クオリティアップのための仕上げ工程 音圧調整の初歩 GarageBand 歌ってみたMIXテクニック vol.6

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この講座も第6回。MIXとは、ミキシングとは何か、ぼんやりとわかってきたのではないでしょうか。

音を混ぜて誰でも聞けるようにする。そして聞きやすく、カッコよく。

この流れの最後の仕上げ工程がマスタートラックの音作りです。どんなミキシングでも同じですが、目的意識のはっきりしたマスタートラックの音作りでクオリティが格段にアップします。ぜひ挑戦してみてください。

動画と連動した記事ですのでぜひ動画もご覧ください。

<<https://youtu.be/ez2W4XW-BhM>>

マスタートラックで何をするべきか?

マスタートラックというのはオフボとボーカルの音が混ざった後に通る、最終段の出力用トラックのことを指します。マスタートラックには音声データは存在しません。

マスタートラックでも個別のトラックと同様に音作りをすることが可能です。様々な処理が可能ですが、まずは役割を絞って挑戦してみましょう。

色々な情報がありますが、全部をカバーしようとすると迷走するだけ。理解できる目的のある処理に絞っていくことが大切です。

覚えてもらいたい目的はふたつです。

A.再生環境による聞こえ方の差を緩和して、誰にでも心地よく聞いてもらえるようにする
B.再生音量による聞こえ方の差を緩和して、誰にでもメッセージが伝わるようにする

また、以下の目的は高度な領域ですのでこの記事では割愛します。

C.楽曲全体の音質を調整する

ここまでの各トラック個別の音作りとは全く役割が違うことを認識しましょう。以下のような個別のトラックに対する要望は個別トラックへの音作りで改善するものです。

ボーカルの音をもっときらびやかに→ボーカルトラックでEQをかける
ボーカルに響きが欲しい→ボーカルトラックでリバーブを調整する
ボーカルトラックの音量差がある→ボーカルトラックにコンプ、またはオートメーション
オフボ音源(カラオケ)の低音が寂しい→カラオケトラックにEQをかける

「理想の音にしていく作業は各トラックへの音作り」で行い、マスタートラックでは「完成した(つもり)の音源の聞く環境による差をなくしていく」ということです。

実際の作業工程を追っていきましょう。

マスターにメーターを用意してください

マスターは仕上げ工程。完成したらリスナーさんに聞いてもらうことになりますから、自信を持って大丈夫と言える音に仕上げたいものです。

「大丈夫!」というためのひとつの方法は「メーター」を使うこと。「メーターが大丈夫と言ってるから大丈夫」ということです。

GarageBandのメーターは数値が表示されず、大丈夫なのかどうなのかよくわからないのが欠点です。前回の記事を参考にマスタートラックに数値を監視できるメーターを用意しましょう。

無料プラグインのMelda Production MLoudness Meterがお勧めです。

再生音量による差を緩和する仕組み

まずは「再生音量による差」を少なくしていきます。

市販の既存曲を再生している時に、ボリュームを下げていくと次第に聞こえる楽器が少なくなっていきます。大きい音やいいスピーカーで聞くと「今まで聞こえなかった音が聞こえる!」というのはよくあることですが、この逆で、小さいと聞こえる情報量が減ります。

つまり、どの音量で再生しても同じイメージを以持ってもらいたい場合、小音量再生対策が必要です

ずばりその対策は、コンプレッサー等の音を圧縮するエフェクトを用いて、狭い範囲に音を詰め込んでしまうことです。

  • 人間の耳の許容音量→変化しません※
  • 人間が聞こえやすい音量→変化しません※
  • デジタル音声の最大値(0dB)→再生する音量(機器のボリューム)によって実際の音量としては変化します(データとしては同じ)

※実際には体調や環境で変化しますが、そういった変数による変化は、ここでは説明の意図から外れるので無視しています

0dBというデジタルの箱に頑張って詰め込んでも、実際に届く音量は再生音量で変わってしまうということです。

図の「よく聞こえる音量の範囲」に音が入っていないと聞こえないということになります。歌ってみたの場合は「よく聞こえる音量の範囲」にボーカルが入っていないといけません。曲の中でも音量は変化するので、曲を通して「よく聞こえる音量の範囲」にボーカルが入っている必要があります。

