トゥルーピークとは? 初心者向けトゥルーピーク解説と設定目安 [難しさ:ふつう vol.098] ミキシング・MIXにおける歪みの知識

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デジタルレコーディングミキシングで絶対的に避けるべきことをひとつ挙げるとすれば、「意図しない歪み」です。特にマスターファイルの意図しない歪みは避ける必要があり、その管理にはピークメーターが活用されます。

ピークメーターにおいては「ピーク値」と「トゥルーピーク値」が示されており、それぞれ何を意味しているのかわからない方も多いでしょう。本記事では初心者向けにトゥルーピーク値のざっくり解説と、設定の目安をお伝えします。

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歪むとどうなる?

最初に、なぜ歪みを避けるべきなのか理解しておきましょう。

非常に単純で、歪んだデータ(音声ファイル)を作って固定してしまうと、もとの音に戻せないからです。サイン波(信号音)でみてみましょう。

もともとのサイン波(1kHz,-6dB)がこちら。綺麗な波です。音は混じりっけのない「ピー」という音です。

-6dB/1kHzのサイン波

別の視点(周波数特性)で見てみると、1kHzという高さのサイン波なので、1kHzのところだけ音が存在していることがわかります。

Waves PAZで見た1kHzサイン波

続いて、先程の1kHzサイン波意図的にレベルオーバーさせて歪ませた波形がこちら。赤枠の部分はデジタルにおける最大値を超えてしまい、もともとの形が表現できなくなってしまいました。

-6dB/1kHzのサイン波を歪ませた波形

周波数特性で見てみると、もともとの1kHzという高さの音(緑)以外にも音が存在している(赤)ことがわかります。これは歪みによって発生した「意図しない音」なのです。

Waves PAZで見た歪んだサイン波

この歪んだデータ、音量を小さくすればもとに戻るのでしょうか?

残念、全体的に小さくなるだけでもとの綺麗な「ピー」という音には戻らないのです。

-6dB/1kHzのサイン波を歪ませたあとに-6dB音量を下げた波形

意図しない歪みが発生した場合、歪みによって音が意図せず変化し、もとに戻せないということです。勝手に音が変わってしまいます、という方が理解しやすいでしょうか。とにかく「意図しない歪みは避ける」ということだけ覚えれば良いでしょう。

歪み(レベルオーバー)は、レコーディング、ミキシングにおいて様々なタイミングで発生しますが、特に避けるべきマスターファイルの歪みを管理するために使用するのがトゥルーピーク値です。

※最近話題の32bit floatを使用する場合、歪んだ後でももとの音に戻せる場合が出てきます。しかし、「32bit floatは歪まない」と安易に捉え、32bit floadとデジタル変換を正しく理解せず使用するとレベルオーバーに注意しなくなり、戻せない歪みを作り出すことになります。32bit floatはきちんと理解した上で利用しましょう。
きちんと歪みやデジタル記録を理解した上で使うべき機能だと考えているので、本記事では32bit floatは扱いません。

サンプルピークとトゥルーピーク

それではトゥルーピークの解説をしていきましょう。

トゥルーピークの概念図

ピーク値は2種類あり、一般的なデジタル信号のピーク値はサンプルピークと呼ばれます。デジタルレコーディングにおいて音声は縦横のマス目に置き換えられて記録されます(ADコンバージョン)が、デジタル化した状態で最も音量が大きい場所(サンプル)がサンプルピークです。

デジタル信号をもとにアナログ信号に変換しますが(DA変換)、この時にデジタルのサンプル値を超える位置に音声信号が生まれてしまう場合があります。デジタルの最大値=0dB未満であれば良いのですが、サンプルピークが0dB(正確には0dB FS)だった場合、アナログ信号のピークは0dBを超えてしまうことがあるのです。これが歪みになってしまいます。

アナログ変換時に歪まないようにデジタル領域で監視を行うための数値がトゥルーピーク(別名:インターサンプルピーク)です。デジタルの音声データ上にトゥルーピークは存在していませんが、「アナログ変換する時にこのくらいの音量になるよ」ということを示しています。サンプルピークはデータとして存在していますが、トゥルーピークは存在していない情報なのです。

そして、その構造上トゥルーピークの方がサンプルピークより大きな値を示します。歪んだらダメで、サンプルピーク値だけで監視すると意図せず歪むことがあるーその監視のためにトゥルーピークを使用するのです。

まとめると、マスタートラックの最終段ではトゥルーピークのみ監視すれば良いということになります。

トゥルーピーク設定の目安

非常に難しい話題なのですが、結論的には-1.0dBをひとつの基準と捉えましょう。ほとんどの場合、トゥルーピークが-1.0dB以下であれば大きな問題にはならないでしょう。

設定目安=トゥルーピーク-1.0dB以下

トゥルーピークを設定するには、トゥルーピーク値の指定ができるマキシマイザーやリミッターを活用すると便利です。筆者はWaves L1 Ultramaximizerにて、DOMAIN:TRUE PEAKに設定して管理しています。通常はサンプルピークを指定値に抑えますが、この設定ではトゥルーピーク値を指定値に押さえてくれます。

Waves L1 Ultramaximizerのトゥルーピーク設定

この「DOMAIN:TRUE PEAK」という設定は昔のL1にはなかった設定で、25周年記念エディションのL1+UltraMaximizerで追加されました。マニュアルには以下のように記載されています。

A new Domain setting, True Peak, that eliminates inter-sample clipping.

