コンプのアタックタイムについて考える 音の立ち上がりはどうなっている? [難しさ:ふつう vol.076] コンプ/ 使い方 / 設定

MIX(ミキシング)においては様々なエフェクト(プラグイン)を使いこなす必要があります。その中でも特に難解でありながら、使用頻度が高いエフェクトがコンプレッサーでしょう。様々なパラメーターがあり、どれも難解です。

今回の記事は、コンプのパラメーターの中でも特に難解なパラメーターであるアタックタイム適切に設定できるようになることを目的に、アタックタイムの意味と動作、そして色々な音のアタックタイムについて考えてみます。

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アタックタイムとは?

まずはアタックタイムとは何なのか、整理しておきましょう。

コンプレッサーとは、(簡単に説明すると)ある設定値よりも大きい音が来た時に自動的に音量を下げる(=圧縮する)エフェクターです。[ある設定値]は[スレッショルド(Threshold)]、[どのくらい下げるか]が[レシオ(Ratio)]というパラメーターです。下の図では、赤い線がスレッショルド。低い値にすれば小さい音に対しても反応するようになっていきます。

ピンクの線の形を決めるのがレシオです。青→ピンクでどのくらい形が変わるのかはレシオで決定され、あまり変わらない=圧縮しない=小レシオ設定から、大きく形が変わる=大きく圧縮する=大レシオ設定まで、状況にあわせて設定します。

入力された音に反応するだけであればスレッショルド・レシオの2つで十分動作できるのですが、コンプレッサー自体の反応速度を可変することができ、これらを決めるパラメーターが[アタックタイム(Attack Time)]と[リリースタイム(Release Time)]です。この2つのパラメーターだけ「Time」という単語が含まれるのは、反応速度を決めるパラメーターであるためです。

ルネサンス・コンプレッサーのアタックタイムとリリースタイム

この記事はアタックタイムの記事なので、アタックタイムだけに焦点を当てましょう。

まずはアタックタイム=0を理解しましょう

アタックタイム=0(0ms, ms=ミリ秒)とは、入力される音が設定値(スレッショルド)を超えたら遅滞なく圧縮するということです。アタックタイムが0msであれば、スレッショルドを超えた音が予定された音量まで圧縮されるまでの時間が0msということです。

簡単に言うと、コンプレッサーの寝起きが良いということです。

下の画像は3種類の設定でサイン波という信号にコンプレッサーをかけたところです。上から原音(サイン波)、10μs(マイクロ秒)、16ms、30msという設定です。アタックタイムが長くなるにつれて音量が大きい部分が長くなるのがわかります

音量が大きい部分は、つまりコンプレッサーの動作が間に合わなかった部分です。アタックタイムで設定した時間をかけて予定のところまで到達しますから、上記の画像では赤い枠の大きさがアタックタイムということになります。長くすれば長くするほど、圧縮されないで通過する音が多くなるということです。

これがアタックタイム。コンプレッサーの寝起きの良さを調整するパラメーターなのです。

ただし、画像を見て分かる通り、アタックタイムの分だけ遅れて動作するのではありません。動作は始めるのですが、そのスピードが変わります。つまり、0msだったとしてもごくわずかですが音量は変化することになります。時間通りには起きるのですが、支度が遅いという方が正しいかもしれません。


さて、アタックタイムを理解するとひとつの事実に気が付きます。

音を圧縮する目的で使用する場合は、アタックタイムを短くしないと意味がないのです。

アタックタイムの活用法

では続いて、アタックタイムをどのように活用するか考えてみましょう。

筆者の考えによると、コンプレッサーを使う目的は大きく分けて3種類あります。

  1. 音量を自動的に調整する(大きい音を自動で抑え込む)
  2. 音の輪郭(トランジェント)をコントロールして前後感を作る
  3. 音色をいい感じに変化させる

事実上、3の目的で使われることが多く、次いで2です。コンプレッサーは1が目的と思わせて、実際は音量を抑え込めていない方が多いのです。さらには使いこなせるようになると、これら3つのコンボ技であるリズムの調整ができるようになります。

