iPhoneスピーカーでのみピアノの音が歪む!?原因の探求と対策 [難しさ:ムズい vol.109] Sonnox Oxford Supresser/Waves F6-RTA

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ピアノやアコースティックギター、オルガンなど、単体楽器の音源をミキシングしていると遭遇する現象が、「iPhoneのスピーカーで聞いたときだけ歪む」という現象です。問題について原因と対策を記述しています。完璧な対策ではありませんが、部分的に解決するヒントになれば幸いです。

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歪んでしまうときの状況整理

iPhoneスピーカーで聞いたときだけピアノが歪む」という現象は、過去から何度か遭遇してきました。現代ではiPhoneですが、過去はラジカセのスピーカーで同じような事象がよく発生していました。

発生する状況を整理してみましょう。

  • モニタースピーカーでミキシングが完了した音源で歪みが発生する
  • iPhoneスピーカーやラジカセ等の小さなスピーカーでのみ歪みが発生する
  • マスタートラックではマキシマイザー等でピーク管理を行っている
  • ピーク、トゥルーピークともに0dBを超えていない、ピーク値には余裕があり、ラウドネス値も-14LUFS以下などの低い値になっている
  • すべての音が歪むのではなく、特定の音を弾いたときに歪む
  • レベルが大きい音で歪んでいるわけではない
  • ピアノ単体(その他楽器単体)のミキシングでのみ発生する
  • ほかの曲(普通の大音量J-POP等)を聞いても歪まない、スピーカーに問題はない

以上のように、書いていても難解な状況なのです。特に、レベルオーバーしていないのに歪む、大きな音で歪むわけではないということなので、原因の追求や対策が難しくなります。

なぜ発生するのか?

結論的には、部分的な周波数のピークが再生機器の能力を超えるために歪むと考えています。全体ではなく、特定の高さの音が原因ということです。

単体楽器音源が歪む理由のイメージ図

パート数が少ない音源の場合は、それぞれの音が生の状態のまま生き残るため、周波数特性はフラットではなく楽器に依存したものになります。言い換えると、多くの周波数ピークが残ったままになります。

この個別の周波数ピークのどれかがスピーカーの再生能力を超えるために歪んでしまうようです。

パート数が多い楽曲では他の楽器と混ざっていく中で各楽器のピークが中和され緩やかになっていき、周波数特性も常時フラットに近づいていきます。しかし単体楽器では中和されずそのまま残るのです。また、楽器数が少ない音源では、ステレオミックスの容積を使い切らないためピーク値には余裕がでます。

結果、全体のピークは余裕があっても、特定の帯域のみキャパシティオーバーとなります

以下は録音した生ピアノの周波数特性です。125Hz付近、500Hz付近、700Hz付近の3つのピークがあることがわかります。単体楽器のミキシングの場合は、この特性が「均されず」このままになる、ということです。

とあるピアノの周波数特性

ではなぜモニタースピーカーでは歪まずに、iPhoneのスピーカーでのみ歪むのでしょうか。これは筆者の予想ですが、そもそもiPhoneのスピーカーの再生能力が低いというのが理由です。悪いという意味ではなく、あのサイズにスピーカーが入っているわけですから、モニタースピーカーより能力が低くて当然なのです。ただし、低域はもともと再生されないため、中域の再生能力の低さが際立つのではないかと考えています。

※注
iPhoneのスピーカーはiPhoneのサイズを考慮すれば相当に音がいいものです。しかしサイズの制約はありますので、モニタースピーカー、オーディオ機器等と比較して再生能力が低いという意味です。

iPhoneスピーカーでは以下のように低音がカットされたような音が再生されることになります。すると、700Hz付近のピークのみ残ることになり、このピークに対して歪んでしまう、という仕組みです(あくまで経験則による予想です)。

iPhoneスピーカーでは低音が再生されない

高域についても再生能力が低めですが、低域ほどではありません。

中域しか再生できないスピーカーに中域のピークが入力されたことによる歪み、と考えれば良いと思います。

対策1 イコライザーで中域(苦手な帯域)をカットする

概ね原因の想定(仮定)ができたので、対策を考えてみましょう。

単純ですが、中域を下げるとかなり緩和されます。以下のEQをかけてみると、歪みがほぼ解消されました。

マスタートラックに追加したEQ

しかしピアノの音が寂しくなってしまいました。これが単体楽器の難しいところです。

単体の場合、いい音で録音できていればそのまま出力する方が良い、ミキシングで音作り不要ということがよくあります。かけたくないイコライザーをかけなければならない、ということです。

