ONKIO ACOUSTICS 歌ってみたボーカルをリッチにするリバーブ 初心者向け使い方&レビュー
ボーカルMIXのクオリティを高めるためには、綺麗なリバーブを作れるかどうかが重要です。したがって、良いリバーブに出会えるかどうかでMIXのクオリティは大きく変わってきます。
TAC SYSTEMさんから発売されているリバーブエフェクトプラグインONKIO ACOUSTICSは、自宅録音のボーカルにうってつけのリバーブ。操作がシンプルで使いやすく、誰でも自宅で録音したボーカルを超有名スタジオで録音したような音にすることができます。
プロにも十分実用的なリバーブですが、本記事では初心者さん向け、特に歌ってみたボーカルMIX向けの簡単な使い方を説明しています。
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目次
ONKIO ACOUSTICSとは?概要説明&かんたんレビュー
ONKIO ACOUSTICSは株式会社ソナ/オンフューチャー株式会社の中原氏が開発したVSVerbという技術を用いたリバーブエフェクトで、超有名なレコーディングスタジオ「音響ハウス」のスタジオで録音したような響きを音源に付加することができます。
音響ハウスは1973年設立、東京は銀座にある日本を代表するレコーディングスタジオ。そのスタジオの響きは多くのエンジニアやミュージシャンに愛されています。プラグインONKIO ACOUSTICSは、音響ハウスのStudio1とStudio2で収録されたデータをベースに、VSVerbテクノロジーを用いてその響きを再現。一般的なデジタルリバーブともサンプリングリバーブとも違う、「使いやすいリッチな響き」が特徴です。
プラグインフォーマットはAAX Native / VST3 / AU の3種類に対応しており、また、Windows/Mac両対応ですので、ほぼすべてのDAWで使用することができるでしょう。※全て64-bitのみ対応
音響ハウスのエンジニア中内さんが解説してくれるオフィシャル説明動画もあり、非常にわかりやすく、かつものすごくためになるので、リバーブを勉強したい方はぜひ見てみてください。以下のプレイリストにまとまっています。
では、筆者なりのONKIO ACOUSTICSの感想を3つほど挙げてみます。
とにかく使いやすい
近年のリバーブやプラグインは多機能化が進み、機能が多すぎるがゆえに使いにくくなっているものが多いと感じます。しかし一方ではAIや自動化が進み、自分で音を作る楽しみが少ないプラグインも多く、2極化している印象を受けます。
ONKIO ACOUSTICSは「音響ハウスの響きを再現」に絞り込まれているため、機能が必要最低限であり無駄がないのが最大の特徴だと感じました。パラメーターも理解しやすく、「謎のパラメーター」がありません。操作する場所が少なくわかりやすいので、リバーブの基礎知識があれば誰でも使いこなすことができると思います。初心者さんにも向いているでしょう。
使いやすさを支えるひとつの要因には「純和製」であることが関係していると予想します。マニュアルや販売サイトもすべて日本人が書いた日本語(だと思います)。使われる英単語も日本人が理解できるものしかありません。Webや販売サイト、説明書がすぐに理解できます。
一方で、簡単でありつつもマニア好みのパラメーターもあり、響きを熟知するプロにおいても十分に実用的なプラグインだと思います。簡単でありつつも、音作りの楽しさが得られる秀逸なプラグインだと感じました。
音響ハウスの音&実用的な響き
音響ハウスの音がします。全く違和感がありません。加えて、余計な響きが付加されない印象を受けます。
サンプリングリバーブの多くは、リアルすぎるがゆえに余計な響きも付加されると感じることがあります。故にサンプリングリバーブ後段でイコライザー等を用いて特性を大きく調整することが多いのですが、ONKIO ACOUSTICは出力音を調整する必要をあまり感じません。
近年のソフトウェア音源やプラグインではリアルを追求しすぎるがゆえに実用的でないことがあります。例えば、完成音源で聞く生ドラムの音はかなり作り込まれた音なので、生の音を再現されすぎると、音作りのできない人には使いこなせません。作る側と使う側の乖離を感じてしまいます。テクノロジー的なリアルが必ずしも便利ではないと言うことかもしれません。
ONKIO ACOUSTICSはたしかに音響ハウスの音なのですが、実用的な音なのです。「音響ハウスの音」というよりは、「聞いた人が音響ハウスの音だと思うように絶妙な調整が加えられた音」というのが筆者の印象です。これこそがVSVerbテクノロジーの恩恵なのかもしれません。
コスパ最高!良心的な価格設定
