スペクトラムアナライザーって何?無料プラグインでできる3つの簡単活用法[難しさ:やさしい vol.057] スペアナ/MAnalizer/Melda Production
人間の耳の感覚というのは曖昧であり、耳は毎日同じ状態になりません。同じ音量が大きく聞こえる日もあれば小さく聞こえる日もあります。良いミキシング、もとい、責任ある音作りのためには耳だけに頼らずメーター類で視覚的に音を監視する必要があります。
また、メーター類を使って視覚的に音を確認することは作業の効率化、スピードアップにも貢献。もちろん耳の感覚を信じて音を作ることが第一義であり重要なのですが、メーター類を活用することもまた重要なテクニックであり、ノウハウと言えます。
今回はメーター類の中でもスペクトラム・アナライザーというメーターの読み方と活用法を初心者さんでもわかるようにお伝えしていきます。
動画版はこちら↓

目次
スペクトラム・アナライザーとは?
他の記事・動画でも登場していますが、改めてお伝えしておきましょう。
スペクトラム・アナライザー(Spectrum Analyzer、以下スペアナ)は、入力された信号を周波数ごとに分解し、分解した周波数ごとの信号レベルを表示する機器やソフトウェアです。
難しいのでざっくり説明すると、どの高さの音がどのくらいの音量になっているかを目で見るための機器・ソフトウェアです。
実際に見てみましょう。

筆者がマスタリングに使用するソフトウェア、Steinberg Wavelabのスペアナで、筆者の楽曲「ANSWER」を表示したところです。
横軸が周波数(=音の高さ)で、右が高い周波数(=高い音)、左が低い周波数(=低い音)です。
縦軸は音の大きさで、上に行くほと音量が大きいということになります。
このスペアナでは最低周波数は15Hz、最高周波数は(数値が表示されていませんが)24,000Hz=24kHzとなっています。人間の可聴周波数(聞こえる音の高さの範囲)は20Hz〜20kHzと言われています。
当然のことながら、1曲を通して楽器構成や音量、その他もろもろ、というか全ての要素が変化しますので、見るタイミングによって表示が変わります。
以下の画像は同じ曲「ANSWER」のイントロの部分です。

いかがでしょう?上下がなく真ん中に集中した表示になっていることがわかります。
どういう音なのかは曲を聴いていただくと一目瞭然。イントロがラジオボイスのような音なのです。ラジオボイスと呼ばれる音は低域と高域がカットされた音ですから、スペクトラム・アナライザーの表示も真ん中に寄ったものになります。
さらにはAメロの部分だと以下のようになりました。

ではイントロ、Aメロ、サビ、3つ重ねて観察してみましょう。
ピンク:イントロ
水色:Aメロ
黄緑:サビ

どのようなことが読み取れるでしょうか?
Aメロとサビの比較では、サビの方が高域成分が多いことがわかります。
理由は、サビを盛り上げるべく楽器数が多いこと、アレンジや音作りを派手にした結果、サビの高域成分が増えたためです。視覚的にもサビの方が盛り上がっていることがわかりますね。
これを踏まえて、曲を聞いてみてください。
なお、スペアナは音楽制作だけで使うものではありません。どちらかというと産業系の計測などで多く使われるため、検索すると産業系の情報が多く見られますので、気をつけてください。
スペクトラム・アナライザーを用意する
もともとはハードウェアであり、高価な機器でした。計測器という役割上独立して動く機器であるほうが信頼性が高くなる(=他の機器の影響を受けない)ため、今でもハードウェア・スペクトラム・アナライザーの役割はあると思いますが、事実上単体のハードウェア製品はほぼなくなってしまったようです。
スタンドアロンのスペクトラム・アナライザー
現在はソフトウェア、またはプラグインのスペアナが主流です。
筆者は使用しているRME社のオーディオインターフェースで使用できるメーター・アナライザーソフトウェア「Digicheck NG」を使用しています。非常に有用なソフトウェアですがRME社の製品を買わないと使えません。
最も優れている点は独立したソフトウェア(スタンドアロン)であること。無料のスペアナは多くあるのですが、そのほとんどがプラグイン形式であり、DAWを起動しないと使うことができません。RME Digicheck NGはDAWを起動せずに使用することが可能です。

