安定したベースサウンドの作り方 [vol.16 難しさ:ムズい]
みなさまこんにちは。
日々があっという間です。もう1週間経ってしまいました。公開すると休める〜!と思うのですが、寝て起きるともう1週間経ってしまうような気がします。歳です。やりたいことは早くやりましょう。
今回は当講座初の「ムズい」グレードの記事。初心者の方向けの記事が多くなっていますが、中級者以上の方もたくさんお読み頂いているので、様々なレベルの話をしていきたと思っています。初心者の人も「ふーん」程度に流し読みしていただき、いつか「なるほど!」と思っていただければ幸いです。
内容はベースの音作り。シンセベースの曲が多い昨今ですが、今回はどちらかというとエレキベース向けの内容です。
ベースというのは楽曲において低音を司り、楽曲の安定感を支える重要なパート。安定して聞こえてこないと曲全体が不安定に聞こえてしまうものです。ゆえに音作りも慎重に行う必要がありますが、低音の処理というのは難しいものです。
この記事では、ベースを曲全域に渡って安定して聞かせるテクニックを紹介したいと思います。アレンジャー、作曲家の方にご好評いただいているネタですので、ぜひやってみてください。
連動した動画はこちら↓
<<https://youtu.be/TQ02o7buEdI>>
ベースの音のばらつきを考える
ベースの音は音の高さによって音量感が大きく異なりますし、実際音量が異なることも多いです。例えばCはちょうど良い音量に聞こえるのにEは大きすぎる、など。よくあることだと思います。
一方で、曲の地盤を支える役割ですから、音量感に波があると曲全体が聞き難くなります。ベースの妙に膨らんだ帯域が気になってしまって、他のパートが耳に入ってこないということが起こるでしょう。
この音量感のばらつきは色々な要因が考えられます。
- ベース本体の調整の問題 (弦高やアンプの音質 など)
- 弾き方の問題 (弦によって音の大小がある など)
- 弦の問題 (弦の古さや音量が異なる など)
- 録音した環境の問題 (部屋で特に響く帯域がある など)
楽器を調整し、練習し、マイクを調整して録音できるのが一番良いのですが、そうもいかないことも多いでしょう。
上記のような要因による音量感のばらつきを整えることで曲全体に安定感が出て、結果的にボーカルなどの主旋律が落ち着いて聞けるようになってきます。聞こえ方が一定になるようにコンプレッサーを使って整えてみましょう。
音量のばらつきを抑えるという目的ではコンプレッサーが有効です。しかし、通常のコンプレッサーは音の高さを問わず大きな音(=スレッショルドを超えた音)に反応してしまうため、抑えたい音以外にも反応してコンプレッションがかかってしまいます。まずは帯域ごとの音量のばらつきを抑える必要があるのです。
マルチバンドコンプレッサーをベースに使う
マルチバンドコンプレッサーというエフェクターをご存知でしょうか?
音量を揃えるコンプレッサーというエフェクトの1種ですが、低域・中域・高域など、帯域ごとに個別の設定ができるコンプレッサーです。例えば低域だけコンプレッサーを稼働させることができるので、マスタートラックに使った場合は、ボーカルは放置でバスドラムの低域だけコンプレッサーをかけるといった処理が可能になります。
▼こちらはCubase 純正のマルチバンドコンプレッサー、その名も「MultibandCompressor」です。

このエフェクターは黎明期よりマスタートラックやマスタリングにおいて使われることが多いのですが、他の楽器に使ってはいけないというルールはありません。ベースの音域にあわせて音を分割しコンプレッサーをかけることで、膨らんだ帯域だけ圧縮して音量感を揃えることができます。

ポイントは帯域をどこで分けるか、です。
マスタートラックで使用する場合は低域〜高域まで均等に近い分割をしますが、ベースに使う場合は分割点を低域に集中させて細かく分割します。3バンドよりは4バンド、5バンドと、バンドが多いマルチバンドコンプレッサーのほうが使いやすいでしょう。以下の例では分割点を82Hz/152.4Hz/378.7Hzとかなり低めに集中させて分割しています。

各バンドにコンプレッションがかかるようにスレッショルドを調整しますが、最も膨らんでいる帯域に最も強くかかるようにします。きっちり整えたいのでRATIOも大きめの値でやってみてください。4:1〜8:1くらいで大丈夫でしょう。
アタックタイムの設定はお好みですが、ベースが目立って欲しい場合は長めにしてアタックを残し、逆に目立ってほしくない場合はアタックを短く調整すると良いでしょう。リリースはAUTOがあればまずはAUTOで様子を見ましょう。だいたいAUTOで大丈夫だと思います。
最後は各バンドのゲインを調整。これがイコライザーのように使うことができて便利。ベースを低い位置に落ち着かせたい場合は先程の画像のように超低域を強めにすると良いでしょう。
ダイナミックイコライザーをベースに使う
マルチバンドコンプレッサーよりも細かく帯域調整をしたい場合はダイナミックイコライザーが有効です。ダイナミックイコライザーはマルチバンドコンプレッサーに似た動きをしますが、EQのように細かく設定できるのが利点と言えるでしょう。特定の音に絞ってコンプレッションを掛けたい場合はマルチバンドコンプより便利です。
ただし、DAW標準では搭載されていないいのが難点。追加で買うしか無いです。そもそもダイナミックEQの種類は多くありません。筆者が愛用しているのはWaves F6-RTAです。アナライザもついているので最高に便利な1品。普通のイコライザーとしても使えます。
https://www.waves.com/plugins/f6-floating-band-dynamic-eq

