ボーカルのサシスセソがうるさい!歯擦音を下げる3つの方法 [難しさ:やさしい vol.068] 歌ってみた ボーカルMIX

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歌ってみたをはじめとしたボーカルMIXにおけるボーカルの音作り。ミキシングを進めていくと次第に気になってくるのが歯擦音(サシスセソ等の立ち上がり部分の音)です。普段よく聴くボーカル音源で視察エオンが気になることはあまりないと思いますが、これは歯擦音がかなり細かくコントロールされているためです。逆に、ミキシングが甘い音源では肝心なところで歯擦音が気になってしまうというケースもよく見受けられます。

この記事ではこれらの歯擦音をコントロールする3つの方法を紹介していきます。

動画版もあります。動画では音を聞きながら学べますので、おすすめです。


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歯擦音とは?

歌を含めた言語の発音において、音の立ち上がりの部分に、口を狭め空気を当てることによって発生する独特の音があります。日本語では「サ・シ・ス・セ・ソ」がわかりやすく、立ち上がりの部分にノイズのような何かを擦るような音があり、歯擦音と呼ばれます。

「サ・シ・ス・セ・ソ」以外の「タ・チ・ツ・テ・ト」などの音にも歯擦音が含まれます。また、歯擦音ではありませんが「カ・キ・ク・ケ・コ」などの立ち上がりの音も歯擦音のように扱われることがありますし、今回紹介する方法で同じように音量を調整することが可能です。

以下の波形はボーカルの「瞬間」という歌詞の立ち上がり、「し」の部分です。

赤枠の部分とその後ろで「し」を構成していますが、赤枠の部分だけが明らかに波形の表示が異なっているのがわかります。高い音の場合は波形も細かくなるのですが、この赤枠の部分が歯擦音です。

歯擦音(しさつおん、英語: Sibilant)とは、摩擦音の一種で、舌を使って狭めを作ることによって速い気流を生じさせ、その気流を歯の裏などに当てることによって強い噪音を発するものをいう。歯を使う摩擦音であっても上記の定義に合致しない [θ]・[ð] は歯擦音ではない。

Wikipediaより

歯擦音は大きく聞こえると耳障りになり、歌を聞いているのに歯擦音が気になって歌に集中できないという状況が発生します。一方で、例えば「サ・シ・ス・セ・ソ」では歯擦音が無いと「サ・シ・ス・セ・ソ」には聞こえませんので、排除することはできません。つまり、歯擦音の音量コントロールが必要になってきます。

いろいろな方法でコントロールすることができますが、その中から3つの方法を紹介します。

その1 ディエッサーエフェクトを使う

ディエッサーとは?

歯擦音を下げるための専用エフェクト、それがディエッサー(De-Esser)です。構造は特定の帯域にのみ反応するコンプレッサー。歯擦音が多く含まれる帯域を指定することで、歯擦音が入力された場合にコンプレッション(音の圧縮=音を下げること)がかかって、歯擦音が小さくなります

以下がCubase標準のディエッサーエフェクト「deesser」です。他のDAWでも標準で付属しているものがほとんどで、GarageBandでも標準付属しています。緑枠の部分で歯擦音が含まれている帯域を指定して使用します。

ディエッサーエフェクトの大まかな使用法は以下のようになります。

歯擦音が多く含まれる帯域を指定→下げる量を指定

帯域の指定

歯擦音は高域に多く含まれますので、まずは6kHz-12kHz(6,000Hz-12,000Hz)あたりを指定してみましょう

ほとんどのディエッサーでは、指定した帯域だけを聞くことができます。Cubaseのdeesserでは[SOLO]をONにすると指定した帯域だけを聞けますので、ボーカルをソロ>deesserもソロにして、なるべく歯擦音だけ聞こえるように帯域の幅を調整しましょう。

帯域設定は可能な限り狭い方が良いので、広く設定>狭く調整という流れで使ってみてください。広すぎると歯擦音以外への影響が大きくなります。筆者の場合は8-9.5kHz程度の幅になることが多いです。

減衰量を決める

帯域を決めたら[SOLO]を解除し、どの程度減衰(歯擦音をカットするか)を決めましょう

Cubaseのdeesserでは[THRESH](=Threshold:スレッショルド)を操作してどの程度歯擦音をカットするかを決めます。再生しながら下げていき、歯擦音が気にならなくなるまで下げましょう。

