MOTU UltraLite mk5 レビュー アウトボードに興味があるMIX師に最適な多入出力オーディオインターフェース!
オーディオインターフェースをグレードアップしたいと考える人に有効な選択肢となってくるのは、実売50,000円〜100,000円前後の中価格帯製品ではないでしょうか。株式会社ハイ・リゾリューションさんから中価格帯随一の多入出力で注目されるMOTU UltraLite mk5をお借りできましたので、レビューさせていただきます(^o^)
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目次
どんな人にお勧め?
レコーディングよりはミキシングが多く、オーディオインターフェースをグレードアップしたい人にお勧めのモデルと言えそうです。ライン入出力数が豊富なのでアウトボードも複数接続可能。したがって、アウトボードを今後導入したいと考えるMIX師にもお勧めできる仕様です。
拡張性が高いので「今後自分がどういう方向に自分が進むかわからない」人(苦笑)にもお勧めです。
デスクトップタイプの入出力が少ないモデルの場合は入出力数に不安がありますが、UltraLite mk5はとにかく多入出力。かつ高音質。コンパクトで可搬性にも優れるので、どんな制作にも対応できる懐の広さを持っています。「持ち運び用」「自宅専用」「デザイン重視」などなど、用途や方向性が決まっているのであればそれに沿ったモデルを購入すれば良いと思いますが、決まっていない人にとってUlrtaLite mk5は素晴らしい選択肢となるでしょう。
欠点というほどのものではありませんが、マイクプリアンプの数は多くありませんから、単体でマルチチャンネルレコーディングを行う用途には適していません。ただし、アナログ・デジタル入力を多数持ちますので、外部マイクプリやADATマイクプリで補完することが可能です。
以下に特筆すべき点をまとめていきます。
高音質ESS SABRE 32DAC搭載!低ノイズ&高音質
MIXを中心とした使用において最も重要なのはモニタリング音質でしょう。逆にいえば、ミキシング中心であればほかの機能はほとんど使用しませんから、MIXが制作の中心である場合はアナログ出力の音質を基準に選定するのが良いと考えています。
オーディオインターフェースにおける音質は、パソコンから受け取った音をデジタルからアナログに変換するDAC(Digital to Analog Converter)というパーツと、アナログ化された信号を出力するためのアナログ回路で決定されます。
つまり、オーディオインターフェースにおいてDACというパーツの質がとても重要です。
ほとんどのデジタル音響機器においては、チップメーカーが販売するDACを選定し、自社の音響機器に搭載します。DACを作れるメーカーは限られており、旭化成エレクトロニクス(AKM)、TI(Texas Instruments,ブランド名ではBurr Brown)などと並んで有名なのがUltraLite mk5に搭載されるESSです。
ESS Technology, Inc.は1984年創業、米国はカリフォルニア州にあるパーツメーカーで、DACだけでなくADC(アナログ>デジタル変換)やヘッドホンアンプなどオーディオ製品のパーツに特化したパーツメーカーです。ここ15年くらいで台頭した印象があり、いまではApogeeやAntelopeなど、音質をセールスポイントとするメーカーが多く採用しています。
このESS DACの採用など音質にこだわった回路がUltraLite mk5の特徴で、非常に高いオーディオパフォーマンスを実現しています。特にノイズの少なさを示すアナログ出力のダイナミックレンジは125dBという数値を記録しています。
気になったのでMOTUに問い合わせたところ、DACはES9026PROというDACを2基搭載しているそうです。ES9026PROは1基で8chの処理ができるため、8ch x 2基で16chの処理能力があり、10chのアナログ出力と2ch(L/R)のヘッドホン出力で使用しているとのことです。
ES9026PROはESSのフラッグシップシリーズ「SABRE PRO DAC」シリーズに属するDACで、UltraLite mk5で対応するPCM192kHzだけでなく、それ以上の解像度であるPCM768kHz/DSDにも対応したハイスペックDACです。(※Ultra Lite mk5では192kHzまでの対応です)
