マイクプリって何?マイクプリって必要?[vol.049 難しさ:やさしい]〜マイクプリの役割やスペック解説 EINとは?〜
レコーディングやミキシングに少し詳しくなってくるとよく聞く機器名「マイクプリ」。
「すごそうな人やMIX師さんはたくさん買っていて、プロミュージシャンの家の写真にもたくさん写っているけど、買わないといけないの?」
そんな疑問を持っている初心者の方も多いと思います。今回の記事ではマイクプリとは何をするための機器なのか、必要なのか、初心者さんの視点で解説してみたいと思います。
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目次
マイクプリとは
一言でいうと、「マイクの音量を大きくするための機器」です。マイクプリは正確にはマイクプリアンプ:Microphone Pre-Amplifierと書きます。別名ではヘッドアンプ(HA:Head Amplifire)と呼ばれることもあります。
Preとは〜の前、Amplifierは増幅器ですから、何かの前でMicrophoneの音量を大きくする機器なのです。
ではどの機械の前なのでしょうか。
正確にはわかりませんが、「すべての音響機器の前」と考えることができ、つまりは「マイクを他の機器に接続するための機器」ということになるでしょう。
色々なタイプがあり、プロが多用するラックマウントタイプ(専用ケースにネジで留められる)、500シリーズと呼ばれる専用ボックスに組み込むタイプ、据え置きタイプなどがあります。
▼筆者も愛用するNEUMANN V 402 ラックマウントタイプのマイクプリアンプ
▼500シリーズのマイクプリアンプの例 RUPERT NEVE DESIGNS Portico 511
▼据え置きタイプ Focusrite ISA ONE
なぜ大きくするのか
ではそもそも、なぜ音を大きくする必要があるのでしょうか?
理由は、音響機器の標準的な音量に対して、マイクの音(信号)が非常に小さいのです。
音響機器の標準的な音量(信号レベル)は「ラインレベル」と呼ばれます。また、ラインレベルも大きく分けてプロ用とコンシューマ(一般オーディオ)用の2種類があります。ラインレベルは音響機器における共通言語のようなもので、様々なメーカーが発売する音響機器同士を接続して正常に良い音で音をやり取りできるのは共通言語で話をしているからです。(厳密にはインピーダンスと呼ばれる要素も関係しますが、ここでは割愛します)

ラインレベルという共通言語に対しマイクが出力できる音量(信号レベル)は非常に小さいので、まともな会話にならないのです。
マイクの微弱な信号をラインレベルまで引き上げ、会話できるようにするための機器がマイクプリなのです。
どうやって大きくしているのか
アナログ機器において音を大きくする場合は、入力された音を電気の力を使って引き伸ばしていると思えば良いでしょう。入力された音が材料Aだとすると、電気(電源)が材料Bです。これらを掛け合わせることで音が大きくなった出力Cを作ります。音響機器で電源が重要視されるのは電源が音の材料でもあるためです。良い電源ケーブルに換える、電源のノイズをへらすなどの対策で音質は向上します。
実はマイクプリを持っている?
マイクを他の機器に接続するために必要なのがマイクプリ。しかしマイクプリを買ったことが無いのに、マイクを接続して録音できているという方が多くいらっしゃると思います。
実は録音をしたことがある人は、すでにマイクプリを持っているのです。
どういうことかというと、オーディオインターフェースなど他の機器にマイクプリが内蔵されているのです。マイクを接続することができ、「マイク音量」を調節できる場合は、マイクプリ内蔵です。これについては別の回で説明しています。

