32bit float 初心者向け解説 32bit floatは無敵ではない?歌ってみた・ボーカル録音のオススメ設定とは[難しさ:やさしい vol.108]

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録音で歪んでも大丈夫!」「歪んでもあとから戻せる!」と話題の32bit float録音。実際には正しく理解しないと歪んでしまうことも。初心者向けに歌ってみた録音・ボーカル録音に特化して32bit floatを解説しています。私見を多分に含みますのでご了承ください。

動画版はこちら

※識者の方へ
本記事は初心者の人が理解しやすいように噛み砕いて解説していますので、ダイナミックレンジやSN比、演算の中身、24bit録音と32bit float録音の音質差等々、有識者のみが理解し得る難しい話はすべて割愛、簡略化しています。ご自身で最適な設定が判断できる知識をお持ちの方は、ご自身の判断を優先してください。

最初に結論!迷ったらこの設定で録音

難しい話なので、最初にオススメ録音・書き出し設定をお伝えしておきましょう。最後まで読む気がしなかったらここだけ読んでください(苦笑)。それぞれの理由は後述していきます。

最初に、ご自身のオーディオインターフェースが32bit floatというものに対応しているか調べましょう。

なお、現在入手可能な32bit float録音対応オーディオインターフェースは筆者が知る限り以下シリーズのみです。

以下に記載したおすすめ設定は、32bit float非対応のオーディインターフェースに向けた内容です。事実上、ほとんどの人が該当するでしょう。

歌ってみたを録音してMIX師に依頼する場合

  • 24bit/48kHzで録音する
  • 32bit float/48kHzで書き出し

16bit音質が好みである場合を除き録音で16bitを選択する理由はほぼありません

Cubaseではプロジェクト設定の録音ファイル形式を24bitに設定する
書き出しでは32bit floatを指定する

ダウンロード販売・配信・CD化目的で制作する楽曲の場合

  • 24bit/96kHzで録音する
  • MIXを他者に依頼する場合は32bit float書き出し
  • マスターは24bit/96kHz以上で作成する

※GarageBandで録音する場合

  • 24bit/44.1kHzで録音する(32bit float/48kHz以上は非対応)
  • そのまま書き出しをする(24bit/44.1kHz)またはプロジェクトファイルごと共有する

GarageBandでの書き出しについては以下の記事も参考にしてみてください。

録音フォーマットについては以下の記事でも解説していますので、初心者の方は読んでみてください。

bitとは何を表しているのか?

録音に関わるようになると頻繁に耳にする「〜bit(ビット)」という言葉。コンピューターの世界でもよく出てくる言葉です。

録音の世界においては主に3つの対象に対して使われており、それぞれ全く異なることを表しています。これらがよく理解できていない説明が多く見られますので、注意しましょう。

以下の図で説明していきます。

色々なところで使われるビット深度表記

bitの意味 その1 パソコンやDAWソフトウェアが扱える情報量

1つ目の対象は、パソコンやDAWソフトウェアが扱える情報量を表すものです。

パソコン購入時に32bit CPU64bit CPU64bit OSなどの言葉が出てきますが、これらは簡単に言えば扱える情報量を指しており、数字が大きい方が1度にたくさんの情報を扱うことができ、高効率です。

同様にDAWなどのソフトウェアも扱える情報量が異なり、その多さを32bitや64bitという数字で表します。扱える情報量については多い方がよく、音質には関係しません

「〜bit CPU」「〜bit OS」「〜bit対応」「〜bit DAW」と呼ばれているものがその1に該当します。

bitの意味 その2 DAWソフトウェアのミキサーのスペック

その1と異なり、大きく音質に関係し、この項目ではじめて32bit float(フロート:浮動小数点)という言葉が出てきます。

32bit floatの詳細は後述しますが、ここで言う32bit floatはDAWのミキサー部分が32bit float処理という意味。簡単に説明すると、「赤ランプが点灯してもDAWから出るまでに下げれば音は歪まない高性能デジタルミキサーを搭載している」ということです。

入手できるDAWはほぼ32bit float処理を採用しているので、選択の余地がありません。DAWを使っていれば自動的に32bit float処理の恩恵を受けています。つまり、ここでは忘れても良いです。

