誰でもできる!?音がよく聞こえる方法とは [難しさ:やさしい vol.099] ミキシング・歌ってみたMIX

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読んでいただける方からの温かいお言葉、ご支援もあり、本講座もナンバリングではまもなく100回を迎えます。ありがとうございます。

ということで、99回目は具体的な方法論ではなく、思考法に関する重要な話題をお届けしたいと思います。99回目はこの話題にしようとずっと決めていた内容でもあります。

本記事では、機材もプラグインも不要、誰でもできる「音がよく聞こえる方法」をご紹介。その技を実行するために必要なことは何なのか、ミキシングと音に関するひとつの重要な事実をお伝えします。ミキシングは突き詰めればこの回の内容に回帰するとさえ考えている重要な内容です。

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使用している音源

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題材曲
Re:GO / キニナルコ
※ミキシングさせていただいております

どちらの音がよく聞こえますか?グッと来ますか?

最初に2つの音源を聞いてください。どちらかはボーカルに対してある加工を施したものです。ビンテージのイコライザーか、はたまたアウトボードコンプレッサーによるリアンプか。それとも特殊なプラグインの設定か。考えながら聞いてみてください。

ひとつだけ違いがある2種類のボーカルトラックを用意

どちらが音がいいと感じますか?

音の良さがよくわからない方は、どちらがグッと来るかを考えてみてください。

おそらく、Bの方が音が良く聞こえると思います。AとBの違いはなんでしょうか。

答えは、ボーカルの音量が2dB違うだけなのです。

AとBの違いはボーカルの音量のみ

イコライザー、コンプレッサーの設定も全く同じ。ただボーカルのフェーダーが2dB違うだけです。

なんと音量を上げるだけで良い音に聞こえるのです。新たなプラグインや機材も不要。ただフェーダーを上げるだけ。無料のDAWやソフトウェアでも可能です。

ミキシングをしていく上で認識しておくべきひとつの事実。

それは、「音が大きいほうが良い音に聞こえる傾向がある」ということなのです。

音作りをする上で、音量に惑わされずに判断をすることは重要です。筆者もGain matchと呼ばれるプラグインを用いてプラグイン前後の音量を揃え、音量の要素を除外して判断をすることは多々あります。しかし、「音量が大きいと良いと感じる」こともひとつの事実。

細かいことはさておき、音量上げたらいい感じになった。

音作りの方法は問われないので、音量を上げることはひとつの正解だと考えています。ミキシングの目的は性能の良いプラグインを探すことではなく、リスナーがぐっと来るミキシングをすることです。困ったら音量を上げてみてください。

エフェクトの多くは音量を調整している

エフェクトについて考えてみましょう。

イコライザーは帯域別の音量調整である

ミキシング3種の神器のひとつであるイコライザー。高音や低音をブースト・カットすることで好みの音に向かって調整できる基本的なエフェクトです。ミキシングで必ず使用するエフェクトと言って良いでしょう。

イコライザーの基本的なパラメーターは「ゲイン(増減の量)」、「周波数(増減の高さ)」、「Q(増減の幅)」の3つです。すでに答えになっていますが、すべて「増減」に紐付いています。つまり、イコライザーは特定の高さの音だけ調整できるボリュームフェーダーであると言えます。

T-RACKS MasterEQ 432 帯域ごとにボリュームがあると捉えられる

PAで使用される31バンドイコライザーなどを見れば理解しやすいでしょう。

YAMAHA Q2031B

コンプレッサーは時間別の音量調整である

ミキシング3種の神器、もうひとつはコンプレッサー。指定した音量を超えた音を自動的に圧縮(=音量を下げる)するエフェクトで、こちらもミキシングで使用しないことはほぼありません。

筆者の考えでは3つの目的で使用するエフェクト。その目的とは「音量の自動調整」「アタックの調整」「音質の調整」です。最後の「音質の調整」はビンテージ機器などで顕著な、通すだけでいい感じになることを狙った用途ですが、最初の2つ、「音量の自動調整」「アタックの調整」は音量を時間別に調整するものです。

Waves H-Comp 特にアタック・リリースのパラメーターで時間軸上での音量変化を調整する
コンプレッサーの基本動作
コンプレッサーの基本動作

現在ではビンテージコンプレッサーが「音質の調整」に多用されますが、そもそもコンプレッサーが生まれた理由は「音量の自動調整」「アタックの調整」でしょう。イコライザーは静的に音量を調整するものですが、コンプレッサーは動的=時間別に音量調整するエフェクトだと言えます。簡単に説明すればコンプレッサーは高度かつ高速なフェーダーオートメーションです。

以下の記事ではコンプレッサーのパラメーターである「アタックタイム」「リリースタイム」の解説をしています。時間別の音量調整であることがより深く理解できると思います。


ミキシング3種の神器のうち2つは音量調整エフェクトだということです。つまり、ミキシングの主要工程は音量調整だということがおわかりいただけると思います。

ミキシングの真髄は、何を大きくして、何を小さくするのか。大きくするべきものとそうでないもののコントロールだと考えます。

音量を上げるために必要なこと

音量を上げれば良い音に聞こえるのであれば、黙って音量を上げれば良いのです。では、どんな音でも音量を上げることができるでしょうか?

