SW20 MR2 ミッションオーバーホール アウトプットシャフト点検〜ミッション組付け
長編となっておりますMR2 SW20 NA 5型 S54ミッションのオーバーホール。
これまでに分解、LSDオーバーホール、インプットシャフト分顔と組付けまで進んできましたので、今回の記事では最後のアウトプットシャフト分解〜組付け、全体の組付け〜完成までを紹介します。
最初に申し上げますが、この記事内で最も苦戦するのは最終盤のフィフスギヤシンクロ一式の組付けです。相当イライラしますので覚悟しておいてください、、、(^_^;)
前回の記事↓
目次
特筆すべき必要な工具等
プレス
プレスがないと難しいと思います。また、記事の通り6tプレスだと結構頭を使う必要がありますので、高さと幅のある12tプレス以上がお勧めではあります。
マグネットピックアップツール
なくてもなんとかなりますが、ある方が楽です。
シックネスゲージ
シールパッキン
シールパッキン1281の代用品としてJB WELDのREDを使いました。アストロで安く買えます。
緩みどめ(ネジロック)
アドヘシブ1344の代用品として3Mの42Jを使用しました。
アウトプットシャフトオーバーホール
ベアリングとフォースドリブンギヤの取り外し
インプットシャフトに続きアウトプットシャフトも様子見のためオーバーホールしていきます。
まずはこちらを御覧ください。
アウトプットシャフトはリヤ側から外していくので、まずはフォースドリブンギヤにベアリングセパレーターをかけて外していく必要があります。つまり、フォースドリブンギヤの位置にプレス機の底辺が揃う必要があるのですが、ご覧の通りファーストギヤが大きすぎるので6tプレスでは欲しい高さに調整ができません。
なんとかしてフォースドリブンギヤの高さまで底面(力のかかる面)を上げないといけないので、ブロック等を使ってなんとか高さ調整しました。
また、ベアリングセパレーターの開き幅が不足するので長いボルトを調達してセパレーターの開き幅を改善しました。
実際のところ写真の長いM10ボルトは曲がってしまったので、M12ボルトに変更してなんとか外しました。6tプレスでアウトプットシャフトを分解したい人はサイズをよく確認した方が良いと思います。床からの高さを上げる必要があり、かつ、プレスをかける高さをなんとか調整する必要があります。
フォースドリブンギヤが外れるとアウトプットギヤスペーサーが外れます。特に固定はされていません。
サードドリブンギヤとセカンドギヤの取り外し
続いてセカンドギヤにセパレーターをかけてサードドリブンギヤとセカンドギヤを一緒に外します。ここもセパレーターの開き幅が不足するのでM12ボルトをギリギリの位置でかけてなんとか外しました。シンクロナイザーリングNo.1との隙間にセパレーターをかける感じです。
サードドリブンギヤは圧入ですが、セカンドギヤはベアリングを介して浮いています。セカンドギヤを抜くとニードルローラーベアリングとセカンドギヤブッシュ(鉄のスペーサーみたいな筒)が外れます。固定はされていません。
注意すべきは、セカンドギヤブシュを外すとアウトプットシャフトにボールのようなものがくっついています。セカンドギヤブシュボールというもので、紛失注意です。ギヤオイルのおかげで簡単には抜けないのですが、認識していないと紛失しやすいと思います。
マグネットピックアップツールを使って取り外すと楽です。
また、クラッチハブNo.1にはまっているシフティングキー3個もすぐに外れて飛んでいってしまうので要注意です。
クラッチハブNo.1とファーストギヤの取り外し
最後はクラッチハブとファーストギヤです。クラッチハブのシフティングキーをつけたまま作業するとどこかに飛んでいってしまい紛失するので、最初から外してしまった方が良いと思います。
クラッチハブは圧入、ファーストギヤはニードルローラーベアリングで浮いています。ファーストギヤにセパレーターをかけて一緒に抜いてしまいます。
6tプレスだけでなんとか全部のギヤを外すことができました。
点検と計測
外したので各部点検と計測をしていきます。
まずはファーストギヤ、セカンドギヤとクラッチハブNo.1、各シンクロです。
セカンドギヤシンクロ(シンクロナイザーリングNo.1セカンドギヤ用)が最も消耗すると言われていますが、見たところ欠損や摩耗は感じられませんでした。なくはないですけど、換えるほどでも無いかなと思いました。
33038-33011 | シンクロナイザ リングセット NO.2 | 2NDギヤ側 |
33367-33010 | シンクロナイザ リング NO.1 | 1STギヤ側 |
この記事を書いている時点では双方パーツ在庫がありました。年式によって微妙にパーツ品番が異なるのですが、年式が古い方のシンクロは販売も終了していました。対策品だと思うので年式新しい方を買えばいいとは思いますが、、、(^_^;)
