叩いてみたの作り方 生ドラムの音作りその3 オートメーションを活用してくっきりバスドラム [難しさ:やさしい vol.062] GarageBand/ガレバン/ミキシング
生ドラムの音作りをミキシング初心者〜中級者向けに解説していくシリーズの第3回。今回は最後のボリューム調整をして叩いてみた用の音源を仕上げてみます。
第1回、第2回を読んでいない人はぜひ第1回からお読みください。
今回の記事と連動した動画もあります。

動画で使っているドラムカラオケはアルファノートさんから発売されている森谷先生の教則本「動画でドラムひとり遊び! ドラマーが夢中で叩きたくなる人気曲レシピ【改訂版】」に収録されています。この本に収録されているドラムカラオケはYouTubeの叩いてみたにそのまま使える音源なので、ぜひ手に入れてみてください。
なお、全曲筆者がドラムレコーディング、ミキシングをさせていただきました。
また、動画のドラム音源は森谷先生のドラムスクール主催の公開レコーディングセミナーで収録されたものです。筆者が講師を努め、レコーディングさせていただきました。
収録したドラム音源は権利の関係で配布ができませんので、ご自身で収録されたドラム音源を使って挑戦してみてください。
目次
使っていないトラックも聞いてみましょう
ここまでの音作りでは「すべてのトラックを出さなくても良い」というコンセプトで進めてきたので、ハイハットとタム類のトラックを使っていません。第3回ではついにこれらのトラックを使用しますので、ハイハットとタムのトラックの音を作っていきましょう。
ハイハット
ハイハットのトラックをソロで聞いてみましょう。ハイハットのトラックにもハイハット以外の音がたくさん入っていることがわかります。これまで勉強した通り、異なるトラックの音同士が干渉しますので、低域を中心に「ハイハットのトラックとして不要な音=ハイハット以外の音」をカットしてみましょう。
すべての音はカットできませんが、以下のようにイコライザー(ローカットフィルター)を使用することでバスドラムとスネアドラムをかなりカットできます。

画像では、ローカットフィルターを395Hzに設定しています。この設定によってハイハットのトラックに含まれるバスドラムとスネアドラムの低域がカットされ、結果的には同時に音を出したときにバスドラムとスネアドラムのトラックが生き残るようになります。
ハイハットの音についてはどのようなハイハットにしたいかというイメージも重要です。例えば「高域が綺麗で繊細なハイハット」と「中域が強調されたワイルドなハイハット」の2種類に分けると考えやすいでしょう。どちらにするかでイコライジング(イコライザーをかけること)が変わってきます。
「高域が綺麗で繊細なハイハット」では、低域カットを強め、高域をシェルビングイコライザー(紫)でブーストします。

「中域が強調されたワイルドなハイハット」では、1kHz付近の中域をピーキングイコライザーでブーストしてみます。

このように、イコライジングで音の方向性を変えることもできます。
フロアタム
続いてフロアタムですが、はっきり言ってバスドラムだと思えばOKです。特にドラムの口径が同じくらいなら、全く同じ音作りでもいけます。バスドラムと同じようにイコライザーとコンプレッサーをかけてみましょう。
アタックと胴鳴りの2箇所をブーストしてみました。

コンプレッサーもバスドラム同様にRock Kickのプリセットを使ってみました。

タム
タムについてもフロア同様に、バスドラムと同じ要領で音を作ってみてください。ポイントは、胴鳴りのポイント(周波数)がそれぞれ異なること。他は同じだと考えて差し支えないです。以下の画像は上からハイタム、ミッドタムのイコライザー。異なるのは胴鳴りの周波数なのです。


ボリュームとパン
さて、ハイハットとタムの音作りをしたら全体で再生してみましょう。
すると、ハイハットとタムが出ていなかった時と比較してバスドラムとスネアドラムの音が聞こえにくくなっていることがわかると思います。この状態を抜けが悪くなった、引っ込んだなどと表現しますが、原因は相互のトラックの音の干渉です。
干渉を避けければ元通りの抜けの良いバスドラム・スネアドラムになります。回避する方法は色々ありますが、最も簡単なのはパンを使うことです。パンとは音の左右位置を決めるパラメーターで、各トラックのつまみを回すことで簡単に変更できます。以下のようにセッティングしてみましょう。
ハイハット:-25
ハイタム:-20
ミッドタム:+20
フロアタム:+45

この配置は「ドラマー定位」という配置で、ドラマー側からみた配置で音が出てきます。ドラマーさんでしたらドラマー配置の方が気持ち良いと思いますので、まずはドラマー配置を試すと良いでしょう。逆に聞いている側の定位は「リスナー定位」と言われています。ちなみに筆者はリスナー定位を基本として、ドラムの映像の内容によってどちらが最適か選ぶようにしています。
これでスネアドラムについてはかなりもともとの聞こえ方に近づきますが、バスドラムは濁ったままになるでしょう。大技をお伝えしますので、一旦ハイハットとタムのボリュームを絞って(ゼロにして)ください。
オートメーションを使って必要なところだけ足す
当然ですが、タムの音が必要なのはタムが鳴っている時だけです。つまり、フェーダーというのは常時上がっている必要がなく、タムの音が必要な時だけ上がっていれば良いのです。このニーズを叶えてくれるのがオートメーションという機能です。
タムのオートメーション
オートメーションを使ってタムの音が必要なところだけフェーダーを上げてみましょう。
[上部メニュー>ミックス>オートメーションを表示]と選択してください。

