GarageBandと純正エフェクトでEQ練習! イコライザーを使う時の思考回路 [難しさ:ふつう vol.040]
ミキシング3種の神器のひとつである「イコライザー(Equalizer)」。
指定した高さの音をブースト・カットできるという理解しやすいエフェクトではあるものの、万能すぎてどう使えば良いかわかりにくいものでもあります。EQを使うの倍上手な人と下手な人というのはいますが、ミキシングの上手・下手とある程度リンクしています。
今回の記事ではイコライザーを使う時に押さえておくべき思考回路(思考法)をお伝えしています。
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目次
ギターアンプの怪 〜イコライザーとは何か?〜
これはギタリスト、特にギターを始めたばかりの人がよく陥るイコライザーの罠です。
多くのギターアンプにはイコライザーが搭載されており、LOW/MID/HIGHの3バンドのイコライザーです。それぞれ低域/中域/高域の音量をコントロールすることができます。このギターアンプを題材にしたたとえ話です。

ギターの音を作った初心者ギタリストさん、低域がズンズン来て欲しいので[LOW]を上げました。

すると高域が物足りなくなったので[HIGH]を上げました。さらにソロでの甘さを求めて[MID]を上げました。
結果、以下のようにLOW/MID/HIGHがすべて[2時くらい※]のセッテイングになりました。
※つまみの位置を表す時に時計の針の位置で表すことがよくあります

これ、実際どのような音になるかというと、「ただVOLUMEを上げた音」と同じような音です。ギターアンプのEQはなだらかなカーブのものが多いので、3バンド全部上げると以下のようなカーブになるのです。つまり、ボリュームが上がっただけということです。

※厳密には異なる場合もありますが、思考回路を整理するためのお話なのでざっくりとイメージを掴んでください
ここで示される大事なポイントはふたつ。
- ボリュームとイコライザーは一緒に考える必要がある=イコライザーはボリュームである
- 何を優先すべきかを整理する
この2つを整理した上でイコライザーを使うことで、無駄のない的確なイコライジングができるようになるでしょう。
ブーストよりカットを優先する
続いてはブーストよりカットを優先すべきというお話。これは前項の「イコライザーはボリュームである」という話の発展になります。
先程のギタリスト、低域のズンズンを優先すると決めた場合に採るべき方法が2つありますが、わかりますか?
- [LOW]をブーストする
- [MID][HIGH]をカットして必要に応じボリュームを上げる
どちらも似たようなものなのですが、ミキシングという作業においては2の方法が優れています。デジタルデータでのミキシングは、「0dBという箱」に音を綺麗に詰めていく作業。つまり箱の容積は最初から決まっているのです。音量を上げること(=ブースト)には限界があるということなのです。

ブーストという技(表現手法)はリーサルウエポンとして後半のために取っておく(まだ使わない)ことで、ミキシング最終段での音作りの幅が広がります。ミキシング初期段階ではブーストよりもカットで音を作る方が音作りの幅が広がるのです。
ここでもう一度、「低域のズンズンを優先する」ということの意味をもう一度考えてみましょう。
目的は「低域のブースト」ではなく、「全体の周波数特性において低域が大きめ、目立つバランスを作ること」なのです。以下2つのカーブを見比べてみてください。同じようなカーブですよね。これは、音質調整のターゲットが同じような周波数特性(音のバランス)であることを意味します。


イコライザーとはEqualizerと書き、Equalからの造語です。Equalは同等、等しい。等しくするエフェクトがイコライザーなのです。つまり、ブーストしてアクティブな音作りをすることよりも、全体のバランス(=周波数特性)を整える、同等にするのがイコライザーの本質的な役目なのです。
まとめると、「デジタルのミキシングでは下げてバランスを作る方向にイコライザーを使う」ということです。
ブーストによるアグレッシブな音作りはこの先にあると考えましょう。
余談ですが、近年はミキシング技術を持たない人でもリリースできるようになったので、ミキシングが甘い音源がたくさんあります。これらの音源は一見普通に聞けますが耐久性に劣るため、少し環境を変えただけで大きく音が変化してしまいます。また、圧縮にも弱いので、配信場所やBluetoothリスニングでも音が大きく変化してしまいます。多くの場合、ミキシングの基礎的な部分である「カットによる音作り」と「適切なコンプレッションによる圧縮」が甘いです。
マスタリング的EQにチャレンジしよう
最後に実践的な技として、不要帯域をカットするEQの使い方をお伝えしていきます。このイコライジングはマスタートラックの初段や、マスタリングにおいて実際に使う技です。かなり学べるものは多いと思います。
完成済音源を用意しましょう
練習をするにあたって完成済音源を用意しましょう。ご自身で制作されたものでも良いですし、既存の(市販の)音源でも大丈夫です。できれば非圧縮WAV形式の音源を用意しましょう。(なければmp3でも良いのでまずはやってみてください)
※著作権法により市販・既存の音源の場合は私的利用に限って使うことができます。インターネット上に投稿するなど、私的範囲を超えて利用できるのはご自身で原盤の権利を所有し、利用の許諾が取得できている音源に限ります。
ピーキングEQで音が溜まっている帯域をカットする
音源はお使いのDAWにインポートしてください。イコライザーは使い慣れているものか、DAW付属のもので良いです。
ピーキングEQ(山・谷型のイコライザー)を用意し、Q(イコライザーの幅)を狭く設定します。この状態でまずは6dBくらいブーストして、周波数を動かしてみましょう。

