リバーブ集中講座2 臨場感を作るショートリバーブとリバーブ活用の裏技 [難しさ:ふつう vol.053] リバーブの使い方

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前回の記事でリバーブの基礎知識や基本的な使い方を学びましたので、第2回からは実践的な使い方に進んでいきましょう。

リバーブといえばお風呂場のような長い響きを連想すると思いますが、実際は長い響きだけでなく短い響きもリバーブエフェクトを用いて作っています。短い響きはショートリバーブと呼ばれ、音の臨場感を作ることができます。長い響きが曲の演出だとすれば短い響きは音の演出。

前回インストールしたVoxengo OldSkoolVerbを用いて、ショートリバーブを作ってみましょう。

動画版はこちら↓

前回の記事↓

リバーブ集中講座 種類と基本的なパラメーター [難しさ:やさしい vol.052] リバーブの使い方

シリーズ記事

ショートリバーブを作ってみよう

なにはともあれ、まずはショートリバーブの音を体験してみましょう。

前回に引き続き、ボーカルのトラックに[OldSkoolVerb]をインサート。[In Your face]プリセットを呼び出しましょう。

ボーカルにインサートし、[In Your Face]プリセットを選ぶ

続いてリバーブ音量を少し下げましょう。ボーカルソロでは聞こえるものの、カラオケと一緒に再生していると聞こえないと感じるくらいの音量がベターです。[Out]セクションの[Reverb]を調整します。

リバーブ音量を調整

この状態で、リバーブをON/OFFして違いを聞いてみてください。

リバーブがONの時に臨場感のようなものを感じることができるでしょうか。これがショートリバーブの効果です。引き立たせたい音にショートリバーブをかけることで臨場感を加えることができます

なぜこのような臨場感が出てくるのでしょうか?

リバーブ、響きの図を思い出してみましょう。音というのは多くの場合直接音だけでなく間接音(反射音)を一緒に聞いています。つまり、普段聞いている音は直接音と間接音がセットになっている音です。下の図では、赤・青・緑すべてセットで聞いているのが「普通の状態」なのです。

これに対し、録音された音は限りなく直接音だけ(赤だけ)に近い音なので、普段聞いている自然な音ではないということになります。「臨場感のある音」とは実際に聞いているかのような音ですから、ショートリバーブで普段の音と同じように間接音のある音に近づけたことで臨場感が出てきたのです。

ではここからリバーブ音量をあげて音を聞いてみましょう。

リバーブ音量をあげてみる

たしかに臨場感はありますが、リバーブがうるさい感じになってきます。

しかし、リバーブ音量を変化させることで「臨場感が調整できる」ことがおわかりいただけるでしょう。当然ですが録音しながら部屋の臨場感を調整するのは容易ではありません。このように、臨場感を付加しコントロールできるのがショートリバーブなのです。

重要なのは臨場感があることではなく、臨場感が「コントロールできる」ということ。

ミキシングにおいては音の様々な要素をコントロールできるようにすることが重要なポイント。うまくミキシングできていない音源の多くは、そもそも音がコントロールできていない、支配下に置かれていないのです。音をコントロールできるように組み立てていくのが上手なミキシングのコツです。

ショートリバーブの音質でボーカル音質を調整する

続いて、他のショートリバーブプリセットを聞いてみましょう。

以下のプリセットを選択し、リバーブ音量を調整しながら聞いてみてください。

▶[Empty Stage]を選択

[Empty Room]を選択

▶[Bright Studio]を選択しリバーブタイムを[345]に

[Bright Studio]のリバーブタイムを短く設定

▶[Drum Room]を選択しリバーブタイムを[350]に

[Drum Room]のリバーブタイムを短く設定

それぞれリバーブの音質が異なりますが、プリセットの変更にあわせてボーカルの印象も変化していることが感じられるでしょうか。

ショートリバーブはそれ自体が短くボーカル(または対象音)から大きく分離しませんので、ボーカル本体の音のイメージにも大きな影響を与えます。明るいリバーブなら明るい音に、柔らかい音ならボーカル本体も柔らかく聞こえてきます。

つまり、ボーカル本体の音質を変化させなくてもショートリバーブの音質を変化させることでボーカルのイメージを変えることができます。ボーカル本体の音質を変化させずに印象を変えたい場合に有効な手法です。OldSkoolVerbの[Reverb Damping]や[Reverb EQ]を操作してリバーブ音質を変化させ、印象の変化を聞いてみましょう。

特に[Reverb EQ]の[EQ Hi]を操作したときの印象の変化がわかりやすいので試してみてください。

センドリターン形式でさらに高度な調整をする

※ここから先はセンドリターン方式でリバーブを使用します。GarageBandの場合はGarageBandの仕様上センドリターン方式でプラグインが使用できません。参考情報としてお読みいただければ幸いです。

これまではひとつのトラックに対して1台のリバーブを使用する「インサート方式」で使用してきましたが、リバーブ等の空間系エフェクトはセンドリターン方式での使用が便利であり、一般的です。

インサート方式の説明
インサート方式の説明
センドリターン方式の説明
センドリターン方式の説明

センドリターンの準備

リバーブ用のAUXチャンネル等を作成しリバーブを用意しましょう。Cubaseの場合は[ボーカルトラックを選択>右クリック>FXチャンネルを追加]で作成できます。

FXチャンネルを追加する

FXチャンネル用のエフェクトは[Voxengo OldSkoolVerb]を選択。[Stereo]になっているか確認しましょう。

Stereo状態でOldSkoolVerbを使用する

センドリターン方式の場合は、ボーカルトラックから分岐した信号をリバーブに送ります。その量を決めるのが「センド」ボリュームです。まずは[0dB]に設定しましょう。ボーカルからどの程度リバーブに音を送るかを決めるボリュームで、変化させるとリバーブ音量が変化します。言い換えれば、インサート使用時のリバーブ音量を決めるボリュームと同じような役割を果たします。