持っているのであれば、必要ない?
はい、その通りです。(必要ないは語弊がありますが)
正確には、マイクプリが内蔵されたオーディオインターフェースを持っているのであれば、別途マイクプリを購入しなくても録音を行うことができます。
ではなぜマイクプリが単体で販売されていて、プロはマイクプリをわざわざ購入するのでしょうか。答えはズバリ性能と効果を求めての導入です。高額のマイクプリではどのような点が優れているのか、マイクプリで重要視すべき性能は何なのか説明していきます。
マイクプリで重要な性能
その1 ノイズが少ないこと
録音された信号はミキシングの過程で様々な加工をされますが、ほとんどは音量を変化させる加工です。ボーカルならコンプレッサー等を用いて全体的な音量がひきあげられ、他の楽器と混ざった後にマスタートラックでさらに大きな音に加工されます。
音を大きくする時にボーカルの音と一緒にノイズの音量も大きくなります。
つまり、マイクプリ自体が発生するノイズもミキシングで大きくされるということ。おわかりだと思いますが、ノイズが少ないマイクプリが優秀ということです。
ノイズの少ない機器はその性能を誇示するためにノイズの少なさを示す数値が開示されていることが多いです。ノイズの少なさは「S/N比(Sound / Noise比」や「EIN(入力換算雑音)」というスペックで表されます。
以下は低価格帯のオーディオインターフェースのスペックです。EINは数値が少ない方がノイズが少ないことを示し、単位はdB(デシベル)です。S/N比は数値が大きい方がノイズが少ない(音に対してノイズが少ない=ノイズが目立たない)ことを示し、こちらも単位はdBです。同じように見えて少々違うスペックなので単純比較はできません。また、計測方法で若干良い数値を見せることは可能なので、「表記されていればノイズの少なさには自信がる」程度に考えるべきでしょう。ノイズの少なさに自信がなければ成績の悪いスペックをわざわざ表記しないと思います。
- A社:EIN -128dB以下
- B社:入力換算ノイズ -128dBu(A特性)
- C社:S/N比 95dB
高額のマイクプリを見てみると、意外と上記オーディオインターフェースと大差ない数値であることも多いです。
- D社:Microphone inputs: EIN @ 60 dB Gain / 50 Ohm 1 -129,4 dBu(A)
- E社:EQUIVALENT INPUT NOISE (EIN) -128 dBV, -126 dBu
- F社:Noise EIN (Mic) -126dB (measured at 60dB of gain with 150O termination and 20Hz/22kHz bandpass filter)
各社計測方法もまちまちなので単純比較はできないことがわかります。ひとつわかることは、EIN -126dB以上あればかなり優秀であり、ノイズの少ない音響機器であるということです。
話が難しくなってしまいましたが、ひとつだけ覚えていただくとしたら、ノイズが少ない機器が優秀であるということを覚えておいてください。録音においてノイズが少ないということはものすごく重要なのです。
ちなみに、ものすごく低価格のマイクやオーディオインターフェースの多くは、ぱっと聞いた時の音の印象は良いかもしれませんが、ノイズが多いです。名だたるメーカーの機器は低価格でもノイズが少ないです。音だけ聞くと同じでもノイズの量が違うということがあるのです。
その2 大きな音が入力できること
録音する楽器の音の大きさというのは色々です。音の大きい楽器の代表格はドラム。生ドラムと生ボーカルが一緒に演奏してもボーカルが全く聞こえないのは想像できるでしょう。マイクプリはどの程度の音量まで正常に受け取ることができるかが決まっており、これは最大入力レベルと呼ばれます。各社の数値を見てみましょう。
- A社:+6dBu
- B社:+9dBu
- C社:+10dBu
- D社:+28dBu(PAD ON)
- E社:+26dBu
- F社:+18 dBu (2k input impedance and 15 dB Pad in)
かなりばらつきがあることがわかります。簡単に言うと、数字が大きい方が大きな音を受け取ることができます。A〜Cは低価格のオーディオインターフェース、D〜Fは高額マイクプリアンプです。最大入力レベルに関しては高額マイクプリが優位であることがわかります。
もちろん機種によって大きく異なりますので、高額マイクプリでも最大入力レベルが小さい設定の機器もあります。マイクプリで重視される性能のひとつに最大入力レベルというものがあると覚えておくくらいで良いでしょう。どのくらいの大音量を受けられるかという点については、マイクプリ側だけでは決められず、当然マイクとのコンビネーションで決定されるものです。マイクにも耐音圧レベルというスペックが存在します。
つまみを最小にしても音が大きすぎて歪んでしまう場合、マイクを音源から遠ざけて音量を下げるしかなくなります。つまり、最大入力レベルが大きいほうが録音対象や録音方法を選ばないということになります。
その2 音の色付け
読んでお気づきになった方も多いと思いますが、低価格のオーディオインターフェースと高額のマイクプリでノイズの少なさを示す数値に遜色がないのです。つまり、ノイズの少なさが同じなのに高額のマイクプリを買う理由は何なのか?ということです。
答えは「音の色付け」なのです。
これは数値で示されるものではなく、感覚的なものです。とあるマイクプリを使うと、使わない時と比較して音がいい感じになるのです。そんな曖昧なことに?と思うかもしれませんが、世界の音楽を著名なマイクプリが彩ってきたことも事実で、数値で示すことができないからこそ高い値段になっているとも言えます。フェラーリがなぜ高いのかといえば、もちろんパーツや開発費も高いのですが、フェラーリだから高いのです。
最近の音響機器はノイズは少ないですし、そもそもビンテージ機器に至ってはかなりノイズが大きいものもあります。
つまり事実上マイクプリを導入する理由は「音に自分好みの色をつけるため」と考えて差し支えないでしょう。
マイクプリは出会いが必要です
高額な機器ですから音も聞かずに買うのは難しいでしょう。
他の人に借りる、使っている場所に同席するなど、良いマイクプリの音を体験する機会を作りましょう。買うのはそれからで大丈夫です。最初は何を買っていいかすらわからないと思いますので、知識や経験が深まるまではオーディオインターフェースに付属のマイクプリで十分。マイクプリとの出会いがあってからで遅くはありません。筆者も衝撃的な出会いを経たマイクプリだけ購入しています。
音を聞かせてもらえる機会があれば、積極的に聞かせてもらいましょう。

ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。
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