新しいDOMAIN設定は、トゥルーピーク、つまりインターサンプルピークのクリップを排除します。

Waves L1 マニュアルより転載

参考までに、Wavesのマニュアルではトゥルーピーク-0.3〜-0.5dBが推奨されています。

Even though look-ahead processing and True Peak domain settings will effectively prevent inter-sample peaks, we recommend an Output Ceiling setting of between -0.5 dBFS and -0.3 dBFS to leave some headroom for IDR processing and to prevent overshoot.

ルックアヘッド処理(データの先読み)とDOMAIN:TRUE PEAKの設定により、インターサンプルピーク(のクリップ=レベルオーバー)を効果的に防ぐことができます。IDR処理(L1搭載のディザ)のためのヘッドルームを残し、オーバーシュート(=レベルオーバー)を防ぐために、ceilingを-0.5 dBFSから-0.3 dBFSの間に設定することをお勧めします。

Waves L1 マニュアルより転載

L1 UltramaximizerはWaves GOLDバンドル以上に収録されています。

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実は、Waves L1 Ultramaximizerでトゥルーピークを-1.0dBに設定しても、メーターではトゥルーピークが-1.0dB以上になることが多々あります。

トゥルーピークメーターの示す値はメーターごとに異なるのです。これがトゥルーピーク設定に1.0dBの余裕をもたせる理由です。

以下は同じ音源に対して2種類のメーターを用いたところです。

Melda Production MLoudness Analyzerでの表示
Youlean Loudness Meter2での表示

MLoudness Analyzerでは-0.89dBとなっていますが、Youlean Loudness Meter2では-0.9dBのままです。四捨五入による誤差とも捉えられますが、色々なメーターで実測していくと、0.1〜0.3程度のずれは頻繁に発生します。理由はメーターごとの計測方法の差にあると思われます。

トゥルーピーク値の計測は多くの場合4倍オーバーサンプリングという方法で行われます。簡単に言えば、サンプルピークの間のサンプルを3つ増やして正確なピークを測定するのです。この処理においてローパスフィルターが使われるのですが、このローパスフィルターの設計・規格が統一されていないため、表示結果に差が出ます。音圧にもよりますが、最大で3〜6dBの差が出ると言われています。一方で、マスターファイルの音量設定が-6.0dBというのは現実的ではありません。

ちなみに、DAコンバーターでもアナログ変換回路でオーバーサンプリングを用いていることが多く、これがトゥルーピークが重要視される理由でもあります。DAコンバーターと同じ方法でアナログ化したらどうなる?ということです。

ということで、どこまで突き詰めても目安でしかないということを覚えておいてください。従って、ある程度のマージンが必要であり、現実的な安全マージンが-1.0dB程度ということになります。

実際のところ、トゥルーピーク-1.0dB(-1.0dB TP)で問題が出たことは今の所ありませんので、経験則としてメーターによる差も含めて-1.0dB TPは安全な値だと考えています。音圧を最大限まであげたい場合は1.0dBのマージンを削っていくことになります。他の記事でも参考値としてお伝えしているように、最大値は-0.5dB TP程度になるでしょう。

トゥルーピーク値を厳密に管理する指示がある場合は、クライアントと同じメーターを使うように事前確認すると良いでしょう。

マスターの音量設定、音圧調整については以下の記事も読んでみてください。


一方で、音圧の大きな音源を作る場合はさらなる注意が必要です。

ラウドネス値(LUFS)が-8LUFSを超えるような音圧の大きな音源では、トゥルーピーク値とサンプルピーク値の乖離が大きくなります。サンプルピークが0dBでもトゥルーピークが+6.0dB、という可能性もでてきます。また、音圧の低い音源では差が少ないのですが、音圧が大きい場合、メーターごとの差も大きくなります。

音圧を大きくするとレベル管理がものすごく難しくなります。近年はそこまで大きな音圧を必要とされなくなっていますので、本当に音圧を上げる必要があるかどうか、今一度精査すると良いでしょう

昔の音源はどうだった?

トゥルーピークによるレベル管理、実は比較的新しい管理方法です。

デジタル音源はCDとともに普及しましたが、筆者のいたスタジオでは、2000年代前後でもCDのマスター制作でトゥルーピークを使っていませんでした。90年代〜2000年代のCDを聞いてみても、トゥルーピークが0dBを超える音源は相当数あります。というか、超える音源のほうが多いくらいです。

以下は筆者のリファレンス音源なのですが、トゥルーピーク値を見てみてください。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1ZNSFya2o9uBiJ0IgWvPUo6dL2sKB2y2BSRhP-CLsOs4/edit?usp=share_link

結局のところ、トゥルーピーク値の管理で防ぐものは、「意図せず起こるかもしれない歪み」であり、超えたら確実に歪むものではないのだと思います。先程のリファレンス音源群も歪んだと感じたことはありません。昨今は過度に音圧を上げる必要がなくなりましたので、トゥルーピークにも余裕が出てきました。トゥルーピークを上げる必要(=音圧を大きく上げる必要)がないのであれば、「起こるかもしれない歪み」をトゥルーピーク管理によって防ぐことができると捉えれば良いのではないでしょうか。

トゥルーピークが0dBを超えていても大丈夫な音源もありますし、チェック環境もひとそれぞれ。他の人のレベル管理を指摘するための指標ではありません。自分の作品が意図せず歪むことを避けるため、しっかりと自分のためのトゥルーピーク管理を行っておきましょう。

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