ドラム音源のミキシング解説 はじめてのドラムサウンド day1 〜ドラム素材の仕組みと基本的な考え方〜
ドラムと言っても色々ありますが、今回の記事で扱うのは生ドラム系音源のマルチトラック素材をミキシングしていく方法。Addictive Drumsなどのリアル生ドラム音源をミキシングする手法を学んでいきましょう!
ちなみに生ドラムの音作りはドラム音源の音作りの倍以上難しいです。まずはドラム音源のドラム音で練習すると良いでしょう。
動画はこちら。動画では音もありますので、テキストコンテンツとあわせてお楽しみください。

目次
練習用素材
動画で使用しているドラムミキシング練習素材は、以下で販売しています。
筆者が使用しているドラム音源は、XLN Audio Addictive Drums 2です。
ドラムのサウンドメイキングのための基礎知識
ドラムのことを理解しよう
生ドラム系のドラムサウンドを上手に扱うためには、ドラムのことを知っている必要があります。本物の音を聞く機会があったら音を聞いて、どのような仕組みでどこから音が出ているのか観察してみましょう。
まずはドラムのパーツを覚えましょう。ドラムはDrumsと綴り、複数形。つまり複数の楽器がセットになってひとつのDrumsという楽器を構成しています。構成する楽器は太鼓系とシンバル系に分けることができます。
- 太鼓(ドラム)系
- バス・ドラム(Bass Drum):大太鼓。キックとも呼ばれます。最も口径の大きいドラムで、ペダルを介して足で踏んで音を出します。また、バスドラムはBass Drum。つまり最も低い音が出る太鼓です。
- スネア・ドラム(Snare Drum):小太鼓。表側を叩いて音を出しますが、裏面にも響き線(スナッピー)があることが特徴です。
- タム/タムタム(Toms):ドラムのパターンに変化を出すために使用される太鼓。通常は2個以上使われます。音の高さが高い方(=小さい方)をハイタム、次いでミッドタム、ロータムなどと呼びます。床面に置いて使うタムはフロアタムと呼ばれます。
- シンバル系
- ハイハット・シンバル(Hi-hat Cymbal):シンバルを2枚重ね合わせ、足で開閉をコントロールしながら使うシンバルです。
- クラッシュ・シンバル(Crash Cymbal):ガシャーンという感じの音がするシンバル。音が違うものが複数枚使われます。
- ライド・シンバル(Ride Cymbal):クラシュシンバルよりも大型で厚く、主にリズムを刻むために使用されます。
- チャイナ・シンバル(China Cymbal):ここぞというときに使用されるじょわーんという音のシンバル。
- スプラッシュ・シンバル(Splash Cymbal):小口径のシンバル。アクセントをつけるために使用されます。
上記の構成楽器の中で、主に使用されるのはバスドラム、スネアドラム、ハイハットの3つ。この3つの組み合わせで基本的なリズムを構成しますので、他のパーツよりも重要度が高くなります。「ドラム3点」と言われたらこの3つを指します。
ライドシンバルはハイハットのような役目で使われますが、頻度はハイハットに準じます。
その他の楽器はアクセントや変化をつけるためにメインの3つの楽器に準じて使用されると覚えておきましょう。
では実際のドラムセットで見てみましょう。

1:スネアドラム
2:ハイタム
3:ミッドタム
4:フロアタム
5:ハイハット
6:クラッシュシンバル1
7:クラッシュシンバル2
8:ライドシンバル
9:バスドラム
ドラムの録り方を理解しよう
先述のように複数の楽器で構成されているため録り方も様々ですが、大きく分けて2種類。
全体を録るか、単体を録るか、です。
実際のレコーディングでは「全体を録る(オフマイク)」「単体を録る(オンマイク)」の両方を複合的に使い、それぞれの音量を調整してひとつのドラムサウンドを作っていきます。
ドラムレコーディングの写真をご覧ください。写真の中で全体の音を録るマイクは赤の丸、単体楽器を録るマイクは緑の丸がついています。