そのES9026PROを経て得られる音質は、単体オーディオインターフェースとしては非常に優れた音質。特に中低域〜低域に特徴があるサウンドです。重心の低いしっかりとした低音を聞くことができました。低音はお金がかかるのですが、さらに高額のオーディオインターフェースと比較しても遜色のない、解像度が高いサウンドです。
当然筆者のシステムと比較すると多少クリアさが劣るのですが、それは当然で、筆者のシステムは電源まで含めればUltraLite mk5の4倍〜5倍のコストがかかっています(^o^;)。販売価格を考慮すれば、UlrtaLite mk5の音質は非常に優れていると感じました。
スピーカー&ヘッドホンの実用性
良い音をスピーカーまたはヘッドホンで聞くことになりますので、モニター周りの実用性も重要です。
自宅派の場合、特にヘッドホンの実用性は重要。どんなヘッドホンでもドライブできるヘッドホンアンプ出力を持っていることが必要です。公表はされていませんが、UltraLite mk5のヘッドホンアンプは出力が高く、抵抗値の高いヘッドホンでも十分にドライブできます。ヘッドホンアンプ出力は盲点になりやすく、低価格帯モデルでは出力不足で音量が足りないことがよくあります。
ヘッドホンの音質自体もかなり優れており、こちらもメイン出力同様にES9026PROを経由したサウンドとなっています。ダイナミックレンジもメイン出力同様に優れており、118dBを記録しています。
メインスピーカーはLINE OUT 1-2(MAIN OUT)に接続することで、本体前面のMAIN VOLノブにより音量調整が可能です。音量は1dB単位で調整可能。ディスプレイに設定音量が表示されますので、毎回同じ音量に設定することも容易です。ただしミュートはないので、ミュートしたい場合は音量を絞る必要があります。必要に応じモニターコントローラーを接続すると良いでしょう。
筆者の場合はHeritage Audio Baby R.A.M.を接続して使用しました。パッシブタイプなので音質変化が極小で、UltraLite mk5のポテンシャルを発揮できたように思います。
なお、端子はすべてバランス接続に対応したTRSフォンなので、購入の際にはTRSのケーブルを用意しておくと良いでしょう。
ヘッドホンの音量調整もMAIN VOLで兼用しています。ノブを押し込むことでヘッドホンボリュームに切り替わり、ディスプレイの表示も変更されます。
MIX師に適した入出力、高い拡張性が保証する将来性
MIX時のアナログ出力音質だけを考慮すれば良いのであればオーディオインターフェースは2ch出力だけでOKとなってしまいますが、そうもいかないのが現実です(苦笑)。他の接続機器や拡張性も考えて置かなければいけません。
UltraLite mk5は18入力/22出力という入出力を誇り、同価格帯の中でもトップクラスの拡張性を誇ります。豊富な入出力のなかでも特筆すべき点を挙げてみます。
デジタル入出力がある
拡張性を考えるうえで非常に重要な入出力がデジタル入出力です。UltraLite mk5はCOAXIALとOPTICAL、2種類のデジタル入出力を装備していますので、長期に渡り買い替えの必要性が低いモデルです。
デジタル出力は将来的にDACをグレードアップしたくなった場合に活用できます。デジタル出力が無い場合、DACをグレードアップしたくなった場合にはオーディオインターフェースごと買い替える必要があります。デジタル出力をさらに高品位なDAC単体機に接続すれば、オーディオインターフェースはそのままで、モニタリング音質をグレードアップすることが可能です。
COAXIALとOPTICAL双方のデジタル出力があるので、業務用機から民生機まで幅広く対応できます。OPTICALはADAT(S/MUX)とS/P DIFで切り替えて使用できます。
デジタル入力は、ワードクロック信号を受け取るために使用できます。ワードクロック品質の向上やクロックの統一は、デジタル機器の音質向上において大きな効果があります。デジタル入力端子はワードクロックを受け取るために使用できますから、外部ワードクロックを導入後もUltraLite mk5を継続使用し、音質を向上することができます。クロックソースは本体前面のノブまたは専用のソフトウェアCue MIXを用いて切り替えることができます。
ライン入出力が豊富、かつ音量調整が可能
UltraLite mk5はデジタル入出力だけでなくアナログ入出力も豊富です。これらはオーディオインターフェース単体での使用においては不要ですが、アウトボードを接続しようとした時に大きな意味を持ちます。
