ミキシングでAIをどう使う!?ミキシングや音作りの楽しさとは [難しさ:やさしい vol.100]SoundWorksK ミキシング講座100回記念

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いつもご覧いただきありがとうございます。

YouTubeで展開しているSoundWorksKミキシング講座が2周年を迎え、数え番号でも100回目を迎えました。さらにはYouTubeチャンネル登録者数も3000名様を超えることができました。再生回数や視聴者数を目標として開設・運営していないので、大きく予想を超える反響に驚きつつ、視聴者・訪問者の皆様、支えていただいているファンの皆様に対し、感謝の念に堪えません。

記念の回ということで、このミキシング講座開設の理由に迫る話題として「ミキシングでAIをどう使うか」という内容を取り上げてみたいと思います。最初に申し上げておきますが、筆者自体AIプラグインやソリューションを否定しておらず、むしろ肯定的です。人間が退化することはあっても、テクノロジーは進化する方向にしか進みません。

ということで、具体的な手法をお伝えする回ではありませんので、ご了承ください。100回目なのでご容赦ください(笑)。

動画版はこちら


ミキシングにおけるAIとの付き合い方

最初にまとめをしてしまいましょう。あくまで私見ですので、ご了承ください。

  • ミキシングを楽しいと思うかどうかをよく考えて使用する。
  • 急ぐ必要があるかどうかを考えて使用する。
  • AIが何をしたのかを分析することを忘れずに使用する。

また、AIは方向性を示してくれるという理由で、初心者さんもAIの存在が有効に作用します。初心者のうちは積極的に使用しつつ、「AIが何をしたのかを分析することを忘れずに使用する。」という作業を徹底しましょう。

それでは、これらの考えに至った背景や、ミキシング講座開設のきっかけをお伝えしていきます。

台頭するAIソリューションと講座開設のきっかけ

この話題について、実は講座開設時に記事にまとめています。2021年2月26日の記事です。

記事内でも述べていますが、もう一度書いておきましょう。

AIの台頭がこの講座を開設したひとつのきっかけです。その発端は10年くらい前まで遡ります。LANDRというマスタリングサービスを知ったことが大きなきっかけとなりました。

https://www.landr.com/ja/

知りうる限り詳しい情報で最古のものは、藤本さんの記事ではないかと思います。

僕がLANDRに出会ったのは、おそらく2015年頃。DAWソフトウェアSONARのマーケティングに携わっていた頃、SONARにLANDR連携機能が搭載されたことによります。

LANDRは簡単に言えば当時最先端のAI(人工知能)によるマスタリングサービスで、データを送るとマスタリングされたものを受け取ることができます。聞いてみるとあらあらなんとも、なかなかの出来栄えだったのです。もちろん音質面について高度な感性を持って判断すれば、至らない点も多々ありました。しかしベクトルとしては驚異的なものであり、ほとんどの人は満足するだろうと感じました。逆に言えば、エンジニア以外はこれで満足するのではないかと感じました

そして、ミキシングに波及する日も遠くないことを予見しました。

実際にAIプラグインは日を追うごとに増えており、代表格はiZotope Ozoneではないでしょうか。AIと呼ぶのかわかりませんが(苦笑)、Master Assistant機能が描き出すカーブが自分の作ったEQカーブと酷似していて驚いたことを思い出します。

Ozone 10 StandardのMaster Assistant

ミキシング作業の大半は整理、掃除、仕訳、削除などある程度機械的な作業でもあります。優れたクリエイターの判断力には勝てないでしょうが、一方で80%程度までは機械学習で対応できるとも考えています。これらの作業はマイナス側の制作と定義しています。

一方で、マイナスの後に、好みの音に作り変えていくプラス側の制作があります。

マイナス側の制作よりもクリエイティブな内容になりますが、それでもだいたいの人が好きな音は機械学習で導き出せると考えています。おおよそ高域がよく聞こえる方がいい音に感じますし、ボーカルをふくよかに効かせるのは500-750Hz程度、などなど。セオリーは機械学習が可能だと思います。イメージ的には、60%程度までAIでいけるのではないかと。

つまり、近い将来ミキシングはAIが行う可能性が非常に高いと予想しています。音源をインポートしたら、ボタンをポチっとすれば、7割くらいまではミキシングしてくれるでしょう。あくまでも予想です。

ここで危惧されるのは、70%の音で満足してしまう人の方が圧倒的に多いだろうという現実です。

すると、現在よりも質の低いミキシングの音源がデフレ・スパイラルのように増えていくことになります。事実、誰でもリリースできるようになった現在、バランスの悪い音源が過去より増えたように思います。売れてしまうと、そのまま普及します。

AIは便利です。早いです。しかし、危険性を踏まえ、ポリシーを持って使っていかないと、ミキシングをする人間そのものの価値を自ら消していく事になりかねません。先の記事にも書いていますが、AIによって参入障壁が下がるためたくさんの人がミキシングに触れるようになることは歓迎すべきです。しかしその先はどうするのか?どう付き合っていくのかをよく考えなければなりません。

そもそも何が楽しいのか?