これだけのクオリティを誇りながら低価格です。リバーブはそこそこのお値段がするものが多く、自宅録音ユーザー視点では導入に勇気がいるものも少なくありません。ONKIO ACOUSTICSは約1万円と良心的。良心的というより、圧倒的に高いコストパフォーマンスだと感じます。
商品説明にもありますが、音響ハウスの音を後世に残すという役割も持っているようですので、それを反映した価格設定なのかもしれません。いずれにせよ、”買い”プラグインであることは間違いないでしょう。
向いている用途と簡単な使い方
リバーブを熟知する識者の方であれば如何様にも使えると思いますが、歌ってみた等の用途では「自宅で録音したボーカルをリッチにする」という用途が使いやすいです。ショートリバーブとロングリバーブで言えば、ショートリバーブを作るのに向いています。ロングリバーブを作ることもできますが、少々難しい使い方になります。
ということで、「自宅で録音したボーカルをリッチにする」用途での使い方を説明しつつ、ONKIO ACOUSTICSの機能などを説明していきましょう。
リバーブの基礎を学びたい方は、以下の記事・動画を参考にしてください。
部屋と動作モードを選ぶ
ONKIO ACOUSTICSで再現されるのは音響ハウスのStudio1とStudio2です。したがって、まずはどちらかの部屋を選択します。それぞれの部屋に3つの選択肢があります。つまり、選択肢は6つです。
Studio No.1・・・スタジオ1では反響板の数を選べます。反響板が多い=長い響きとなります。欲しい響き長さにあわせて選ぶと良いでしょう。
Reflection:Fully・・・反響板を全部使用して収録した響きです。
Reflection:half・・・反響板を半分使用して収録した響きです。
Reflection:None・・・反響板無しで収録した響きです。
Studio No.2・・・スタジオ2はボーカルブースがあるので、収録方法を3種類から選びます。
Main Floor・・・スタジオ2のメインフロア(大きい部屋)で収録した響きです。
Inside the Booth・・・スタジオ2のドラムブース内で収録した響きです。
Outside the Booth・・・スタジオ2のドラムブース内の音源を、メインフロアで収録した響きです。
最初は[Studio2>Inside the Booth]を選んでみてください。
また、右下のDRY/WETフェーダー上部の[Send Mode][Insert]のどちらが点灯しているかも確認しましょう。デフォルト設定(起動した時の設定)は[Insert]になっています。センドリターン形式で使用する場合は[Send Mode]に切り替えましょう。
実は、設定はこれだけでも十分使えます。そのくらいもともとの響きが素晴らしいのです。
リバーブの量を決める
続いてはリバーブの量を決めましょう。
インサート形式(Insertモード:ボーカルトラック等に直接使う場合)では、[WET]フェーダーを操作してリバーブ音量を決定します。センドリターン形式(Send Mode:AUXバス等で分岐した信号に使う場合)では、DAWのAUXフェーダーの量を調整しましょう。
コツは、普通のリバーブより多めにかけることです。響きが良いので、多めにかけたほうがその効果が色濃く出てきます。
響きの長さや質が気に入らない場合は、[REVERB TIME]や[PRE DELAY]を変更せずに、違う部屋を選択してみましょう。お勧めは、[Studio2>Outside the Booth]または、[Studio1>Reflection:Half]です。
もし[Studio1>reflection:half]を選択した場合は、収録場所を変更することができます。スタジオのイラストの[▲Source-LEFT]をクリックしてみましょう。この中から[▲Source-CENTER]を選んでみてください。これはリバーブの音を収録した場所を変更するパラメーターです。
すると、[REVERB TIME]も自動的に変更されることがわかります。つまり、部屋を変えれば基本的なパラメーターは自動的に変更されるので、よくわからない人はパラメーターは変更せず部屋を選んでおけば良いということです。
リバーブの音質を調整する
最後にリバーブの音質を調整してみましょう。
先述の通り余計な響きが付加されないので、他のリバーブよりも調整の必要は感じません。しかし、少し調整することでさらに気持ち良い響きを作ることができます。
ボーカル用途の場合は中域がややブーミー(大きく)に聞こえることがあるでしょう。このような場合は、[MID]のフェーダーを少し下げてみましょう。すると中央に表示されたグラフも変化し、緑色の部分が小さくなります。これらの[BAND LV]フェーダーは、BAND=帯域ごとのLV=レベル=音量。つまり、イコライザーだと思ってください。
