プラグインの設定見せます!〜ミキシング徹底解剖・ドラムトラック編〜 題材曲:大正浪漫/YOASOBI by Pistaさん
前回の記事に引き続き、どのようなエフェクトをどのような設定で使っているかを徹底解剖していきます。題材曲はPistaさんのアレンジカバー歌ってみた作品です。
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前回の記事はこちら!
今回の内容に同期した動画もあります。
![](https://soundworksk.net/wp-content/uploads/2021/11/35875ae1d7b4d5864642b656224650ab-1024x578.jpg)
- ミキシング徹底解剖・マスタートラック編〜 題材曲:大正浪漫/YOASOBI by Pistaさん
- ミキシング徹底解剖・ドラムトラック編〜 題材曲:大正浪漫/YOASOBI by Pistaさん
- ミキシング徹底解剖・ベース・ピアノ・パーカッション・アコーディオン編〜 題材曲:大正浪漫/YOASOBI by Pistaさん
- ミキシング徹底解剖・ストリングス・トランペット・シンセサイザー編〜 題材曲:大正浪漫/YOASOBI by Pistaさん
ドラムトラックの構成
ドラムの音は以下のトラックで構成されています。
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- BD in:バスドラムの中に設置したマイク
- BD out:バスドラムの外に設置したマイク
- SN top:スネア上側のマイク
- SN btm:スネア下側(スナッピー)のマイク
- HH:ハイハット
- FT:フロアタム
- LT:ロータム
- HT:ハイタム
- OH:オーバーヘッド=ドラマー頭上に設置したステレオのマイク
上記の計9トラック(8モノラル+1ステレオ)が「Dr MIX」というグループトラック(=上記写真の赤枠)に送られています。「Dr MIX」グループトラックではドラムの音をまとめてコントロールすることができます。
グループトラックはDAWソフトウェアによって呼び方が異なりますが、ProToolsではBUS(バス)と呼ばれています。このグループトラックを使いこなすことでミキシングの速度、仕上がりが向上しますので、ぜひ使ってみてください。
ドラムトラックにかかっているリバーブ
ドラムトラックには以下2種類のリバーブが用意されています。
Avid Space
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ProTools標準のサンプリングリバーブです。ドラムに自然な響きを付加するために使っています。他の楽器と共用しているリバーブです。サンプリングリバーブは実在する響きを呼び出すことができますが、この曲ではモスクワのホールの響きを使用しています。
https://www.avid.com/ja/plugins/space
リバーブ後段にはイコライザー(Waves F6-RTA)が挿入されています。
Waves True Verb
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スネアの響きをコントロールするために作ったリバーブです。このリバーブの長さや音質を調整することでスネアの音質をコントロールしています。
TrueVerbの後段にはイコライザー(Waves F6-RTA)が挿入されています。
グループトラックの音作り
ドラムの音をまとめたグループトラック「Dr MIX」バスに使われているプラグインを解説していきます。
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T-Racks Precision Compressor
極端に強いセッティングではなく、ドラムのピーク(=バスドラムやスネア)にあわせてコンプレッションされることで音の一体感を出すセッティングです。どの程度コンプレッションされているかを示すゲインリダクション(下画像の赤枠)は1〜4dB程度の表示です。また、Neve 33609コンプのモデリングであるプラグインを使うことで、全体の音の質感を変化させています。
レシオは2:1程度と弱め、RECOVERY(リリース)は最速というセッティングです。
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T-Racks White Channel
T-Racks White Channelはイコライザーとして使用。コンプレッサーセクションはOFFにして使っています。イコライザーはシェルビングまたは広いQで使用しており、アグレッシブな音作りではなく、全体の周波数特性のゆるやかな変化を狙ったものです。
- Low:230Hz, +2.0dB →低域をふくよかに
- Low Mid:300Hz, Q=0.2, +1.0dB →低域をふくよかに
- Hi Mid:5kHZ, Q=0.2, -2.0dB →おとなしい音に
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Waves Eddie Kramer Drums
ドラムグループトラックの締めはWavesのEK Drums。ドラム専用に作られたチャンネル・ストリップで、コンプレッサー、イコライザーがワンパッケージになっています。音もかなり変化します。どちらかというと派手に効くタイプのプラグインです。ドラム全体の音作りといしてはワイルドな方向に集約させつつ、ボーカルを邪魔しないようにしています。
- Preset:ROOM
- COMPRESS:Min(コンプレッサー効果最小)→T-racks Precision Compがいるので、コンプレッションはしないように設定
- TREBLE:-3(最小) →全体的にドラムの音がボーカルの邪魔をしていたので前後位置を後ろにするためにカット
- BASS:-1
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EK DrumsはEddie Kramerバンドルに収録されています。
バスドラムの音作り
バスドラムのトラックは「BD in」と「BD out」の2つのトラックがあり、それぞれ役割分担し、合成音で音が完成するようなイメージで音を作っています。
BD in
BD inマイクは主にバスドラムのアタック感、生楽器っぽい胴鳴りを担当するトラックです。
- Waves F6-RTA
- Avid Expander/Gate
- Avid Fairchild Model660
- Waves Smack Attack
BD out
BD outマイクは主にバスドラムの低域、上下の高さをコントロールするトラックです。
