歌ってみたMIX MIX師さんへのファイルの送り方
歌ってみたMIXやマルチトラックミキシングでは、MIX師/ミキシングエンジニアに楽曲のデータを渡す必要があります。
色々な送り方の人がいらっしゃいますが(苦笑)、筆者が送られて嬉しい方法をまとめてみました。この送り方で送ってもらえれば少なくとも僕は対応できますし、嬉しいです。この記事では歌ってみたMIXに関してのファイルの送り方・まとめ方を説明しています。
記事内でかっこ( )がついている項目・見出しはできたら嬉しいな、、、という項目です。( )の項目は難しければ見送っても大丈夫でしょう。
色々な人に向けて書いている内容なので、難しい単語も少し出てきます。わからない時はわかるところだけ読みましょう。ご質問いただければ説明しますのでお気軽に♪
それでは参りましょう。
※MIX師の方へ:こちらの記事を歌い手さんに送っていただくことは大歓迎です!内容はあくまで筆者が受け取って楽という観点で書かれていますので、合わない人もいると思います。その場合は適宜修正、補足してお使いください。
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お手本を作ってみました
なにはともあれお手本を作ってみました。
構造としては、
- メインボーカルのファイル x1(Vocal.wav)
- コーラス・ハモリのファイル x8(cho-01.wav〜cho.08.wav)
- オフボ音源 x1(ノーダウト_オフボ_-2.wav)
- 音源メモ x1
となっています。
音源メモには要望やファイルの説明を記載しています。メモの内容と各項目は記事後半で説明しています。
ファイルの作り方
ボーカルとオフボは別のファイルにしてください
GarageBand等でオフボに合わせてボーカルを録音したのちにMIXを依頼する場合は、ボーカルとオフボーカル(カラオケ)を別のファイルにして渡しましょう。一緒になっているとボーカルのピッチ・タイミング編集や音作りができません。
また、コーラスや掛け声、ボーカルファイルが複数ある場合は、すべてバラバラにファイル化しましょう。
歌ってみたMIXで必要なファイル(音素材)
・歌(メインボーカル)のみが収録されたボーカルの音声ファイル
・ハモリやコーラスがある場合は、ハモリやコーラスだけが収録された音声ファイル
・オフボーカル(カラオケ)音源
ファイルの頭を揃えてください
ファイルの作り方で最も注意していただきたいのは、ファイルの頭(開始タイミング)を揃えることです。
受け取った側でファイルを読み込んで並べただけで位置が揃う状態が望ましいです。音楽録音においては0.1秒ずれたらかなりの誤差になり、リズム感などはすべて狂ってしまいますから、ファイルの位置は非常に重要です。
お手本をGarageBandに読み込むと以下のように並びます。
曲の頭の赤枠に注目。各ボーカルファイルの最初に空白があるので、並べただけで位置がぴったりになります。
もしも空白がないと、以下のようにすべてのトラックが自分勝手な位置から歌いだしてしまいます。バラバラになった位置を揃えるのは困難です。もとに戻らないと考えてください。
よく理解できない場合は、ファイルを送る前にMIX師さんに相談しましょう。それでも良いと言ってくれる人もいますし、断ってくる人もいると思います。
(ファイル名はわかりやすくしてください)
受け取った側ではどういう流れで録音したのかわかりませんので、ファイル名は重要な情報です。わかりやすいファイル名をつけていただけると助かります。
—–例—–
オフボ音源のファイル名:オフボ_[曲名]_[キー], [曲名], [曲名]_カラオケ
メインボーカル用のファイル名:Vocal, Vo, Vocal1/Vocal2/Vocal3, メインボーカル, ボーカル(メイン), ボーカル(予備)
