リリースカットでリズムをシャープに! ゲート・エキスパンダーの解説と使い方 [難しさ:ふつう vol.078]  キック / スネア / ミキシング

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ミキシングというと音をプラス方向に作る技が目立ちますし、もてはやされます。しかし、音をマイナス方向に扱うテクニックがあると一歩進んだミキシングをすることができます。

今回は音をマイナス方向に扱うエフェクトの筆頭であるゲート(エキスパンダー)を活用して、リリースをコントロールすることでリズムのキレを良くする技を紹介します。ゲートとは何?から、具体的なテクニックまで紹介しています。

最近はAIや倍音加算系エフェクトがもてはやされるため目立っていませんが、ゲート(エキスパンダー)はとても有用なのでぜひ覚えておきましょう。

打ち込み音源のミキシングをする場合、元の音源のリリースタイムは調整せずにミキシングすることが多いと思います。しかし、むしろリリースタイムこそ調整するべきなのです。ゲートは無料、または比較的格安で入手できるエフェクトなので、あまりお金をかけずにシャープな音を作ってみましょう。

本記事を読むと、ミキシングにおいて不要な音を排除してすっきりさせることの重要性を理解していただけると思います。

動画版はこちら

ゲートとは?

ゲートとはエフェクトの1種で、コンプレッサー同様に音量を自動的にコントロールするエフェクトです。

最初に覚えていただきたいことが、ゲートとエキスパンダーはほぼ同じエフェクトであるということです。2つのエフェクトを覚える必要はなく、ゲートを覚えればほぼエキスパンダーもOK、ということです。

さてゲートですが、読んで字の如く。ゲート=Gate、つまり「門」なのです

どんな門かというと、大きい音だけが通過できる門です。ゲートは、設定した音量以上の音だけを通過させるエフェクトなのです。

具体的な動作としては、スレッショルド(=設定音量)以下の音を強制的に小さくします。以下の画像を見て下さい。原音と、ゲートをかけた音です。リリースがカットされて短くなっていることがわかります。

スレッショルド以下はカットされている

また、ゲートにおけるアタックタイムとリリースタイムは、門の開く早さと閉まる早さです。以下の画像はゲートのアタックを遅くした画像です。上段は原音、中段はアタックタイム10μs(マイクロ秒)、下段はアタックタイム5msです。音の立ち上がり部分が門を通過できていなかったことがわかります。

以下はリリースを長くした時の波形です。中段のリリースタイム200msの設定と比べると、余韻が長く残っているのがわかります。門がゆっくり閉まるので、音が残るのです。

エキスパンダーは、音をカットする時にどのくらいカットするかをレシオというパラメーターで調整できます。エキスパンダーで∞:1の場合はゲートと同じ動作になり、1:1に近づくほど音をカットしなくなります。エキスパンダーにおける低レシオ化と、ゲートの長リリースタイム化は似たような結果になります。

ゲート・エキスパンダーの動作をまとめると、動作としては、スレッショルド以下の音を小さくすることで全体の音量差=ダイナミックレンジを拡げる動作です。拡げる=Expandなので、エキスパンダーなのです。スレッショルド以上の音を小さくするのがコンプレッサー。スレッショルド以下の音を小さくするのがゲート(エキスパンダー)です。

コンプレッサーについては以下の記事も読んでみて下さい。

ボーカルの音量調整 わかりやすいコンプレッサーの説明
コンプのアタックタイムについて考える 音の立ち上がりはどうなっている?
コンプのリリースタイム、どうする? 仕組み・動作と設定方法の目安

ゲートでバスドラムのリリースを短くする

本記事(動画)で使用している音源は、以下よりご購入いただけます。ご購入費用は運営費用に充てさせていただきます。
https://soundworksk.thebase.in/items/67152938

実際にバスドラムに対してゲートを使ってみましょう。

バスドラムの音をよく聞いてみると、意外と長い余韻を持っていることがわかります。この余韻を短くしてみましょう!

もちろん波形編集でひとつひとつやっても良いのですが、ゲートを使えば一括で対応できます。


ゲートはメーカーによって色々ですが、最もシンプルで理解しやすいWavesのC1-Gateを使用しています。C1-GateはC1-Compressorの中に含まれています。

C1-CompressorはWaves Platinumバンドル等にも収録されています。

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対象の音を再生しながらスレッショルドを上げていきましょう

スレッショルドは「門」の位置です。したがって、一番上=最大まで上げるとどんなに大きな音でも門を通過できなくなるため、何も音がしなくなります。

課題音源では、バスドラムのアタック音だけが聞こえるくらいの位置にしてみましょう。多少ブチブチした音になりますが、まずは気にせずスレッショルドを設定します。

続いてはアタックタイムとリリースタイムを調整して、音を自然にしていきます。

アタックタイムを長くすると音は自然になりますが、アタック音が門を通過できなくなるため、音のアタック音がなくなってしまいます。可能な限り短いアタックタイムに設定するのがコツです。リリースタイムも同様に、長すぎると余韻をカットできないので、可能な限り短いリリースタイムに設定しましょう。

アタックタイムとリリースタイムを調整しつつ少しだけスレッショルドを上下させると、音が自然なセッティングを見つけられることがあります。複合的に調整しましょう。

他のパラメーターもありますが、これで基本設定は完了です。他の音と混ぜて聞いてみましょう。音量バランスもあわせて調整して下さい。

リリースが短くなったことで音がタイトになり、リズムにキレが出てきたことがおわかりいただけるでしょうか。

下手に倍音を足したりプラグインで弄り回さずとも、音をタイトに、リズムをタイトにすることはできるのです。余韻のコントロールが重要であることがおわかりいただけるでしょう。

