ボーカルはステレオ・モノラルどっちがいい? モノラルとステレオの基礎知識と選び方 [難しさ:やさしい vol.075] 歌ってみたMIX
歌ってみたレコーディングや音楽制作を始めた方が躓きやすいオハナシが「モノとステレオ」。特に「モノ」と「ステレオ」が選べるシチュエーションではどちらを選んだら良いのかわからないことも多いでしょう。
この記事では「モノ」と「ステレオ」が理解できるように仕組みや関係する知識の説明をしています。
識者の方へ
本記事は理解を促すための記事であるため、イマーシブ環境などのステレオを超える環境については話題に含めていません。ご了承下さい。
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目次
そもそも「モノ」とは?「ステレオ」とは?
「モノ」と「ステレオ」というのは音声の収録(録音)方法、扱い方のことです。
「モノ」は正確には「モノラル(monaural)」と呼ばれます。モノーラル、monophonic等の表記も同じものを指しています。
モノラルとは「単一の〜」という意味があります。音の世界での「モノラル」は「単一の音」という意味合いで、ひとつの音だけで構成されていることをモノラルと呼んでいます。
と言ってもよくわかりませんね。モノを理解するためにはモノ以外の収録方式を知っておく必要があるのです。ここで出てくるのが「ステレオ」です。
「ステレオ(stereo)」はstereophonicとも呼ばれ、モノと異なり左と右の2つの音で構成されることを指します。
- モノラル:音がひとつでワンセット
- ステレオ:音が2つ(左と右)でワンセット

例えばボーカルの録音においては、ひとつの音として録音するか(=モノ)、左右ふたつの音として録音するか(=ステレオ)、という選択なのです。
「モノ」と「ステレオ」は3回考える必要がある
モノとステレオの違いはおわかりいただけたと思いますが、「モノ」「ステレオ」の話をややこしくする要因は別にあります。twitter等で情報収集すると断片的な情報になってしまい、間違えて理解してしまう人が多いようです。
録音から完成までで3回「モノ」か「ステレオ」かを考える必要があるのです。どのポイントにおいて「モノ」「ステレオ」の話をしているのか整理しながら決める必要があります。
- 録音時の選択:録音する時に「モノラル録音」か「ステレオ録音」かを選ぶ
- MIX時の選択:ミキシングする時に「モノラル音源」として扱うか、「ステレオ音源」として扱うかを選ぶ
- 完成時の選択:マスターファイルを「モノラル音源」にするか、「ステレオ音源」にするかを選ぶ
録音した音声ファイルを誰かに渡す場合(歌い手さんやミュージシャンの方など)は、「1.録音時の選択」を中心に考えておけば良いでしょう。