答えは否です。

音量を上げることは簡単に見えて実にハードルが高いことなのです。

ノイズも大きくなる

必要な音の中に、必ず不必要なノイズが含まれます。特に機器ノイズについては、S/N比(Sound=必要な音とNoiseの比率)としてノイズの量が表され、当然少ない方が良いです。音量を上げるということは、S/NでいうところのSoundの音量が上がりますが、同時にNoiseの音量も上がることになります

以下のように、ミキシングではコンプレッサーで音を圧縮し、音量をあげていきます。すると、隠れていたノイズもどんどん大きくなります。

ノイズが大きくなってしまう仕組みのイメージ図 コンプレッサー
ノイズが大きくなってしまう仕組みのイメージ図 コンプレッサー

そして大きなノイズは一般リスナーでもその存在に気づき、音楽に不要なものと認識します。

つまり、ノイズの大きな音源は音量を大きくできないのです。録音段階よりノイズに配慮し、ノイズを排除した録音を心がける必要があります。音量を上げるためには、録音時からその準備が必要なのです。

細かな変化も大きくなる

音量をあげることで、ノイズと同様に、音の前後や音の中に含まれるニュアンスや音量変化も大きくなります。整えられた表現や音質は大きくなっても綺麗ですが、一方で雑な演奏や粗い音はその欠点も大きく聞こえてしまうことになります。

例えばマイクの違いも大きくなります。数千円の安価なマイクと数万円のマイクで録音したボーカルの違いは、ボーカルの音量が小さいうちは気にならないかもしれません。しかし音量を上げることでその品質の差は誰でも知覚できるほどになってしまうのです。

同じくボーカルの発音における声の終わり際のコントロールも、雑であればその雑さが、綺麗であればその綺麗さが大きくなります。


音を大きくすることは簡単ですが、音を大きくできる音源は限られているのです。音を大きくするためには、原点に返って録音段階で、いや、さらにさかのぼって演奏や打ち込みなど、音を出すところから見直す必要があるのです。

いい音に聞こえる裏技

最後に、ここまでの内容を踏まえていい音に聞こえる裏技をひとつお伝えしましょう。

大きな音で聞けばいい音だと感じる」訳ですから、逆説的に言えばリスナーの再生ボリュームを上げてもらえば良い音で聞いてもらえるということになります。

「大きな音で聞いてください」と書いておくのもひとつの方法ですがそんなに簡単に言うことを聞いてくれません(苦笑)。ということで、聞いている人がボリュームを上げたくなるようなミキシングをすれば良いのです。

答えは簡単。

音が小さいと思わせるのです。

例えば、イントロを少し小さい音量に、イントロ以降を標準的な音量で作ってみましょう

するとイントロの間に「音が小さい」と感じるため、イントロの間に再生ボリュームを上げる可能性が高くなります。そのまま再生し続ければ、イントロ以降は通常の再生音量よりも大きな音で聞いてくれることになります。2回目以降はわかりませんが(苦笑)、初めて聞いた時の印象というのは最後まで残り、非常に重要です。この曲は音がいいという印象を持ってくれる可能性があがります。

もちろんすべての楽曲で使える技ではありません。また、楽曲再生中に再生音量を変えさせる事自体賛否があるでしょう。

しかし、音楽で重要な要素である楽曲内での音量差=ダイナミックレンジの大切さを感じさせてくれる技であり、原理が理解できれば様々な応用が効きます。

例えば筆者の場合はサビとそれ以外で0.5〜1.0dB程度の音量差を設けることでサビをより印象的にする手法をよく使います。再生音量を変化させなくとも、音量差を感じてもらえばいい音に聞こえるのです

POPSに慣れてしまうとわからなくなりますが、クラシックやジャズの音源は曲の中で大きな音量差があります。小さいところは小さいのですが、結果大きな音量で聞く音楽ジャンルとなっており、演奏の音量が大きい部分では本当にグッと来るものです。


これらのことからも分かる通り、いい音に聞かせるために必要なことは、すごく簡単なことなのです。

ノイズなく演奏をクリアに収録し、小さなところは小さく、大きなところは大きく聞かせれば自ずとグッと来る音になるのです

高価な機材やプラグインを用いることで、この効果を高めることができます。一方で、なくてもできます。大事なのは、大きな音をいい音と感じるという事実を素直に受け止めること。そして、どの音を大きくしてどの音を小さくすることが良いかを判別するセンスを身につけることです。

技術的な知識の習得も重要ですが、感性の赴くまま直感的に制作することも重要であり、色々な音楽を良いモニター環境で体験することはさらに重要です。ミキシングに迷ったら、普段聞かないカテゴリの音楽を、良い環境で、大きな音で聞いてみましょう。新しい発見があると思います。

何が、大きく聞こえますか?