続いて、フィルなど、タムの音を出したい部分を探してトラック上をクリックします。黄色い点が出ますので、黄色い点を3つ出して、必要な音を囲みましょう。
以下の画像では、ハイタムの音がある部分を3つの点で囲んでいます。

続いて、3つの点のうち真ん中をつまんで上に持ち上げましょう。ポイントは、持ち上げた点の部分に大きい音の波形の開始点が合っていることです。三角形の中に波形が収まるイメージで動かしてみてください。

同じようにミッドタム、フロアタムもオートメーションを作ります。この作業を「オートメーションを書く」「フェーダーを書く」と表現します。
必要な音が長い時は、点を4つに増やして台形を作りましょう。

フェーダーが書けたら再生して聞いてみましょう。不要な箇所では音が出なくなりましたので、バスドラムとスネアの抜けの良さが戻ってきていると思います。
このように、必要な音と不要な音を仕分け、不要な音をカットしていくことが綺麗な音作りにはとても重要です。すべての音が無造作に鳴っている状態はいわば無法地帯。音を精査し、仕分けすることが必要なのです。
あとは適切なボリュームに調整しましょう。オートメーションを使った場合、各トラックにもともとあるフェーダーを操作してもオートメーション優先となり操作を受け付けません。音量を変更する場合はオートメーションを修正しましょう。

また、タムの音があるからといってすべての箇所を上げる必要もありません。楽曲の展開にあわせて必要なところだけ、トップのトラックに含まれるタムの音で足りないところだけ上げるようにしましょう。
以下の画像で丸印の部分はタムの音はありますが、フェーダーは上げていない箇所です。

ハイハットのオートメーション
ハイハットのトラックもオートメーションを書いてみましょう。ハイハットでは逆に、うるさいところを下げるという使い方をしてみます。ハイハットではクローズドとハーフオープン・オープンの音量差が大きいため、この音量差を是正するのにオートメーションが使えます。
クローズドハイハットでちょうどよく聞こえるボリュームに調整し、うるさいと感じるところを探します。タムと同じ用にうるさいと思う音の前後を3つのポイントで囲みましょう。

続いて、タムと反対にうるさいところをつまんで下げましょう。

全体を聞きながらうるさいところを見つけて下げていきましょう。

オートメーションで演出・表現をする
かなり良い感じになってきたと思いますが、最後にセクション頭のシンバルを上げて盛り上がるようにしてみましょう。
トップのトラックでサビ頭などのセクション頭だけオートメーションを書いて瞬間的に音量を上げてみます。

サビがサビらしくなってきます。このようにオートメーションは演奏表現の補完にも使うことができます。
例えば、フロアタムのサビ前の連打にダイナミクスをつけて盛り上げることもできます。「本当はこう演奏したかった」というのをオートメーションで補完するイメージでやってみてください。

最後の仕上げ
あとは書き出してしまえば叩いてみた用の音源が完成ですが、最後にもうひとつだけ仕上げをご紹介しておきます。この仕上げは少し難しくなりますので、無理してやらなくても大丈夫。興味がある人はやってみてください。
メータープラグインを使えるようにする
GarageBandのメーターは数値の表示がないために細かい音量の監視ができません。無料で使用できるメータープラグインがありますので、インストールしてみましょう。以下の記事を参考にMelda Production社のプラグインバンドル(セット)をインストールしてください。
このバンドルに含まれるメータープラグイン「MLoudness Analyzer」をマスタートラックの最後に挿入します。
[スマートコントロール>マスター>Output]と選択し、プラグインスロットの最終段に[MLoudness Analyzer]を挿入しましょう。

[MLoudness Analyzer]は、[Audio Units>Melda Production]の中に入っています。

立ち上げるとこのような表示が出てきます。これがメーターです。このメーターの中のTrue Peak(トゥルーピーク)という数値に注目。これがマスターの音量です。True Peakが0.0dBを超えていない=マイナス表示であればOKです。

マスター音量の調整
メーターで音量を見られるようになりましたので、前々回に挿入したリミッターを操作して音量の最終調整をしましょう。
リミッターの[Gain]を上げることで全体の音量がアップしていきます。音に違和感がない範囲でGainをアップして、最後にTrue Peakが0.0dBを超えていないか確認しましょう。

GarageBandから音源を書き出したら、動画編集ソフトで映像と合わせて動画を完成させましょう。動画編集ソフトでは、動画の方の音はミュートしてGarageBandで作成した音だけ再生されるようにしてくださいね。
3回に渡って叩いてみた用のドラムサウンド作りをお伝えしてきました。
ポイントをまとめると、録音した音を出す必要があるのか無いのか、仕分けをすることが最も重要です。ミキシングというと高額なプラグイン等を使って音作りをするイメージがありますが、基礎がなければ良い音にはなりません。
音の仕分けを行い、不要なものは下げ、聞かせたいものを上げる。
この考えを忘れないようにたくさんの作品を作ってみてください。
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ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。