ジャズビブラフォン奏者 山崎ふみこさんDVD ライブレコーディング at 六本木CLAPS
2月に六本木CLAPSで行われたジャズビブラフォン奏者 山崎ふみこさんのライブを収録したDVDのダイジェスト映像が公開されました。
メンバーは山崎ふみこさん(vib)、白井アキトさん(P)、宮崎隆睦さん(Sax/Ewi)、田中晋吾さん(B)、川口千里さん(Ds)と超絶豪華メンバーによる珠玉のライブです。
こちらの作品のレコーディング、ミキシングを担当させていただいたのですが、収録当日のセッティングなどをちょっと紹介させていただこうと思います。
出版元はずっとご一緒しているアルファノートさん。素晴らしいDVDや教則グッズを多数出版されています。今回も素晴らしい映像編集。音楽やってる人だなぁと思える映像編集が、見ていて気持ちが良いです。さすがです。
いろいろやりくりしていますのでツッコミどころはあるかと思いますが、ライブレコーディングをする人、してみたい人、興味のある人の参考になれば幸いです。そしてひとつひとつのライブ収録の裏側でこんなことが行われているということを、少しでも多くの方に知っていただけたら嬉しいです。
アナログ分岐不可能!打ち合わせの末PAマイクと別立てに
六本木CLAPSさんはこちら。機材表の通り、コンソールはYAMAHA QL5です。
ライブ収録を行う場合は、実はどのようにライブ収録用の音を収録するかを事前に決めるのが重要であり、大変です。
なぜならば、そもそもライブの楽器構成や作品のコンセプトによって最適なチャンネル数が異なる上に、ライブハウスごとに環境も異なれば音や機材の考え方が異なり、一律に同じシステムで録音するということが難しいためです。
普段はステージ上のマルチボックス(マイクケーブルを挿すところ)で分岐してもらうことが多いのですが、CLAPSさんの場合はマルチボックスが分岐できないタイプのものでした。今回はPAさんと相談の上、PA回線とは完全別系統でレコーディング用マイクを立てることになりました。
※僕のシステムは小規模ライブハウス等に最適化しているためアナログ分岐前提ですが、Danteレコーダーをお持ちでしたらコンソールがQL5なのでデジタル分岐できると思います。(もちろんPAさん次第です)
PAとレコーディングで求める音が異なるため本来は今回のようにPA/レコーディングで別のマイクを立てるのが良いのかもしれません。
が!
それは同数のマイクスタンドがステージ上に立つことになるので、まぁなかなかの本数になります。ステージの広さ、見た目などにも影響するので、一概に別立てが良いかというとそれは難しいわけです。
特に僕はライブというのはライブを観に来たお客さんを一番大切にしないといけないと考えていますので、お客さんが見ても明らかに気になるようなマイクの立て方、セッティングは避けるようにしています。
結果的なチャンネルアサインは以下のような感じです。
別立てといってもステージの広さにも限りがありますので、無駄に多く録音しておくということはできません。また、ボーカルやサックスなどの楽器はそもそもマイクを2つ立てることが困難です。
ということで、SAX/EWI及びMCマイクについては、PA側でレコーディング用にコンソール上のAUXで分岐出力してもらったものを録音しました。このあたりは事前にPAさんとよく相談して決める必要がありますね。快くご対応いただきありがとうございました。
ホールのステレオマイクについては、もともと同じレコーダーに収録しようかと思いましたが、会場内での長距離引き回しが接客導線の関係などで難しかったため、ハンディレコーダーを採用しています。同様にバックアップレコーダーにもハンディレコーダーを採用しました。
ということで結果的に22chのレコーディングシステムです。
ビブラフォンへのマイキング・PAマイクとの違い
まずはビブラフォン。エンジニアやってるといってもそんなに何回も録音したことがある楽器ではありません。頭突っ込んで耳で聞いてマイク位置を決めました。
マイクはAKG C480B Comb ULS61です。終演後のバラし直前の写真なのでPAのマイクがなくなってます。中央に広めの距離でA-B配置(※マイクの立て方の名前です)。かなりステージ上の音に埋まってしまうと思われたので、各パイプとの距離をなるべく等距離にと考えてこの位置になりました。
PAマイクと一緒の写真はこちら↓。
手前のSHURE SM57がPAのマイク、下方に見えるのがレコーディング用AKG C480B Comb ULS61です。PAの方がオンマイク(近くへの設置)ですね。PAの場合はモニター返しなども考えるとハウリングに強い位置にする必要がありますので、可能な限りオンマイクというのは納得。レコーディング専用回線であればハウリングを考慮しなくて良いので自由なセッティングができます。
かと言って離しすぎると音量が小さくなってミキシングで扱いにくくなりますので、リハーサルで録音した音を聞きながら距離を調整です。
ピアノのマイキング
ピアノはこちら。ちなみにCLAPSさんのピアノはYAMAHA C3です。
両端がPAマイク、中央2本がレコーディング用AKG C214B Stereo Pairです。PAはおそらくAKG C391B。これは個人的な好みもありますが、左右に分離した音像がそもそも好きではないので、基本的なA-B配置でのセッティングです。
ドラムのマイキング
次はドラム。こちらのジャズということでマルチにしすぎる必要はないので、タムを省略したセッティングです。手前2本がPAのトップマイク、後ろの2本がレコーディング用です。
これも好みが出ていますが(笑)、分離した音像が嫌いなのでX-Y方式(※マイクの立て方の名前です)でのセッティングです。
別アングルで。
当然ですが、マイクの設置位置によってシンバルの音量に差が出ます。シンバルを出したい時はフロントからが有利ですが、ドラム全体の音を録りたい時は後ろ上方が自然な音で好きです。特に千里ちゃんのドラムはとても良く鳴っており、かつ音量バランスが良いので、トップのマイクだけでも成立するレベル。ということで、上記のようなマイキングでドラム全体の音を狙いました。
録音した音を聞いてみたところ、やはりフロアタムの低音だけは距離が遠くてフロアタムの低音を拾うのが厳しかったので、後で低音用にマイクを足しました。バスドラム用のマイクbeyerdynamic TG D52dをフロアタムに使うのがお好みです。
ということで。
どんな音になったかはぜひDVDでチェックしてみてください。録音が好きな人には参考になるのではないかなと思います。
もうね、最高です、このライブ。笑
何回でも見たくなる演奏です。楽しい!
ライブ収録はこの一期一会の感じが好きです。その場でしか味わえない演奏や雰囲気を残す、いわばタイムマシンです。ぜひ聴いてみてください。
ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。