サチュレーターって何?どうやって使うの? 倍音とノイズ  [難しさ:やさしい vol.113] MIX/ミキシング/エフェクトの使い方 

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サチュレーターは、ミキシングにおいて使うエフェクトの中でも名前から効果が連想しにくいエフェクトのひとつ。しかしながら、音の立体感を作っていく上でとても便利なエフェクトです。この記事ではサチュレーターの効果と使い方、付加される「倍音」についても説明しています。サチュレーターを理解すると、「なんかいい音」の正体を少し理解することができるでしょう。

動画版

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サチュレーターとは?

サチュレーターとは、アナログ機器で得られる音楽的な歪み倍音を好きなだけ付加することができるエフェクト(プラグイン)です。簡単に言えば、アナログ機器を通したような音が得られるエフェクトです。

サチュレーターを使うとメーターの触れ方は同じでも前に出てくる音になるので、フェーダーを上げずにバランスをとることができるようになります。これはミキシングを仕上げる過程において非常に有効です。

以下は筆者が愛用するサチュレーター、Wave Arts Tube Saturator 2です。特定の実在する機材をモデルとしたものではなく、真空管アンプをモデリングしたとされています。ONにするだけで効果が発生し、DRIVEを上げていくと効果が強くなります。また、選択する真空管によってサウンドが変化します。(12AX7/12AU7というのは音響機器でよく使われる真空管の名前です。)

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時代の変遷とともにアナログのミキシングコンソールやアウトボード(エフェクト)を使うミキシングから、デジタル機器だけで完結するミキシングに変化してきました。とても効率的に、かつ安価に、良い音でミキシングすることができるようになりました。一方で、デジタルの音は冷たいと言われてきました。サチュレーターを使うことで、デジタルサウンドにアナログの温かみを付加することができます

ほとんどのサチュレーターはかなり歪んだサウンドを得ることができ、ディトーションエフェクトオーバードライブエフェクトと同じような効果も得られます。方向性としては同じなのですが、オーバードライブやディストーションよりも弱めの「自然な歪み」を与えるエフェクトだと捉えると理解しやすいでしょう。

ちなみに、サチュレーションはSaturationと綴り、「飽和」を意味します。レコーディングにおける飽和とは、使用可能な音量の限界に近い状態、つまりはレベルオーバーまたはそれに近い状態を指しています。アナログ機器では飽和した状態に近づくことで得られる音があり、それをシミュレートするのがサチュレーターなのです。

サチュレーターは何をしているの?

温かみや歪みと言ってもわかりにくいので、実際にどのような働きをしているのか、プラグイン解析ソフトPlugin Doctorでチェックしてみましょう。

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その1 周波数特性を変化させる

以下はオフの状態。横に伸びるピンクの線周波数特性を示します。左が低い音、右が高い音で、上下は音量です。以下の画像では横一線なので、低域から高域に至るまで音量の上下がない「フラット」な特性を示しています。

現段階ではサチュレーターをオフにしているので、フラットな状態になっています。

Tube Saturator2 OFF状態での特性

このフラットな信号をサチュレーターに入力すると、どのような音になって出力されるのかをチェックします。

Tube Saturator2をオンにしました。DRIVEは[0(最小)]に、真空管のタイプは[12AX7]を選択しています。

Tube Saturator2 ONの時の特性

ご覧の通りで、低域は100Hzあたりからローカットされ、中域以上では特性に揺れがあるだけでなく、細かい縦線が出ているのがわかります。この縦線はTube Saturator2によって付加されたノイズです。

さらには、全体の音量も0.7dB程度下がっていることがわかります。

ノイズの付加やレベルの低下など、一見音が悪くなっているようにも見えますね。しかしその通りなのです。

アナログ機器は特性として完璧ではないのですが、その曖昧さや不完全さが音楽制作で好まれるのです。綺麗な音で録音して汚していくと考えれば良いでしょうか。なんとも不思議な話です。

その2 倍音やノイズが付加される

サチュレーターで付加される音をチェックしてみましょう。

以下はPlugindoctorのHarmonic Analysis機能。どのような音が付加されたのかをチェックする画面です。以下の画像はTube Saturator2がオフの状態です。

中央の線が入力するチェック用の信号音で、996.1Hz/-2.52dBという内容です。Tube Saturator2にはこの音だけを入力して、どんな音が付加(追加)されるのかをチェックします。

ちなみに、下の方にあるたくさんの線はノイズなのですが、-175dB以下の超低音量のノイズなので無視してください。

Tube Saturator2をHarmonic Analysisでチェックする

Tube Saturator2をオンにしてみました。設定は先程と同じでDRIVEを[0]に,12AX7を選択しています。

Tube Saturator2をオンにしたら倍音が付加された

ご覧の通りで、色々な音が追加されました。

入力した信号音以外の線は付加された音を示しています。特に注目すべきは倍音と呼ばれる音で、下向きの矢印で示したものです。詳細は割愛しますが、音は基音と倍音で構成されており、その内容でどんな音になるのか決定されます。996.1Hzの信号音を入力したら色々な倍音を勝手に付加されて豪華な音になって出力された、といったニュアンスで捉えてください。

また、下側の赤枠はすべてノイズです(苦笑)。-125dB以下の低レベルノイズなのであまり気になりませんが、せっかくノイズの無い音で録音したのにノイズを付加されるということになります。

周波数特性と同様ですが、勝手に色々なことをされていることがおわかりいただけたでしょうか(苦笑)。

勝手に音が変わってしまうのですが、しかし、これがアナログ機器だったのです。通すと音が良くなると感じる機材やエフェクトは、上記のような倍音の付加やノイズの付加が行われていることがほとんどです。