概ね「〜bit処理」「〜bit動作」「〜bitエンジン」と呼ばれているものがその2に該当します。

※Cubase Pro等はより上位の64bit floatが選択できますが、その意味が理解できる場合、この記事を読む必要はないでしょう(^_^;)

bitの意味 その3 録音ファイル・書き出しファイルの解像度

これが本題、その3です。

その1とその2はパソコンやソフトウェアがそもそも持っている仕様であるため選択の余地がないものでした。

しかしその3は音声ファイルの形式(解像度)を表すものです。録音・書き出しファイルの解像度は選択肢が多く、ユーザー自身が選ぶ必要があります。DAWでプロジェクトを作成する時に選んでいる「bit」は、録音ファイルの解像度。そして書き出し時に選んでいるのは書き出しファイルの解像度なのです。

「〜bit録音」「〜bit書き出し」と呼称されるものがその3に該当します。

※解像度が良くなる=音質が良くなるということではないのですが、事実上S/N比(ノイズ)等の関係で音質が良くなります。もとい、良い音質を記録できるようになります。


32bit float録音に必要な機材とその危険性

その1とその2は選択の余地が無いので、実際に迷うのはその3の設定。特に録音するときに32bit floatに設定するべきかどうかということです。

ところが32bit float録音は誰でもできわけではなく、32bit float録音に対応したオーディオインターフェースが必要なのです。

そして、ほとんどのオーディオインターフェースは32bit float録音に対応していません

32bit float非対応オーディオインターフェースを使用してDAWで32bit float録音を行い、オーディオインターフェースの音量設定が大きすぎて歪んでしまった場合、、、、元には戻せないのです。また、マイクプリを使用する場合、マイクプリの設定ミスで歪んでしまった場合には、やはり元には戻せません。マイクで歪むということもあり、これも同様です。

32bit floatなら歪まない

という表現は、録音全体には適応されないのです。「32bit floatなら歪まない」は、録音機器やDAWを深く正しく理解して初めて使える表現であり、初心者の方においてはむしろ歪みへの注意を損なうだけでむしろ危ないと筆者は考えています。

32bit floatでも条件が揃わないと歪みます、戻せません。

上記がとても重要なことなので、覚えておきましょう。とにかく歪みへの注意を怠ってはいけません。歪まずに、程よく大きなレベルで録音することが良い音への第一歩です。

24bit録音と32bit float録音の違いとは?〜32bit float録音・書き出しの効能〜

ここから先の話はその3に絞って32bit float録音・書き出しの理解を深めていきましょう。その1とその2は一旦忘れてください。苦笑

さて、一見数字が大きい方が解像度が高いように見えますが、そうでもありません。そしてよく間違えられるのが、”float“の意味。32bit録音32bit float録音は同じように見えて全く違うものです。

  • ビット深度32bitで録音した
  • ビット深度32bit floatで録音した
  • 32bit float動作のDAWでビット深度24bitで録音した

上記はすべて異なることを言っています。

32bit float録音は32bitという表記を含むものの24bit録音の派生と考えることができ、32bit録音と異なります。24bit録音のアンドゥ機能対応版が32bit float録音と考えればわかりやすいかもしれません。

参考までに、”float”(浮動小数点処理)ではない32bit録音は、正確には32bit “Integer”(整数)と呼ばれ区別されています。

いくつか実験をします。

32bit float録音なら歪んでも歪む前にアンドゥできる

DAW内部において実験をしてみます。24bit録音したサイン波(信号音)ファイルをDAW内部で24bit録音したものが以下です。

24bitで0dBサイン波を録音した波形

上から元のファイル、Aはボリュームをそのまま(0dB=変化なし)で録音したもの。Bはボリュームを+6.0dBに設定したもの。Cはプラグイン内部で+6.0dBに設定したもの(プラグインで歪んでしまった状態)です。

Waves C1コンプレッサーのOutputで+6.0dBに設定

0dBのサイン波を+1.0dBにあげて出力・再録音したBとCはレベルオーバーしたために波形の頂点が平らになっているのがわかります。これが歪んでいるという状態で、元に戻せません。

ためしにABCそれぞれのファイル音量を下げてみたのが以下の画像。-6.0dBと大きく下げてみましたが、波形は潰れたままです。24bit録音・24bit書き出しの場合、歪んだファイルを歪む前に戻す方法は無いのです。

24bitで録音したファイルの音量を下げた波形(-6.0dB)

