YouTuber・配信向け 喋り収録用マイク比較 ヘッドセット vs ラージダイヤフラム [難しさ:やさしい vol.087]TLM 102 / ME 3 / MK 4
前回の記事ではYouTube等の喋り・トーク収録に関する音作りを紹介しました。
今回の記事では喋りの収録に使用するマイクについて比較してみます。前回記事ではヘッドセット(SENNHEISER ME 3)が良いとお伝えしましたが、もちろん使い方やシチュエーションで最適なマイクは異なります。いくつかのマイクで喋りを収録し、比較してみました。
動画版とあわせてお楽しみください。

目次
マイクの紹介
トークやナレーション収録では永遠の定番と呼べるマイクがあります。NEUMANN(ノイマン) U 87 Aiです。

その理由は、繊細で質感の高い高音域、密度感のある中低音、そして数多の作品で使われた信頼性と、挙げればキリがありません。ナレーション収録を行うスタジオではU 87 Aiがなければ仕事にならないといって過言ではないでしょう。
ナレーション収録の場合は、単体の音の善し悪しだけでなく他の音源とのマッチングも考慮する必要があります。
ゲームで使われる声優さんの収録では、長期間をかけて色々な場所で収録されることもあり、色々なマイクが使われると音質差が大きくなってしまいます。U 87 Aiはどのスタジオにもあるため、U 87 Aiで録音しておけば他で収録された音源とも整合性がとれます。音質だけでなく、ワークフロー上の利便性も理由のひとつだと言えるでしょう。
声優さんが自宅で収録などお仕事を長期に渡って行う場合は、黙ってU 87 Aiを買っておくのが最もお勧めではあります。購入する場合はサスペンション(マイクホルダー)付きのStudio Setがお勧めです。
とはいうものの、なかなか個人で購入するのは大変な価格。中古の自動車が買える価格ですし、個人事業で決済しやすい30万円ラインを確実に突破するマイクです。
本記事では、一般の方でも手に入れやすいマイクとして、数あるマイクの中から3つのマイクをテストしてみます。
SENNHEISER ME 3ヘッドセットマイク
1つ目は前回の記事でも紹介したSENNHEISER(ゼンハイザー) ME 3ヘッドセットマイクです。
前から撮影しつつ使用できること、マイクの距離と向きが一定であるため音質が変化しないことが利点です。口からの距離も近いため部屋の音も拾いにくく、顔や体の動きに追従しますので、マイクを気にせず喋ったり、アクションをしたりすることができます。

欠点というほどの欠点ではありませんが、小型であるためマイクユニットは小さいものになり、特性やノイズ性能の面では後述のラージダイヤフラムマイクに劣ります。
NEUMANN TLM 102 ラージダイヤフラムコンデンサーマイク
続いてはU 87 Aiと同じくNEUMANN(ノイマン)ブランドのTLM 102です。

同社のマイクの中では安価であり、最もコンパクトなラージダイヤフラムマイクです。加えて、同社マイクの中で唯一自宅収録のみにフォーカスされた製品。口から出る風によるノイズ「ポップノイズ」「吹かれ」を防止するためのウインドスクリーンを内蔵していることからも、自宅・コンシューマユーザーをターゲットとしていることがわかります。
NEUMANNのマイクとしては安価ですが、一般のコンデンサーマイクから見れば高価。しかしその価格に見合うパフォーマンスを誇り、ノイズの少なさを示す等価ノイズレベルではU 87 Aiと同等の-12dBAを誇ります。
マイクの優劣を決める大きな要因は、突き詰めるところノイズの少なさにあります。特にナレーション等の「声」は、音楽と異なり、「声」だけで聞かれることが多くなります。つまり、音楽のように無音時を隠してくれる音が無いので、無音状態でのノイズの少なさが品質に直結します。TLM 102はノイズの少なさにおいて高額のマイクと同等の性能を誇ります。
指向性切り替えや低域カットなど、機能面は他の機種に劣るものの、事実上はなくても問題ない機能ばかりなので、自宅でナレーションや声を収録する場合は最高の選択肢のひとつでしょう。
SENNHSIER MK 4 ラージダイヤフラムコンデンサーマイク
3機種目はSENNHEISER MK 4です。とてもいいマイクで価格も手頃なのですが、音が玄人好みなのであまり注目されていません。コストパフォーマンスを考えると買っても全く損のない素晴らしいマイクです。何を隠そう、我が家には3本あります。