その3 コンプレッション効果を与える

サチュレーターはアナログ機器のような音にする過程で、コンプレッサーのような効果を得られる場合が多いです。

例えば以下はTube Saturator2のDRIVE設定を[50]まで上げた時のDynamicsの変化(入力と出力の音量の関係)を示したものです。グラフ右上、ピンクの線が曲がっていることがわかります。

Tube Saturator2のダイナミクス変化

横軸が入力音量、縦軸が出力音量なので、線が横軸に並行ということは、入力音量が上がっても出力音量が上がらない=コンプ/リミッター動作ということがわかります。入力音量やゲイン、ドライブを上げていくことでコンプレッサーのような効果が得られ、程よい音圧感が「いい感じ」に繋がっているのです。


他のサチュレーターもチェックしてみました。以下はsoundtoysLittle Radiatorです。Tube Saturator2と比較するとワイルドなサウンドで、大きな変化を求める場合に使っています。ご覧の通り、派手な倍音・ノイズの付加が行われていました。周波数特性もかなり大きく変化しています。

soundtoys Little Radiator Linear Analysis
soundtoys Little Radiator harmonic Analysis
soundtoys Radiator5

サチュレーター以外でも倍音やノイズは付加される

さて、倍音やノイズを付加することでいい感じの音が出てくるということですが、この効果はサチュレーター以外のエフェクトでも得られます。アナログ機器を模したEQやコンプなどを通すと、ほぼ間違いなく何らかの倍音付加が行われます

以下はWavesAPI-550Aです。ドラムなどでよく使います。シンプルに4つの倍音が付加されているのがわかります。

Waves API-550AのHarmonic Analysis

こちらはT-RACKSEQ-73。かなり楽しそうな音の変化です(苦笑)。

T-RACKS EQ-73

最後に、こちらはT-RACKS Space Delay。しかもDRY/WET0%設定(=エフェクト音なし)ですが、これだけ倍音とノイズが付加されています。通しただけでこの音になる、ということです。

T-RACKS Space Delay

このように、アナログ機器を模したエフェクトでは倍音やノイズが付加されます。サチュレーターとの違いは、歪みの量を可変することができないということでしょう。サチュレーターの場合は歪みを増減できるため、どの程度アナログ風味を付加するのかを選択できることが利点です。

アナログ機器を模したエフェクトは皆同じ、ということで、鋭い人はお気づきでしょうが注意点があります。

倍音を付加するようなエフェクトをむやみに重ねて使いすぎると、色々な音が付加されてキャラクターが弱まっていきます。例えば、先程のEQ-73のサウンドを色濃く出したい場合はサチュレーターと併用しないほうが良い、というケースがあるので注意しましょう。

サチュレーターの使い方のコツ

ここまでで説明したように、アナログ風味を好きな分量だけ付加できるエフェクトなので、簡単に言えば「いい感じの音」にしたいトラックに使っていけば良いでしょう。かけるだけで音が前に出てくるので、EQやコンプ、その他エフェクトをいくつもかけて音作りするよりも良い結果が得られることが多いです。

いくつかのコツがありますので、お伝えしておきます。

その1 すべてのトラックで使わない

目立たせるトラックを決めて、目立たせたいトラックだけに使いましょう。すべてのトラックをいい音にしてしまうよりも、主役級と脇役級で音の差を作る方が主役が目立ちます。

よく使うのは、ボーカル、バスドラムやスネア、ベースなどのトラックです。またはソロ楽器やサックスなどの旋律を奏でる楽器にも有効です。ベースにおいては、以下の記事で紹介している「ベース・ドライブ」という手法が同じような目的であり、同じような効果が得られます。

その2 入力音量に気を配る

先述のようにコンプレッション効果が重要な役割をもつ場合が多いので、入力音量が小さすぎるとコンプレッション効果が得られず効果が少なくなります。強い効果を得たい場合は、大きめの入力信号になるよう調整しましょう。

したがって、強い効果を得たい場合はプラグインスロットの最後、EQやコンプの後に入れると効果的です。逆にスロットの初段では音が大きい時だけ効果が強くなり、レコーディング時に使用したような音になります。

慣れるまではまずサチュレーターを使用し、サチュレーター前段にコンプやEQを足していくと無駄がなくて良いでしょう。

その3 全体で再生しながら設定値を決める

ソロ再生ではなく、他のトラックと一緒に再生しながら歪みの量や設定を決めましょう。ソロで聞くと歪みすぎに聞こえる場合でも、全体で再生すると気にならないことが多いです。多くの場合はDRIVE(歪み)を多くすることで、付加される倍音の量が増えていきます。つまり、歪みを強くするほど目立ちやすい音になります。

このとき、厳密に比較すれば「音が大きくなっているだけかも?」という場合もあるでしょう。しかし細かいことは気にしなくて良いので、サチュレーターを使って良い音になったと感じたらそれで良しとしましょう。


ということで、サチュレーターの解説でした。サチュレーターが理解できると、なぜアナログっぽいプラグインをかけると音が良いと感じるのか理解できるのではないでしょうか。

テープエミュレーターやマスタリング用エフェクト等でも「サチュレーション」というパラメーターとして搭載されていることがあります。これらは概ね同じ効果で、サチュレーターはアナログをモデリングしたエフェクトのうち、サチュレーション効果だけに特化したエフェクトとも捉えることができます。

効果的にサチュレーターを使うことで簡単に音を前に出すことができるので、理解して積極的に使ってみましょう。

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