなサウンドですが、全体で聞けば違和感がないのがおわかりいただけると思います。






ベーストラックのプラグイン
バースはライン録音の音をややドライブさせて使っています。また、もともとのラインの音の中に微細なクリップ音のような刺激的な音が含まれていたため、iZotope RX De-clickを用いてクリップ音を除去しています。

- Waves F6-RTA(EQ、音質補正)
- Waves Bass Rider(1音ごとの音量調整、均一化)
- Avid PSA-1(アンプシミュレーター)
- Waves H-Comp(コンプレッサー、音量均一化とアタック音調整)
- Waves Renaissance Bass(ソニックエンハンサー、低域増強)
- Waves F6-RTA(EQ、サイドチェイン用)
- Waves Guitar Amp(アンプシミュレーター、曲のある一部分でのオーバードライブ用)
ベースの音作りのポイント
方向性としては、安定して聞けるサウンドを目指して調整しています。一方部分的にスラップ奏法が入るため、ベースが埋もれずにベーシストという存在が明確に見えるように配慮しています。
Waves Bass Riderによる音量均一化
POPSにおいてはベースの音が安定して聞こえるかどうかで曲全体の仕上がりが大きく変わります。演奏のダイナミクスという問題ではなく、ベース(最低音)が聞こえていることが重要です。Bass Riderはフェーダーを自動的に動かしてくれるプラグインでVocal Riderによく似ていますが、フェーダーの反応速度が大きく異なります。ベースというモノフォニック楽器に最適化されており、音ひとつひとつの音量差を音質変化なく最小化してくれるので、最近はベースサウンドの必需品になっています。
さらに後段でH-Compを強めにかけているので、どの部分で聞いてもベースが安定して聞こえるようになっています。
Sans Amp(PSA-1)によるドライブと低音増強
PSA-1を用いることで程よいドライブ感を与え、埋もれない音にしています。加えてR-Bassによってサブハーモニックを加え、ベース全体の重心を低く落としています。これらの効果により、フェーダーを上げなくても安定感のあるベースが聞こえるようになっています。
それぞれ以下の記事で解説しています。
サイドチェインによるバスドラムとの共存
最後にバスドラムとベースを共存させるために、バスドラムの音をトリガーとしてサイドチェインを行っています。ただしベース全体にサイドチェインをかけるのではなく、F6-RAダイナミックEQを用いて低域だけサイドチェインによるリダクションを行っています。
以上のように、様々な技を複合的に使ってベースサウンドが仕上がっています。リズム隊は楽曲の肝なので、特に念入りに仕上げます。ギター、ピアノ等のコード楽器よりも多くの技を投入して仕上げることが多いです。
楽曲のアレンジやパート数によっても音作りは変わってきますが、この曲で特に重視したことはベースとドラムが安定して聞こえることです。多少のサウンドクオリティが損なわれても聞いていて違和感はありませんが、サウンドが安定して聞こえない場合は落ち着いて聞いていることができません。
ベースとドラムが落ち着いていれば、その他のパートは比較的気軽に乗せていくことができるでしょう。ベース、ドラム以外のパートの2倍くらいの時間を使うイメージで仕上げてみてください。

ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。