聞きやすい音を作るための左右音圧バランス調整 [難しさ:ふつう vol.094]MIX/ミキシング/マスタリング 

ギターやステレオ幅を狭くしたトラックなど、PANを左右どちらかに寄せて設定することは多々あります。この時、左右どちらかに寄せてしまうことで崩れるものが左右音圧バランスです。左右音圧が崩れると片方から押してくるような音になってしまうために聞いていて疲れやすい、聞きにくい音源になってしまいます。

本記事では、聞きやすい音を作るために意識すべき左右音圧の基礎的な知識と、ギターを例に取った解決アイディアをお伝えします。

動画版はこちら

使用している音源

動画で使用しているデータは以下で販売しています。ご購入いただくとアーティストにも分配されますので、ぜひご活用下さい。

題材曲
Re:GO / キニナルコ
※ミキシングさせていただいております

左右音圧とは?

ステレオでの音圧は色々な情報が届けられていますが、左右音圧バランスを意識したことはあるでしょうか。

左右音圧バランスとは読んで字のごとくで、ステレオ音源におけるL/Rそれぞれの音圧のことです。

いわゆる「音圧」は左右セットで語られますが、PANをすべて左に寄せて左からしか音が出ない音源を作れば、当然左側の音圧だけが高くなります。一般的なラウドネスメーターは左右独立表示ではないので、左右音圧バランスが確認できません。VUメーターを用いることで確認できます

以下は題材曲において、ギターとシンセサイザーの音をすべて左寄りにした場合のVUメーターの表示です。明らかに左側の振れ方が大きいことがわかります

左右音圧バランスが崩れるとVUメーターでは確認が可能

WavesのVUメーターは単品で販売されるほか、Platinumバンドル以上に収録されています。

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左右音圧バランスが大きく崩れると聞きにくい音源になってしまいます。スピーカー主体で聞くジャズやクラシック等の音源ではあまり問題になりませんが、ヘッドホンやイヤホンで聞かれるポップスや一般歌謡曲などのジャンルでは大きな問題となります。片側から頭を押されるような音になります。

動画で例を聞いてみてください。すべて左側の音圧だけ高くなっています。

ギター

https://youtu.be/7bymeEqgyrg?t=152

ベース

https://youtu.be/7bymeEqgyrg?t=408

単純に、PANをどちらかに寄せた状態が長時間続くと聞きにくい、ということです。落ち着いて聞ける音源は「心地よい」と形容することもできます。心地よさを作るために有効なものは「安定」です。左右音圧バランスが崩れた状態は、「不安定」に感じるということです。

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左右音圧バランスを改善する方法

PANの配置を見直す

安定したサウンドを目指せば良いので、左右の楽器配置をある程度均等(シンメトリー)にしていけば良いのです。

それぞれの音について、持続する音であるか瞬発的な音であるかを精査しましょう。曲の中で1回しか出てこないような音、サビの頭しか出てこないような瞬発的な音は左右音圧バランス・音の安定性に大きな影響力を持ちません。自由かつアグレッシブに配置しましょう。

一方で、持続的な音は全体で左右音圧バランスが整うように気をつけて配置します。ステレオ音源であれば、PANの幅に注意しつつ左右均等に。単体楽器については、アコースティックギターが左ならエレキギターは右。ピアノが左寄りならオルガンは右寄り、といった具合です。アレンジ全体を見渡して楽曲で継続的に出てくるパートを選別し、左右音圧が整うようにPANを決定しましょう。

この時、低音と高音では、低音楽器の方が安定感への影響力が大きくなります。従って、以下のような順番で考えてみると良いでしょう。

  1. 低音楽器を中心に近く配置する
  2. 持続的なパートを左右均等に配置する
  3. 瞬発的なパートを自由に配置する

プロジェクトを整理して音の有無を視認できるようにしておくと、客観的に捉えることができます。波形が長い棒のトラックは要注意、ということです。

無音部分をカットして整理しておくと客観的に把握しやすい

ダブリングの音量差を活用する

ギターで顕著ですが、ステレオにする必要の無いパートでは、どうしても左右音圧バランスが崩れます。この時に主旋律と対旋律のように同じ楽器で異なる演奏ができれば良いのですが、すべての曲でそういうことにはなりません。演奏という意味でのパート数は増やしたくないものの左右のバランスを整えたい時に有効な手法がダブリングです。

ギターに限らずボーカルでも多用されますが、同じ演奏を2回以上演奏して別々のトラックに録音し、PANを広げて同時に再生するというものです。

課題曲でもギターはダブリングで録音されています

ダブリングを活用することによって、演奏内容は増やさずに左右音圧を整えることができます。

ダブリングをミキシングする際に以下のように左右の音量差を作ることで、シングルトラック風に聞かせつつ左右音圧バランスを保つことができます

  • Gt1L: vol= -0dB/PAN=L100%
  • Gt1R: vol= -6dB/PAN=R100%
ダブリングギターを再生

ダブリングながらもギターが1本に聞こえる設定です。しかしギター1本の時よりも安定感があり、落ち着いて聞くことができます。音量は小さいのですが、「右側に音がいる」状態を作ったために左右音圧バランスが若干改善されているのです。

このように、聞こえる音だけでなく、聞こえないが存在している音を活用してみてください。

ハース効果を活用する

先程のように録音時にダブリングしていれば良いのですが、録音してから気づくこともあるでしょう。追加録音ができない場合はどう対処する方法をお伝えしましょう。

左右音圧を安定させたいパートを複製し、40ms以下の範囲で位置をずらしてください。かんたんに言えば、片方を遅らせてください。目安として、30ms(ミリ秒)程度遅らせてみましょう。この時音量は左右同一に、PANはシンメトリーに設定してください。

  • 複製元: vol= -0dB/PAN=L100%
  • 複製先: vol= -0dB/PAN=R100%
複製した音を30ms遅らせた

なんと、音が広がって聞こえます。どちらかというと左から音が聞こえつつも、両側に音がある状態になります。右にも音があるので、左右音圧バランスも改善することができます。

これはハース効果と呼ばれる音響心理学的な効果を利用したものです。Wikipediaでは以下のように説明されています。

ハース効果(ハースこうか、別名:先行音効果)とは、2ヶ所から同じ音が聴こえてきた時、時間的に先に聞こえた方に音源があると耳が勝手に認識する現象である。だだし、到着時間差が約0.04秒を超える音、音量の差が違う音では、ハース効果は起こらない。

Wikipediaより引用

簡単に説明すると、同じ音を左右から同じ音量で再生した場合、タイミングが早い方に音があると錯覚するという現象です。試しに遅れを40ms以上にしてみてください。音は完全に2つの音として認識され、ハース効果は得られなくなります。

一方で時間差が少なすぎると位相干渉の問題が大きくなり、音が大きく変わってしまいます。位相については別の回で説明していますので、御覧ください。

研究の結果30ms前後が最も使いやすいと考えています。対象の音によって最適値はかわりますから、音にあわせて調整してみてください。重要なポイントは、聞こえない音を作ることで左右の音圧感を調整できるという点です。


左右音圧とその調整について解説してみましたが、いかがだったでしょうか。

大事なのは、リスナーが聞きやすい音を作るよう心がけるという意識だと思います。長時間聞いていても快適で疲れない、違和感のないミキシングは、ひいてはアーティストのイメージにも貢献するものです。ジャズやクラシック等、リスナーの再生環境や求める音が変わればそれぞれに最適解があります。リスナーのことを考えながらミキシングをする意識を忘れないようにしましょう。左右音圧が整うと、長時間イヤホンで聞いていても疲れなくなりますよ(^^)