Days of Delight 岡本太郎記念館Atelier Concert Season5 録音記 〜荻原亮さん(gt)+伊藤勇司さん(bass)+山本連さん(bass)〜
岡本太郎記念館の館長でもある平野さんが手掛けるジャズレーベル「Days of Delight」が贈るジャズセッション動画シリーズ「Atelier Concert」。レコーディング、ミキシングを担当させていただいていますが、今回は荻原亮さん(gt)、伊藤勇司さん(bass)、山本連さん(bass)によるセッション。
同じ場所でのレコーディングは回を重ねれば重ねるほどクオリティが上がってくるもの。
理由は、その場所の音というのはゆっくりと理解できるものだからです。行ってその日にいい音で録音できるスキルは必要ですが、1回目では詰めきれない事が多いの事実。「もう1回ここで録音することがあれば、、」と思いながら家路につくことは少なくありません。この場所での録音は何回目になるでしょうか。大好きな場所です。
Atelier Concertは早いものでSeason5に突入。早いものです。歳をとると「あっ」と言う間に一年が終わります、、、(;・∀・)
思い出せばこのレコーディングは1月、真冬でした。岡本太郎記念館のアトリエはレコーディンスタジオではありませんから、空調は一般的なエアコンで、つまりはノイズ源。録音する時はオフにしなければなりません。この記事を書いていて寒かった当日のことを思い出してきました。
そんな寒い冬の日に録音された素晴らしい演奏の舞台裏、録音シーンを紹介してみます。記事をきっかけに聞いてくれる人が増えれば嬉しい限りです。
ベースが二人。音がよく、演奏しやすい配置は?
まずは配置をご覧ください。
岡本太郎記念館のアトリエ2Fからの写真です。普段は入れない場所です。
写真のように縦長、吹き抜けの空間。キャンバスや美術品がたくさんありますので比較的デッド(響かない)空間です。とはいうものの、吸音(音を吸収させる構造のこと)させるように作られている訳ではないので、絶妙な長さ、かつ独特の響きがあります。
加えてベースがお二人。ウッドベースとエレキベース+アンプということになりますから、配置が難しいです。配置については音のことを考えつつ、演奏しやすい配置を探っていきます。色々と相談させて頂き、写真のようなベースのお二方が離れた配置になりました。
録音する時から完成時の配置(PAN)を考えて録音するのですが、上記の配置だとベースが左右に分かれる配置になります。これは斬新な配置ということができるでしょう。市販されるほとんどの音源では、ベースの音が真ん中から聞こえるはずです。
そもそもベースが二人ということ自体が挑戦的であり、お二方の演奏が混ざって聞こえにくいとなってはこのセッションの良さが出てきません。左右に分けて配置することを想定し、間隔も左右に広くしていただきました。
全体の音は上方にAKG C214ステレオペアを配置しています。単一指向性のマイクで上から狙いました。現場で聞いている雰囲気がとても良かったので、その雰囲気、質感が出るように左右感が強く出るようにマイキングしています。お三方の音がどこから聞こえるか、聞いてみてください。
ウッドベースの録音
伊藤勇司さんのウッドベースの録音の様子を紹介します。
ベースのボディがアトリエのややデッドな空間に気持ちよく響き、温かい低音が丸い空気の波になって伝わってきます。ああ、なんて良い音。このボウンという感じをうまく録音できるよう、試行錯誤しました。
オンマイクとオフマイクの2本で構成しています。オンマイクはbeyerdynamic TG-D50d、バスドラム用マイクです。まとまったパンチのある低音を録音するにはバスドラム用マイクが有効。色々な楽器に使えます。著名なaudio technica ATM25よりは自然な、ブーミーな音。コンプレッション感が弱い感じです。
オフマイク(というほどオフでもないんですが)はLEWITT LCT840。ウッドベースのファットさが真空管マイクならうまく録音できるかなという狙いです。演奏音も欲しいので、オンマイクに対してはややセンター寄りです。それぞれの位置は耳で聞いて決めていますが、音楽性を考慮して全体の音を録りたいのでやや離れめです。
オフマイクに入るギター、ベースの音を最小限にしたいので、リフレクションフィルターを立てています。
※オンマイク/オフマイク:マイクの立て方。至近距離がオンマイク、遠い距離をオフマイクと呼びます。
別アングルから。
このセットで録音されたファットなウッドベース・ソロをお楽しみください。ウッドベースって、いいですよね。
アンプの録音
エレキギターとエレキベースはアンプにマイクを立てての録音です。出ている音が最重要というコンセプトなので、ラインは録音していません。荻原亮さん(gt)のアンプは絵の下に、山本連さん(bass)のアンプは青い椅子の向こうに隠れています。それぞれSHURE SM57を立てています。
SHURE SM57以外の選択肢ももちろんありますが、ご覧のように大きなアンプではありませんから、そもそも出ている音の帯域は絞られています。ベースも大きなアンプではありません。ウッドベースの低域とのかぶりも考慮して、SHURE SM57を採用としました。マイキングの位置で調整し、主張のマイルドな音にしてみました。
アコースティックギターの録音
曲は少ないのですが、アコースティックギターによる演奏もありました。
嗚呼美しいギターの音色。。。僕はこう見えて楽器が好きで、アコギも大好きです。この綺麗な響きを収めたい、、、。きらびやかでありつつもやや乾きのある、なんというんでしょう。砂漠。そこまでいかないですかね。アメリカ西部。そんなイメージの音でした。パリっと芯のある、かつきらびやかな音なんです。わかりにくくてすみません(笑)。
ということでスモールダイヤフラムではありますがアコギと相性の良いAKG C480をメインに狙います。アコギ単体での演奏であるため1本だと音像が小さくなってしまいます。ということで、2本でホールとブリッジを狙っています。加えてホール全体の音を録音しているステレオマイク、合計4本での音にしました。聞いてみてください。
録音システム
録音システムはいつもどおりのTASCAM HS-P82です。
音はこれまでに聞いていただいた通りです。フォーマットは24bit/96kHzのハイレゾでレコーディング、ミキシングしています。ミキシングにおいてはあまりエフェクトをかけず、ダイナミックレンジを維持し、録音した時の音を活かす方向でまとめています。簡単に言うと、マイキングでほとんどの音が決まっているという感じです。
とはいうものの、スタジオではないのでモニター環境も限られています。ヘッドホンで聞きながらマイク位置を調整。もちろん100%というわけにはいかないので、ミキシングでの音作りは狙った音と実際に録音できた音の誤差の修正がメインです。あとはノイズカット。と言ってもノイズ除去プラグインを派手にかけるとすぐ音が変わってしまうので、可能な限りプラグインは使わずにノイズカットしていきます。
参考までに、荷物はこのくらいです。
寒くて手がかじかんでしまいましたが、それは僕よりも演奏者の皆さんの方が大変だったと思います。
しかし聞いていただいてどうでしょう、とても温かい演奏だと僕は感じました。ほんのり漂う春のような優しい雰囲気。
しかし冬です。激寒です(笑)。
演奏を楽しまれている雰囲気が音に出ていて、その雰囲気が少しでも聞いているみなさんに伝わったようでしたらこの録音は成功かなと思います。ぜひ大きなスピーカーで、大きな音で聞いてみてください。新たな発見があると思います!
萩原亮さんは、Days of Delightのアルバム「Little Boys Eyes」でも演奏されていますのでぜひチェックしてみてください。
ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。