「2.MIX時の選択」はミキシング(パラミックス)をする人が考慮すべき内容です。3つのうち最も深く難解なポイントで、曲や音源、パート構成やアレンジによって、モノが良いかステレオが良いかは異なります。モノで録音された音源をステレオ化することもありますし、逆にステレオで録音された音源をモノ化することもあります。単純明快な答えはありません。
以下の記事・動画で詳しく扱っていますので、見てみて下さい。
エレピ、ギター、ピアノ、オルガン。PANをMAXにしない方が良い楽器
「3.完成時の選択」もミキシングする人が決めることですが、答えはほぼ「ステレオ」一択です。
現在普及している再生環境=リスナーが聞く環境はほとんどが「ステレオ再生環境」です。また、完成音源を配信・配布する際も「ステレオ」がほとんどです。
従って、多くの人に聞いてもらうためには「ステレオ音源(ステレオ形式)」で作っておく必要があります。どのような方法で録音しても最後にはステレオにする必要があるということです。
わかってきたでしょうか。
「ボーカルその他の音源をモノで録るかステレオで録るか」というのは、最終的にはステレオになる音をどのような方法で録音しておくのか・誰にモノ・ステレオの判断を委ねるのか、という話なのです。これだけ聞くとステレオで良さそうですが、そうでもないのです。理由は次の項目で説明しましょう。
モノ音源をステレオ再生するしくみ
ひとつ不思議なことがありますよね。
モノラルで収録した音源をどうやってステレオ再生するのか、環境が違うのに再生できるのか?という疑問です。
実はDAWはステレオになっているので、モノラルで録音した音をDAWに取り込んだ(インポートした)時点でステレオ再生されるようになっています。仕組みは以下のようになっており、音量を決めるフェーダーの後段の「PAN」で左右への振り分けを決めています。モノラルで録音した音源もDAWでミキシング作業を経ることでステレオ化され、左右の表現ができるようになるのです。
モノラル録音・PAN=センターという設定の場合は、モノラルの音源を左右に複製し、左右同じ音量で再生することでセンターから聞こえてくるという仕組みです。つまり、ミキシングの時にステレオ化されるので、録音の時には意味なくステレオ化する必要がないということです。
ちなみに、単純に左右に複製すると2倍になってしまって音量が大きくなってしまいます。DAWではセンター定位(PAN=センターの状態)では音量が自動的に調整されるようになっています。
また、モノラルの音をステレオファイル化した場合、複製されているだけで音の変化はありません。データ量が無駄に2倍になっただけです。「マイク1本の音をステレオファイルにしたら音がいい」というのは理論的にはありませんので、音がよく聞こえる場合はどこかの音量設定に問題があり、音が大きく聞こえているだけです。
参考:
GarageBandでボーカルファイルを書き出した場合は左右同じ音のステレオファイルとして書き出されます。これはGarageBandがモノラルファイルの書き出しに対応していないためです。受け取ったMIX師側でファイルを分割してモノラル化して使用します。
GarageBand(PC)で歌ってみたボーカルを録音する方法
メリットとデメリット
もちろんそれぞれにメリット、デメリットがあります。ここではステレオのメリット・デメリットを簡単に見てみましょう。
ステレオのメリット:
情報量が多い(左右なのでモノの2倍)→音場が広く表現力が高い(左右位置表現ができる、空間表現ができる)
ステレオのデメリット:
情報量が多い(左右なのでモノの2倍)→データ量が2倍、必要な機器(マイクやプラグイン)の数が2倍
ご覧の通りで情報量が多いことが特徴ですが、長所にも短所にもなります。ミキシングは決まったサイズの箱に綺麗に詰め込んでいく作業ですから、無駄なものがあれば、その分他の余裕がなくなります。
ステレオミキシングにおいて、不必要な情報にスペースやリソースを割くことは得策ではないのです。
現代においてはデータ量2倍、CPU負荷2倍というのはじわじわと効いてきます。音声は動画に比べればかわいいものですが、それでも多トラックのプロジェクトではスムーズな進行のために無駄なデータとCPU負荷を下げる必要があります。ミキシングとは無駄なものを仕訳けする作業でもあるのです。
また、別の視点では、モノラルの方が編集に強いです。(実はここがすごく重要)
ピッチやタイミングの修正が当たり前の制作においては、編集への耐性が高い音が必要です。ステレオ音源は情報量が多いために、編集時に問題が起こる可能性や違和感が出る可能性も高くなります。
結局「モノ」と「ステレオ」、録音はどっちがいい?
結論的には、「ステレオの必要性がないものはモノラルで録音するのが良い」ということになります。
ステレオの必要性がある音とはどういう音でしょう?ボーカルのレコーディングで考えてみます。
一般的なPOPS等のボーカルレコーディングで必要なのは、部屋の音を含まない「ドライ」な音です。つまりステレオ性を必要としません。よって、無駄に情報量が多くなり編集に弱くなる「ステレオ」よりも「モノラル」の方が適しているということになります。
ではステレオ録音が必要なボーカル録音はあるのでしょうか。
- 響きの素晴らしいホールでのソロ・ボーカル(オペラ等を想像してください)
- バンド演奏の雰囲気を大事にした全メンバーでのスタジオ一発録り
- 多人数での合唱、コーラスのレコーディング
上記1/2のように部屋の雰囲気などを音に収めたいシチュエーションではステレオでの録音が有効です。部屋の響きを収めるためにステレオの情報量が有効になってくるのです。
3の場合は人数がいるので音源に横幅があります。モノラルでは情報量が不足するのでステレオが適していると考えることができます。
もちろん編集はしにくくなりますから、演奏が良いことが必須条件になってきます。
別の視点では、センターに定位させたいかどうかも決定要素になります。
例えばアコギの弾き語りを録音する場合、ボーカルとギターを双方モノラル録音すると、双方がセンター定位となるためぶつかってしまいます。ギターをステレオ録音とすることで自然と広がり、結果的にボーカルが聞こえやすくなります。
マイクってどこに立てるの?アコギ(アコースティックギター)の録り方
最後に、
ステレオ化を考えるべきポイントを4つにまとめてみました。
- 録音後の編集が不要、または少ない場合
- 良い響きが得られる場合
- 音源がモノラルに収まりきらない情報量をもっている場合(サイズが大き場合)
- センター定位の主旋律パートとぶつからないようにしたい場合
以上に当てはまらない場合、モノラルにしておきましょう。
歌ってみたのボーカルレコーディングにおいては、ほとんどの場合1/2は該当しません。モノラルの方が良いです。

ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。
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