続いてアウトプットシャフト。こちらも目立った傷などはありませんでした。ただし丸をつけた辺りを見るとわかりますが、クラッチハブNo.1を取り付けるスプライン部に細かい鉄粉が付着しています。磁化しているためなかなか取れませんが、掃除しておきました。
鉄粉があるということは微妙に摩耗しているということではありますね(^_^;)
続いてクラッチハブNo.1です。こちらも汚れはありますが、目立った破損などは見受けられませんでした。
続いてバックギヤ。バックギヤはハブスリーブと一体になっています(ひとつのパーツで分解はできません)。バックギヤも欠損や消耗は見受けられませんでした。
バックギヤとクラッチハブは動きがスムーズかどうか、よく確認しておきます。
最後にシンクロ。先程の通り目立った欠損はありません。面白いのは半分だけ黒くなっていることです。予想ではありますが、ギヤオイルが入ったまま長時間動かされなかったためにオイルの汚れが半分だけ固着したのではないかと思います。
最後に計測結果を書いておきます。
アウトプットシャフト計測 | 基準値(参考値) | 計測値 | |
1STギヤシンクロクリアランス | 0.8mm | 0.8mm | OK |
2NDギヤシンクロクリアランス | 0.8mm | 0.8mm | OK |
トランスミッションクラッチハブ(バックギヤ)No.1 溝 | (11.0mm) | 10.9mm | |
ギヤシフトフォークNo.1 厚さ | (10.7mm) | 10.75mm | |
クラッチハブNo.1/シフトフォークNo.1 クリアランス | 0.2-0.4mm | 0.25mm | OK |
アウトプットシャフトジャーナルA | 37.99-38.00mm | 37.99mm | OK |
アウトプットシャフトジャーナルB | 32.00-32.02mm | 32.00mm | OK |
1STギヤ内径 | 44.00-44.02mm | 43.93mm | 摩耗あり |
2NDギヤ内径 | 45.70-45.72mm | 45.36mm | 狭い? |
ギヤの内径が基準値から出ていますが、ノギス計測なので少々怪しいです。エンジンをオーバーホールする前にはシリンダーゲージを買おうと思います。
アウトプットシャフト組付け
目立った消耗、摩耗は見られなかったと判断しましたので、掃除してそのまま組み直しました。
組付けは整備書によるとSSTを使ってリヤ側からギヤを押して圧入となっていますが、そんなSSTは無いので、シャフトを逆さまにしてシャフトのフロント側を押して圧入しました。すんなりとスムーズに圧入できました。
気をつけるところは各ギヤ間のクリアランスです。シックネスゲージで計測しながら圧入していきます。
実はアウトプットシャフトを分解する前の事前計測ではこのスラストクリアランスに狂いが見られました。分解・組付けでスラストクリアランスが是正できたので良かったです。
その他組付け時の注意点は以下のようなところです。難しいことはないので、サクサク進む作業です。
- セカンドギヤブシュボールを忘れずに組む
- スラストクリアランスを計測しながら組む
トランスミッションの組み上げ
トランスアクスルケースとトランスミッションケースの組み上げ
シャフトが組み上がったら全体(ケース)の組付けを行っていきます。組付け前に各オイルシール等の交換を行いましょう。パーツをバラバラで買いましたが、オーバーホールキットがあるのでコレを購入すると便利だと思います。
04331-17020 | トランスアクスルオーバホール ガスケットキット(MTM) |
また、組付け前に清掃、脱脂をしておきます。まずはトランスアクスルケース側。
シャフトをトランスアクスルケースに組み付ける前に、リバースシフトフォークローラー(玉)をシャフトに戻します。リバースフォークシャフトの中に入れるのですが、ギアシフトフォークのくぼみにローラーが入ることになるので、ギヤシフトフォークの向きと位置が合っていないと一生入りません。
今回のオーバーホールではギヤシフトフォークを分解していないので、シフトフォーク一式・アウトプットシャフト・インプットシャフトの3つを噛み合せた状態でまとめてトランスアクスルケースに挿入します。まとめてやらないと取り付けできませんでした。
その後リバースアイドラギヤ、リバーススラストワッシャー、リバースアイドラギヤシャフトを取り付けますが、注意すべきはリバースアイドラギヤシャフトの向きです。トランスミッションケースの外側からのボルトで止めますので、向きが合っていないとまた開ける羽目になります。
シャフトがうまくはまったら、シフトアームブラケットASSYを取り付けます。締め付けトルクは18.1N/mです。