コーラスパート用のファイル名:Cho1/Cho2/Cho3, Chorus, コーラス, ダブリング, DBL
ハモリパート用のファイル名:Cho1/Cho2/Cho3, Chorus, コーラス, ハモリ,ハモ
その他:シャウト, 叫び, セリフ, (セリフや叫びの内容でも可「ハッ」「あー」「うー」「挨拶」とか)
とにかく「数字だけ」とか「謎の単語」の場合は、識別するために全部細かく聞く必要があるので大変です。
(なるべく非圧縮型式のファイルを用意してください)
MIX作業では様々な音の処理や編集作業を行いますので、ファイルの品質が悪いと仕上がりも悪くなります。何よりMIXする人のモチベーションに影響します。可能な限り非圧縮のWAV形式でファイルを用意しましょう。MP3(圧縮)しか無い場合は仕方ないのでMP3で送りましょう。
GarageBandの場合も書き出し(ファイル化)において、非圧縮WAV型式を選ぶことができます。以下の[WAVE]を選択して書き出しましょう。
WAV/MP3以外のファイル型式で送る場合は、事前に連絡して可否を相談しましょう。
ファイル形式の知識がないという場合は、以下の記事を読んでみてください。
ファイル型式の確認方法(mac)
ファイル名末尾の拡張子(.wavなど.以降の文字列)で判断できます。または、[ファイル名を右クリック>情報を見る>一般情報>種類]でファイル型式などを参照できます。
ファイル型式の確認方法(Windows)
ファイル名末尾の拡張子(.wavなど.以降の文字列)で判断できます。または、[ファイル名右クリック>プロパティ>詳細タブ>項目の種類]で確認できます。
ファイルのまとめ方と送り方
(名前入りのフォルダ名をつけましょう)
ファイルはすべてひとつのフォルダに入れて、わかりやすいフォルダ名をつけましょう。
—–フォルダ名の例—–
[お名前]_[曲名]
→歌ってみたではたくさんの人のファイルを取り扱うため、依頼主さんのお名前で管理することになります。名前は被らないので、フォルダ名の最初に名前がついているとファイルの管理が楽です。
(フォルダを圧縮しましょう)
バラバラの状態でもファイル転送サービスを使えますが、ファイルに問題が生じる可能性があります。ファイルの破壊を避けるため、フォルダを圧縮してしまうと安全です。
※圧縮して送るかどうかは世代や人によって考え方が異なる場合があります。圧縮しない方が良いと言われたら、そのまま送りましょう。
圧縮方法(Mac)
[フォルダ右クリック>(フォルダ名)を圧縮]で圧縮ができます。
圧縮方法(Windows)
[フォルダ右クリック>送る>圧縮(zip型式)フォルダー]で圧縮できます。
ファイル転送サービス等でURLを取得しましょう
メールやメッセンジャー等で直接送ることも可能ですが、音声ファイルは画像などと異なり容量が大きく、相手が受け取る時に時間がかかってしまうことがあります。ファイル転送サービスなどを用いてダウンロードURLを取得し、URLを送りましょう。
お勧めはギガファイル便です。登録不要、簡単、パスワード保護も可能でプロも多用しています。データ保存期間が指定できますが、すぐにダウンロードできるかどうかわかりませんので、長めの期間に設定していただけると助かります。
音源メモの解説
録音メモの雛形
項目に沿って解説していきます。この音源メモはそのままコピーして雛形として使っていただいて問題ありません。わからない項目は[不明]と記載しましょう。筆者以外のMIX師さんに送るときにもどうぞお使いください。
この度はお世話になります。MIXよろしくお願いいたします!
■連絡先:
twitter (@KOITA_SWK)
メールアドレス(xxxxxx@xxxxxxxx)
夜中は通知OFFですので連絡は何時でも大丈夫です!