長所と短所

ディエッサーによる歯擦音カットはシンプルでセッティングが楽なのが特徴。曲全体の処理を一度にできるため、時間がかかりません。とりあえず全体の歯擦音を抑えたいという場合に適しています。一方、デメリットもあります。

欠点はズバリ、歯擦音以外もカットされてしまうことです。他の音への影響が大きいということです。コーラストラックなど目立たないトラックでは問題になりませんが、メインボーカルが1本だけで大きく聞かせたいような場合には、ディエッサーの影響による音質変化が気になってしまうことがあります。

曲を通して動作するため、下げる必要のない歯擦音や、歯擦音以外の高音にも作用してしまいます。上級者の方はオートメーションを使って動作する量をコントロールするなどの調整をしてみてください。

もしくは、以下のWaves Sibilanceのように歯擦音に特化したディエッサープラグインもあります。Sibilanceは他の音への影響がずば抜けて少ないディエッサーエフェクトでお勧めです。筆者はディエッサーを使う場合はほぼSibilanceしか使用しません。

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その2 波形編集で下げる

ディエッサーを使った場合は特定の箇所だけ下げることが大変で、歯擦音以外への影響も大きいというのが欠点でした。これらの欠点が無い方法がその2の波形編集でカットするという方法です。

方法としてはシンプルで、エフェクトすら使用しません。その1で満足がいかない場合に使うことができる技です。

歯擦音を選択してカットする

まずは波形上で歯擦音の部分だけを切り取って、別のリージョン(かたまり、ブロック)にしましょう。Cubaseの場合ははさみツールを使用して歯擦音の前後で切ります。

どこが歯擦音かというのを判断するのが難しいかもしれませんが、歯擦音は明らかに波形が異なりますので、いくつか聞いていけばわかるようになります。上記は先程同様「瞬間」の「し」の歯擦音です。以下は「好き」の「す」です。正確には、「あなたが好き」の「が す」の部分の波形です。周囲の歯擦音以外の部分と波形の細かさが異なります。

ズームインしていくと、前後で波形の波の細かさが異なるのがわかります。歯擦音のような高域の成分は波形がとても細かいものになるのです。

接続部分の調整

ほとんどのDAWでは波形の接続部分は自動的に調整されますので、接続部分はある程度大雑把でも大丈夫です。もしもつなぎ目で「プツ」っというノイズが出る、不自然だと感じる場合はクロスフェードという処理を行いましょう

歯擦音を波形ごと下げる

該当部分を別リージョンとして切り取ったら、波形ごと音量を下げるだけです。

長所と短所

長所は音質変化が無いことと、下げたい歯擦音だけを下げることができることです。今回紹介する方法の中でも最も周りへの影響が少ない方法です。

短所は作業に時間がかかること。リージョンを切り分けて下げるということで、1箇所に対し2工程、ズームイン・アウト等も含めると、曲全体でやっていくとそこそこ時間がかかります。

つまり、時間をかけても良い場合に適した方法と言えます。

その3 Melodyneで下げる

最後はボーカル編集ツールの定番、Celemony Melodyneを使用する方法です。Melodyneは有料のツールですが、試用版もあります。以下の記事でインストール方法を説明しています。

注意:ここで紹介している方法は、Melodyneのassistantグレード以上で使うことができます。最も下位グレードのessentialでは歯擦音バランスツールが使用できません。

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歯擦音バランスツールを使う

Melodyneには歯擦音専用の「歯擦音バランスツール」があります。右クリックメニューから選択しましょう。

歯擦音バランスツールを選択したら、該当の音を選択したまま下にさげていくと、歯擦音だけが下がります。Melodyneでは縞縞の部分が歯擦音です。

長所と短所

長所は音質変化も少なく作業効率も良いことです。ボーカル編集でMelodyneを使用する場合は最も良い方法といえるでしょう。筆者の場合は、まずはディエッサーで調整してみて、満足いかないようならディエッサーを外してMelodyneで調整しています。

短所はMelodyneを買わなければいけないことです。また、ProToolsやGarageBand等のARA機能非対応DAWではMelodyneの使い勝手にやや難があります。


歯擦音を下げる方法をお伝えしましたが、いかがだったでしょうか。

ポイントは、ひとつの方法ですべてのケースに対応できないということです。使っていくとわかりますが、それぞれ得手不得手があります。ボーカルの声質によってもマッチする、しないがあります。複数の方法を知っていることで様々なボーカリスト、様々な歌に対応していくことができるでしょう。