準備ができたらトランスミッションケースを一旦仮組みして問題ないか確認。OKならシールパッキンを塗ってトランスミッションケースを閉めます。外周のボルトはネジロック剤を塗布して29.4N/mで締めます。
尚、整備書で出てくるパッキンとネジロックは以下の通り代用しました。
シールパッキン1281 | J-B Weld Company 31314 90ml Red Rtv Sealant High Temp |
アドヘシブ1344 | 3M Scotch-Weld ねじゆるみ止め用 嫌気性接着剤 TL42J 10ml 中強度/中粘度 |
なお、代用品の緩みどめ剤の粘度が低い場合は、塗布量が多いとトランスミッションケース内に垂れてしまいます。塗布量には十分注意してください。僕は垂らしてしまったので一度開ける羽目になりました、、、(^_^;)
フィフスギヤの組付け
最後にフィフスギヤ周りを組み上げます。スナップリングの取り付けを忘れなければフィフスドリブンギヤ組付けまでは何の問題もなく進むでしょう。フィフスドリブンギヤの組付けは本来プレスを使うべきですが、トランスミッションケース一式が入るようなプレスが無いので、大きめのソケットを介してハンマーで打ち込んで圧入しました。12tプレスでも入らないんじゃないかと思います。
問題はフィフスギヤシンクロ周りです。
構造としては、クラッチハブ内部に2本のコンプレッションリング(スプリング)とシンクロナイザーリング類が入ります。特にロックされる構造ではないので、すぐに外れます。圧入されることによって外れなくなります。
以下の写真は構造を把握するために、シンクロは無し、コンプレッションリングだけ入れてみたところです。丸印の位置に回り止めの穴があり、ここにコンプレッションリングの爪を入れる必要があります。
うまく組めると下の写真のように端面(組み付け時は上側)が揃います。方向としては、組み付け時の下側からシンクロとコンプレッションリングを入れるという方向です。
これを組み上げた状態でケースに取り付けるのですが、クラッチハブNo.3の圧入もプレスが使えません。よってハンマー等で叩いて入れることになりますが、ハンマーの衝撃でコンプレッションリングが外れます。
つまり、圧入している間にクラッチハブがバラバラになるのです。
結論的には、圧入しながら組んでいくのが一番早かったです。叩いては崩れるので少し圧入された状態のまま組み直し、またハンマーで打つ、というのを繰り返しました。圧入前に綺麗に組み上げても無駄、ということです。
プレスがあれば組み上げてから圧入で大丈夫だと思います。
シンクロをくんだ状態でシャフトに載せて、分離しないように手で押さえながらハンマーで叩いて入れます。結局外れてしまいますが、外れたまま圧入していくと、組めなくなってしまいます。組める状態になっていることを確認しつつ叩いて入れていく感じです。
コンプレッションリングはテンションがかからない状態が正常で、テンションがかかっている場合はうまく入っていません。マイナスドライバー等で外側から叩いて、シンクロの中に入るようにします。
何度も繰り返しながら少しずつ組んでいきます。
ということで、まさかのフィフスギヤ組み上げで1時間以上かかりましたが、なんとか完成しました!
あとは載せ替えてみて動くかどうか、です。総合的にはこのミッションはあまり傷んでいなかったという印象です。シンクロの消耗度で言えば5速が一番削れていたように思います。いずれにせよミッションオーバーホールは今回初なので、目で見た状態でどういう状態になるのか、どういうリアクションになるのかを学んでいきたいと思います。
またレポートしたいと思います。
その後
このミッションはニュートラル状態でカタカタと異音が発生してしまいました。カタカタという異音は回転物のバランスが崩れているような印象だったので、シャフトの歪みやガタがあるのかもしれません。クラッチを切ると発生しない、ギヤを接続した状態では発生しないことから、ミッション側のどこかに問題があるようです。
ギヤは5速は前述の通りシンクロ不良でダブルクラッチしないと入りませんでした。他のギヤは好調でした。
結局カタカタ音のインパクト効果によりハウジング内のボルトが外れてしまうという結果になり、再度ミッション交換をしました。
手動回転で回転バランスを計測するのは困難でしょうから、組んでみないとわかりません。そもそも素性がわからないミッションだったので、最初からなのか、組付け不良なのかは不明です。一筋縄にはいかないなと思いました。
ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。
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