重要なことは、全体を録っているマイクの音だけでもドラムには聞こえるということ。言い換えると、全部のマイクの音を使う必要は無いということです。考え方としてはデジカメの写真のようなもので、とりあえずたくさん録っておいて後で必要なものを必要な部分だけ、しかも合成して使用するというイメージです。
全体の音を録音するマイクはさらに2種類の録り方があります。上記の写真ではドラム上部の銀色のマイクがトップマイク、手前の黒いマイクがアンビエンスです。
- トップ(Top):ドラムの上に立てるマイクのこと。OT(Over Top)やOH(Over Head)と呼ばれることもあります。通常はステレオペア(2本ペア)で使用されますが、シンバルの枚数が多いと多くなることもあります。録りたい音の方向性(シンバル主体か全体か)で立て方が変わります。
- アンビエンス(Ambience):ドラムの遠くに立てて部屋全体の音を録音するためのマイクのこと。アンビ、ルームとも呼ばれます。ステレオペア(2本ペア)で使用されることが多いですが、1本の場合もあります。
覚えていただきたいことはひとつ。
ドラム全部の音が入ったトラックがあるということです。
この記事ではドラム全部の音が入っているトップのマイクを主体に音を作る方法を覚えていきましょう。
ドラムのサウンドメイキング基礎
3種類の音だけでドラムサウンドを作ってみる
用意した素材(生ドラム音源)ではたくさんのトラック(音)がありますが、まずはバスドラム、スネアドラム、トップの3種類だけで音を作ってみましょう。
まずはすべての素材をインポートして並べ、すべてのトラックの音量を6dB程度下げましょう。この状態で聞いてみて下さい。

Addctive Drumsは優れた音源なのでこの状態でも十分に良い音ですが、ここからさらに作り込んでいきます。トップ(Overhead / Top)以外のトラックをミュートして音が出ないようにしましょう。音を聞いてみて下さい。

バスドラムやスネア、タムやハイハットなど、単体楽器のトラックがなくても音は聞こえるのです。理由は、トップ(Overhead / Top)のトラックにすべて音が含まれているためです。
ではバスドラム(Kick / BD)、スネアドラム(Snare / SN)のミュートを解除して音を出してみましょう。

いかがでしょうか?バスドラムとスネアドラムの低音が足されて迫力が出てきます。このように、すべての音が入っているトラック=トップに必要な音を足していくスタイルで音を作ると作りやすいはずです。トラック数が多い素材と向き合う場合はトラックの要不要を見極めることが重要です。
トップのトラックにイコライザーをかける
次にイコライザーを使って聞こえやすくしてみましょう。他のエフェクトは使いません。
ミキシングにおいてはそれぞれのトラックの意味をはっきりさせると音が作りやすくなります。以下のような役割をもたせてみましょう。
- Top:メインの音、高い音やシンバルを綺麗に聞かせるためのトラック
- BD/SN:曲において大事なバスドラムとスネアの音の迫力を出すためのトラック、低音を出す
具体的には、イコライザーで上記の役割を強調させます。重要なのは低音を担当させるトラックをはっきりと決めることです。BD/SNの低音をはっきりさせるために、トップのトラックに以下のようなイコライザーをかけてみましょう。

- HPF(ハイパスフィルター):250Hz, 12dB/oct
- ハイシェルビングEQ(高域のEQ):+5dB, 5kHz
上記のイコライザーをTopにかけると、低音をカットしているにも関わらずバスドラムの低音が減らないばかりかクリアに聞こえるような気がしませんか?
低音はぶつかりやすく処理が難しいので、誰が低音を担当するかを決めて担当外トラックの低音はカットしてしまうと作りやすくなります。この手法は副産物としてコントロールしやすい音を手に入れることができます。各トラックの担当領域が不鮮明だとフェーダーを操作しても音が上がらない・下がらないという現象が起きますが、これを回避できます。
スネアのトラックにイコライザーをかける
Topのトラック同様SN(スネアドラム)のトラックにもイコライザーをかけてみましょう。Topの逆で、低音を強調させます。以下のようなイコライザーをかけてみてください。