- Avid Expander/Gate
- Avid Fairchild Model660
- Avid Pro Subharmonic
- Waves F6-RTA
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BD in:Waves F6-RTA
イコライザーで不要な低域をカットしています。生ドラムは色々な音が含まれているので、不要な帯域は積極的にカットします。
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BD in:Avid Expander/Gate
なんの変哲もない、Avid純正(ProTools付属)のエキスパンダー/ゲートエフェクトです。ゲートではなくエキスパンダーとして使用し、バスドラムの余韻の長さをコントロールしています。余韻を短くすることで曲のリズムをタイトにしています。
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BD in:Avid Fairchild Model 660
かの有名なビンテージコンプレッサーFairchile 660のモデリングプラグイン。音の質感をファットにするために使っています。ドラムとは相性がよい(と思う)ので、比較的高い頻度でドラムに使っています。
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BD in:Waves Smack Attack
トランジェントシェイパー。トランジェントを出す方に使うことが多いエフェクトですが、逆側に使っています。ドラム以外の音と混ぜた場合に、アタック(トランジェント)が強すぎてボーカルを邪魔してしまったので、ドラムの位置を奥に引っ込めるためにアタックをマイナス側に設定して使用しています。
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BD out:Avid Expander/Gate
BD inトラックと同じ目的です。
BD out:Avid Fairchild Model 660
BD inトラックと同じ目的です。同じ楽器のグループ内では、色々なプラグインを使うよりもある程度同じプラグインを使う方が音に方向性が出てまとまりやすくなります。
BD out:Avid ProSubharmonic
バスドラムの低音が不足していたために音が高い位置から聞こえてしまっていました。この曲は4つ打ちでダンスビート的なアレンジなので、バスドラムは低く位置してくれたほうが落ち着きます。また、ベースもエレキベースで動きのあるラインなので、低域は空いていますが、中低域は混んでいるという状況です。
よって、バスドラムの位置を下げるためにサブハーモニックを追加するエフェクトであるAvid Pro Subharmonicを使って超低域をプラスしています。サブハーモニックを追加するエフェクトは意外にも多くのDAWに付属しており、GarageBandでも付属しています。
サブハーモニック:
基音の整数分の1の周波数に発生する共振のこと。100Hzの音のサブハーモニックなら50Hzの音、くらいのゆるいニュアンスで使われる。
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BD out:Waves F6-RTA
ここまでで整えた音にイコライザーを挿入し、最終調整をしています。BD inトラックとかぶってしまう高域をカットすることで相互トラックでの干渉を減らしてコントロールしやすくしています。
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スネアドラムの音作り
スネアもトップ(上側)とボトム(下側)2本のマイクの合成音で仕上げるイメージです。トップをメインとして、ボトム側はスネアの輪郭などをコントロールするように使います。また、スネアの場合はオーバーヘッドのマイクにもかなり大きく音が入りますので、これら3つのトラックのバランスを調整してスネアの音を作ります。
SN top
基本的なスネアの音をコントロールするトラックです。特にOHトラックにあまり含まれない低域側の太さ、響きを担当します。
- Waves F6-RTA
- Waves Hybrid Compressor
- Waves VEQ4
- WaveArts Tube Saturator 2
- Waves Smack Attack
SN btm
スネアの輪郭をさらに出したい時、スナッピーの音を強調したい時に使うトラックです。
- Waves F6-RTA
- Waves Hybrid Compressor
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SN top:Waves F6-RTA
イコライザーです。LCFで低域をカットし、低域の量をコントロールしています。また、スネアの音を低い位置に定位させるために胴鳴りを強調する197Hzをブーストしています。ただし、今あらためて見てみると、このブーストは後段のVEQ4でやったほうが良かったかもしれません。
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SN top:Waves Hybrid Compressor
スネアの音をコンプレッサーによって音量調整し、同時に音を太い音に調整しています。Waves hybridラインのコンプレッサーで、ANALOGとPUNCHのつまみが秀逸。特にPUNCHのつまみはドラムに使うとぴったりで、太さを出すことができます。
スネアドラムなのでアタックは速め(7ms前後)、レシオも強め(7:1前後)として、強めのコンプレッションサウンドを狙っています。
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SN top:Waves VEQ4
Neve 1081イコライザーをモデリングしたプラグイン。数あるイコライザーの中でも変化が激しく、エグい音になるイコライザー。よって、アグレッシブに音作りをしたい時によく使います。ここでは高域をシェルビングでブーストする目的だけで使用しています。
高域を伸ばして音を明るくするためのイコライザーはいくつかありますが、最もザクっとした音になるのがVEQ4です。
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SN top:WaveArts Tube Saturator 2