※iZotope OzoneにもダイナミックEQがありますが、Ozoneはパワーの消費が激しい(重い)のでダイナミックEQだけの用途ではあまり使いません。
使い方はマルチバンドコンプと同様。ダイナミックEQで調整する場合は、膨らんでいるポイントを探してその部分だけカットします。スレッショルドの設定を慎重に行い、嫌な帯域が膨らんだときだけイコライザーが動作するスレッショルドを探します。
イコライザーというのはかけるだけで音が崩れるので、本来はかけないほうが良いのです。仕方なくかけるのです。この思考に基づくとダイナミックEQは非常に優秀で、普段はイコライザーをかけず、嫌な音が来たときだけイコライザーが動作するという設定が可能。よって、音への影響が最小限になります。
ベースが目立つ曲の場合はダイナミックEQの方が適切といえるでしょう。
設定についてはコンプレッサーと同じ考え方で設定して大丈夫です。
Waves F6の場合は、[GAIN][RANGE]の使い分けが肝です。[GAIN]で操作した場合は通常のイコライザーと同じく、常にブースト/カットが行われます。[RANGE]で操作した場合は、[THRESHOLD]を超えた信号に対してのみ動作します。[GAIN]を使ってイコライザー同様に使ってポイント(周波数)を決定し、[GAIN]は戻して[RANGE]で減衰量を調整するという流れで使ってみてください。
最後にもう一回コンプレッサーをかける
そろそろベースの人に怒られそうです。しかし、マルチバンドコンプ/ダイナミックEQの後段にもう一度コンプレッサーをかけます。このコンプレッションでさらに音量感が安定します。

コンプレッサーはよく使うシングルバンドのコンプレッサーで大丈夫です。筆者は1176系のコンプか、Oxford Dynamicsを使うことが多いのですが、普通に動作するものならどれでも大丈夫です。
マルチバンドコンプ/ダイナミックEQで帯域のばらつきが抑えられた状態で、さらに弱めのコンプレッションをして整えます。この後段のコンプレッサーはそこまで強くかける必要がなく、RATIO 2:1-4:1くらいで良いでしょう。ただし、常にかかっているようにスレッショルドを設定することが肝です。
これでかなり落ち着いたのではないでしょうか?
気をつけたいのは、どんなベースにも使える訳ではないということ。
「目立ってなくていいけどいないと困る」という存在感を目指す場合には今回のテクニックが有効です。しかし、ベースが目立って欲しい、ベースラインで引っ張るような楽曲の場合は抑えすぎると迫力がなくなってしまいます。また、ポップスでは有効ですがジャズなど演奏のダイナミックレンジを使い切る音楽性には適しません。使い所を見極めて使うようにしましょう。
今週の宿題
今週の宿題は、この記事で取り上げたベースサウンドをマルチバンドコンプレッサー/ダイナミックイコライザーで作るということをやってみてください。うまくいかなくてもよいので、実際にやってみることが重要です。
ベースの音を聞き込み、膨らんでいるところを見つけ、抑え込むというフローをやってみましょう。
ご自身の楽曲やベース音があれば良いのですが、お持ちでない場合は販売・配布されているマルチトラックデータ(ステムデータ)を使ってみましょう。
▼ハレのち☆ことり♪ステムデータ / 小岩井ことり
https://www.e-onkyo.com/music/album/dtmstm0001/
藤本健さん主宰のレーベルDTM Station Creativeより発売されている小岩井ことりさんの曲のデータ。ミキシングの腕を磨くにはお勧めデス!
▼筆者の曲のデータ(準備中、お声がけください)
今週の耳トレの解答
耳トレいかがでしたか?わかりましたか?
解答はBです。

画像を見てびっくりしますよね。9.5dBも上げているんです。
そこそこ低域が出る環境であれば「低音が増えている」のはわかるでしょうから、A/Bが迷いどころでしょう。80Hzというのはかなり低い音で、はっきりした低音には感じません。今回の耳トレでは比較的はっきりと感じられる低音変化。このように音の高さを体験していくことで、だんだんと周波数がわかるようになってきますよ。
ベースの音が落ち着くと急にミキシングのテクニックが上がったように感じられるでしょう。ぜひやってみてください。
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