リハスタのミキサーで信号の流れを覚えよう ミキサーの使い方 [vol.038 難しさ:やさしい]
グループチャンネル、バス、エフェクト、イコライザーなどのプラグイン。DAWを使って音作りをしていると、信号の流れがややこしい、難解であると感じることがあるのではないでしょうか。
DAWの信号経路やエフェクトの構造は実在するハードウェアがベースになっていることが多いのですが、実物を触ったことがないという方も多いでしょう。ハードウェアをソフトウェア化した世界なので、実物を少し知っているだけでかなり理解しやすくなるはずです。
この記事ではリハーサルスタジオにあるPAミキサーを用いて信号の流れ、音の出し方を説明しています。機会があればぜひ実物のミキサーで音を出してみてください。DAWだけでは理解できなかったことが、少し理解しやすくなるかもしれません。
目次
ミキサーを使う準備
音をスピーカーから出す心構え
ミキサーを使う上で気をつけるべきは、音量について。
PAスピーカーというのは相当な音量を出すことができますので、操作を間違えれば爆音で耳を悪くすることもありますし、機器を破壊することもあります。
音量をだんだん上げていくということを徹底しましょう。
ミキサーの初期化
操作ミスの防止、そして大音量を不用意に出してしまうことを防止するため、ミキサーが初期化できているか確認しましょう。

- フェーダーが全部最小まで下がっている
- すべてのチャンネルがミュート(ONが消灯)になっている
- すべての[GAIN]が最小に下がっている
- [PAD]スイッチがONになっている
- [AUX][EFFECT]つまみが最小になっている
ミキサーの初期化はPA機器を使う上での礼儀のひとつでもあります。次の人のために使い終わったら初期化するようにしましょう。
音を出してみよう
まずはミキサーにマイクをつないで、自分の声をスピーカーから出してみましょう。

ボリュームを上げればいいのでは?
その通りなのですが、どのボリュームを上げたらいいか、、、わかりますか?
扱いやすいレベルに調整する「ゲイン」
音を出す前に扱いやすい音量に調整します。この役割を持つのが[GAIN:ゲイン]つまみです。
また、GAINつまみの側に[PAD:パッド]というスイッチがあります。ざっくり説明すると、[GAIN]で適正な音量に調整しますが、その時に[PAD]スイッチをONにすると一回り音量が小さくなります。調整範囲の切り替えスイッチがPADスイッチです。

ミキサーには様々な機器が接続されるので、広い範囲での調整が必要になります。マイクとシンセサイザーでは音量がかなり違うので、もしGAINつまみだけだと操作範囲が大きいツマミになってしまい、操作が難しくなります。ということで、[PAD]スイッチによってGAINつまみの対象範囲を狭め、扱いやすくしているのです。

入力が大きいと想定し、まずは[PAD]ONで[GAIN]最小からスタート。声を出しながら[GAIN]を上げていきます。この時音は出ていませんから、LEDを参考にします。[SIGNAL]が点灯すれば音が入力されていて、[PEAK]が点灯すると大きすぎです。

最大音量で[PEAK]が点灯するか、しないか。
このくらいの音量になるように[GAIN]と[PAD]を使って調整してください。[GAIN]が8分目くらいまで回るようなら[PAD]はOFFにしましょう。(PAD ON=音量が小さくなります)
ミュートスイッチとチャンネルフェーダー
現在はマイクが入力されたチャンネルの[ON]が消灯、つまり、ミュート状態です。このスイッチで音が止まっています。このチャンネルはDAWで言うところのトラックと同じだと考えてください。
フェーダーを一旦下げて、[ON]を点灯(ミュート解除)。0dBまでフェーダーを上げてみましょう。

音は出ましたか?まだ出ませんね。もうひとつフェーダーを上げる必要があります。
マスターフェーダー
DAWと同様に、各チャンネルの音はマスターフェーダーに集められ、スピーカーに送られます。つまり、マスターフェーダーを上げていくとスピーカーから音が出るようになります。

ただし、DAWのように0dBスタートにすると超爆音!耳が難聴に、機材が破損!という恐れがありますので、マスターフェーダーは必ず最小から少しずつ上げていくようにしてください。ここまで出来たら、マイクの本数を増やして、同じように音を出してみてください。
それぞれのボリュームの役割
このように、音が出るまでにはたくさんのボリュームがあるのです。役割を整理してみましょう。
- GAINつまみ/PADスイッチ:機器に最適なレベルに調整するボリューム
- チャンネルフェーダー:各チャンネル間の音量を調整するボリューム
- マスターフェーダー:ミキサーから出力する音量を調整するボリューム
音響機器というのは随所に「0dB」という表記があります。この位置はNominal(ノミナル)と呼ばれ、入力された音がそのままの音量で出力される位置。原音そのままで変化がなく、ノイズが少なく扱いやすい音量ということができます。ミキサー上ではなるべく0dB付近で音が扱えるように調整すると、自然とノイズの少ない良い音になっていくのです。
リハスタのミキサーではマスターフェーダーがスピーカーの音量と連動してしまうため、あまりマスターフェーダー上げられない状態になるでしょう。リハスタのミキサーはミキサーとパワーアンプが一体になっているパワードミキサーというタイプであるためです。本来はミキサー出力は0dB付近に設定し、スピーカーの出力を決めるパワーアンプ側でスピーカーの音量を決めます。
次の場合、どのボリュームを調整するのが良いか考えてみてください。
- 音が歪んでいる時
- 何本かマイクを接続した状態で、特定のマイクの音が大きい時
- 何本かマイクを接続した状態で、すべてのマイク(スピーカー音量)が大きい時
リバーブをかける時の信号の流れ
続いて、マイクにリバーブをかけてみましょう。
リバーブセンドを上げる
PA機器において、リバーブはセンドリターン方式で使われます。マイクの信号を分岐してリバーブエフェクトに送りますが、分岐音量を決めるボリュームが[EFFECT]つまみです。これはDAWでは「センド」や「バス」と呼ばれているものです。

DAWソフトではバスやセンドを自由に作ることができますが、PAミキサーにおいては最初からセンドが作られていて、変更することができないのです。逆に言うとDAWは自由度が高すぎてややこしいので、PAミキサーのように固定されている方が理解しやすいでしょう。
[EFFECT]つまみをあげると音が送られますので、▼マークのところまで上げてみましょう。これはフェーダーで言うところの0dB(=ノミナル値)です。

しかしリバーブの音は出ませんね。リバーブエフェクト自体の音量を決めるフェーダーがあります。
リバーブリターンを上げる
リバーブエフェクトの音は他のマイク同様にマスター出力に混ぜなければ音が出ません。この混ぜる量を決めるのがリバーブリターンフェーダーです。[RTN]と記載されています。このフェーダーを上げることでリバーブの音が聞こえるようになります。

実物のミキサーはいかがだったでしょうか。
DAWというのは自由度が高いのですが、それが理解を難しくする理由でもあるのです。一度PAミキサーを触ってみれば、色々と理解できると思います。ぜひリハーサルスタジオにいって、マイクの音を出してみてください。

ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。