生アコギ(アコースティックギター)の音作りシングルマイク(マイク1本)編 [vol.035 難しさ:ふつう] ミキシング/MIX/レコーディング
前回のアコースティックギター録音編はいかがだったでしょうか。自宅でも頑張ればできること、自宅でも使える考え方をお伝えしていきたいと思っていますので、前回の内容は自宅録音でもかなり使える内容ではないかと思います。
次なる課題は録音した音をどうするか、ということです。
今回は、録音したアコギの音作りについて。アコギの音作りやミキシングは奥が深いので、初歩の概念的な部分がお伝えできればと思っています。
動画版はこちら

目次
練習用データ
録音したアコギの音は以下でダウンロード販売しています。ミキシングの練習などにご活用ください。
録音データをミキシングしやすい音量に合わせる
まずはマイク1本(シングルマイク)で録音したアコギ音声データをDAWで聞けるようにしてください。外部で録音したデータを使う場合はインポート(読み込み)しましょう。
インポートしたら、音量を確認しましょう。

音量は大きめになっている方が扱いやすいので、音量が小さい(=波形表示が小さい)場合は波形を直接操作して音量を上げておきましょう。
Cubaseの場合は赤丸の部分をつまんで上下に動かすか、赤四角の項目で数値指定して音量を変化させます。

目安としてはMAXの8割位まで音量を上げるとミキシングしやすいと思います。

音量を上げていくと不要な響きが目立ってくる罠
サンプル音源を聞く限り、よく録れているので特に音声加工を施す必要は感じませんでした。
しかし、ミキシングでは録音された状態から音量をアップしていくことになります。ジャズなどのカテゴリでは低い音量で全体のダイナミックレンジ(音量差)を保ったまま作品化しますが、POPSや歌謡曲、いわゆる(ここを読むような皆さんが)よく聞く音楽では音量を上げる作業から逃れられません。
音量をあげて聞いてみましょう。
ギターにコンプレッサーをかける
ギターのトラックに任意のコンプレッサーを入れて音量をあげてみましょう。
※アコースティックギターもアタックが速めの楽器ですので、ビンテージ系コンプレッサーを使う場合はOPTO系(LA-2A等)よりもFET系(1176等)が音量コントロールには適しています。
以下ではCubase付属のVintage Compressor(1176系コンプレッサー)を使って以下のようにセッティングしてみました。かなり音量が上がってくるのがわかると思います。
- INPUT:10.4dB(他のコンプレッサーでいうところのスレッショルドです)
- ATTACK:7.5ms(アタックタイム)
- RELEASE:AUTO(リリースタイム)
- RATIO:8(レシオ)
- OUTPUT:0dB

コンプレッサーが難しいという人は、以下のWaves Renaissance AXXのような簡単なコンプレッサーを使ってみましょう。とにかく音量を上げてみてください。
マスタートラックにマキシマイザーを入れる
続いてマスタートラックにマキシマイザーを入れてみましょう。
あくまで実際の音量で聞いたらどうなるかというシミュレーションですので、適当な設定で構いません。とにかく音量が上がるように設定してみてください。
ここではCubase標準のマキシマイザー、「Limiter」を使ってみました。以下のように設定しました。
- INPUT:7.0dB
- RELEASE:AR(Auto Release)
- OUTPUT:-1.0dB

もちろんWaves L1 Ultramaximizer等、よく使われるマキシマイザーでもOKです。
実用的な音量で聞いてみると
この状態は、「実用的な音量」ということになります。
レコーディング時に聞いている音量というのは、完成時(ミキシング後)と異なる音量だということを認識する必要があるのです。
レコーディング時よりもはるかに大きい音量で使うことになると思ってください。小さい音量の部分に関しては相当大きくなると思ってください。なぜならば、コンプレッサーで圧縮されるためです。
結果、レコーディング時には気にならなかった音が気になってきてしまいます。隠れていた部屋のノイズやアコギの部分的な響きがなどです。

アコギは音量差が大きい楽器なので、上記のように音量差を小さくする=コンプレッションする音作りが必須となります。コンプレッサーを使いこなすこと、また、コンプレッションされることを踏まえた録音を心がけましょう。
サンプル音源では、音量をあげたことで中域に「フォーン」という響きが出てきてしまいました。ここを調整してみましょう。
レコーディング技術に長けている人は時にやりすぎに見えるような細かい指摘や修正、調整をします。レコーディング時においては一見無駄に見えるかもしれません。しかし、常に完成形を踏まえて音を録っていくのでこのような作業が出てくるのです。作品を完成させたことがあるかどうかというキャリアが反映される部分だと思います。
音作りの下準備:不要な音をカットする
不要な響きをイコライザーでカットしてみましょう。Cubase標準のイコライザー等、スタンダードなイコライザーでOKです。
作業を整理すると以下のような流れになります。
- 音を聞いて不要だと感じる響きを頭に焼き付ける
- パラメトリック・イコライザーを狭いQ幅に設定してブーストし、周波数を変化させて先程覚えた響きを探す
- 見つけたらカットする

見つけたらまずは-6dB程度カットしてみましょう。音が寂しくなりすぎる場合は少なめに、まだ不要な響きが聞こえる場合は多めにカットします。
超低域にも音が見えますが、今回のフレーズでは不要なのでHPF(ハイパスフィルター、別名LCF:ローカットフィルター)でカットしてしまいます。