おわかりだと思いますが、中央のグラフはリバーブの音を図で表したものです。赤が低域(LOW)、緑は中域(MID)、青は高域(HIGH)の成分を表示しています。かなり正確に表されているので、部屋や設定を変更すると表示が細かく変更され、リバーブ選びの参考になるでしょう。
調整できたら、最後にリバーブの量を少し下げてみましょう。
ボーカルをソロにすると聞こえる程度のリバーブ量に調整すると、とてもリッチな響きが出来上がります。この最終調整においても、一般的なリバーブよりやや多めに設定するのがコツです。
良いリバーブとは、たくさんかけたくなってしまうリバーブだと思っています。ONKIO ACOUSTICSは、プラグインの中では数少ない「どんどんかけたくなるリバーブ」なのです。
綺麗な響きを作るコツ
ONKIO ACOUSTICSといえど、必ず良い響きになるわけではありません。これはどのリバーブでも共通することですが、良い響きを作るためには入力音を綺麗にする必要があります。うまく行かない時は、もともとのボーカルサウンドを綺麗に整えましょう。
ONKIO ACOUSTICSで付加するのは音響ハウスの響きです。ですから、ボーカルの音にすでに響きが含まれる場合はうまく響かないということになります。部屋鳴りなど不要な響きが強い場合は、イコライザー等で部屋鳴りを抑えてからONKIO ACOUSTICSに送りましょう。
さらに細かく調整してみる
ONKIO ACOUSTICSには、識者でも頷くリバーブ音調整機能が用意されています。リバーブや響きを熟知している方は、さらに細かく調整してみましょう。
収録マイクの角度調整
リバーブの響きを収録する(した)マイクの角度を調整することができます。また、マイクの種類を無指向性(OMNI)に変更することも可能です。なかなかに面白い機能で、リバーブ音質が音源にマッチしない時は角度を調整すると良い結果が得られました。かなり音が変化するので、リバーブ音の方向性を変えるのに便利です。中央のグラフも変わるので、参考にしてみましょう。
なお、[OMNI]は音もマニアックでやや扱いにくい印象です。OMNI設定は細かい変化が聞き取れる人向けでしょう。
以下の画像は[Studio1>Reflection:Fully>Source-CENTER]の設定で、マイクの角度と種類を変えたものです。グラフの変化に注目してみてください。
収録マイクの位置調整
なんと収録マイクの位置をX/Y/Zの3軸で、最大999mmの範囲で調整することができます。
X軸:音源までの距離、+で近づく
Y軸:音源に正対した時の左右位置
Z軸:音源に正対した時の高さ
以下の画像は[Studio1>Reflection:Fully>Source-CENTER]の設定で、X/Y/Zの設定を変更したものです。グラフの変化に注目してみてください。少しづつグラフが異なることがわかると思います。
角度の変化と比べるとかなり微妙ば差なので、初心者の方には聞きとりにくいと思います。基本的には標準位置のままで使用し、響きを追い込みたい時に調整するのが良いでしょう。
以上、お伝えしましたがいかがだったでしょうか。
一言でまとめると、とにかく使いやすいのです。ざっくりかけるだけでいい音になります。エフェクターやプラグイン、色々なセールスポイントや背景、テクノロジーがありますが、最後に残るものはただ音質が良いものとは限らず、むしろ、使いやすいプラグインが残っていくものです。ONKIO ACOUSTICSはちょうど良い実用的な音と使いやすさを両立し、さらに安いので、ボーカルを使う方は1台持っていて損のないプラグインでしょう。他のサンプリングリバーブで換えが効きそうで、効かない、後からじわじわ来るリバーブです。
本記事ではボーカル用途に限定していますが、もちろん他の楽器にも使用できます。特にアコースティックギターやドラムに使いやすいと感じました。生音でも打ち込みでも使えます。
ただし、先述のボーカル同様に響きが無い音源に対して使ったほうが良い結果が得られますので、ドラムやギター音源の場合は部屋の響きを収録したチャンネルをオフにしたほうが良い結果が得られます。
ONKIO ACOUSTICSで自宅の響きを音響ハウスの響きに。必要に応じ他のリバーブでロングリバーブを付け加えれば、リッチな響きのできあがりです。試用版もあるのでぜひ試してみてください。Verision1.2では、著名エンジニアのみなさんが作ったプリセットも収録。パラメーターを見ているだけで勉強になりますよ(^o^)
ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。