「0dBが最大値」というデジタルのルールの範囲内で、できるだけ大きい音に、狭い範囲に主要な音を詰め込んでしまうことが対策になります。

もちろんデメリットもあります。詰め込んでいくと重大な問題が起こるのです。

そもそも音量差というのは音楽の表現のひとつなので、音量差を少なくすることは表現の幅が小さくなることを意味します

特にクラシックやジャズなど、「良い再生環境」で「大きな音量で聞く」ことが想定される音楽は、小音量対策を行う必要がありません。加えて、このようなジャンルでは音量差がとても重要。クラシックやジャズでは小音量対策を行わないことがほとんどです。

POPSや歌謡曲、YouTubeに投稿される音楽は、スマホのスピーカーなど小音量かつ貧弱な再生環境がほとんどなので、ある程度再生音量対策を行うのが良いと考えています。

誰がどこで聞くかを想定するのはとても重要なのです。

Limiterで音圧アップ

何度もお伝えしてきましたが、「0dBを上回らない・歪まない」これ大事です。メーターを見ながらオフボとボーカルの音量をマスターのメーターが0dBを越えないように調整してください。

この段階では、0dB以下ならOK。-3dBとか-6dBとか、小さい分にはそのまま進めてください。

音圧アップにおいては「マキシマイザー(Miximizer)」という専用のエフェクトがあるのですが、残念ながらGarageBandにもMeldaProductionの無料バンドルにも入っていません。ここではLimiter(リミッター)というエフェクトを使用しましょう。

リミッターは[Dynamics(ダイナミクス)]のところに入っています。

リミッターはコンプレッサーの強力版だと思ってください。コンプレッサーでは設定値より大きい音を「いい感じに抑える」、リミッターでは設定値を越えた音を「すべて抑える」という違いです。

マスタートラックにLimiterプラグインを追加しますが、順番に注意Limiterの後にメーター(MLoudness Analyzer)が来るようにしてください。順番が逆になると、Limiterで音量が変化してもメーターに反映されなくなります。

Limiterを以下の設定値にしてみてください。

  • Gain:+2dB
  • Output Level:-0.5dB

この設定で再生し、MLoudnessMeterのTrue-Peakメーターが0dBを越えないようにLimiterのGainを上げてみましょう。メーターの上限はさほど変化しないのに聞こえる音量が大きくなってくると思います。

ちなみにGarageBandでは一定のプラグインはグラフィック表示されます。Limiterもマスターセクションの項目でグラフィック表示されますので、MLoudnessAnalyzerを表示しつつ、つまみをまわしてGainを調整できます。

音が大きく聞こえますか?これが音圧が上がるということです。

Gainが一定の数値以上になると、音の変化が激しいことがわかるでしょう。一般的なオフボ音源の場合はGain +6.0dBくらいからコンプ臭い音になってきます。これだと音圧を上げすぎ。音質変化がない範囲でどこまで大きくできるかという観点でGainを上げてみてください。

どのくらいまで音圧を上げたら良いか

音圧の詳細は奥の深い話なので割愛しますが、ここでは目安をお伝えしましょう。音質変化がない範囲で〜とお伝えしましたが、数値的に聞こえる音量を見る方法があります

まず、MLoudnessAnalyzerの[TARGET]というパラメーターを[-12]に設定してください。この[-12]はラウドネス値(Loudness Unit)というもので単位はLUFS(またはLKFS)。数字が0に近づくと音が大きいという意味です。

[-12]というのは試行錯誤の末たどり着いた「使いやすい目標値」です。他の作業でも出てくる数値ですが、-12を基準に音を作ると良い仕上がりになることが多くあります。

MLoudnessAnalyzerにおいて、True-Peakメーター以下のメーターはすべてラウドネス値を表すもので、計測する時間の長短で異なるメーターになっています。最も上の[Momentary(モーメンタリー)]が最も短い計測時間で、今回はこのMomentaryだけ見ておきます。