- ローシェルビングEQ(低音のEQ):+5dB, 300Hz
いかがでしょう?スネアドラムに迫力が出てきました。Topの低音がカットされているため、スネアのトラックの低音を上げた時に邪魔するものがなくすんなりと低音が上がってきます。
バスドラムにイコライザーをかける
同様にバスドラムにもイコライザーをかけてみましょう。スネアとほぼ同じです。

スネアドラムよりも周波数が低い設定(低音寄り)になっています。これはバスドラムの方が低音楽器であるためです。
3つのトラックにイコライザーをかけたら、再生しながらバスドラムとスネアの音量を調整します。一旦下げてから、段々上げてちょうどよいと感じるところを探してみましょう。ポイントはTopのトラックは変化させず、BD/SNのボリュームを調整することです。

いかがでしょうか?
これだけでもかなりしっかりとしたドラムサウンドになっていると思います。重要な点をまとめてみましょう。
- 全部の音を常時使う必要はない
- 役割分担を明確にする(特に低音)
- Topのマイクを基準にゼロから足すように調整していく
基準となる音に足してバランスを作っていく
聞いていて勘の良い方はお気づきかもしれませんが、タムの迫力が不足していますね。低音を削ったので当然です。
ではどうすれば良いでしょうか?
こういう時のためにタムのトラックがあるのです。ミュートを解除し、一旦ゼロに絞ってから足していってみましょう。

ここでもコツは「ゼロまで絞ってから足していく」ということです。あくまでも基準はTopのトラックとして、不足分を補っていくイメージです。あまりフェーダーを上げなくても良いバランスになることがおわかりいただけると思います。この考え方で構築することによって、無駄に音が大きい状態を防ぐことができます。
アタック音と胴鳴り
最後に、バスドラムのアタック音を強調してみましょう。
ドラムの音は(ざっくり言うと)アタック音と胴鳴りで出来ています。
先程イコライザーでブーストしたのは胴鳴り。胴とはドラムの筐体のことで、バスドラムやスネア全体で出てくる「ボウン」という丸くパワーのある音が胴鳴りです。
アタック音というはスティックがあたる部分(打面など)から出てくる高域成分が主体の鋭い音です。ドラム音の輪郭を形成します。
ドラムの音作りにおいては胴鳴りとアタック音の2つのバランスを調整することで音のイメージを変えることができます。例えばアタック音を強めるとリズムがはっきりと感じやすくなり、シャープな印象になります。一方で忙しい印象、軽い印象にもなります。
逆にアタック音を弱めて胴鳴りを強めると丸い・低い、大人な感じのサウンドになります。
ではバスドラムのイコライザーを下記のように調整してみましょう。

- ローシェルビングEQ(低音のEQ):+5dB, 300Hz
- ハイシェルビングEQ(高音のEQ):+13dB, 2500Hz
いかがでしょうか?
バスドラムよるリズムがはっきりしてきました。
まとめ
このようにドラムの音作りは難しそうですが、仕組みを把握してから音作りをすればさほど難しくないですし、とても楽しいものです。生ドラムは音源の2倍は難しいです。しかし考え方は同じです。仕組みさえ理解できればかならず役に立ちますのでぜひ挑戦してみてください。
また、設定値はお好みでどんどん変えてもらって結構です。自分の好みに合わせていくことで、自分の音が出来上がっていきます。この講座では目的地の近くまではお連れしますが、ゴールにはお連れしません。ぜひゴールまでの旅を楽しんで下さい。
次回はここからさらに進んだアグレッシブな音作りをしていきますので、お楽しみに!
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