DAW標準でもOK!ディレイでボーカルを前に出す方法 [難しさ:ふつう vol.083] 歌ってみたMIX / ディレイの使い方 / 189msディレイ / H-Delay / Waves
パラミックス、歌ってみたMIXを問わずボーカルを綺麗に聞かせる、思ったとおりの音にする技術はミキシングにおいて必須のスキルです。特にボーカルをもっと前に出す、もっと大きくするというニーズに応えることは避けて通れません。
数多の方法がありますが、その中から考え方として役に立つ方法を3つ、連続講座でお届けします。ボーカルトラックのボリューム調整以外の方法でボーカルを聞こえやすくしてみます。今回は2回目。前回の記事もぜひご覧ください。
動画版はこちら
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目次
使用している音源
動画で使用しているデータは以下で販売しています。ご購入いただくとアーティストにも分配されますので、ぜひご活用下さい。
https://soundworksk.thebase.in/items/59372493
題材曲
Re:GO / キニナルコ
※ミキシングさせていただいております
ディレイで前に出す
前回はイコライザーでしたが、今回はディレイを使う方法です。
ディレイは原音に対して遅れた音を複製するエフェクトで、どの程度遅らせるかを指定して使用します。(ディレイ・タイム)また、遅れた音の音質を自由に改変することができます。リバーブとよく似たエフェクトなのですが、リバーブの方が音が細かいと思って下さい。
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上がディレイ、下がリバーブです。
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ディレイを作る
ボーカルにディレイをつけるために、センドリターン方式でディレイを作成しましょう。ProToolsの場合はAUXトラックを作成してディレイを挿入、ボーカルからセンドを作成してディレイに送ります。Cubaseの場合はボーカルトラックを選択してFXチャンネルを作成してディレイを起動しましょう。
![センドリターン方式の説明](https://soundworksk.net/wp-content/uploads/2021/05/picture_pc_1d159f0012b96ec540249ea019e501b2-1024x576.jpg)
![](https://soundworksk.net/wp-content/uploads/2022/10/89fa3e2d4803261b1a2746c07fd43296-1-1024x621.jpg)
ディレイはDAW標準のものでOKです。モノとステレオがある場合はステレオディレイを選択しましょう。ステレオディレイというのは、ディレイ音が左右2つのディレイで、左右別々の設定をすることができます。今回の用途ではステレオディレイの方が適しています。Cubaseの場合はズバリ「Stereo Delay」という名称のディレイがあります。
![](https://soundworksk.net/wp-content/uploads/2022/10/7794b829d5b74d41a702919f852a759b.png)
パラメーターを設定する
続いてはディレイの設定を行います。
以下のように設定してください。
- ディレイ・タイム(左):189ms
- ディレイ・タイム(右):190ms
- MIX:左右ともに100% WET(エフェクト音のみ)
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続いてディレイ音質の設定を行います。以下のようにフィルターを設定してください。この設定は、ディレイ音の高域と低域をカットして中域のみのディレイ音を作るという設定です。左右同じ設定でOKです。
- LO FILTER:500Hz・・・500Hz以下をカット
- HI FILTER:3000Hz・・・3000Hz(3kHz)以上をカット
![](https://soundworksk.net/wp-content/uploads/2022/10/a1be20b01f336104c95d86153310f60e-1024x774.png)
ボーカルから信号を送る
ディレイの準備ができたので、ボーカルから信号を送りましょう。ボーカルトラックのセンドから、ディレイに信号を送ります。ボーカルをソロにして、だんだんセンドをあげてみましょう。
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ボーカルにディレイ音がついてきます。続いてはボーカルソロを解除してオケを再生しながらディレイを聞いてみましょう。ディレイは聞こえるか聞こえないかくらいの音量に調整します。
いかがでしょうか?ボーカルに立体感が出ることでやや前に出て聞こえるようになります。
パラメーターを調整する
ディレイ音がうるさいと感じる場合は、”HI FILTER”及び”LO FILTER”の設定を調整してください。特に高域のカットを強くすると輪郭がなくなるので目立ちにくくなります。
さらにフィードバックというパラメーターを減らしてみましょう。フィードバックはディレイ音が繰り返す回数を設定するものです。
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最後に、ステレオディレイのPAN幅を狭めましょう。ディレイ内のパラメーターを使うか、ディレイトラックのPANを使って狭めます。
PAN幅:20〜50%程度に設定
PANの幅が広すぎるとディレイ音が左右に完全に分離するため、ボーカルから分離した音として聞こえます。PAN幅を狭めることでボーカルの後ろに隠れるように聞こえます。
![](https://soundworksk.net/wp-content/uploads/2022/10/115fd2c653a368d4e8948ec891de4ac0-1024x774.png)
コツは、少し多めのセンド量でパラメーターを設定し、パラメーターが完成したらセンド量を下げていくという方法です。
ポイントは、目立たないディレイ音を作るということ。イメージ的にはボーカルの影をディレイで作っていると考えて下さい。
ちなみにこの技は独自開発ではなく、昔Sound&Recording誌(サンレコ)に掲載されていた技をアレンジしたものです。今はGoogle先生がなんでも教えてくれる時代ですが、本でのみ得られる情報もありますので、サンレコは読んでおくといいですね。
※以下のサンレコに掲載されているわけではなく、単純にサンレコをリンクしているだけなのでご注意下さい。
なぜ前に出て聞こえるのか?