動かしていく中で、急に音が大きく聞こえる部分が出てくることがあります。これが音が溜まっている場所です。溜まっている音が不快に感じる場合は、カットしましょう。まずは-6dB程度、かなり大胆にカットして音の変化を聞いてみてください。

他にもあるかもしれませんので、不快な音溜まりを探してカットしてみてください。
最後にカット量を調整します。イコライザーというのはカットした部分以外の音にも影響を及ぼしてしまいますので、なるべくカットしない方が良いのです。仕方なくカットする精神で、カット量を調整、カットすべきかどうかを最後に再考し、決定しましょう。
ピーキングEQであってもなくても印象が変わらない帯域をカットする
続いては「あってもなくても印象が変わらない帯域」を同じ方法でカットします。
前項と同じように狭いQのピーキングEQを用意し、動かしてみてください。先程の音溜まりと逆で、ブーストしてもあまり曲の印象が変わらない帯域があるのです。
「音としてはブーストされるものの、曲のイメージに変化を与えない帯域」というものです。先述の通りデジタルミキシングは0dBの箱に詰め込んでいく作業なので、箱に余裕を出すことは音にも音作りにも良い影響を与えます。いてもいなくても良い音ならカットしてしまいましょう。

同様に、カット後にカット量を最終調整してください。
LCFであってもなくても印象が変わらない低域をカットする
前項と同様に、あってもなくても印象が変わらない低域というのも存在します。これはLCF(ローカットフィルター=HPF:ハイパスフィルター)でカットしてしまいましょう。超低域も0dBの箱の容積を無駄食いしやすい帯域なのです。

カット量に関しては音楽ジャンルにも依りますが、40-50Hz程度でカットしても多くの場合問題ありません。理由は以下の通り。
- LCFと言っても完全にカットされない
- 超低域が大きく出ている必要のあるジャンルとそうでないジャンルがある
- 超低域を再生できる環境などそうそう無い
注意すべきはEDM系のベース、キックの超低域が重要な場合です。近年のシンセサイザーサウンドを多用した音楽では超低域が重要な音楽が増えたので、カットしすぎには注意しましょう。
一方で、低域が重要なジャンルこそ低域をきっちり掃除すべきでもあるので、まずカットして聞いてみて判断しましょう。必要なら戻せば良いのです。
オススメEQ
さいごに、これらのカット型イコライジングをする上で使いやすいイコライザーをいくつか紹介していきます。
リニアフェイズEQとダイナミックEQ
イコライザーではブースト/カットした帯域以外も音のが変化します。リニアフェイズイコライザーというタイプのイコライザーは、調整帯域外での音の変化を最小限にとどめたイコライザーだと思ってください。(位相変化が少ないという表現をします)リニアフェイズEQはマスタートラックやマスタリングで使われますが、処理が重いのが欠点です。多用するとかなりマシンパワーを食いますので注意です。
ダイナミックイコライザーは、イコライザー+コンプレッサーといった構造のモダンな複合エフェクトで、指定した音量を超えた時だけイコライザーが動作します。不要な帯域をカットするような場合に便利で、不要音が無い時は動作しないため、結果的に不要な音の変化が起こりにくくなります。
iZotope Ozone
Ozoneはいくつかのエフェクトがセットになったマスタリング用プラグインの集合体です。中でもイコライザーが優秀で、リニアフェイズイコライザーとして使った場合は音色変化が少なくマスタリングやマスタートラック用途に最適です。ただしかなり重いです。
Waves F6-RTA
Wavesのダイナミックイコライザー。普通のイコライザーとしても使うことができます。音質変化も少なくかなり使いやすいので僕のファーストコールEQになっています。F6とF6-RTAがありますが、RTAはReal Time Analyzerのことで、アナライザ付き。音を視覚的に表示してくれるので、膨らんでいる帯域が見つけやすいです。
F6はMarcury以上のバンドルにしかバンドルされないため、単品で購入するのがお勧めです。
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