先程TARGETを-12にしました。これはラウドネス値の目標値を-12にするという意味。再生すると-12のあたりは緑に、大きすぎると赤という表示になります。右の数値はTARGETに対しての差異が表示されます。

説明が難しいのですが、「緑の範囲(-12LUFS周辺)でメーターが動く」ようなになっていれば大丈夫です。ずっと赤の場合は大きすぎなのでLimiterのGainを下げましょう。レベル設定の場合は0dBを超えると歪むことがありますが、ラウドネス値の場合は「xxになったらxx」というものはありません。あくまで目安のメーターなので、上記のように「-12周辺でメーターが動く」ような設定を目指せば大丈夫です。

Momentary Loudness メーター 設定の目安
・サビ以外では-12に届く
・サビなどの大きいところでは-12を越えていることが多い
・イントロや真ん中の小音量セクションでは-12に届かない

世の中には音圧を上げる方向の情報がたくさんありますが、YouTubeに投稿するようでしたら上記の設定で十分。なぜならば、YouTubeが自動音圧調整機能を持っていて、投稿された動画の音圧を勝手に合わせてくれます。

音圧が低い動画はそのまま、音圧が大きい動画は下げられてしまいます。

音圧は無理に上げなくても良いのです。1990年代後半からの爆音戦争時代はそうもいきませんでしたが、今は少し時代が変わりました。

音圧調整については、以下の記事でも説明しています。

それでも音圧をもっと上げたい

それでももっと音圧を上げたいこともあるでしょう。笑

LimiterのGainを上げていくとコンプ臭い音になってしまうこともわかっています。このような場合は、Limiter2段がけという技を使いましょう。

この手法は音質変化を最小限に抑えたまま音圧をアップすることができます。GarageBand付属のLimiterを使っていますが、サードパーティ製のマキシマイザープラグインを使った場合でも同じ方法が使えます。

それぞれの設定値の目安は以下のとおりです。

Limiter1台目
Gain:+2.5dB
Output level:0.0dB
Limter2台目
Gain:+2.5dB
Output level:-0.5dB

1台目のGain設定は音源にあわせて柔軟に。音源の音量が小さい場合は大きな数値になります。2台目の設定はどの音源でも同じような設定になります。

1台目でガッツリと音量を上げて、2台目ですこし上げるイメージです。2台使うことであまり音質変化の無い音圧アップができます。

まだ音圧が足りなければ3台という方法も、、、苦笑。ポイントは、すべて同じプラグインで多段掛けすることです。色々なマキシマイザー・リミッタープラグインで多段掛けすると音質変化が大きくなってしまいます。

複数の再生環境を用意しましょう

音圧アップはリミッターかマキシマイザーがあれば誰でもすぐに音圧を上げられるでしょう。高度なマスタリングではそうもいきませんが、音を大きくするだけなら誰でもできます。

それよりも再生環境による差をなくすほうが難しい作業です。

再生環境による違いを確かめるためには、少なくとも2種類以上の再生環境が必要です。これはスピーカーが2種類必要という意味ではありません。みなさんも持っています。例えば以下のような組み合わせ。全部OKです。

  • 音楽制作用のスピーカー x オーディオ用のスピーカー
  • 音楽制作用のスピーカー x ヘッドホン
  • ヘッドホン x パソコンのスピーカー
  • 音楽制作用のスピーカー x カーステレオ
  • ヘッドホン x テレビのスピーカー
  • 音楽制作用のスピーカー x スマホのスピーカー

重要なのは2つ以上の基準を持つということです。再生環境がふたつになることで、ひとつの再生環境だけではわからなかったことが色々とわかるようになります。再生環境のグレードよりも、「複数」ということが重要です。

