プラグインの設定見せます!〜ミキシング徹底解剖・ベース・ピアノ・パーカッション・アコーディオン編〜 題材曲:大正浪漫/YOASOBI by Pistaさん

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前回の記事に引き続き、どのようなエフェクトをどのような設定で使っているかを徹底解剖していきます。題材曲はPistaさんのアレンジカバー歌ってみた作品です。

大正浪漫 / YOASOBI【アレンジカバー】

前回の記事はこちら↓

今回の内容に同期した動画はこちら↓
プラグインの設定見せます!〜ミキシング徹底解剖・ベース・ピアノ・アコーディオン他編〜 [vol.044 難しさ:ムズい] 音源:Pistaさんの大正浪漫/YOASOBIアレンジカバー

トラック構成

今回の記事で紹介しているトラックは、パーカッショングループ、ベース、そして鍵盤グループの3つです。それぞれトラック構成を紹介します。

パーカッショングループ

パーカッショングループはパーカッションやSEを集めたグループです。

パーカッショングループの構成
  • Rev Cym:リバースシンバル。曲の区切りで登場するSE(サウンドエフェクト)です。
  • Applause:拍手。曲の区切りで登場するSEです。
  • bass drop:シンセサイザーのベース音(シンセベース)です。4回だけ登場します。
  • HandClap:手拍子。このトラックのみ恒常的に登場します。

これら4つのトラックが「Perc SE」というグループトラック(バス)にまとめられています。

ベース

ベースは1トラックのみで、生演奏のベーストラックです。

ベーストラック

鍵盤グループ

鍵盤グループには2つの楽器、3つのパートが含まれています。

  • piano_01_close_ribon:ピアノ1パート、クローズ(=オンマイク)のステレオトラックです。主にコードバッキングをしています。
  • piano_02_close_ribon:ピアノ2パート、クローズ(=オンマイク)のステレオトラックです。主に対旋律などのメロディックな演奏です。
  • Accordion:アコーディオンです。アコーディオンも音源の関係でステレオトラックになっています。

これら3つのパートが「Keys」というグループトラック(バス)にまとめられています。

鍵盤楽器は打ち込みでの再現の場合、ステレオトラックでの出力が多くなりますが、ステレオの必要性があるかどうかはよく見極める必要があります。ほとんどの音源は単体で聞いて良い音になるようにできていますので、情報量が多くなっています。しかし楽曲においての役割や演奏によって必ずしもステレオである必要はありません。

アコーディオンはモノラル化しても良かったのですが、この曲の場合はアコーディオンが古めかしさを出すために重要な役割を占めており、あえてステレオのままミキシングしました。モノラルと異なり広がりのある音なので存在感が強くなります。

ステレオにすべきかどうは以下の記事でも説明しています。

パーカッショントラックの説明

エフェクトをかけていないパート

パーカッショングループのうち、「リバースシンバル(Rev Cym)」「applause(手拍子)」「bass drop(シンセベースSE)」の3つのトラックはエフェクト(プラグイン)をかけていません。

プラグインをかけていない3つのパート

このようなSE系の音の場合は曲の中で登場する回数が少ないため、他のトラックとの音が干渉する時間が少なくなります。よって、音に問題がなければエフェクトを無理やりかける必要はありません。音作りはする必要があるからするのであって、必要無いときはそのままでも良いということを覚えておきましょう。

Hand Clapトラックの音作り

手拍子(Hand Clap)のトラックは楽曲を通して演奏されているため、音を整理してコントロールできる状態にする必要があります。また、主要リズム楽器であるドラムとの干渉、兼ね合いも考慮する必要があります。

Waves F6-RTA

イコライザーWaves F6-RTAを挿入し、低域カット、高域ブーストをしています。手拍子のリズムが抜けて聞こえてくるように明るい音色に調整しています。

手拍子:Waves F6-RTA

Avid BF-76

続いて手拍子の音にパンチを出すためにコンプレッサーを挿入。1176コンプレッサーのモデリングであるBF-76コンプレッサーを使用し、ピークを整えるように調整しています。今回はややコンプレッション感のあるサウンドを狙ったため1176コンプを使用していますが、1176コンプはアタックが最速にしても7ms程度ですので、さらにきっちり押さえたい場合は速いアタックタイム設定ができるコンプレッサーを使う方が良いでしょう。

