誌上ドラムコンテスト2021録音記 at 村石雅行ドラム道場
だいぶ前の話になりますが、ドラムマガジンで毎年行われているコンテスト、「誌上ドラムコンテスト」。このコンテストに応募するための音源(ドラム)のレコーディングをさせていただきました。
録音場所は、かの村石雅行さんが運営するドラム教室「村石雅行ドラム道場」。この道場ではドラムコンテストに生徒の皆さんが応募されるのですが、応募音源ながらもガチのレコーディングを行うだけでなく、説明不要のスーパードラマー村石さんがレコーディングにも立ち会ってくれるという垂涎の「授業」が展開されます。
行われたドラムレコーディングのセッティングなどを紹介します。ドラマーの皆さんの参考になれば嬉しい限りです。
目次
録音されたドラムサウンド
なにはともあれ、実際に録音された音源の中をいくつか紹介させていただきます。全員紹介させていただきたいのですが、なんと2日で31人も録音したので、二次審査突破されたドラマーさんに絞って紹介させていただきます。
道場の皆さんの素晴らしいドラムプレイをご覧ください。皆様レコーディングでは素晴らしい演奏をありがとうございました、お世話になりました(^o^)
▼パワフルなショットで太いスネアの音!笹山さんのドラムはまるで村石さんのドラムを聞いているかのようです♪
▼この年齢でこの演奏はどう考えてもヤバいMomoくんです。顔もバッチリでカッコいい!
▼伊藤さんのものすごく堅実でしっかりしたドラミング、音も綺麗で聴き応えあります(^o^)
▼Kaïseiさん、すごく、若さを感じました!パワーというかエネルギーが凄い!
▼RimShotさん。色々細かい技が心くすぐります、大人の年季を感じました(^^)
村石雅行ドラム道場とレコーディングシステム
近くだったら僕も通いたいドラム教室。ドラム教室ではなくドラム道場なのですが、道場のスタジオはシステムプランニングとメンテナンスもご依頼頂いている思い入れのあるスタジオです。こんなシステムで録音してもらえるドラム教室はなかなか無いと思いますよ、、、!
https://www.muraishimasayuki.com/dojo
オーディオインターフェースはFocusrite RED LINE16を導入し、Thunderboltを通じレイテンシー(遅れ)に左右されずにドラムレコーディングができる環境を実現しています。僕も何回か叩いてますが、レイテンシーが気になったことはないです。いい時代になりました。
導入検討をしていた当時、Thunderboltでマイクプリ非搭載、アナログ16入力、アナログ8出力程度が可能なモデルの中で、音質が許容できるモデルがこれしかなかったのです。Universal Audio Apollo等がスタンダードでしょうが、個人的にApolloのADDAが好きではないのと、このスタジオではプラグインを使わない(常用しない)ので無駄が多いとして導入しませんでした。
RED LINE16は入出力のミキサーがやや難解ではありますが、それでもRME Total MixやAntelopeのDSPミキサーよりは理解しやすいです(笑)。音質もクリアで脚色がなく扱いやすい音質だと思います。良いマイクプリが揃えられる場合はマイクプリのポテンシャルを発揮できるでしょう。
マイクプリはGrace Design m801とAURORA AUDIO GTQ2です。この辺りの機材は村石さんと一緒にレコーディングテストをして決めました。m801は希少性の高い旧デザインモデルです。透明感があり粒の細かい、シルクのような音です。大変気に入っているマイクプリです(僕の所有物ではありませんが笑)。GTQ2はご覧の通りBD in/SN topとタムに割り当てています。残りのマイクはm801です。
今回のレコーディングにおけるマイクと回線の割当は以下の通りです。
番号 | 対象 | 説明 | マイク | HA(プリアンプ) | ADC |
1 | BD in | バスドラムの中 | Audio Technica ATM25 | GTQ2-A1 | RED LINE 16 |
2 | BD out | バスドラムの外 | AKG D112 | m801-5 | RED LINE 16 |
3 | SN top | スネアトップ(上) | SHURE SM57 | GTQ2-A2 | RED LINE 16 |
4 | SN bottom | スネアサイド(下) | SHURE SM57 | m801-3 | RED LINE 16 |