アタックタイムというパラメーターが有効に作用するのは、主に1と2の用途。コンプが寝坊して音の立ち上がり部分が通過すれば、立ち上がりが目立つことになります。逆に全く音の立ち上がり部分が通過しなければ、音の輪郭と音量が抑え込まれ、目立たない音になります。

以下の画像は、スネアドラムの音に、先程同様アタックタイムを変えてコンプレッサーをかけた波形です。上から原音、10μs(マイクロ秒)、16ms、30msという設定。原音トラックの反転部の長さが30msです。

音の立ち上がり部分の波形が特徴的で、この部分がトランジェントアタック音と呼ばれる部分です。輪郭が出るかどうかは立ち上がり部分の音が出ているかに依存します。

下2つのアタックタイムが16ms、30msの設定では立ち上がり部分が見事通過しているのがわかります。コンプレッサーをかけているのに通過しています。

2段目のアタックタイム10μs設定では、音の立ち上がり部分も見事に圧縮されています。

このように、アタックタイムの設定によって音の立ち上がりをコントロールできるのです。言い換えれば、音の立ち上がりを通過させるか、通過させないかをアタックタイムで調整できるのです。

実際のところは立ち上がりの早い音に対して遅いアタックタイムは意味をなさない、ということを覚えておけば良いでしょう。上記スネアに対して30msのアタックタイムを設定した場合は、立ち上がりの音が抑え込めないどころか、コンプレッサーが動作する頃には音が終わっているのです。

つまり、音の長さや構造を知っていることが、アタックタイムを適切に設定するために必要なのです。

何ミリ秒で音が最大になる?音の構造を見てみよう

ということで、色々な音の波形を見ながら、何ミリ秒で音が最大になるのか、構造を勉強してみましょう。

まずは先程のスネアドラムを改めて見てみましょう。

このスネアドラムの波形(音)の長さは、全部で309msです。緑の線が0dB(MAX)で、黄色い線が-6dBです。音が大きい部分は最初に集中していることがわかります。

では-6dBより大きい部分がどのくらいの長さになるのか測ってみましょう。どのくらいになるか想像できますか?

なんと10msしかありません。スネアの音全体で309msありますが、音が-6dB以上になる部分は全体の3.2%しか無いのです。ちなみに0dBから-6dBというのは音量が半分ということを意味しますから、96.8%の部分は音量がピークの半分以下なのです。

さらに、-3dB以上になる部分を選択してみるとどうなるでしょうか。

なんとその長さは7msしかないのです。

どういう意味かというと、スネアにおいては7ms経過した時点ですでに減衰を始めているのです。アタックタイムが7ms以上であった場合、圧縮量が予定通りになる頃には音の要は終わっているのです。音を抑え込みたい場合は、長いタックタイムでは意味が無い(=抑え込めていない)ことがわかるでしょう。

続いてボーカルを見てみましょう。以下は「ち」という声(ボーカル)の波形です。

この波形の長さは185msあります。「ち」というのはた行の子音と「い」でできていますから、上記の前半細かい部分が子音で、後半の波が大きい部分が「い」という構造です。では子音の部分はどのくらいの長さになるでしょうか。

上記の選択部分(子音)は54msの長さがあります。思ったよりも長いですよね。

さらに細かく、音が大きくなりはじめてからピークを通過し、減衰しはじめるまでの区間ではどうなるでしょうか。

これは23msありました。

スネアに比べると長いのですが、23msという数値はアタックタイムにおいてはさほど長い数値ではありません。スレッショルド-6dB、アタックタイム20msという設定にした場合、どういう動作をするか想像してみてください。長いアタックタイムでは音量を抑え込むことはできないのです。