僕はAIに作ってもらったものをそのまま納品するのは失礼かなと思ってしまうのですが、そういう感覚は時代とともに変わっていくと思います。むしろ人間がやるほうが失礼、みたいなことになるかもしれません。

事実、「属人的作業をすべて排除する」ということに心血を注いでいる若いSEの方とお仕事したことがあります。その方の価値観では、人間は何もしないことが最高のおもてなしだったのです。

ということで、価値観自体は変化するので、AI納品のミキシングの内容が本当に良ければそれはそれで良いと思っています。

しかし、しかしです。

そもそも何が楽しかったのかということはよく考える必要があると思っています。

僕の出演しているレコーディングドキュメンタリーDVDがあり、その中でドラマーの佐野康夫さんがドラムのチューニングについてコメントするシーンがあります。佐野さんは、「こんなに面白いものを人にやらせたくないっていうのも、本音です」とおっしゃっています。

僕のミキシングとAIに関する想いもほぼ同じで、こんなに楽しいことをAIにやらせたくないのです。Ozoneも買いましたが、Master Assistantはよほどどうしたら良いかわからない時以外、使っていません。使わなくなってしまいました。

ミキシングは、EQをグリグリやって、コンプレッサーをとっかえひっかえして、やっと出会った音だからこそ喜びがあると思うのです。つまみをグイッとやって音が変わった瞬間の感覚は今でも楽しいと感じます。出来上がった音楽というのは、その音以上に思い出が詰まっていると思うのです。

実際、苦労して作った作品の方が記憶に色濃く残っているものです

思い出や記憶が多く存在することは、マーケティング的な観点からも有効に作用します。

音楽の量が増え、飽和している現代、そして将来においては、音楽そのものに加えて、その音楽を作る上でのストーリー、つまり記憶が今よりも活用されることになると予想しています。特に知名度の無いアーティストは、音楽をリリースしても聞いてもらえませんから、その音楽にまつわる話題を継続的に発信し続ける必要があります。

ポチっと作ったら、記憶が、生まれないのです。

クロスメディアでマーケティングする時代なので、音楽に限らず、なにかを作り上げる時の苦労はそのままファンに喜んでもらえる苦労話になりえます。特にアマチュアに近い方々は自分の時間軸で制作ができることが利点なので、じっくり作っても良いのではないかと思います。

AIがもたらす最大の利点は時間の短縮です。時短がもたらすものは作品の早期完成です。

しかし、早く完成させる必要があるのでしょうか?

音楽制作は、特に趣味の場合、早く終わる必要があるかどうかをよく考えたほうが良いと思うのです。無論、早く完成させたい時はAIを積極的に使えば良いと思います。

ポチっとやっていい音になるとは思うんですが、それが楽しいのか。そしてそもそも、短縮した時間の中に楽しさがあったのではないか、ということです。何を楽しみとしているのかは問いながら使いたい。そう考えています。

車好きの人間としては、車業界が元気がないことが嘆かわしいのですが、その発端はオートマチック・トランスミッションだと思っています。適切なギヤを選んで走る楽しさを便利と簡単で上書きしたことで、長い年月をかけて車の運転を楽しむことを忘れてしまったのです。僕はどこでもドアがあっても、常に使うことはないでしょう。運転が好きなのです。

「オートなんとか」はよく考えて使う必要がある、ということです。

※なお、Ozone自体は超優秀で、中でもEQとイメージャーは優れているので、単体プラグインとして活用しています。

この講座のコンセプトとは

以上を踏まえたうえでコンセプトをシンプルにまとめると、ミキシングが楽しいと思う人を増やしたいということになります。ミキシングが楽しいと思うならば、AIとも上手に付き合うことができるでしょう。そしてミキシングが楽しいと思う人が多ければ、ミキシングする人の価値は失われずに済むと思っています。

この講座では機材レビューが少なく、未来永劫どの機材でも使えそうな話を優先するようにしています。

機材を起点にコンテンツを作る方が再生回数、PVともに稼げるのは重々承知です。しかし機材起点の話は必然的に時事ネタという性格が強くなります。また、機材起点の楽しい話は優れたコンテンツが世の中にたくさんありますから、僕は異なる視点でやっていきたいと思います。

育ちが悪いので、お金をかけずに楽しむ方法の方が興味があるのです。それは僕の車を見てもらえば理解できるでしょう(笑)。

速さを求めるならMR2という車に乗ること自体間違いです。利便性、経済性、どれをとってもMR2を選ぶのは間違いです(爆)。ただただカッコいい、そして付き合うのが楽しいから乗っているのです。僕の車は、世界のすべての人が単一の価値観ではないということを乗るたびに教えてくれます。同じ車を選ぶ人になかなか会いませんからね、、、苦笑。

ということで、今後も同じような内容で、思いつくままに皆さんと、自宅で誰でもできそうな音作りの話題を楽しんでいきたいと思います。一方でレビューのご要望も多く頂いていますから、コンセプトに沿いつつ、需要のある話題を僕なりの価値観でお届けすることも挑戦していきます。今後もお付き合い頂ければ嬉しいです。

ミキシング、レコーディング、楽しいですよ(^o^)

今後の展開について

1.これまで毎週動画をお届けしてきましたが、はっきりいってあまりにも大変だったので、今後は「月1回以上不定期」とさせていただきます。Vol.100までは毎週やるとどこかで言っているので続けてきましたが、他のことが全くできないレベルで大変でした、、、。お陰様で多方面から様々なプロジェクトのご依頼、ご相談もあり、自身やりたいことも色々とありますため、ご容赦ください。

2.配信に挑戦したいと思っています!動画は減るかもしれませんが、ファンの方も増えてきて交流の場を設けたいことから、ミキシングに関する話題を設定してのYouTube配信に挑戦したいと考えています。詳細はtwitter、YouTubeの投稿などでお知らせしますので、乞うご期待。