■曲の説明
曲名/アーティスト名:ノーダウト/official髭男dism
キー:-2
テンポ:150
■原曲の音源が聞けるURL
https://youtu.be/EHw005ZqCXk
■MIXの希望
原曲の雰囲気に近いと嬉しいですが、歌自体かなりアーティストさんと違うキャラクターなので仕上げは基本的にお任せします。エフェクトは弱めで声の質感が出ているととても嬉しいです。
■ファイルの説明
位置合わせ:
各ファイルの頭の位置をあわせてありますので、読み込んでもらえれば位置が揃います。
[ノーダウト_オフボ_-2.wav]
ステレオオフボ音源です。
フォーマット:wav, 24bit/48kHz, ステレオ
[Vocal.wav]
メインボーカルのファイルです。
テイク:選択済
ピッチ:未編集
タイミング:未編集
フォーマット:wav, 24bit/48kHz, モノラル
■録音環境
マイク:LEWITT LCT840(真空管コンデンサーマイク)
マイクプリ/オーディオインターフェース:TASCAM US-20x20
DAW:ProTools
録音時のエフェクト:無し
どうぞよろしくお願いいたします。
録音メモの項目解説
■連絡先
→連絡の取れる連絡先を記載しましょう。連絡先が2つあると安心しますので、できれば2つ書きましょう。
■曲の説明
→曲の情報を記入します。
曲名/アーティスト名:
(キー):曲のキーがわかれば記入
(テンポ):曲のテンポがわかれば記入
■原曲の音源が聞けるURL
→実は曲を知らないということがよくあります。YouTube等を聞いて勉強しながらMIXをすることも多いので、原曲が聞ける場所を教えて下さい。インターネット上で聞けない場合はその旨ご連絡ください。(CD等をコピーして添付することは権利侵害になる場合がありますので避けてください)
■MIXの希望
→どういうふうに仕上げてほしいか希望を書いてください。もちろんご希望どおりになるかどうかはわかりませんが、ご希望を知ることは良い仕上げにするために重要ですので、色々書いてくださると参考になります。
(■ファイルの説明)
→ファイルの説明が必要ば場合はお願いします。特にボーカルファイルが複数ある場合は、どのように使い分ければ良いか教えて下さい。
(位置合わせ):同じ場所に並べただけで位置が合うかどうか教えて下さい
(■ファイルの内容)
→わかるようでしたら各ファイルの情報を教えて下さい。
[Vocal.wav]
メインボーカルのファイルです。
(テイク):選択済 or 未選択・・・いいところを選んでまとめたものか、録音したままか教えて下さい。
(ピッチ):未編集 or 編集済・・・ご自身でピッチを編集したかどうか教えて下さい。
(タイミング):未編集 or 編集済・・・ご自身でタイミングを編集したかどうか教えて下さい。
(フォーマット):[ファイル型式], [ビットレート]/[サンプリングレート], [モノラル or ステレオ]
(■録音環境)
→どのような環境で録音したのか教えて下さい。
(マイク):録音に使ったマイクを教えて下さい。
(マイクプリ/オーディオインターフェース):録音に使った機器を教えて下さい。
(DAW):録音に使ったアプリ、ソフトを教えて下さい。
(録音時のエフェクト):無し or 有り・・・録音の際にエフェクトをかけながら録音したかどうか教えて下さい
FAQ(音の状態など)
ノイズは削除して送ったのほうがいいの?
削除しなくて大丈夫です。無編集でお送りください。多くの場合歌い手さんよりMIX師さんの方がノイズ除去能力が高いので、消せるノイズは消す作業をしてくれます。その際に、ノイズの情報を活用してノイズ除去をすることがあるため、録音したままでお送りください。
ピッチやタイミングは編集したほうがいいの?
そのまま無編集で送ってもらったほうが助かります。編集してもらっても良いのですが、ノイズ同様に歌い手さんよりMIX師さんの方が編集能力が高いはずです。また、編集で音質劣化もあります。MIX師さんは劣化を抑えて編集できます。他の人が編集したファイルというのは思いの外扱いづらいものです。
録音する時にエフェクトをかけたほうがいいの?
かけないほうがいいです。レコーディングスキルが高い場合はエフェクトかけ録りは有効な録音手法ですが、難しいです。変なエフェクトがかかってしまうと後から処理が大変になります。エフェクトをかけてほしい場合は、その旨録音メモで伝えるほうが良いでしょう。
※
エフェクト:音楽制作をする際に使用する音を加工するソフトウェア、機能の総称。
エフェクトかけ録り:エフェクトを使いながら、エフェクトが使われた音を録音してしまうこと。
テイク※はたくさん送った方がいいの?