イコライザーの時よりもやや難しい理由になりますが、わかりやすく言うと影がついたためです。
イラストや絵に例えるとわかりやすいのですが、上手な人の絵というのは立体感があり、その構造は陰影、つまり影がついているためです。ボーカルを前に出すというのは言い換えればボーカルに立体感を出すということでもあります。ディレイによって、ボーカルの影ができたのです。
影であることが大きなポイントで、影がメインより目立ってしまうと、むしろボーカルが聞こえなくなります。以下の2つを試してみましょう。
- ディレイがよく聞こえるくらいまでセンド量を上げる
- HI FILTERをオフにしてディレイ音の高域カットをやめる
この2つによって影が目立ってしまうということが理解できると思います。
この仕組みはミキシングにおいて色々な場面で活用することができます。初心者の場合、「音を聞こえるようにする」というニーズへの選択肢は「音量を上げる」しか無いのです。選択肢を増やしていくことがミキシング上達の鍵。立体感を作ることでも音は聞こえるようになるというのを体験してみてください。
さらに特徴的な音にする
イコライザーの時と同様に、ディレイを変えることで雰囲気を変えることができます。多くの場合、やや古めかしい音がするディレイにするといい感じに引っ込んでくれるので、さらにリッチな立体感が出てきます。いくつか紹介しておきましょう。
Waves H-Delay
この用途で多用するのはWaves H-Delayです。
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H-Delayの場合のポイントは2つ。
“LoFi”をオンにします。やや古めかしい音質になるので用途にマッチします。
“ANALOG”を”OFF”にします。このスイッチが1以上になっていると音質もアナログ風になるのですが、ノイズも出ます。
ディレイタイムの設定は”MS(=ms:「ミリ秒」のこと)”を選ぶことでミリ秒指定での設定ができます。
H-Delayの場合はややモノラルっぽいディレイになりますので、センド量は少なめで良いと思います。
H-DelayはH-Seriesバンドルに収録されています。H-Compressorなど有能なプラグインも多いH-Seriesは、バンドルの方がお買い得ですね。
Waves Manny Marroquin Delay
H-Delayのモノラル感が気になる(ステレオ感が欲しい)時は、MannyMディレイを使用します。
“LINK”をOFFに、”MODE”を”MS”に設定すると左右バラバラの設定にできます。MannyMはディレイ以外のエフェクトも複合的にかけられるのが特徴で、特に”DOUBLER”を有効にすることで強いステレオ感を出すことができます。また、いい感じにぼやけるのでボーカルの後ろに行ってくれます。
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Manny Marroquin DelayはManny Marroquin Signature Bundleに収録されています。
T-RACKS Space Delay
筆者がWaves好きなのでどうしてもWavesに寄ってしまうのですが(苦笑)、他のベンダーのプラグインも使います。今回の用途ではT-RACKS Space Delayをよく使います。これは実機のテープエコー(ディレイ)、ROLAND RE-201 SPACE ECHOをシミュレートしたプラグインです。何を隠そうこのRE-201というのが大好きで、実機を3台持っていたことがあります(笑)。
紹介した3つのプラグインの中では最もアナログ風味が強く、ナチュラルさがあります。音はステレオ感が弱くモノラルっぽい音です。
使い方に癖があり、”RATE”を変更することで”HEAD TIME”が変わりますが、これがディレイ・タイムです。3つ表示されますので、お好みのディレイ・タイムを”MODE”から選択します。
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https://www.ikmultimedia.com/products/trspacedelay/?pkey=t-racks-single-space-delay
テンポディレイ化する
最後になりますが、ディレイ・タイムを四分音符の長さにするという選択肢もあります。最近は189msディレイより4分音符のテンポディレイの方がよく使います。最近の曲はバスドラム4つ打ちなどリズムを強調した曲が多いため、テンポディレイの方が合うようです。
逆に189msディレイは、歌謡曲やボーカルを前面に出した曲やミキシングにおいて有効です。
2つ目の手法をお届けしてきましたが、いかがだったでしょうか。
重要なのは、立体感を作ることで音が前に出るということです。フェーダーを上げる以外の選択肢を手に入れることが非常に重要なので、色々と試してみて下さい。
次回はディレイの発展型とも言えるサンプリングリバーブを紹介したいと思います。お楽しみに。
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ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。
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