5 | HH | ハイハット | SHURE SM57 | m801-4 | RED LINE 16 |
6 | HT | ハイタム | Electro-Voice ND44 | GTQ2-B1 | RED LINE 16 |
7 | MT | ミッドタム(不使用回線) | Electro-Voice ND44 | ||
8 | FT | フロアタム | AKG D112 | GTQ2-B2 | RED LINE 16 |
9 | Top L | オーバーヘッド左 | NEUMANN U 87 Ai | m801-1 | RED LINE 16 |
10 | Top R | オーバーヘッド右 | NEUMANN U 87 Ai | m801-2 | RED LINE 16 |
11 | Ambi L | 部屋(オフマイク)左 | AKG C480 comb ULS 61 | m801-7 | RED LINE 16 |
12 | Ambi R | 部屋(オフマイク)右 | AKG C480 comb ULS 61 | m801-8 | RED LINE 16 |
13 | Ride | ライドシンバル | SENNHEISER MK 4 | m801-6 | RED LINE 16 |
(2) | BD/SN | バスドラムとスネアの鳴り専用 | LEWITT LCT840 | m801-5 | RED LINE 16 |
マイキング(マイクセッティング)
トップとシンバル用のマイク
まずはトップのマイク。定番U 87 Aiを単一指向性で使用しています。2本ペアのステレオとして扱っていますが、左右マイクの間隔は開けたセッティングになっています。
僕はトップのマイクの音を基準に組み立てていくので、トップのマイクの位置は各パーツ(スネアとかシンバルとか)の音量を基準に調整していきます。録音したものを聞いて調整します。
基本的にはスネアの音が一番大きいので、左右マイクはスネアから等距離の方がステレオとしては扱いやすい音になります。とはいうものの、結果的には各シンバル間の音量を整えるために写真のようにスネアから当距離ではない配置になりました。向こう側(チャイナ側)に寄ったセッティングで、かつ、マイクの高さがやや低くなっています。これはチャイナシンバルの音量が思ったより小さかったためです。
加えて、ライドシンバルは高さも低いのでさらに音量が小さくなります。録音後に音量が足りないと苦労しますので、後で音量が足りない時用(保険)にライド用のマイクを立てておきました。SENNHEISER MK 4です。
スネア
スネアはトップ/ボトム共に定番SHURE SM57です。GTQ2はイコライザーがあるので、高域をブーストして輪郭を出しています。言い方を変えると、SM57で録る時はマイクプリのイコライザーとセットで音作りをします。
ボトム側はスタンド節約のため、ユニバーサルクランプを使ってスネアスタンドから生やしています。振動が入りそうですが、実際のところ振動が気になったことは無いです。
キーポイントはSM57の角度で、理論的にはスネアの音の振動をダイレクトに受け取るために垂直に立てるべきだと思っていますが、演奏のことを考えるとそうもいきません(苦笑)。演奏の邪魔をしない範囲で角度をきつくしてセッティングしています。
バスドラム
バスドラムは胴の中にAudio technica ATM25を1本、外にAKG D112を1本。胴の中はアタック音がよく録れます。メインマイクとしてATM25を使用し、鳴りを補完するためにD112を使用します。
ドラムのヘッドを動かしてレコーディングしやすい(マイクを入れやすい)位置に穴を移動したいところですが、かなり良い感じにチューニングできていたので、ヘッドは回転せずに低いマイクスタンドを使ってマイクを入れました。
スーパーショートブームのセンターポールをさらに下げて床ギリギリに下げて使うとバスドラムにもすんなり入るようになります。マイクが完全にバスドラムの中に入るくらいまで突っ込むことがコツです。
バスドラムの外はD112。これも音を聞きながら、良い感じに「ボウン」という胴鳴りが録れる場所を探します。
なお、このレコーディングは二日間に渡って行われたのですが、二日目はバスドラム外のマイクを廃止し、バスドラムとスネアの自然な鳴りを拾うマイクを立てました。