手拍子:Avid BF-76

Wave Arts Tube Saturator 2

最後にアナログ感、太さを付加するために真空管サチュレーターであるWave Arts Tube Saturator 2を使用。もともとの音が打ち込みであるためドラムとのマッチングが悪く、デジタル臭さを減らすために使用しました。今回の楽曲ではドラムが生演奏であったこともあり、手拍子の音が浮いてしまう感じだったので、調整しました。

手拍子:Wave Arts Tube Saturator 2

このプラグインは真空管の種類を12AX7/12AU7の2種類から選ぶことができ、強いアナログ感を出すためにかかり方の強い12AX7管を選択し、[DRIVE]つまみをかなり上げています。

イコライザーによる最終調整もTube Saturator 2で行っています。前段のF6-RTAはベーシックな調整、Tube Saturator 2ではアグレッシブな音作りという役割分担です。

ベーストラックの音作り

ベースのベーシックな音作り

ベーストラックはボーカル、ドラムと並んで重要なパートなので、入念な音作りを行っています。この曲では生演奏のエレキベースが使われています。比較的動きのあるベースラインで高い音が多く使われるほか、曲中にスラップ奏法も入っています。

つまりベースの音をバスドラムより低い位置に定位させたとしても、演奏内容に合わせて高い位置から聞こえるようになってしまいます。すると、部分的に全体での安定感が失われますので、最初からバスドラムの上くらいの位置(ベースとしては高めの位置)で鳴るように音作りをしています。

Waves F6-RTA イコライザー

まずはイコライザーで音の特性を整えています。

ベース:Waves F6-RTA

超低域はLCF(ローカットフィルター)を40Hz前後からかけてカットしています。もともと有効な音(低音を有効に聞かせてくれる音)が超低域にいなかったこと、この楽曲のアレンジでは超低域を強く出す必要がなかったというのが理由です。

低域も2ポイント、ピーキングEQでカットしています。これは音が膨らんでいた帯域を押さえているものです。

イコライザーには音作りという役割のほか、音の特性を整えてコントロールしやすくするという役割があります。ベースだから低域を切ってはいけないかというとそうではなく、むしろ低域の特性を整えてあげることで低域全体が聞こえやすくなります。

Avid BF-76(コンプレッサー)

続いてコンプレッサーでダイナミックレンジを整えて均一化しています。

ベースの音は曲の中で安定して聞こえている必要があります。聞こえるところ、聞こえないところが出てくると、聞こえないところで楽曲全体が不安定になってしまいます。

よって、コンプレッサーを強めに、かつコンプ臭さが出ないようにかけて、音の大小(ダイナミックレンジ)を整えます。1176コンプレッサーはアタックタイムが最速でも7ms程度と比較的長い(遅い)ため、極度にコンプレッションされず、やんわりとダイナミックレンジを整えたい時に有効です。きつくかけてもコンプ臭さが出にくいということです。

ベース:Avid BF-76

Wave Arts Tube Saturator 2(サチュレーター)

手拍子同様にアナログ風味を付加して音をファットにするために使用しています。

ベース:Waves Arts Tube Saturator 2

ベースの音については、適度な歪みを与えると曲の中で埋もれにくくなります。単体で聞くと歪みを感じるが、全体で混ぜると歪みを感じない程度の歪みです。この目的をオーバードライブ等の歪みエフェクトで行うと歪みすぎになりやすいので、サチュレーターを用いて歪み成分を付加しています。Tube Saturator 2では[DRIVE]を上げることで歪み成分をかんたんに付加できます。

T-RACKS QUAD-COMP(マルチバンドコンプレッサー)

続いてマルチバンドコンプレッサーです。

僕がよく使う手法なのですが、ベースにマルチバンドコンプを使うことで帯域ごとに異なるコンプレッションができるので、音の聞こえ方を均一にすることができます。イメージでいうと、ベースの1弦が聞こえないけど4弦は聞こえすぎるというような場合、マルチバンドコンプで帯域ごとにコンプレッションすることで弦の差による聞こえ方の違いを整えることができます。

