MS処理って何? 解説と3つの初歩的な活用法 [難しさ:やさしい vol.074] ステレオのインスト・オフボのマスタリング

最近は様々なプラグインで「MS」という単語を見るようになりましたが、音楽制作以外の世界は全く見る機会がない、独特の単語ですよね。

本記事ではそもそもMS(MS処理)が何なのかわからない人に向けての解説と、初歩的な活用法を3つ紹介しています。仕組みや考え方を学んで、MIXに活かしてみてください。

動画版はこちら↓

そもそもMSって何?

いくつかプラグインの画面を見てみると、「MS」「M-S」「M/S」と言った単語が表記されていることがあります。

この「MS」というのはステレオ音源を扱う時の処理方法の1種で、MとSはそれぞれMid(真ん中)とSide(横)を表し、「M-S方式(またはM-S処理、M/S処理など)」と呼ばれます。

M/S以外ではL/Rに分けて処理する方法があり、こちらは「ステレオ処理(L/Rステレオ処理)」と呼ばれています。

ステレオ音源はL/R形式=L/Rの音のセットで保存されているので、音の加工を行う場合は「左チャンネルのみ/右チャンネルのみ/両方」の3種類から処理対象を選ぶことになります。一方でM/S処理では「Midのみ/Sideのみ/両方」の3種類から処理対象を選択します

例えばセンターにあるボーカルの音にエフェクトをかける場合、L/R処理ではL/R両方の音に処理を加えることでセンターの音を変化させます。しかしセンター以外にある音も影響を受けてしまいます。

これに対しM/S処理ではセンター=Midの音だけエフェクトをかけられるため、センター以外の音の変化を抑えることができるのです。一般的なボーカルあり楽曲の場合はボーカルやバスドラム、ベース、などなど、センター位置に音がたくさんいますので、センターとそれ以外という分け方で扱えるM/S方式が有効になるシチュエーションが出てくるのです。

まとめると、L/Rという分け方ではできない加工を行うことができるのがM/S処理。L/Rステレオ処理で意図した音が作れない場合の選択肢としてM/S方式を使えると思えば良いでしょう。

なお、最終的には「ステレオ方式=L/Rのセット」にしなければいけませんので、M/S処理の合も最終的にはL/Rに変換する必要があります。L/R→M/SはM/Sエンコード、M/S→L/RはMSデコードと呼ばれています。この変換はプラグインやソフトウェアの内部で自動的に行われるため、気にする必要はありません。

ちなみに、近年ではプラグインによる音の加工を行うときに使う単語ですが、旧来はマイクを2本使って録音を行う場合の録音方法のひとつでした。ワンポイント・ステレオ録音ではマイクの設置方法でA-B方式/X-Y方式と並んでM-S方式があるのです。A-B方式/X-Y方式は2本の単一指向性マイクをL/Rとして使うのに対し、M-S方式では2本のマイクを一方は単一指向性としてMidに、他方を双指向性としてSideに使います。

M/S処理はいつ使う?

ではM/Sはどのような場合に有効な技なのでしょうか。

最もわかりやすいのはマスタリング等の完成された2mixステレオ音源を加工する場合です。

2mixステレオ音源はパートごとの音量調整や音質調整ができません。L/R処理の場合は全体でまとめての処理になってしまいますが、M/S処理ではセンターとそれ以外を分けて加工することができるので、L/R処理よりも細かい調整が可能です。

歌ってみたMIXでのインストの音作りにも有効ですね。

もちろんマスタリング工程以前のパラミックスでも使用できますが、パラミックスの場合はトラックごとのパンや音量を細かく調整できるため、M/S処理を使わなくても希望の音質に加工できることが多いので、あまり出番は無いかもしれません。

M-Sの活用法

ここからは初歩的なM-Sの活用法を3つ紹介します。実際にやってみることでM-Sの仕組みや有効性が理解できると思います。

M-Sの活用その1 MidとSideの音量バランスを変えて広がりを出す

MidとSideの音量バランスを変化させるだけで簡単に広がり感を調整することができます。ここでは無料プラグインのVoxengo MSEDを使用しています。

https://www.voxengo.com/product/msed/

[Mid Gain][Side Gain]がそれぞれMとSの音量調整で、0が基準値です。どちらかを0以下に下げることでM/Sのバランスを調整できます。

Mを大きめにするとボーカルやキック等のセンター定位の楽器が大きくなるのと同時に、広がりの少ないセンター中心の音になります。一方Sを大きめにすると左右に大きく広がった音になるのがわかると思います。

このように、M/Sの音量バランスを少し変化させるだけで広がり感を大きく調整することができます。

仕組みがわかったら、積極的に活用するツールとしてWaves CENTERなどのプラグインがあります。

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M-Sの活用その2 Midだけを対象にイコライザーをかける

続いてはMだけにイコライザーをかけるという技をご紹介。イコライザー自体が部分的な音量調整ツールですから、その1の発展型と言うこともできます。MまたはSだけにイコライザーをかけるには、M/S処理に対応したいイコライザーが必要です。

筆者のお勧めはWaves F6-RTAですが、定番のiZotope OzoneやT-RACKSのMASTER EQ432などもお勧めです。

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まずは音源の中でセンターに定位されている楽器をひとつ選びましょう。ボーカルやキックがわかりやすいと思います。

続いては操作対象を[Mid]として、イコライザーを操作します。ピーキングEQでMid成分を操作するとセンター定位の音だけが音量変化する様子がわかるはずです。この時、センター以外の音は影響を受けないことにも注目してください。

例えば8kHz付近をブーストしてボーカルのきらびやかさをプラスしても、Side成分はそのままです。L/Rステレオ処理で同じことをするとボーカル以外の高域もブーストされてしまうため、ボーカルだけを目立たせることができません。M/S処理は「センターの音だけ〜したい」という場合にうってつけの処理方法なのです

M-Sの活用その3 Sideだけを対象にイコライザーをかける

最後にSide成分だけ操作してみましょう。同じくF6-RTAでやってみます。

操作対象で[Side]を選択し、高域をシェルビングEQでブーストしてみてください。

全体の高域をブーストしてしまうと派手になりすぎますが、Side成分だけブーストすると程よく派手になるのがわかります。センターにいる主役の音質を変化させずに全体の雰囲気を調整したい場合に有効な手法です

このように、主役とその周りで必要な箇所だけ音質をコントロールしたい場合に有効なのがM/S処理なのです。

MS処理を使う場合の注意点

ポイントは「無理して使わなくて良い」ということです。

M/Sは真ん中/それ以外に綺麗にわかれるのではありません。特にSide成分にはセンター以外の音がすべて含まれますので、むやみにいじると全体のバランスが大きく崩れます。また、Side成分が強くなりすぎると音源の耐久性が損なわれます。配慮されていないSide成分が多いと、再生環境による音の違いが大きくなるのです。Side成分強めのミキシングをする場合は、様々な環境でのチェックを行うようにしましょう。

M/S処理は必須ではありません。技のひとつです。


さて、いかがだったでしょうか。

M/S処理を覚えると諦めていたときにもう少し音作りができることがあります。ぜひ色々と研究してみてください。