筆者の環境ではスピーカーは2セット、オーディオ1セット、ヘッドホン2セットがあります。この他カーステとスマホ本体スピーカーでのチェックは毎回行っています。

再生環境による差を緩和する手順

では実際の手順です。

まずはメインの環境で音作りを終わらせましょう。完璧だと思うまでやってください。

出来上がったら再生環境を変えて再生します。GarageBandの音をそのまま再生できなくてもOK。書き出しをしてしまってファイル化したものを再生してもOKです。

すると、完璧に仕上げたはずなのに気になる部分が出てくるはずです。まずは初歩ということで以下に沿って聞こえ方の違いをメモしてください。

1.低音域 メイン環境よりよく 「聞こえる<< >>聞こえない」
2.高音域 メイン環境よりよく 「聞こえる<< >>聞こえない」
3.ボーカルの音がメイン環境よりも 「太く聞こえる << >>細く聞こえる」
4.ボーカルの音がメイン環境よりも 「クリアに聞こえる << >>引っ込んで聞こえる」
5.全体的にメイン環境よりも 「耳に痛い << >>耳に痛くない」

これが再生環境による差です。この差を全部埋める必要はありませんが、「こういうふうに聞こえる人がいる」ということを認識しましょう。

メモを踏まえて、マスタートラックのイコライザーを調整します。

1.の改善 低域(160Hzくらい)にシェルビングEQ
2.の改善 高域(6kHzくらい)にシェルビングEQ
3.の改善 500Hzくらいを中心にピーキングEQ
4.の改善 8kHHzくらいを中心にピーキングEQ 
5.の改善 耳に痛い場合は4kHzくらいを中心にピーキングEQを-3dBくらいかける

EQは、+/-3dBくらいの範囲にとどめましょう。また、ピーキングEQの場合は広めのQ(0.5くらい)にしましょう。マスタートラックへのEQは個別トラックへのEQより影響が大きくなりますので注意です。

環境Bに合わせていくと環境Aの音に不満が出てくるでしょう。

双方の環境で妥協できる点を探すのです。MIXはこの考え方が非常に重要で、全員が最高のものというのは事実上難しいのです。世の中には数多の再生環境があり、そもそも好みが全員違います。

しかし多くの人が心地よいと感じられる妥協点は存在します。

様々な人の環境に合わせこんでいく作業は、妥協ではないと思っています。MIXは最高の妥協点探しと言えるかもしれません。

話を戻して、マスタートラックのイコライザーを使うことでどの再生環境でも心地よく聞ける音に調整することができます。もちろん個別トラックへの調整でも対応できるのですが、マスタートラックで対応した方が早く済む場合は多いです。

歌ってみたの場合はトラックが少ないのですが、トラック数が多くなるとマスタートラック処理の重要性は向上します。ぜひ身につけておきましょう。

特に注意すべき点を挙げてみました。
・小さいスピーカーなど、低音が聞こえにくい・出にくい環境で作ると低音が大きくなる傾向になります。その逆で、ヘッドホンなど低音が強く出る環境で作ると低音が弱くなります。
・高音域は大きい音量で作っていると弱めに、小さい音量で作っていると強めになってしまう傾向があります。
・ボーカルの大きさ、聞こえ具合は再生環境によって大きく差が出ます。

奥が深いのですが、今回はこの辺で。マスタートラック調整は聞く人への気遣いとも言えるでしょう。この気遣いがあるだけで、聞く人の満足度は大きくなるものですし、それが伝わった時は嬉しいものですよ。

ミキシングは究極の妥協点探しです

マスタートラック処理は自分の環境以外でも心地よく聞けるようにするための処理です。

逆説的には、自分の家だけ、ひとつの環境だけで、いつも同じ音量で聞くのであれば、あまり必要ない作業とも言えます。

すべてのリスナーの環境で自分の環境と全く同じように聞こえるようにすることは不可能です。マスタートラックでの調整は終わりのないもので、どこかで妥協しなければなりません。

しかし、多くのリスナーが満足できるポイントを探すことは妥協ではありません。いわば究極の妥協点探しということができるでしょう。

完成もありません。ミキシングを直すことができるのであれば、日々異なるミキシングが出来上がるでしょうから、どこかの点で究極の妥協をしなければなりません。究極の妥協点を見つけ、OKをする判断の積み重ねです。

ミキシングは「リスナーの視点」で考えることが必要です。みなさんはリスナーの代表なのです。その心意気でミキシングを行ってみてください。

次回はボーカルのピッチ修正についてお伝えしたいと思います。乞うご期待!

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