この手法は最近のマイブームです。良い音がするところにマイクを立てれば良い音で録れるという考えに基づき始めた録り方です。耳で聞いてみるとよくわかるのですが、このマイク辺りの位置、結構いい音がするんです。特にバスドラムの自然な鳴りが聞こえます。また同時に、スネアもオンマイクよりは遠い自然な距離になっているため、聞いている雰囲気に近い自然な音が録れます。
ちなみにこのマイクはLEWITT LCT840、真空管コンデンサーマイクです。
オフマイク(ルーム)
最後に耳で聞いているのに近い雰囲気を録音しておくためのオフマイク。これはAKG C480B comb ULS61をX-Y方式で立てています。X-Yは音が分離せずひとつの楽器として聞こえるので好きです。
オフマイクの位置はエアコンの吹出口が近くなるため、風防をつけています。
実際のところは録ってみて、聞いてみて、位置を直して、の繰り返しです。人によっても出てくる音が違いますし、ドラムセッティングも異なりますので、録音する人に合わせて高さや向きを微調整しながら録音していきます。
微調整は難しそうですが、原理は非常に簡単な話です。
- 音が大きければ遠ざける or 向きをそらす
- 音が小さければ近づける or 向きを打点に向ける
DAW(ProTools)でのミキシング
ミキシングのノウハウを全部書いているとそれだけで3日くらいかかりますので、概要だけです。ご了承ください(^_^;)。
全体のバランスは以下の通り。
バスドラム(BD.OK)、スネアトップ(SN Top.KO)の音量が大きいのですが、トップ(Top.OK)の音量も大きいです。これは個人的な好みもあると思いますが、「ドラマーが思うドラムらしい音」に近いのはトップの音量を大きく出した時の音でしょう。
ハイハット(HH.OK)、ライド(MT/Ride.OK)、バスドラム外(BD off.OK)のトラックは使用しませんでした。正確に言うと、音を聞いて吟味した上で使用しないことにしました。トラック数は多い方がいいかと言えばそんなことはなく、少ないトラックの方が音は前に出ます。ハイハットやライドなど、トップのマイクだけで音量が足りる場合は無理して使わない選択も重要です。
あとはトップ(Top.OK)のトラックのPAN設定が左寄りになっていることに注目です。先述の通りトップマイクは偏った配置になっているため、そのまま同音量で再生するとスネアの位置がセンターになりません。スネアの聞こえ方を基準にPANを設定したらこうなりました。
プラグインは以下の通り。詳細は企業秘密ですが(笑)、たいしたプラグインを使っていないことはおわかりいただけると思います。[EQ3 7B]などはProTools標準イコライザーです。
いくつか特筆してみましょう。
バスドラム(BD.OK)の最終段[C1 Gate]はWavesのゲートです。バスドラムの余韻を短くするのに使っています。余韻をコントロールすることで音がスッキリします。余韻をコントロールできるということが重要でしょう。
スネアトップ(SN Top.OK)の[SmckAtc]はWavesのトランジェントコントロールプラグイン、Smack Attackです。スネアのトランジェントを出すのに使っています。
最上段の[TimeAdj]はTime Adjuster、Pro Tools純正のディレイプラグインです。ディレイと言っても数サンプルの超短ディレイで、各トラックのタイミング(位相)を合わせるのに使っています。
インサートF-Jにはレコーディング時に使っていたプラグインが残っています。(バイパス状態で保管しています)見ていくと、ハイタム(HT.OK)とフロアタム(FT.OK)、アンビ(amb.ok)のトラックはインサートF-Jがありません。これは、レコーディング時に設定したプラグインをそのまま使っているためです。微調整だけで基本的な音作りはレコーディング時に終了していた、ということです。
さらに詳しく知りたい方がいれば、ご相談ください。
ということで紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。ドラムレコーディングにチャレンジする方の参考になれば幸いです。
以下の動画でもドラムの音作りについて解説していますので、ぜひご覧になってみてください。
▼ドラマー必見!村石雅行ドラム道場
https://www.muraishimasayuki.com/dojo
▼こちらも僕が録らせて頂いてます。TASCAMのUS-16×08だけで録音した音です。
ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。