「いい歌選択済みテイク」を1テイクと、バックアップを2テイク、合計3テイクもあれば十分です。メインボーカルは自分が良いと思うテイクをまとめた状態の「いい歌選択済みテイク」を作ってもらえると助かります。「テイクを選んでください」と言われ、テイクが6本あると、6回聞かなければいけません。5分の曲だと聞くだけで30分かかります。バックアップは「いい歌選択済みテイク」に問題があった場合に使用します。
※
テイク:1区切りのレコーディングのこと。最初から最後まで歌ったらそれで1テイク。複数回録音することが多いため、最初の録音はテイク1、2回目の録音はテイク2と呼びます。複数のテイクから気に入った部分を合成して完成テイク(=いい歌選択済みテイク)を作ります。
ピッチが悪い歌と表現が乏しい歌、どっちがいいの?
ピッチが悪いけど表現は豊かな歌(テイク)の方が良いです。ピッチは悪くても直してしまいます。はっきりとした発声でいい音になっていれば直ります。しかし表現力は加工して作り出すことができません。いい雰囲気で歌えているものをセレクトしてください。
歪んじゃったけど、このままで大丈夫?
できれば歪んだ部分は録り直してください。歪みを目立たなくすることは可能ですが、完全に除去することは困難です。
オフボデータは2mix?パラデータ?
歌ってみたでご依頼でしたら2mix※データでお願いします。パラ※=マルチトラックデータをミキシングするのは歌ってみたよりも遥かに作業量が多く、難易度も高いです。できる人とできない人がいると思います。ちなみに筆者の場合は2mixオケの場合とパラの場合で費用が変わります。
※
パラ(マルチトラック)データ:音楽制作において各楽器がバラバラに録音され、バラバラのままの音楽制作ソフト(DAW)専用のデータをパラデータと呼びます。パラデータは普通の再生プレーヤーで聞くことができません。最近はステムデータとも呼びます。
2mix:上記パラデータをミキシング(MIX)という作業を通して誰にでも聞ける状態にした音声データのこと。誰でも再生プレーヤーで聞ける状態は「ステレオ」と呼ばれ、左と右の2つの音がセットになった状態。2mixの「2」は、「左と右で2つ」のこと。つまりステレオ形式になっていることを指します。
「2mixのオフボ」と言ったら、誰でも聞ける状態になっているオフボーカル音源ということになります。
オフボのキーは自分で変更してボーカルを録ったんですけど、元のオフボいります?
ほしいです。キー変更済オフボと変更前オフボの両方をお送りください。キー変更は、キー変更に使うプログラムによって大きく音質が異なります。これもMIX師さんの方がきれいにキー変更できる可能性がありますので、元の状態のオフボデータもお送りください。
クリックのトラックって必要?
基本的には無しで大丈夫です。テンポがわかると助かります。クリック※があるくらいならテンポがわかっていると思いますので、数値でお伝えいただければ問題ありません。
※
クリック:メトロノームのことです。ドンカマと呼ぶ人もいます。
WAVファイルのフォーマット(ビットレート/サンプリングレート)は?
WAV型式であれば何でも大丈夫ですが、歌ってみたなら24bit/48kHzが良いです。GarageBandの場合は48kHz非対応ですので、24bit/44.1kHzで問題ありません。もちろんそれ以上のハイレート(24bit/96kHz等)でも対応は可能ですが、歌ってみたの場合はそもそもオフボの音質が悪い場合が多いこと、動画用に使うので最終的に24bit/48kHzにすることを考慮し、無変換で済む24bit/48kHzが良いと思います。マルチトラックのオリジナル音源の場合はこの限りでは有りません。
いかがだったでしょうか。少なくとも筆者の場合はこの記事通りに送ってもらえたら完璧!と言って感動してしまいます。
何より大切なのは、相手のことを考えることです。渡されて手間が少ない、理解しやすいかどうかを相手の立場で考えて対応すれば、きっと喜んでもらえることでしょう。
YouTubeで無料MIX講座を開講中。ぜひチャンネル登録してお楽しみください。
ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。