ヘッドホンの開放型とは?自宅MIXに最適な開放型の解説 & SENNHEISER HD 400 PRO レビュー [難しさ:やさしい vol.070]
ミキシングにおいてヘッドホンやスピーカーなどの「モニター機器」の重要性はいわずもがな。特に自宅MIXの場合ヘッドホンの重要性は非常に高いものになります。今回はヘッドホンの中でも開放型と呼ばれる機種について説明をしていきます。
また開放型ヘッドホンの代表例として、SENNHEISER HD 400 PROを紹介しています。
動画版は以下からどうぞ!

目次
開放型とは?ヘッドホンは2つのタイプがある
ヘッドホンには大きく分けて密閉型と開放型の2つの種類があります。これは構造の違いによるもので、音が出る部分であるユニット(ドライバー)を格納したイヤーパッド部の構造によって密閉型と開放型に分かれます。

密閉型
イヤーパッド部に穴がなく密閉状態にされたタイプで、装着した状態では音が漏れないことが特徴です。密閉された状態となるためユニットが動いた(音が出ている)時の空気の行き場所がないため全般的にはタイトな音のモデルが多いです。欠点はユニットの動作による圧力が逃げる場所がない、つまり、すべての圧力が耳に来るので、長時間使用していると耳がかなり疲れます。
密閉型の代表例はSONY MDR-CD900STでしょう。
筆者が使用している密閉型は以下の2機種です。主に音作りとリスニングにおいてはNDH 20、レコーディングとPAにおいてはDT250を使用しています。
NDH 20はこちらの記事で詳しく紹介しています。
開放型(オープン型)
密閉型に対して開放型は、ユニットが格納されたイヤーパッド部に穴があり、音が漏れるタイプです。ヘッドホンやイヤホンは音が漏れないことが一般的な認識だと思いますので、音が漏れるヘッドホンというものに違和感を覚える方も多いでしょう。しかしオーディオリスニングや音楽制作の現場では昔から愛されているタイプです。
その特徴はユニットの動きが空気の圧力で制約されないため自由であり、故に自然な音が得られることです。密閉型はその名の通り密閉しているため、ユニットが動く際にイヤーパッド内という狭い空間で空気の圧力が変化します。
これに対し開放型はユニットが動く場合に外界の空気を取り入れることが可能であるためのびのびと動くことができ、結果、圧迫感の無い自然な音が得られます。ヘッドホンというよりはスピーカーに近い音が特徴です。
欠点はおわかりだと思いますが、音が漏れますので、通勤通学では使えませんし、録音でも使用できません。また、使用時はスピーカー等ヘッドホン以外の再生機器をミュートしておく必要があります。スピーカーから出ている音がヘッドホンの音に影響を与えるためです。
筆者は本記事後段でレビューしているSENNHEISER HD 400 PROをメイン・ヘッドホンとして使用しています。
過去に使った開放型で印象が良かった、長く使用していたのはDT 990 PROという機種です。
余談ですが、オーディオ界で著名なSTAXというブランドに興味深い開放型ヘッドホンがあります。
同社では「開放型ヘッドホン」ではなく「イヤースピーカー」と呼称しています。実物を見てみるとわかりますが、ヘッドホンのように耳を覆うものではなく、耳に近いスピーカーという構造をしています。
開放型のススメ
前述の通りそれぞれメリット、デメリットがあるのですべてのシチュエーションで同じヘッドホンを使うことは難しいと言えます。しかしミキシングにおいては開放型を使ってみるとその使い勝手の良さに驚くでしょう。
何より、疲れません。
したがって、自宅のようなあまり大音量が出せず、かつミキシングが中心という方はぜひ開放型を使ってみてください。長時間つけていても密閉型より疲れにくいほか、自然な低域再生によって低域の作り込みに効果を発揮します。
スピーカーとヘッドホンの中間だと考えれば良いでしょう。
欠点は何度も言いますが、音が漏れます。したがってボーカルレコーディング等には使えませんので、ご注意ください。
SENNHEISER HD 400 レビュー
軽い&開放型。とにかく疲れません。
HD 400 PROの特徴は、とても軽いということです。音響機器では重い方が良い音がする傾向がありますが、HD 400 PROは軽くて音が良い、珍しい機器です。
本体は樹脂製であるため240gしかありません。ヘッドホンを長時間装着するとじわじわと重さが効いてきますが、HD 400 PROは装着していることを忘れてしまいます。
加えて開放型であるため音が自然。さらにユニットが前傾して装着されているため、普通のヘッドホンよりも微妙に前から音が聞こえます。
結果、スピーカー環境との違和感が非常に少なく、長時間のヘッドホン作業も苦になりません。

脚色の無いモニター・サウンド。
音は色付けのないモニターサウンド。スピーカーのイメージで言うと昔の業界定番であるYAMAHA NS-10M STUDIOのようなイメージです。ただし、NS-10M STUDIOと異なり、低音はしっかり出ます(苦笑)。高域は無理に伸ばした感じがないので一見おとなしく聞こえますが、実際は作っている音と差異が少なく判断しやすい音です。聞こえている音をそのまま判断材料に使える印象があります。
加えてユニットのレスポンスが良いためか、立ち上がりが素早いだけでなく、音の終わりも余計な伸びを感じないタイトなサウンドです。
開放型ヘッドホンはオーディオ寄りのものが多く、リスニングには適しているものの音作りには向かないものが多くあります。HD 400 PROは珍しく制作用途に振り切った開放型ヘッドホンであるように感じました。では特性がオーディオ用の高額ヘッドホンに劣るのかというとそうでもなく、6〜38,000Hzという非常にワイドな周波数特性にも表れているように、スペックも優秀なのです。
モニター環境シミュレーションソフトウェアdearVR MIXに対応している
ヘッドホンでのモニター時にスタジオ等の空間で聞いている音をシミュレートするdearVR MIXというソフトウェアに対応しており、ソフトウェア側からHD 400 PROを指定することができます。
筆者はシミュレーション等無しで育ってしまったのと、スピーカーメインでミックスするタイプなので使用頻度が低いのですが、使ってみると面白く、自宅でのヘッドホンミックスの割合が多い人には便利なソフトウェアだと思います。
筆者のレビューがサウンドハウスさんに掲載されていますので、詳細はぜひ以下のページをご確認ください。
https://www.soundhouse.co.jp/contents/column/index?post=2470

ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。
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