ベース:T-RACKS QUAD-COMP

マルチバンドコンプレッサーはマスタートラックやマスタリング用エフェクトと言われていますが、単体楽器にも使うことができます。ダイナミックEQも同じような目的のエフェクトとなりますが、ダイナミックEQほどの細かさが必要ない時はマルチバンドコンプが便利です。

一方、使い勝手の良いマルチバンドコンプというのは意外と少なく、筆者はT-RACKS QUAD-COMPが多いです。Pro Toolsでは使えませんが、CakewalkのLP Dynamicsがいちばん好きでした。

https://www.cakewalk.com/Products/L-Phase

ベースをマルチバンドコンプで整える技は、別の記事で詳しく解説しています。

Avid Pro SubHarmonic(ハーモニックエンハンサー)

バスドラムより上に位置させるとはいうものの、曲の安定感を出すために低域増強は欠かせません。ベースのライン録りの場合は超低域が少ないことも多く、イコライザーであげようにも上げるものがありません。こういう時はハーモニックエンハンサーで超低域を付加することで低域補強ができます。また、ハーモニックエンハンサーの場合は低域の量を容易にコントロールできます。

ベース:Avid Pro SubHarmonic

サイドチェインコンプレッサーによるリズム感の増強

ここまでのエフェクトはベースそのものの音作り。

完成された音にサイドチェインコンプレッサーによるうねりを加えることで、この楽曲の特徴でもある4つ打ちリズムを強く感じられるようにしています

ベース:Waves C1 Compressor

サイドチェイン用途の場合は音質変化が少ない方が良いので、素直だと感じているWaves C1コンプレッサーを使用しています。

サイドチェインというのは、外部入力をトリガー(きっかけ)にしてコンプレッサーを動作させること。ここではベース音(入力)に合わせてベースをコンプレッションするのではなく、クリックをトリガーにコンプレッサーを動作させることで、クリックに合わせてコンプレッションがかかり、うねりが出るようにしています。

サイドチェインの仕組み
サイドチェインの仕組み

拍頭で音量が微妙に小さくなるということなので、うねりが出るのと同時にバスドラムも聞こえやすくなり、共存できるようになります。

サイドチェイン入力には一般的には聞こえるようにしたいパートの音(ここではバスドラム)を用いることが多いのですが、僕はクリック音をトリガーにすることがよくあります。バスドラムの場合は音量や音質、リズムパターンも一定ではないので、結果的にサイドチェイン動作にもムラが出てきます。クリックをトリガーにすると入力音が安定するため、サイドチェイン動作も安定し、結果的に曲のリズム感も安定して出てくるようになります。

サイドチェインのトリガーにクリックを使う

鍵盤グループの音作り

ピアノパート1&2

ピアノは2つのパートがあり、音源は同じものが使われていますが、演奏の内容・役割が異なります。よって、それぞれのトラックに異なるイコライジングをしています。

Waves F6-RTA(イコライザー)

ピアノ1のイコライザー
ピアノ2のイコライザー

上段がピアノ1、下段がピアノ2のイコライザーです。基本的には聞こえやすくするために高域をブーストにして明るい音色にしています。低域のカット量が異なっており、コードバッキングをしているピアノ1は多めに低域をカットしています。

ピアノ1はコードバッキングなので、大雑把に言うとコード感が出ていればはっきり聞こえなくても良いパートです。「どういう演奏か細かくはわからないものの、ミュートすると曲全体の安定感がなくなる」くらいの聞こえ方で良いので、低域がきっちりと全部出ている必要はありません。むしろ低域を出しすぎるとベースと干渉するため、より不安定なサウンドになってしまいます。

一方でピアノ2はメロディックなフレーズを演奏しているため、ピアノ1よりよく聞こえる必要があります。ピアノ1と2を聞かせようとした結果、1は聞こえるようになったものの2の内容がわからなくなった、というのは良くないパートなのです。大き目に聞かせるため、パート1より多めに低域成分を持たせることで、ピアノ1よりもピアノらしいサウンドにしています。

Avid BF-3A(オプティカル・コンプレッサー)