では同じ内容を32bit float録音に設定して書き出したファイルが以下です。録音されたままの状態では、24bit録音と同じに見えます。BとCは頂点が潰れていますね。

32bit floatで0dBサイン波を録音した波形

しかし、ファイル音量を下げてみると、、、元の波形に戻ります。録音という「音を固定する」作業を経たあとでも元に戻せるのが32bit “float”録音の利点なのです。

32bit floatで録音したファイルの音量を下げた波形(-6.0dB)

32bit float録音なら音量を下げても音質をアンドゥできる

前項よりちょっとむずかしい話題です。

録音したファイルの音量を下げて再録音・書き出しを行う場合は、音質が劣化します。画像で考えると、ファイルサイズを小さくするために解像度やサイズを下げた状態です。小さくした画像をズームインするといかがでしょう。さらに、小さくした画像を再度引き伸ばすことを考えてみてください。音声ファイルでも同じことが起こります。

ということで、サイン波を-40dBに設定して再録音し、引き伸ばしたもの(録音後に音量をあげたもの)が以下の画像です。

-80dBに設定して書き出し、ノーマライズで音量を戻した波形

上は元のサイン波、Aは16bit録音を引き伸ばしたもの、Bは32bit float録音を引き伸ばしたものです。16bitでは元の波形に戻りませんが、32bit floatはまたしても元通りになっているのがわかります。

32bit float録音の効能は異なるDAWでインポートしても有効

ここまではCubaseで録音し書き出したファイルを見てきましたが、同じファイルをProToolsなど、他の32bit float対応DAWに読み込んでも効能が継続します。Cubaseを使っている歌い手さんが32bit float書き出しをしてくれれば、もし歌い手さんがフェーダーを調整したまま書き出していたとしても、ProToolsを使っているMIX師側でフェーダー調整前に戻せるということなのです。

なお、ProToolsの場合は以下のように波形の音量を下げても波形表示は潰れたままですが、音は歪みがない状態に戻ります。

Cubaseで32bit float書き出ししたファイルをProToolsで-6.0dBした

ProToolsにおいては、波形音量(クリップゲイン)を下げて音に歪みがなくなった状態でファイルを固定(クリップを統合)すれば、波形表示にも反映されます

クリップゲインを下げてファイル統合すると波形にも反映される

なお、ProToolsのプロジェクト設定が24bitであっても、32bit floatで書き出されていればインポートしたファイルでは32bit floatの効能は有効です。これはその2にあった内部ミキサーが32bit float処理に対応していることの恩恵です。

32bit float録音の仕組み

32bit floatで録音されたファイルは、簡単にいうと、24桁の音声データ+8桁の演算用データ=合計32桁という構造をしています。演算用の8桁を用いて元の音へのアンドゥを実現しているのです。

各録音解像度のデータ構造概略

勘の良い人はおわかりかと思いますが、音声データ用の桁数は24bit録音と32bit float録音で同じです。したがって、32bit float録音の音質的な優位性は(理論的には)ありません。一方で、8桁増えていることからデータ容量は大きくなり、パソコンの負荷も大きくなります。

以上の内容を踏まえると、録音時に適切な音量設定ができ、書き出し時にフェーダー位置を都度0dBに戻せるならば、32bit float録音・書き出しに設定する必要はありません。データ量が大きくなるだけ、ということになります。

ただし実際のところ、自宅録音する歌い手さんや編曲をするアレンジャーさんは、ラフミックス状態のまま書き出しをしていることがほとんどであり、これが現実。

したがって、書き出しにおいては32bit float書き出しを使っていただくことがおすすめフェーダーを0dBに戻す操作を省略することができ、さらに受け取ったMIX師やミキシングエンジニアの手によって音質をもとに戻すことができます。

以下のプロジェクトはVMIXというトラックがボーカル。ボーカルを録音したあとに、音作りもしてありますが、MIX師にわたすために書き出すとしましょう。その時にボーカルトラックではピークがついているものの、マスタートラックで音量を下げたためにピークランプが点灯していません。録音後によくある光景ではないでしょうか。