他のトラックにも適応させる

この方法はリズム系のトラックならどの音でも有効です。スネアはもちろん、ハイハットやシェイカーなど、音の波形が鋭く短いパーカッシブな音に有効です。リズム楽器以外では、スラップベースやカッティングギターでも有効です。

コピー・ペーストで複製し、スレッショルド・アタックタイム・リリースタイムを調整して楽器に適応させましょう。

以下の画像では、バスドラムのゲートをスネア、クラップ(手拍子)、ハイハットにペーストしました。

以下はそれぞれの設定です。少しづつ異なっているのがわかると思います。特にアタックタイムの設定に注目して下さい。クラップやハイハットなど、高音主体の楽器の場合は、かなり短いアタックタイムに設定しています。高音域の場合は音の波が細かいため音がノイズになりにくく、短い設定が可能です。逆にバスドラム等の低域が多い楽器はブチブチとした音になりやすいので、慎重な設定が求められます。

リリースカットの効能

ゲートを使ってリリースをカットすることで、リズムのキレがよくなることは体験していただけたと思います。

しかし、リリースをコントロールしたことの効能は、リズムの聞こえ具合にとどまりません。

リバーブの効き具合が変わる

特にスネアについては、リリースが短くタイトになることでリバーブの音が変わります

リバーブは原音のシャープさ、クリアさでリバーブの音が大きく変わります。スネアに対して「ターン!」と気持ちよく響くリバーブをつけたい場合は、リバーブを調整するよりもスネア本体のリバーブと音質を調整する方が早いのです。

スネアやハイハットにリバーブをかけてリバーブセンドをON/OFFしてみて下さい。

リバーブが気持ちよく響くようになる

サイドチェインの効き具合が変わる

コンプレッサーのサイドチェイン動作も、原音(サイドチェインのキー入力)の音質でコンプレッサーの動作が変わります。バスドラムやスネアをサイドチェインのキー入力としている場合は、原音のバスドラムやスネアのリリースが短くタイトになることで、サイドチェインコンプレッサーの動作がシャープになります。結果、さらにリズムにキレが出てきます。

キー入力としているバスドラムのゲートをON/OFFして、サイドチェイン先のトラックの聞こえ方がどう変わるか聞いてみましょう。

サイドチェインの説明はこちらの記事からどうぞ。

サイドチェインって何?ベースとドラムの共存を実現するコンプの使い方
埋もれないボーカルの作り方 サイドチェインxダイナミックEQ

ゲート使用の注意点

アタック音の損失に注意する

先述の通り、アタックタイムの設定が長くなるとアタック音が失われます

また、アタックタイムを0msに設定できるゲートはほぼ有りません。したがって、ゲートを使うと音の立ち上がりを(極小ではありますが)失うことになります。音を聞いてみて、アタック音が失われない長さと音がブチブチしない長さを両立できない場合は、他の手段を考えましょう

トランジェントシェイパーを使うと、自然な音のままリリースを短くすることが可能です。ただし、ゲートほどタイトな効果は得られないことが多いです。


Cubase純正のトランジェントシェイパー「EnvelopeShaper」

Wavesのトランジェントシェイパー、「Smack Attack」。コンプやゲートで音が作り込めない時に使います。お勧めです。


リリースのカットしすぎに注意する

リリースのコントロールは効果絶大ですが、元の音と大きく変わっているということでもあります。アレンジャーさんによっては音の変化が多すぎて嫌われることがあります。アレンジャーさんとの関係性や、頼まれ方にもよるので、アグレッシブな使い方をする場合は配慮の上使いましょう

該当の音がどういう意図で選ばれたのか、該当の楽曲においてカット対象のリリース音が必要なのか、など、音楽的なセンスが大きく関わってきます。カットしすぎに注意しましょう。カットすれば良い、というものではありません。合う場合と、合わない場合があります。

音量の変化に注意する

ゲートは、入力音量が一定の場合は同じ動作をしますが、入力音量が変化する場合は動作に注意が必要です

特にアタックタイムとリリースタイムの設定がアグレッシブな場合、入力音量とスレッショルドの関係が崩れると動作が大きく変わり、音がブチブチすることになります。「ゲートがちゃんと動作している」と思っていると見逃すことがあるので、入力音量が変化する音源に使用する場合は注意しましょう。

音量が一定の音源には有効な手法

さて、ゲートを使ってリリースをコントロールすることでリズムのキレがよくなるという技でしたが、いかがだったでしょうか。

ゲートの動作と使い方を理解することはもちろん重要ですが、本記事の内容で最も重要なのは、音の余韻を調整することで、また、適切に音の隙間があることでリズムがよくなるという現象を体験し理解することです。リズムの良さというのは、音量の大小、そして音のカーブが密接に関わっているのです。

それらのコントロール方法としてゲートひとつの有効な手段である、というのが本記事の本質なのです。仕組みがわかれば、ゲート以外の方法でも同じようにリズムを良くする方法を思いつくことができるでしょう。ソフト音源から出てきた音をそのまま混ぜていても限界はありますから、音質だけでなく、音の大小の変化=エンベロープを調整するという手法に着目してミキシングしてみてください。


最後に余談ですが、一番愛用しているゲート・エキスパンダーは、、、ProTools純正のAvid Dynamics3 Expander/Gateです。標準プラグインですが優秀で、最も自然なゲートエフェクトを作れます。このプラグインでレシオを緩めて強めのエキスパンダーとして使うことが多いです。

また、アタックタイムを10μ秒に設定できるのも特徴。知っている限り最も短いアタックタイム設定で、パーカッション等にはこのプラグインでないと厳しいと感じることも多いです。Dynamics3 Expander/Gateに続いて、Waves C1という位置づけです。