Wave Arts Tube Saturator2 をPluginDoctorで調べた記録
ただひたすらにPlugin Doctorで手持ちのプラグインを調査していくコーナー。今回はWave Arts Tube Saturator2です。
筆者は大好きなプラグインで、キックからスネア、ギターにベース、なんでも使います。パンチが足りない時にプラスするサチュレーターです。真空管タイプを12AX7か12AU7で変更可能で、真空管による音質変化が楽しいプラグイン。12AU7でスタートして、さらに目立たせたい時に12AX7管に変更します。SATURATIONは40%〜60%なら実用的、70%以上はアグレッシブなサウンドで歪みがわかります。
イコライザーも優秀で、アナログEQとして使えます。特にTREBLE/BASSは使いやすく、シェルビングEQならTube SaturatorだけでもOKです。
さて、計測してみるとどうでしょうか。
Plugin Doctorはデモ版が無料、製品版は5,000円前後で入手でき、同時に以下david Shimamotoさんの本を買っておくと大変便利です。
検証項目
通しただけで音質が変化するか
「SATURATION」「EQUALISATION」ともにOFF、「OVER SAMPLING」もOFF。特性変化はなし。通しただけでは音質変化は無し。
SATURATION ONでの変化
以下は12AU7 DRIVE=0の状態。
出力が0.5dB程度落ち、ローカットがかかっていることがわかる。歪特性も変化し、ノイズフロアは上昇、倍音も負荷されるようになる。DRIVE=0でも大きな音質変化(倍音付加)があることがわかる。ノイズは-140dB程度を指し、周波数の上昇に伴って増加している。0.5dBの出力低下を「OUTPUT」で補う必要がある。
一方、DRIVE=0ではダイナミクスの変化はほぼ発生していない。
続いて12AU7 DRIVE=100に設定。大きく変化が見られる。
Dynamics Modeで見られる通り、-7.5dB付近をスレッショルドとしてリミッターがかかる。結果、出力が抑え込まれている。ただし、50Hz以下の低域はあまりリミッティングされない様子。歪特性については、倍音が増加し、高周波数でのノイズも上昇している。想定どおりの強いサチュレーションが見られる。
真空管を変更し、12AX7 DRIVE=0に設定した。
出力は同じく0.5dB程度低下。ローカット特性にやや違いがある。それよりも、周波数特性カーブに揺れがあり、言い方を変えれば汚い特性になっている。この汚さは高域にも現れており、10kHz以上の特性に揺れがある。位相歪みにも現れている。歪特性では倍音の出方が異なっている。ダイナミクス変化はほぼ無し。
言い方を変えれば、DRIVE=0でも大きな変化がある。
最後に12AX7 DRIVE=100設定を確認した。
高域は12AU7よりさらに抑え込まれており、Dynamics Modeの通り、-12.5dB程度まで抑え込まれる。一方で78Hz以下の低域はブーストされ、最大で12dB程度ブーストされている。これは12AX7を選択する場合に考慮しておく必要がありそうだ。歪特性では、倍音が12AU7よりも多く含まれ、高域に至っても減少しないことがわかる。ざっくり言えば、見た目通りのザクザクしたワイルドで明るい音になる。もちろんDRIVE=100では歪が強いので、これらの特性を考慮しても、DRIVE=40-60程度で使うのは適正値と考えられる。
イコライザー
イコライザーONでの音質変化を探る。まずはONにしただけの状態。SATURATIONはOFFである。
EQをONにしただけでLCFが効いていることがわかる。ただし20Hz以下の帯域なので、実質的にはあまり影響はないと言って良さそう。位相歪みも超低域のみで、フィルターに伴ったものと考えられる。ノイズや倍音の付加、ダイナミクスの変化は見られない。イコライザーについては純粋にデジタルライクなイコライザーであるようだ。
続いてそれぞれのバンドを+6.0dBに設定した。説明書によれば、LOW:100Hz/Shalving、MID:800Hz/Peaking/Q0.2、TREBLE:1kHz/Shalvingとされており、概ね説明書どおりの動作が確認できる。改めて認識すべきは、LOW/TREBLEの設定値が、それぞれかなり低いことだろう。
追加検証 12AX7 + EQ ON
ここで気になるのは、EQ ONで効いているLCFと12AX7ドライブ時の低域ブーストがどのように合成されるのか、である。低域がどうなるのかは把握しておく必要がありそう。12AX7を選択しDRIVE=70、EQ=ON、12AX7 DRIVEで低下する出力を補うために、OUTPUT=+12dBに設定している。
以下のように、DRIVE=70以上での低域ブースト効果が強すぎるため、実質的にはEQのLCFはほとんど影響しない。12AX7 DRIVEによる低域増幅が支配的である。この低域ブーストはDRIVE=60以下で急激に落ち着いてくるため、12AX7 DRIVE=60以上の設定はよほど深い歪みを必要とする場合以外は避けたほうが良さそうである。
まとめ
Plugin Doctorで得た情報をもとにまとめたWavearts Tube Saturator2使用における注意点は以下となった。概ね計測前に実使用から感じていた印象と同じであった。
- 程よいドライブ感を得るには12AU7を選択することが無難。12AU7のDRIVEは広い範囲で使用できる。
- 12AX7では強いドライブ感が得られるが、DRIVE=60以上は超低域ブーストにより想定しない低域増が起こるため、可能であれば避ける。
- EQは見た目通りだが、LOWは100Hz、TREBLEは1kHzであることに注意する。
- リミッティング効果を狙う場合は-12.5dBをスレッショルドと考え、ゲインステージング(入力音量最適化)を行う。
ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。