本来は書き出し時にピークを抑え、フェーダーを0dBに戻すべきですが、そうもいかないことも多いですよね。

ボーカルトラックはレベルオーバーだが、マスターでレベルを下げている場合

この状態でボーカルトラックのみ書き出し用のファイルを作成し、Cubaseでインポートしてみました。

レベルオーバーしたまま書き出したボーカルファイルをCubaseでインポートしてレベルを下げたところ

上は24bitで書き出ししたもの、下は32bit floatで書き出ししたもの。レベルオーバーして波形が潰れていたので、それぞれ3dB下げてみた画像です。24bitはそのままですが、32bit floatは元に戻りました。これなら歌い手さんにリテイクをお願いせずにすみますね。

これが、「24bit/48kHzで録音して32bit floatで書き出し」の理由です。

参考までに、以下のTASCAM Portacapture X8の資料において、32bit float録音ファイルに対応したDAWが表記されています。

32bit float録音の有効性は?

それでは32bit float録音が最も有効なシチュエーションはどんな時でしょうか。筆者はフィールドレコーディングライブレコーディングだと考えています。これらの現場は録音し直すことが不可能で、安全マージンを大きくした録音レベル設定しかできないのです。

したがって、レベルオーバーした場合に戻せる、安全策で小さく録音した音を劣化なく大きくできることは非常に有効です。しかし32bit float 録音パーツはほぼありません。録音以外での需要が低いので今後もさほど充実しないと思います。

結果的に、少チャンネルのフィールドレコーダーだけが早々に32bit float対応しました。

現在入手可能な32bit float録音対応オーディオインターフェースは筆者が知る限り以下シリーズのみです。

その他、オーディオインターフェース機能を持つレコーダーとしては以下が挙げられます。

以下のような憧れの機種も、すべて32bit float録音は非対応で、24bit録音が上限です。

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筆者オススメの機種も32bit float録音は非対応で、24bit録音が上限です。

MOTU UltraLite mk5 レビュー アウトボードに興味があるMIX師に最適な多入出力オーディオインターフェース!

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歌い手にピッタリのちょっといいオーディオインターフェース!Apogee Duet3レビュー&使い方

32bit float録音自体は、かなり前からある技術です。しかしさほど普及していないのは上記を見ておわかりいただけると思います。非対応だからといって良くない機器ということではないのです

背景には、音質に対する影響力はマイクプリ品質の方が大きいということが関係していると考えています。

マイクプリの設定で音が歪んでしまうとデジタル化前で歪んでいますから、もちろん戻せません。よってマイクプリの録音レベルは小さい方が良いように見えますが、そうでもありません。アナログ録音機器は「適切なレベルで使用する」ことが音質を確保するうえで非常に重要なのです。どんなに良いマイクプリでも小さすぎる音量設定で使ってしまってはポテンシャルを発揮できないのです。

つまり、マイクプリを使用できるレコーディングにおいては、デジタル化を32bit floatにしたところで、「レベル設定不要」とは言えないのです。(フィールドレコーディングは使用できる機器のサイズや量に限度があるのです)

加えて、いい録音レベルに設定することは録音の楽しみのひとつでもあると考えています

スポーツカーでサーキットを走りコーナーを曲がる時、良い姿勢が決まると気持ちいいものです。自動化できるでしょうが、サーキット走行自動化の魅力は無いのです。少なくとも筆者にはありません。

ちなみに”float”ではない32bit録音というものも存在します。これもそこそこ前からあるのですが、普及しません。16bit時代に24bit録音が登場した時は、またたく間に普及しました。16bitから24bitの音質変化は大変大きかったのです。

32bit録音は理論的には24bit録音に対し大きなアドバンテージがありますが、聞き取れる人と環境に限りがあるのが現実かもしれません。機会があればぜひ音の違いを体験してみてください。筆者個人の感想では、32bit/96kHzの音よりもDSD録音の方が大きな感動がありました。DSDは利便性に大きな障害がありますが、、、普及には実用性や社会性も必要なので、難しいところです。

結果論ですが、24bit録音というのは誰でも差を感じることができ、取り扱いやすい現実的なフォーマットだったのだと思います。今後もしばらくは24bit録音、DAW以降32bit floatという運用が続くのではないかと筆者は考えています。

迷ったら、何事も自分の耳で感じることができる差を優先して考えれば良いでしょう(^o^)

これらの話題をよく理解するためには、オーディオインターフェース等機器の仕組みを勉強すると面白いです。以下の記事も読んでみてください。