「ち」ではない音を見てみましょう。こちらは「る」です。

この「る」の波形の長さは482msありました。同じように-6dBを超える部分を選択してみましょう。

これは67msの長さがありました。

画像の「る」というボーカル音であれば、20msのアタックタイムは意味がありそうです。しかし実際のところ、「る」だけの歌というのはありませんから(笑)、全体に同じように適応するのは難しいということがわかります。コンプレッサーで確実に音量を抑え込みたいのであれば、かなり短いアタックタイムが必要であることがわかるでしょう。

続いてはオルガンの波形です。

オルガンは「持続系」の楽器で、長時間同じ音量で続く楽器です。コードチェンジなどのタイミングで大音量の部分が来ますが、基本的には同じくらいの音量が続きます。

スレッショルドについて考えてみると、上記オルガンの場合、-6dBで設定してすべての音を押さえ込めば、大音量の部分も含めて同じくらいの音量に抑え込めそうだ、という想像ができます。

音を聞きながらオルガンのアタック音の部分を選択してみると、かなり短いことがわかります。

この部分の長さをわずかに14msです。

ここまでの例を踏まえても、コンプレッサーでアタック音を抑え込もうとすると、かなり短いアタックタイムを設定する必要があることがわかってきます。確実に圧縮させるのであれば5ms以下ということになるでしょう。打楽器であればさらに短くないと、コンプレッサーが起きた時には音が終わってしまいます。

最後にアコースティックギターのストロークです。

これも立ち上がりの早い楽器ですね。音が始まってからピークに達するまで、一瞬です。

音がピークに達するまではわずか9msでした。

このアタック音を抑えようとしたら、アタックタイムの設定はどうなるでしょうか?

少なくとも9ms以下に設定する必要があることがわかります。逆に、アタック音を通過させて目立つ音にしたい場合は、9ms以上であればアタック音が通過するということになりますね。


もちろん楽器やテンポ、演奏法が変わればすべて変わりますので、絶対的な情報ではありません。しかしどの音にも共通して言えるのは、コンプレッサーで音量をきっちりコントロールしたいのであれば、相当に短いアタックタイムが必要だということです。コンプレッサーを音量調整目的で使う場合は、アタックタイムに自由度は無いのです。

逆に、音量調整以外の立ち上がりコントロールや音色変化を狙ってコンプレッサーを使う場合は、対象の音の立ち上がりを潰さず、かつ、音が終わる前にコンプレッサーが動作するように設定する必要があります。長すぎても短すぎても駄目。適切な設定をするためには音を知っている必要があるということです。

アタックタイムのひとつの目安は、対象の音の平均的な立ち上がり時間ということになるでしょう。

したがって、ボーカルのように立ち上がり時間に大きなバラつきがある音の場合はすべての音に対応したアタックタイム設定は事実上不可能です。アタックを潰すか、潰さないかの二択だと考えて差し支えないでしょう。

最後になりますが、コンプレッサーをかけたらどうなるのかが正確にイメージできるようになると、無駄な音作りがなくなってプロっぽい音になってくると思います。ミキシング、特にコンプレッサーを扱う上では、音を波形でイメージする能力が必要なのです。色々な音の波形を見て、拡大して、長さを計測したり、形状を研究したりしてみましょう。

音を聞いて、波形が浮かぶようになればOKです。ミキシングが楽しくなりますよ!

コンプを買うならどれがいい?

筆者オススメのコンプレッサーです。

ハードウェアで1台買うなら、やっぱり1176ではないかなと思います。慣れれば誰でも使いやすく、効果もわかりやすいです。色々な1176がありますが(苦笑)、メンテナンスや状態を考慮すると、エンジニアではない人が買うならUniversal Audioのものが良いと思います。

最近では廉価版も。もちろん価格相応なのですが、それっぽい音はするので、普通に使う分には十分有用です。

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プラグイン版も様々なメーカーが出していますが、使いやすいのはWavesのCLA-76。DRY/WET調整はハードウェアには無い機能です。

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プラグインではOxford Dynamics。少々難しい類には入りますが、昔から手放せないコンプレッサーです。

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