無料のスペアナ1 Melda Production MAnalyzer
単体ソフトウェアではありませんが、無料で使えるスペアナ・プラグインがありますので、持っていない人はインストールしておきましょう。

インストール方法はこちらの記事を参照してください。他のプラグインも一緒にインストールされます。
無料のスペアナ2 Voxengo SPAN
こちらも人気のある無料プラグインです。
[追記予定]
イコライザーのスペアナで代用する
最近は多くのイコライザープラグインでスペアナが表示できるようになっています。したがって、スペアナを使いたい時にイコライザーを挿入することで代用が可能です。
CubaseやGarageBand純正のイコライザーにもスペアナが搭載されているほか、筆者が多用するのはWaves F6-RTAイコライザーです。”RTA”はReal Time Analyzer”の略です。




ミキシングでの活用方法
では実際のミキシングにおける活用法を見ていきましょう。
準備:マスタートラック最終段にスペクトラム・アナライザーを挿入する
様々な使用方法がありますが、まずは聞いている音を目で見る使い方を覚えましょう。
聞こえている音の状態を表示するためには、各トラックではなくマスタートラックの、しかも最終段に挿入して使用します。
音の変化を伴うイコライザーやコンプレッサーなどのプラグインの前に挿入すると、スペアナで監視している音と聞こえている音に差が出てしまいます。
Cubaseの場合、以下のようにプラグインスロットの緑色の線より下に挿入します。緑色の先より手前はフェーダーの手前になるため、フェーダーによる音量操作の影響を受けてしまいます。

起動したら設定を行います。使っていくうちに好みの設定が出てくると思いますが、まずは以下の設定を試してみましょう。
MAnalyzerはFree版では画面の大きさが変更できません。スペアナは大きな表示の方が使いやすいので、右側のメータセクションを非表示にして広くしましょう。メーターの下のボタンを押すと非表示になります。

続いては[AVERAGING][SMOOTHNESS]をそれぞれ[3000ms][1.5%]に設定しましょう。
[AVERAGING]は動きの細かさ、[SMOOTHNESS]はグラフの細かさのようなものを設定します。用途によっては細かくした方が良いのですが、細かすぎると疲れてしまいますので、まずはゆったりとした表示に設定してみましょう。
また、赤枠のボタン[NORMALIZE]は消灯させます。このボタンが点灯(=ON)になっているとグラフ上辺をあわせてくれて見やすい一方で、実際のレベルと異なる表示になります。監視用途で使う場合は消灯させたほうが良いでしょう。

活用1 見えない低域を監視する
実際の活用方法を見ていきましょう。
自宅環境において最も有効な使い方が「低域の監視」用途です。
ご自宅のスピーカー、低域は何Hzまで再生できますか?
人間の可聴帯域は20Hzからと言われていますが、よほど大きなスピーカーでないと20Hzなどという低域は再生できません。それどころか、自宅クラスで使用できる3インチ〜5インチスピーカーの再生能力は80Hz前後からというものが多いと思います。
つまり、低域はちゃんと再生できていないことが多いのです。
補完するために低域再生能力の高いヘッドホンを使うのが有効ですが、同時にスペアナを使って監視することでより安全性の高い音源を作ることができます。
なんでも良いので既存の完成音源をDAWに取り込んで、低域を100Hzのシェルビングに設定し、ブースト・カットしながらスペアナを観察してみましょう。

