歌い手さんも役に立つボーカルエフェクト辞典 やまびこはテンポディレイ [vol.031 難しさ:やさしい]

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歌ってみたMIXはカラオケ(インスト)と歌をMIXする工程ですが、ボーカルと曲の良さを引き出し演出するために様々なエフェクトが駆使されます。これは歌ってみたMIXに限ったものではなく、通常楽曲のマルチトラックミキシングでも同じエフェクトが使用されます。

依頼される側はもちろんエフェクトのことを知っている必要がありますが、依頼する側もエフェクトを知っているとスムーズに依頼でき、自分の意図した作品を作っていけるようになるでしょう。

と!いうことで、ボーカルで使うエフェクトを紹介していきます。今回はわかりやすいエフェクトのひとつ、テンポディレイについて。どういうエフェクトなのか、どのように作るのかを解説していきます。

今回の内容を理解すると、MIX師さんに依頼するときに「やまびこみたいなやつが欲しいです」ではなく、「4分音符のテンポディレイが欲しいです」というように、正確なオーダーが可能になります。

そうです、依頼側も知識レベルを高めることで制作の質は上がっていくのです!(^o^)

動画版はこちら

<https://youtu.be/JIjK50wL6Cc>

ディレイとは?テンポディレイってどういう音?

音楽制作における「ディレイ(Delay)」とは、遅れてついてくる音のこと。

原音に対して、音の反射や意図的に音を複製することで生まれた音(ディレイ音)が、原音の後から追いかけて聞こえるエフェクトです。

ディレイ・エフェクトのイメージ図

原音に対してどの程度遅れるかを「ディレイ・タイム(Delay Time)」というパラメータで設定します。単位はms(ミリセカンド:ミリ秒)、100msは0.1秒です。ディレイはディレイ・タイムの設定によって大きく3つに分類されます。

ショート・ディレイ

特に短いディレイ・タイム設定のディレイを「ショート・ディレイ(Short Delay)」と呼びます。

具体的に何ms以下がショート・ディレイと定義されている訳ではないのですが、ディレイ・タイムが短すぎてディレイ音がはっきりと認識できないものはショート・ディレイと捉えて良いでしょう。50〜200ms以下くらいが目安です。

ショート・ディレイは比較的高度なミキシングで使われる傾向にあり、ミキシングが上手い人はショート・ディレイをうまく活用します。ディレイというよりは、響きの1種としてディレイを使用する方法です。

ロング・ディレイ

ディレイ音が聞き分けられるような設定の場合はロング・ディレイと呼ばれます。200ms以上になればロング・ディレイと考えて良いでしょう。やまびこが代表的なロング・ディレイです。

事実上次に紹介するテンポ・ディレイとして使われることが多く、テンポを無視したロングディレイの出番はあまり多くありません。

テンポ・ディレイ

ディレイ・タイムを曲のテンポにあわせて設定したものがテンポディレイ(Tempo Delay)と呼ばれ、区別されます。

ディレイ・タイムを曲のテンポに合わせると、以下の図のようにディレイ音が曲にあわせて追いかけてきます。テンポに合っていないディレイは「音作り」としての意味が大きいのですが、テンポ・ディレイは「アレンジの一部」と考えることができます。

エコーとディレイの違い

同じようなエフェクトでエコーというものがあります。エコーとディレイ、実は厳密な定義がなく同じようなものです。ただし現代において「エコー」という単語はカラオケなどの民生機器や一般層において使われる傾向が強く、一方で「ディレイ」はプロが使う傾向があります。また、音質的にもディレイとリバーブが混ざった複合的なエフェクトがエコーと呼ばれていることが多いです。

ディレイはエフェクターを使わずに作れる

余談です。

ディレイとは単純に言えば原音が複製された音。つまりは原音を複製し、後方に配置することでディレイを作り出すことができます。

原音をコピーして別トラックに配置すればディレイになる
次第に音量を下げるようにすれば、エフェクターと変わらないディレイになる

昔はアナログでのレコーディングだったので、テープレコーダーの技術を用いて複製しました。原音を録音し、遅れた位置で再生すれば出来上がり。テープエコーと呼ばれていました。ROLAND RE-101などが有名です。テープエコーの中では実際に輪になったテープが延々と回っていました。ディレイはとても原始的なエフェクトなのです。