WaveArtsのサチュレーター。サチュレーターはかんたんに説明すれば許容できる範囲の歪みを加えるエフェクトで、アナログにおいて真空管プリアンプ等で得られた歪み感を付加することができます。用途としては音のデジタルっぽさが抜けない、温かみがない、といった場合に有効で、今回もスネアの録り音が細めだったので、VEQ4やH-Compに加えてTube Saturator2を使用しました。
真空管の種類を12AX7か12AU7から選ぶことができ、12AX7の方がエグいです。12AU7のほうがマイルド。真空管を選択してDRIVEを回していくと歪みが付加されていきます。
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SN top:Waves Smack Attack
スネアのアタック感・トランジェントをコントロールするために挿入。トランジェントをブーストする使われ方が多いと思いますが、ここではトランジェントはブーストせず、リリースを伸ばすために使っています。スネアの「コーン」という余韻の部分を強調することで生ドラム感を強める目的です。
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SN btm:Waves F6-RTA
基本的には低域カットのみ。SN topと同じように低域を出力すると干渉してお互いを打ち消しやすくなるので、ボトム側では低域をあまり強く出していません。303Hzでローカットをしています。
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SN btm:Waves Hybrid Compressor
SN topと同様です。質感を合わせるために同じコンプレッサーを使っています。
OH(トップ)のトラックの音作り
ドラムではバスドラムとスネアを入念に作り込みます。単体トラックとトップ(オーバーヘッド)のトラックを組み合わせて音を作りますので、OH/BD/SNのトラックが揃って初めてバスドラムとスネアの音が決まります。
OH
全体の音がバランスよく録音されたドラムトラックの骨組みとなるトラック。距離が離れているため低音は各オンマイクに劣る。
- Waves F6-RTA
- Waves Smack Attack
- Avid Smack
- Avid EQP-1A
OH(Top):Waves F6-RTA
他と同様に低域をカット。とにかく低音を出すためのトラックとそうでないトラックを仕分けて、低域を担当するトラックの邪魔をしないようにすることが重要。
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OH(Top):Waves Smack Attack
トランジェント(アタック)は調整せず、サスティン(余韻)を短く調整。ここまでのトラックで、バスドラムは余韻を短く、スネアは長く調整しており、OH(トップ)も短く調整しています。この調整によって、スネアだけが余韻が長い状態となり、他のトラックと混ぜた際に余韻をコントロールしたい場合はスネアのトラックを調整すれば良いというわかりやすい状況になります。コントロール下におくのが重要なのです。
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OH(Top):Avid Smack
このSmackはWavesのSmack Attackとは別物で、Avidのコンプレッサー。音の傾向は1176っぽいものの同じではなく、独特。どちらかというとビンテージ系の音色ではあります。ただhし切り替えて使うことができるので、汎用性が高く、他のコンプレッサーでしっくりこない時に使う事が多いです。
今回は「OPTO」モードを選択して使用しました。OPTOはオプティカル、つまり光学式のことなので、LA-2A等のコンプレッサーのような動作モードです。よって、コンプ臭さを出さずに適度に音を揃える目的で使用しています。
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OH(Top):Avid EQP-1A
イコライザーです。TUBETECHのモデリングで、高域をきれいに伸ばすことができます。ここではシンバル等の響きをきれいにするために高域をブーストする目的で使用しています。
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その他のトラック
その他のトラックは、ここではハイハットとタム類のトラックになります。
タムのトラック
タム類に関しては録り音が非常に良かったので何もプラグインをかけていません。もちろんグループトラックとマスタートラックを経由しますので、単体のトラックで何もしなくても、グループ/マスターの音作りの影響を受けます。
また、OH(トップ)トラックにもタムの音が大きく入りますので、単体のトラックはあまり使わないこともあります。
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ハイハットのトラック
ハイハットのトラックはアグレッシブな音作りをしており、原音から異なる方向性で音を作り込んでいます。主にイコライザーで高域をカット、中域を持ち上げることでダイナミックマイクのような音を作っています。
もちろんOHのトラックにもハイハットの音が入っており、OHのトラックではきれいなハイハットの音です。したがって、OH/HHトラックの音量バランスを変えることでハイハットのキャラクターを変えることができます。クローズドハイハットのAメロではHHトラックを大きくすることでザクザクした昔風の音に、ハーフオープンのセクションではHHトラックを下げることで耳障りの良い音になります。
つまり、音のキャラクターが違うトラックを用意することで、音量バランスによるキャラクターの調整を可能にしています。
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イコライザー後段にコンプレッサー(Waves Hybrid Compressor)を挿入し、音量を均一化しています。
ということで、ドラムの音作りがどうなっているかを解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
もちろん録音された音、用意された音、さらには曲やアレンジによって音作りは180度変わりますから、このまま使えるところは少ないかもしれません。しかし、音作りのヒントやきっかけにはなると思います。
次回はベース、パーカッションなどのトラックを紹介していきます。
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ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。
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