考え方は人それぞれでしょうが、大きく分けて2通りの考え方があるでしょう。

  • 良いスピーカーで聞くことを重視する。iPhoneで聞いてもらうような音楽性ではないので、音質を重視して中域はカットしない。(iPhoneの歪むを無視する)
  • どんな環境で聞かれるかわからないので、多少音質を犠牲にしても歪まない、歪みにくい音を優先する(意図しない音質変化は容認し、歪みの可能性を下げる)

制作している音源のコンセプトや考え方によってどちらも正解だと思います。YouTube等の動画やストリーミング再生を重視する場合は後者の方が安全でしょう。

ということで、以下では折衷案とでも言うべき歪みの可能性を下げつつ音質変化を最小に留める方法を模索します。

対策2 ダイナミックイコライザーで中域(苦手な帯域)を瞬間的にカットする

前項を読んでおわかりの方もいると思いますが、有効な対策はダイナミックEQです。ダイナミックEQは特定の帯域にのみ動作するコンプレッサーなので、中域のピークに対して動作させれば、ピークが小さいときや余韻に対しては音質変化が最小限になります。また、コンプレッサーを使用する場合と異なり、関係ない帯域への影響が少なくなります。

以下のようにダイナミックEQ(Waves F6-RTA)をかけてみたところ、やはり歪みが緩和されました。

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705Hzに-12dBものダイナミックEQを設定した

ダイナミックEQの場合は大きいときだけ動作するので、通常EQよりもアグレッシブに設定することができます。上記でも-12dBとかなり大きめにカットしていますが、通常EQよりは音質変化が少なく聞こえます。確実にピークを抑えるため、アタックタイムは最速の0.5ms、リリースタイムもピーク音以外への影響を抑えるため短めの30msに設定しています。

さらに抑えこむために設定を調整したところ、705Hzのピークよりも1300Hz付近のピークに対してダイナミックEQを設定したほうが効果的でした。

1302HzにダイナミックEQ

特定の帯域を抑え込めば良いことがわかったので、さらに自然な音にするために同様のプラグインをいくつか試していきます。以下はSonnox Oxford Supresserです。アタックタイムについて、F6-RTAでは0.5msが最速でしたが、0.5msの間に通過している音の割合が高い感じがしました。Supresserの場合はさらに短いアタックタイムを設定できます。また、ニーの設定も可能です。

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Supresserでアタックタイム最速に設定

これはかなり効果的で、iPhoneではほとんど歪まなくなりました。0.5msの間に通過している音が大きく影響していたようです。

コンプのアタックタイムについては以下の記事で解説しています。

同様に、特定の帯域のみに超短時間のアタックタイムが設定できるコンプレッサーダイナミックEQマキシマイザーなら良い結果が得られると思います。例えば、筆者は持っていませんが、WavesのマルチバンドマキシマイザーL3-16であれば、より確実な結果を得られると思います。

マルチバンドマキシマイザー Waves L3-16バンドル

以上のように、マスタートラックのレベルがオーバーしていなくても、リスナーの再生環境で歪む可能性があるということを認識しておきましょう。よく録れた音であっても、そのままの状態は危険が伴うということなのです。「制作したスタジオではいい音だったので、音が悪いのはリスナーの環境が悪い」というのはその通りでもありますが、現実的にはリスナーが満足する音になっていないということです。

筆者は様々な再生環境に耐える音を「耐久性のある音」と呼んでいますが、耐久性のある音を作るためには音を整えていく必要があります。その上で、ソロ楽器のミキシングは音を整えすぎると良さが失われることが多く、ミキシングの中でも難しい部類に入ります。パート数が少なくても難しいのです。

リスナーのことを考え、様々な環境に対応できる音を作っていきましょう(*^^*)