現在のディレイはほぼすべてデジタル・ディレイで、デジタル音声を信号処理することによってディレイ音を作り出しています。

テンポ・ディレイの実例

最近MIXさせていただいた歌ってみた作品でのテンポディレイの実例です。聞いてみて下さい。

テンポ・ディレイの作り方

下準備・・・曲のテンポを計測して入力しましょう

テンポ・ディレイは曲のテンポに合わせてエフェクトを動作させるため、DAWのプロジェクトに曲のテンポが入力されている必要があります。テンポを調べてDAWに入力しましょう。Cubaseの場合はトランスポートバーにテンポを入力するか、テンポトラックを開いてテンポを設定します。

曲中でテンポが変動する場合はテンポトラックを使用する

テンポの計測はメトロノームを使用して計測するか、以下のようなサイトを参考にすると良いでしょう。

続いて実際にテンポ・ディレイを作っていきましょう。ボーカルトラックにインサート方式でディレイ・エフェクトを挿入します。Cubaseの場合は「Monodelay(モノ・ディレイ)」というプラグインを起動しましょう。

インサート方式・・・エフェクト(プラグイン)の挿入方法。各トラックに直接エフェクト(プラグイン)を使う方法がインサート方式。別のトラックにエフェクトを作り、複数トラックから信号を分岐するのがセンドリターン方式。説明はこちらの記事にて。

Cubase標準のMonodelay
ボーカルトラックのInsertスロットにMonodelayを挿入

ディレイ・タイムの設定

テンポ・ディレイとは、ディレイ・タイムを曲のテンポに合わせて設定して作りますが、長さを決める必要があります。曲のテンポに合わせるというのは拍に合わせるということですから、まずは4部音符の長さ(=1拍の長さ)に合わせてみましょう。

まずはディレイ・エフェクトがテンポに追従する設定をします。Monodelayでは「SYNC」ボタンをオンにすることでプロジェクトのテンポに追従するようになります。ディレイ・タイムの表示が時間表示から音符の長さ表示に変わります。他のディレイ・エフェクトではSYNCの代わりに「TEMPO」と書かれていることも多いです。

「1/4」というのは音符の長さで、4分音符(=1小節の4分の1の長さ)のことです。同様に1/2は2分音符、1/16は16部音符の長さです。TやDのアルファベットがつくこともあり、それぞれT=Triple=3連符、D=Dot=付点を指します。1/8Tなら8分音符の3連符の長さ、1/4Dなら付点4分音符の長さです。ギタリストが大好きな付点8分音符は1/8Dと表記されます。

SYNCをONに、ディレイ・タイムを1/4に設定

バランスの調整

ボーカルトラックにインサート形式で使用していますので、エフェクト100%にするとディレイ音のみとなり、原音が聞こえません。DRY(原音)/WET(エフェクト音)のバランスを調整し、程よくディレイ音が聞こえるようにしましょう。WETの量が20〜30%程度で十分聞こえるはずです。

MIXでディレイ音の大きさを調整

フィードバックの調整

ディレイ・エフェクトにおける「フィードバック(Feedback)」とは、繰り返される回数(ディレイ量)を設定するパラメーターです。ディレイ音がほのかに2回程度聞こえるくらいに調整しましょう。調整する際はボーカル単体ではなく、楽曲にあわせた状態で調整しましょう。これも20%程度から調整すると良いでしょう。

FEEDBACKで繰り返し量を調整

テンポ・ディレイを部分的に使用する方法

テンポ・ディレイは多くの場合曲のある部分でのみ使用されます。アレンジの一部であるため、ずっと鳴っていると煩わしくなりますし、何より演出効果が薄くなってしまいます。