昨今はアナログアウトボードをMIXに取り入れることが多くなりました。MIXでこれらのアナログ機器を使用する場合、すべての機器をオーディオインターフェースに接続する必要があります。しかも、アナログアウトボードを接続するためには入力だけでなく出力も必要です。従って、オーディオインターフェースの持つアナログ入出力数で接続できる機器の数が決まってしまいます。
UltraLite mk5はなんと8系統のアナログ入出力が接続に使用できますので、モノラルであれば8台、ステレオであれば4台のアナログアウトボードを常時接続しておくことが可能です。
さらに便利なのが専用のソフトウェアCue Mix5。このソフトウェアでは様々な調整が可能なのですが、中でもアナログ出力のレベル調整も可能なのです。
特に古いアナログ機器を接続する場合は、相手側の最大入力レベルが出力側(UltraLite mk5)の最大出力レベルより低いことがあり、出力を下げて対応する必要があります。しかしフェーダーを下げて対応すると他のチャンネルと異なる運用となり不便です。UltraLite mk5の場合はCue Mix 5を使えばフェーダーは普通に使いながらレベルを下げて出力することができますので、相手側機器にあわせた調整がUltraLite mk5のみで可能です。
Ultra Lite mk5の出力インピーダンス:220Ω
Ultra Lite mk5の最大出力レベル:+21dBu
ADAT入出力でさらに接続可能
本体の入出力で不足するようであれば、ADAT入出力を用いてさらに拡張することができます。
ただしADAT入出力についてはサンプリングレートによって使用できるチャンネル数が少なくなります。44.1/48kHzでは8 IN/8 OUTですが、96kHzでは半分の4 IN/4 OUTとなります。24/96が多い昨今では実質4 IN/4 OUTと捉えておく方が無難でしょう。つまり、ステレオアウトボード2台分が拡張できるということになります。
このADAT入出力はライン入出力に直結することも可能。例えばアナログライン入力とADAT出力を結線することでADATコンバーターとして使用することができます。
アナログ入力をADATに出力する場合は、Cue MIXの「OUTPUT」ページにて、「Optical Out」の項目で「Source」を「Line Inputs(Optical Expansion)」に設定します。
ADAT入力をアナログ出力に送る場合は、Cue MIX5のミキサーを使用します。例えばADAT3-4をLINE OUT 3-4に送る場合は、「LINE 3-4 MIX」のページで、「ADAT3/ADAT4」のフェーダーを上げることで信号が送られます。
アナログ入力やマイクプリも高音質!必要な機能は網羅
その他紹介しだすとキリがないのですが、マイクプリアンプもかなり質がよいものが搭載されており、歌録りにも気にせず使用できます。ノイズの少なさを示す数値であるEINが非常に優秀で、-129dBuを記録しています。
ADC(ADコンバーター)はESSではなく、ADCブランドとしてはトップと言われるAKM(旭化成)を採用。わざわざ異なるブランドを採用していることで、DAC/ADCそれぞれこだわりのセレクトであることが伺えます。
iPad等で使用するためのクラスコンプライアントにも対応、ライブ配信で必要なループバックも対応しています。一般的なオーディオインターフェースに搭載されている機能は網羅されていると考えて良いでしょう。
iPad/iPhoneでの使用においては、iPad/iPhone用のアプリ(iPad/iPhone用のCue Mix 5)もリリースされています。iPad/iPhoneに対応しているもののアプリは無し、というモデルが多いので、ここは大きく評価できる点だと感じました。
iPad/iPhone版のCue Mix 5でもPC同様のコントロールができるので、単体ミキサー・コンバーターとして使用する場合に役立ちそうです。
ということで、一言で言えば全部入りオーディオインターフェースです。正直なところほとんど弱点が見当たらないとも言えるので、レビューを書いていてある意味困りました(苦笑)。少ないのはマイクプリの数くらいで、その他考えられる機能や仕様は網羅されていますから、長く使えるモデルになるでしょう。
ということで、将来性を考慮するMIX師にはとても優れたオーディオインターフェースだと思いました。
ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。