ご自宅の環境でイコライザーによる低音変化はきちんと聞き取ることができるでしょうか?
スピーカー、ヘッドホン、色々な機器で試してみてください。かなりブーストしないと聞き取れない機器もあると思います。
100Hz前後ならまだ良いのですが、50Hz以下の超低音になるとかなり難しくなります。そして、再生時にスピーカーが歪む原因になりやすいのが超低域です。特にカーステやiPodスピーカーなど、容量が小さいのに低域を頑張って出すスピーカーで歪みやすくなります。原因は管理されていない超低域というケースが多いのです。
スペアナで監視していると、聞こえていない低域の量を知ることができます。他の帯域に比べて明らかに大きい場合は、イコライザーで低域をカット/コントロールする、ローカットフィルターで削減するなど、低域をコントロールする対策をしましょう。
活用2 スペアナのカーブを監視する
続いては、全体のカーブ=周波数特性を監視するという使い方です。
スペアナの表示を3000msに設定しました。比較的ゆっくりとした表示になりますが、結果、全体の音の分布が見えやすくなります。
下の画像の緑のラインが、周波数特性のイメージです。低域と高域がやや盛り上がり、中域が少なくなっています。このような特性の場合は派手な音に聞こえます。
活用しやすいのは、高域のカーブについてです。5kHzくらいから上のとカーブと、2本の矢印に注目してください。

赤い矢印のように、フラットなまま伸びていくカーブの場合は明るい音になります。ぱっと聞いた感じでいい音に聞こえやすい音です。できあがった音が暗く聞こえる場合はこのカーブがフラットに近づくようにマスタートラックのイコライザーで調整しましょう。(もちろん完全にフラットにはなりませんのでご注意)

逆におとなしい、落ち着いた音色にしたい場合は赤い矢印のようなイメージで高域カーブがなだらかに落ちるように調整していきます。
どちらもスペアナ無しでもできることですが、スペアナを使うことでその日の体調や環境に左右されず安定した音作りができるようになります。音を長時間作っていると耳が疲れてきて高域を落としがちになりますが、意外と気づかないものです。
スペアナによって強制的に客観的になることができるのです。
活用3 録音した音の音溜まり(反響音)を見極める
活用3はマスタートラックではなく、個別トラックでの使用です。マスタートラックでの活用が理解できてきたらチャレンジしましょう。
マスタートラックではなく個別トラックにスペアナを挿入します。もしくは、イコライザーについているスペアナを使用します。ここではCubase標準搭載のスペアナを使用してみましょう。
不要な音を確認する用途において重要なのは、スペアナで見る前に耳で不要な音を覚えることです。スペアナ先行で膨らんでいる場所を「不要な音」と考えてしまうと、おいしい音も不要な音に見えてしまいます。耳で聞いて不快だと感じる音を覚えて、その場所をスペアナで探す感覚で使いましょう。
以下ではギターの音について、中域の「ふお〜ん」という音が不快でしたので、その音を耳で覚えてからスペアナを見ます。この時に明らかに膨らんで表示されている場所があればその場所を少しカットしてみましょう。スペアナの山を見つけてイコライザーをあてていく感じです。

スペアナを見ながら探すことで、耳だけで探すよりもスムーズに、かつ正確に探し当てることができるでしょう。

見つけたらカットしてみましょう。

注意点は何度も書きますが、スペアナを見てからイコライザーを切らないこと。先に耳を使ってください。
スペアナを見ながら膨らんでいる場所をカットしていくと収集がつかなくなり、無駄にたくさんのポイントをカットすることになります。そして、いくらカットしてもスペアナの画像はフラットにはなりません。
イコライザーというのはかければかけるほど音が悪くなります。1箇所カット・ブーストすると他の帯域にも影響が出るので、カットせずにすむならカットしない方が良いのです。耳を使ってイコライジングすると最低限で済みますが、スペアナを基準にイコライジングすると際限のないカット地獄に入ってしまいます。
スペアナは参考資料である
お伝えしてきましたが、スペアナを使う上で肝に銘じていただきたいのは、あくまで参考資料であるということ。
スペアナを基準に音を作っていくと気持ちの良い音にはなりません。
思っていたよりも低域が出ている、出ていない、派手さが足りていない。
耳で感じている音と実際の音のギャップを是正していくためのツールがスペアナなのです。スペアナを基準に音を作ったとして、出来上がったフラットな音はおそらく全く面白みのない音です。スペアナは作るためのツールではなく確認するためのツールだということを忘れずに使いましょう。

ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。