トラックを分ける

特定の部分だけテンポ・ディレイが作動するように設定してみましょう。

最も簡単な方法です。テンポディレイをかけたい部分だけ切り出し、別トラックへ。ここにテンポ・ディレイを使うことで、狙った場所だけテンポ・ディレイが響くようになります。

ディレイをかけたい歌詞の部分を別トラックへ

オートメーションでON/OFFする

オートメーションが使えるDAWを使用している場合は、ディレイ・エフェクトのON/OFFをオートメーションでコントロールしましょう。

ディレイ・エフェクトのON/OFFをオートメーションでコントロールする

Cubaseの場合、トラックで[右クリック>オートメーションを表示]でオートメーションレーンを表示することができます。

初期状態ではオートメーションは隠れている

続いて何をオートメーションするかを選択しますが、ここで該当エフェクトのBypassを選択。レーン上でBypass ON/OFF(=エフェクトのON/OFF)を書いて記録することが可能になります。

BypassをON/OFFすることでエフェクトのON/OFFをコントロール

高度なテンポ・ディレイの設定

より高度な音作りに挑戦してみましょう。

音質の調整

最後に音質を調整します。原音と同じ音だと目立ちすぎてうるさくなってしまいますので、ディレイ音はややこもった音&軽い音に調整します。

多くのディレイには低域をカットするローカットフィルター(LCF)と高域をカットするハイカットフィルター(HCF)が搭載されていますのでこれを使用しましょう。

LCF:500Hz程度
HCF:4kHz程度

原音よりこもった音&軽い音にすることでディレイ音が原音の「影」として機能し、自然と原音が引き立つ、立体感が出る効果が得られます。

ディレイ音の音質を調整することでボーカルが引き立つ

センドリターン化してディレイ音をさらに加工する

ディレイをインサート方式で使ってきましたが、センドリターン方式で使用することでさらに細かい音作りが可能になります。

具体的にはセンドリターンでディレイを用意し、ディレイの後に任意のエフェクトを挿入します。例えば、ディレイの後にオーバードライブエフェクト(歪み)を加えることで、ディレイ音だけ歪む効果が得られます。

ディレイ後段に歪み系エフェクトやコーラスなど広がりエフェクトを使える

センドリターン形式で使用する場合は、DRY/WETのバランスをWET100%に設定し、ボーカルトラックからのセンド量でディレイ音量をコントロールしましょう。

ステレオディレイ化する

モノラルディレイの場合はボーカル音の後ろ、ボーカルと同じ位置にディレイ音が配置されます。よって、ボーカルとディレイ音がぶつかってしまって双方聞きにくくなることがあります。このような場合はステレオ化することでボーカルはセンター、ディレイ音は左右に広がるため、双方の音をクリアに聞かせることができます。

ステレオディレイを使う場合のポイントは、左右のディレイで同じ設定にしないこと。ステレオディレイはL/R独立した2台のモノラル・ディレイが統合された構造をしているものが多くあります。L/R2台で同じ設定をしても音が真ん中に定位してモノラルディレイと同じ音になってしまいます。

このような場合は、L側はテンポに合わせて設定(SYNC ON)し、R側はテンポ同期をオフ(SYNC OFF)にして、わずかにディレイ・タイムを変更します。L/Rで異なるディレイ・タイムを設定しておけば左右が違う音となり、広がったディレイ音を作ることができます。

左右で異なるディレイ・タイムにすると広がりが出る

どこでどのくらい使うかが問われるテンポ・ディレイ

テンポ・ディレイは気に入ってしまうとずっと使いたくなってしまう魔法のエフェクトです(笑)。

使いすぎるとそもそもボーカルが目立たなくなってしまい本末転倒。使いすぎには十分注意しましょう。

使う場所の目安としては、以下の2つを参考にしてみてください。

  • 歌詞と歌詞の間の隙間で、隙間に他のパートがいない場所で使う
  • リスナーやお客さんが歌いそうな場所。コールアンドレスポンスのように使う

ということで楽しい楽しいテンポ・ディレイ。ぜひ覚えて使ってみて下さい!

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