使っていてリバーブ音が歪むなど、リバーブ音が大きすぎる場合はセンド量を下げていきます

センドボリュームでリバーブ音量を変化させる

なお、センドリターン方式でリバーブを使用する場合は、通常は「ポストフェーダー」という方法で使用します

リバーブは基本的にはポストフェーダーで使用する

最後に、OldSkoolVerbの[DRY MUTE]ボタンをONにしましょう。センドリターン方式で使用する場合はDRY音はミュートに設定し、リバーブ音のみが出るようにします。上記の図の通り分岐信号を使っているため、DRY音は別経路から流れているためです。DRY音をミュートしないと、DRY音が必要以上に大きくなってしまいます。

DRY音はミュートする

リバーブ後段にイコライザーで音質調整

まずは先程の音質調整をイコライザーでやってみましょう。

センドリターンで用意したリバーブ(ここではOldSkoolVerb)の後段にイコライザーまたはイコライザープラグインを挿入します。Cubaseの場合は、以下の画像のような経路で信号が流れますので、FXチャンネルのイコライザーを使用すればOKです。

イコライザーを操作してリバーブ音質を調整してみましょう。

リバーブ後段のイコライザーで音質調整

上記の画像では以下の3点をイコライザーで調整しています。

  • 高域をシェルビングEQでブースト:音を明るく
  • 中域をピーキングEQでカット:不要な響きを減らしてスッキリ
  • 超低域をLCFでカット:不要な響きを減らしてスッキリ

リバーブ内部のイコライザーで調整するよりも細かく、かつスムーズに調整できるのが外部EQの利点です。インサート方式の場合はボーカル(対象音)本体にもイコライザーがかかってしまうため、同じような使い方ができません。センドリターン方式で使う場合の大きなメリットです。

ボーカルのサイズをPANで調整する

センドリターン方式としたことでリバーブ音がステレオになりました。リバーブのステレオ幅というのは100%(左右一杯)にしなければならないというものではありませんから、自由な幅に設定することができます。

PANの幅全開も良いのですが、逆に狭めることで音がセンター付近に集中し、ボーカルの音がまとまって聞こえる効果が出ます。やってみましょう。

簡単な方法はOldSkoolVerbの[Width]パラメーターを調整する方法です。ほとんどのリバーブでステレオ幅を調整するパラメーターがありますので、これを30%程度など、かなり狭い設定にして聞いてみましょう。

Widthを狭く設定

いかがでしょうか?

ボーカルの音の成分がセンターに寄ってきますので、力強さのある音になってきます。わかりにくければ他のプリセットに変更して聞いてみましょう。

この手法はリバーブのWidthパラメーターだけでなく、DAWのPANを使って調整することも可能です。

DAWのPANでも調整可能

かかり具合を綺麗にする裏技

最後に、リバーブのかかり具合を均一化する裏技をお伝えしましょう。

リバーブは、入力される音量が大きいほうがたくさん響くようになってしまいます。音量差が大きい場合は曲のセクションごとにリバーブの音量が大きく異るように聞こえてしまいます。

ボーカルトラックでコンプレッサー等によって音量が均一化される場合は均一化された音がリバーブに流れるため緩和されますが、それでも音量差が大きい場合はリバーブの前段にコンプレッサーを挿入して、リバーブに入る音量をさらに均一化します。

リバーブの前にコンプレッサーを挿入する

コンプレッサーの設定は強めで良いでしょう。場合によってはリミッター等の圧縮率が高いものでもOKです。とにかくリバーブに入る音量が均一化されれば、リバーブのかかり具合が均等になってきます。

他のリバーブでもやってみましょう

最後に、他のリバーブプラグインでも同じようにセンドリターンでショートリバーブを作ってみましょう。

多くの場合は「Room」という単語が入ったプリセットをベースにすればOK。「Long〜」よりは「Short〜」という名前が参考になります。ルームなんとか〜というプリセットから響きが良いと感じるものを選び、必要に応じてリバーブタイムを短く設定しましょう。

ここでも不必要にパラメーターをいじる必要はありません。リバーブタイムを短く設定し、音質だけ調整してみましょう。


ショートリバーブで臨場感をコントロールする手法とリバーブを活用する裏技を紹介してきましたがいかがだったでしょうか。

もちろん全ての技が全ての曲に適応できるわけではありません。合う曲も合わない曲もありますし、合う音も合わない音もあります。どこでどの技を使っていくかがセンスであり、キャリアが表れる部分でしょう。長い目で音楽制作を考えれば、まずは知っておくことが重要です。

そして、今回の内容が理解できたのであれば、録音においてなぜ反射がないドライな音で録ることが重要なのか、わかったのではないでしょうか。

録音した音に直接音以外の音が入っていると、コントロール性が下がってしまうのです。良い響きが含まれているなら良いのですが、自宅などの良くない響きが含まれていると、後から響きを付加する時に邪魔になってしまい、コントロールができなくなってしまうのです。これが、録音の際に反射を排除する理由なのです。

次回はいわゆるリバーブ、ロングリバーブの作り方を説明していきます。お楽しみに。