MK 4はライジーダイヤフラムタイプのコンデンサーマイクで、ボーカルをはじめ様々な用途に使えます。ノイズ性能は特筆で、U 87 Ai / TLM 102をさらに上回る性能を誇ります。耐音圧も140dB SPLと非常に高い数値で、ドラムにも耐えられるくらいなので、大きな声で歪むこともありません。
音質は玄人好みでややこもって聞こえますが、しっかりとしたモニター環境で聴くとこもっているのではなく、全体的にバランスが良いために高域の良さが目立たないだけであることがわかります。また、録音後の編集にも十分に耐える音です。迷ったらこのマイクを買っておけば良いと思います。
比較表
ここまでに出てきた4機種を表にまとめました。
4機種のマイクはどれも性能の高いマイクなので、スペック上大きな問題となる点はありません。ME 3のみ接続対象やマイク方式が異なるためノイズ性能や感度が異なることが目立つくらいです。ME 3の数値でも実用上問題はありません。Amazon等で販売されている安価なものとは比較にならない性能を誇ります。
スペックの意味と読み方(ざっくり) | NEUMANN U 87 Ai | SENNHEISER ME 3 | NEUMANN TLM 102 | SENNHEISER MK4 | |
タイプ | 音を電気に変換する方法と構造。〜だから偉いというものではないので、比較用の情報として捉えればOK。 | ラージダイヤフラム・コンデンサーマイク/サイドアドレス | エレクトレット・コンデンサーマイク/ヘッドセット | ラージダイヤフラム・コンデンサーマイク/サイドアドレス | ラージダイヤフラム・コンデンサーマイク/サイドアドレス |
指向性 | 音を拾う方向。自宅なら単一だけでOK。 | 切り替え(単一指向性、全指向性、双指向性) | 単一指向性 | 単一指向性 | 単一指向性 |
等価ノイズレベル | ノイズの少なさ。小さい方が良い。-15dBA以下なら超優秀。 | 12dB-A(単一指向性) | 非公開 | 12dB-A | 10dB-A |
最大耐音圧 | 大きな音に耐えられるかどうか。120dB SPLが飛行機のエンジン音。140dB SPLはスネアドラム至近距離。トーク・歌なら110dB SPLでも十分。 | 117dB SPL(単一指向性) | 150dB SPL | 144dB SPL | 140dB SPL |
感度 | マイクから出る音の大きさ。1mV/Pa=-60dBで、1mV/Paの出力でもほとんどのプリアンプでは問題なし。10mV/Paくらいあると扱いやすい。 | 28mV/Pa ± 1 dB (単一指向性) | 1.6 mV/Pa | 11mV/Pa | 25 mV/Pa |
同じように見えますが、ME 3以外のマイクはラージダイヤフラム・コンデンサーマイクであり、良い音で収録するためには顔の正面に設置する必要があります。正面から外してもそこそこの音では録音できますが、正面には敵いません。顔を正面から撮影する場合はヘッドセットかラベリアマイク(ピンマイク)を使用することになります。
※正面から外した音でも許容範囲である場合は、この限りではありません
比較テスト
TLM 102とMK 4を正面において喋りを収録してみます。収録では部屋の良し悪しが大きく影響しますから、あえてスタジオ環境ではなく、自宅環境に近い状態で録音してみました。筆者のスタジオのデスク上にマイクを設置して録音しています。
※実際の音は動画を参照してください

この音は録音したままの音です。また、ME 3はヘッドセットであり、また、TLM 102 / MK 4も正面から外れた位置になりますので、同条件比較ではありません。

撮影を伴う「喋り」の収録においては、近距離かつ等距離を保てるヘッドセットマイクの利便性が非常に高いことがご理解いただけると思います。レコーディング・エンジニアが喋りを録音してくれるのと、自分で喋りを録音してくれるのは大きく異なります。常に音に気を配ってくれる人がいないのです。ゆえに、気を配らずとも最適な距離と位置を維持できるヘッドセットが非常に有利なのです。
マイクに正面から向かって収録できるナレーション録音では、TLM 102 / MK 4はお勧めのマイクです。ブランドや見た目で選んでも良いと思いますが、そういう意味ではMK 4のコストパフォーマンスは素晴らしいものがあります。マイクはお金をかければかけるだけ良くなりますから、10万円以上予算が用意できる場合はさらに上位のマイクを検討し、40万円出せるなら迷わずU 87 Aiを買うのが良いでしょう。
喋りひとつとっても、どのような喋りをどのようなシチュエーションで録音するのかによって、選択すべきマイクは大きく変わってくるということです。変わらず大きな要素となるのは、距離と向きです。距離と向きを最適化できるマイクを使用し、距離と向きを気にしつつ録音すれば自ずと良い音になります。
さらに一歩進むのであれば、反射音を減らすこと。良い音にしたい人は、部屋の反射を減らし、反射を録音しないようにリフレクションフィルターをつかってみると良いでしょう。
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