100HzでLCF(100Hz以下の音を減衰)をかけてみましたが、、、まだまだギターの音に聞こえますよね。
低域のカットは勇気が必要で、カットを大胆にできるかどうか(=要不要を判断できるか)で仕上がりは変わります。ミキシングというのはそもそも曲に適した音にする作業であって、原音に含まれる音をすべて活かす作業ではありません。
今回の場合は100HzでLCFをかけても十分低音が残ると判断できたため、こういう設定になりました。「この音がこの曲に必要か」という視点を持ってミキシングすると、音がスッキリしてくると思います。聞いて決めましょう。ミキシングは「判断」の集合体です。
これでアコースティックギターの音はかなりスッキリした音になっていると思います。聞かせたい部分がより聞こえるようになっていればOKです。
他にも不要と感じる音、気になる音があれば、イコライザーを使ってカットしてみましょう。不要な音をカットできれば下準備は完了。以降、楽曲に合わせる、全体の質感を調整するなどの「音作り」作業を進めていきます。
全体の質感や曲へのマッチングを調整する
エフェクトの順序を考える
「不要な音をカットした音」と「不要な音をカットしていない音」。
コンプレッサーに入る音はどちらの音が適していると思いますか?
文章で書いてみると簡単ですよね。後者です。前者の音をコンプレッサーに入力した場合は、不要な音にコンプレッサーが反応してしまう可能性が高くなり、意図しない動作が起こりやすくなります。
基本的にはすべてのエフェクトは不要な音をカットした後に来るように並べるほうが良いです。コンプレッサーはイコライザーの後段に移動しておきましょう。Cubaseの場合は、左側インサートエフェクトスロットの下の方、色違いのスロットを使うと後段になります。

※インサートスロットの緑色の線を上下させることでスロットの数を可変することができます。
音を作るイコライザーを挿入する
先程のカットするイコライザーとは別に、音を作るイコライザーを最後段に挿入してみましょう。コンプレッサーよりも後段です。
音作り用イコライザーはビンテージ系のものを使うと良いでしょう。お持ちでなければDAW付属のイコライザーでも問題ありません。ここではWaves VEQ4というイコライザーを使ってみました。

Waves V-EQ4:Neve 1081コンソールをモデリングしたイコライザー・プラグイン。V-Seriesバンドルの他、Gold以上のバンドルに入っています。
パターン1 アコギソロ
アコギソロの場合、良い音で録音できれば、さほど音をいじる必要はありません。
一方でアコギのみで低域から高域までの音をカバーする必要がありますので、低音を多めに調整すると良いでしょう。
LF(Low Frequency:低域):330Hzを3dBブースト

パターン2 ボーカルとギターでの弾き語り
弾き語りの場合、低音に対する考え方はパターン1と同じで良いでしょう。
高域については、ボーカルが入ってくるのでボーカルを邪魔しないようにする必要があります。高域を少しシェルビングEQでカットして、ボーカルの邪魔をしないようにしましょう。
LF(Low Frequency:低域):330Hzを3dBブースト
HF(High Frequency:高域):4.7kHzを3dBカット

パターン3 楽器がたくさんいる曲でのバッキング演奏
ベースやピアノなど、アコギ以外のパートが低音を担当するのかどうかが分かれ目です。低音担当がいる場合、アコギの低音を少しカットすることで楽曲全体の低音が聞きやすくなり、安定してくるでしょう。
LF(Low Frequency:低域):330Hzを3dBカット
HF(High Frequency:高域):4.7kHzを3dBカット

アコギの音作りのポイント
なるべくシェルビングEQで音作りをする
イコライザーというのは少なからず原音に影響を与えるもので、イコライザーをかける(イコライジングするといいます)部分以外の音全体にも変化が出てきてしまいます。この時の変化がシェルビングの方が少ないといわれています。ピーキングEQを使う場合でもQ幅が広い方が影響が少ないと言われています。
アコースティックギターはイコライザーによる音色変化の影響を受けやすい楽器であるため、なるべく音が変わらないように注意する必要があります。
何回も繰り返して完成させるという覚悟を持つ
上記の音作りEQを終えるとあら不思議、また気になるところがひとつ増えたりするのです。
その場合は最初のステップに戻って不要な音をカットするEQを再度行いましょう。カットするポイントがいくつも出てくることはよくあります。録音する音がまとまっていない場合は、3−4箇所カットすることもあります。当然音に影響が出ます。
その他、何かひとつ音をいじると気になるポイントが出てくる。それがアコギの音作りです。
ギターのチューニングは、6弦から始めて、1弦を終えるとまた6弦が狂ってしまいます。
アコギの音づくりもこれと同じようなものなのです。
最も有効な音作りは楽器と弦、そして演奏
最後にこんなことで締めると怒られそうですが、楽器が鳴っていない(ちゃんと音が出せていない)場合は音作りが大変になります。不要な音が多くなってしまうため、欲しいところを上げてもほしい音は出てこない、代わりに不要な音がどんどん出てきます。
弦が古い時も同様です。
そして演奏です。
弦の芯が鳴っているようなきっちりとした演奏でないと、音は生き残ってくれません。ギタリストの方であれば、音作りで行き詰まったら弾き直した方が早いかもしれません。どうすればどういう音になるという方程式、そして欲しい音が明確になった状態で演奏すると、いいテイクがすぐに録音できるかもしれません。
アコギの音作りの流れをお伝えしましたが、いかがだったでしょうか。
基本的にはイコライザーとコンプレッサーです。そして何度も詰めて完成させていく。地道な作業です。
次回はマイクの数が、、、増えます!想像どおり大変になりますが、リアリティは倍増!ぜひ体感するだけでも良いので読んでみてくださいね。

ミキシングを中心にレコーディングからマスタリングまで手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事、合同会社SoundWorksK Marketing代表社員。2021年よりYouTubeチャンネル「SoundWorksKミキシング講座」を展開中。過去には音響機器メーカーTASCAM、音楽SNSサービスnanaのマーケティングに従事。