コンプレッサーもかけていますが、タイトなコンプレッションを狙ったものではなく、コンプレッサーを感じない程度のコンプレッションを狙っています。ボーカルによく使用されるLA-2Aオプティカルコンプレッサーの姉妹機であるLA-3AオプティカルコンプレッサーのモデリングであるAvid BF-3Aをピアノ1パートに使用しました。

LA-3AはLA-2Aよりもアタックの速いものに向いているため、ここではBF-2AではなくBF-3Aを使用しています。

ピアノ:Avid BF-3A

▼CLA-2A vs. CLA-3A クラシックコンプレッサーの違い

https://wavesjapan.jp/articles/cla2acla3a

T-RACKS White Channel(チャンネルストリップ)

ピアノ2のパートでは、ピアノ1よりも目立ってほしいという音作りをするためにピアノ1と異なるコンプレッサーを選択。SSL XL SeriesのモデリングであるT-RACKS White Channeのコンプレッサーとイコライザーを使用しています。

ピアノ2:T-RACKS White Channel

コンプレッサーは[Fast Attack]を選択し、[Ratio]も3.7:1とそこそこ強めにかけてダイナミックレンジを抑制し、ピアノのフレーズが聞こえるようにしています。

イコライザーでは4.4kHzから上をシェルビングでかなりブーストしています。このブーストによりピアノ1との違いをさらに強調しています。

アコーディオン

この楽曲においてアコーディオンは非常に重要なパートです。ピアノ1のような聞こえにくくてもコード感が出れば良いパートと違って、はっきり聞こえている必要があるパートです。

Waves F6-RTA(イコライザー)

イコライザーは不要な低域をカット(コントロール)しているだけです。

アコーディオン:Waves F6-RTA

Sonnox OXFORD DYNAMICS(コンプレッサー)

一方でコンプレッサーはOXFORD DYNAMICSを使用。このコンプレッサーはボーカルによく使用するもので、いわば目立ってほしいパートにだけ使う、VIP扱いのようなコンプレッサーです。

アコーディオン:OXFORD DYNAMICS コンプ設定

[COMP TYPE]を[CLASSIC]で使用しており、これはざっくりいうと(おそらく)LA-2Aのような動作モードです。アタック、リリースの設定が固定化されます。動作はLA-2A、しかし音はOXFORD DYNAMICSというイメージです。説明書にも以下のように”popular legacy units”とありますので、LA-2Aを指していると予想しています。

The CLASSIC type selection is a subset of the NORMAL type, with timing controls fixed to nominal values to match a range of popular legacy units. All other controls behave as the NORMAL type. This type selection is quick to set up and is most useful as a general-purpose channel compressor.

OXFORD DYNAMICSマニュアルより引用

加えて[WARMTH]セクションを使用して倍音を付加し、前に出る音にしています。

WARMTHを上げている

[WARMTH]の[AMOUNT]は、ざっくりいうと上げると音が前にぐいっと出てきます。マニュアルでは”Harmonic Distortion”と示されていますが、高調波歪みを付加するつまみだと思われます。前にぐいっと出したいトラックにだけ使うようにしているので、普段はボーカルによく使用しますが、ここではアコーディオンに使用しました。

Waves VEQ4 (イコライザー)

最後にNEVE 1081アナログいイコライザーのモデリングであるVEQ4を使って220Hz、3.9kHzをブーストしています。低域のファットさ、高域のザクザク感を出して存在感のある音にしています。3.9kHzあたりは出しすぎると耳に痛い音になりますが、程よく出すと音がかなり目立つ部分です。

アコーディオン:Waves VEQ4

鍵盤グループ

これら3つのトラックをまとめたグループが「Keys」グループです。最終的な音質・音量調整のためにT-RACKS White Channelを使っています。

鍵盤グループ:T-RACKS White Channel

仕上げ用途なのであまり強い設定にはしておらず、コンプレッサーのゲインリダクション(コンプレッション量)も最大で1〜2dB程度です。


説明していきまhしたがいかがだったでしょうか。

ベース、ピアノはベーシックトラックなので、安定した音になるようなコントロールが必要です。音作りというとアグレッシブに感じますが、その実、内容はコントロールすることと目立つことに二分できます。まずは音をコントロール下に置くことが重要だと言えるでしょう。

次の回ではオーケストラ楽器、シンセサイザーパートの解説をしていきます。

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