ローカットを使いこなして音スッキリ! LCFのコツと考え方 [vol.020 難しさ:ふつう]

歌ってみたのMIXからマルチトラックミキシングにステップアップした人は、その難しさ、特に音がスッキリとまとまらないことに驚くのではないでしょうか。

今回の記事では、簡単に挑戦できて効果もわかりやすい「音がスッキリする方法」を紹介します。ローカットフィルター(別名:LCF/ハイパス・フィルター)と呼ばれる、どのDAWでも付属しているスタンダードなエフェクトを使います。ローカットフィルターはDAWだけでなく、マイク本体にもついているエフェクト。どこにでもついているというのは需要が高いということで、つまりは使用頻度が高いということです。

人によって使い方や頻度が異なり、様々な哲学が存在する奥の深いエフェクトですが、まずはローカットフィルターによる音作りを身につけましょう。

動画はこちら。動画だと音も確認できますので、ぜひご覧ください。

https://youtu.be/CwPVjeF0ubo

ローカットフィルターとは

ローカットフィルターとは、ローをカットするフィルターです。

なんの説明にもなっていませんね、すみません(笑)。

真面目に説明しても意外とそのままなのですが(苦笑)、指定した音の高さよりも低い音(=低域)の音量を著しく小さくする(=カット:削除)ことができるエフェクトです。イコライザーと一緒に扱われることが多く、イコライザーを起動すると一緒に入っていることが多いです。英語で書くとLow Cut Filter、略してLCFと呼ばれますので、この記事でも以後LCFと表記します。

DAWや機器によって呼び方に差があり、CubaseではLCと表記されています。Low Cutということです。

ちなみに、ローカットフィルター(LCF)とハイパスフィルター(HPF)は、呼び方が異なるだけで同じものです。

例えばピアノの音にLCFをかけてみましょう(想像してください)。ピアノの音は低い方から高い方まで広い帯域に音の成分が分布していますが、LCFを使うと低い成分だけ根こそぎカットできます。

LCFのパラメーターとLCFで誤解されやすいこと

一般的なLCFのパラメーターを覚えましょう。

周波数(Frequency、F、Freq、など別の表記も):カットする基準値を設定します。周波数で設定した高さよりも低い音がカットされます。数字が大きい方が高い音です。単位はHz(ヘルツ)です。
スロープ(Slope、表記がないことも多い):基準値からどのくらいの勢い(カーブ・スロープ)でカットするかを設定します。単位はdB/oct。これは、1オクターブ(=oct)でどのくらいカットされるかという表記です。-12dB/octなら、設定した周波数より1オクターブ低い周波数のときに12dBカットされますという意味です。難しいので、数字が大きいほうが激しくカットされるというくらいに覚えましょう

ここで重要なことをひとつ。

カットするといっても、設定した周波数から下をすべてカットするわけではないということを認識しましょう。

例えば、ピアノの音に周波数=300Hz、スロープ=-12dB/octという設定でLCFをかけてみます。まずはLCFをかける前の特性を見てみてください。赤い枠に注目。

次にLCFをかけた時の特性を見てみましょう。

おわかりになりましたか?

300Hzより低い音が減ってはいるものの、300Hzより下の音が出力されているのです。

つまり、LCFをかけても小さくなる(減衰する)だけで、音がなくなるわけではないということです。LCFを嫌がる人はこの点を誤解していることが多く、全部音がなくなると思っている人が多いです。が!LCFをかけてもそこそこ音が残るんです。これを理解すると、LCFを使うことへの心理的障壁が低くなります。消えちゃうわけではないのです。

スロープの数字を小さくすると、もっと音が残ります。逆にスロープの数字を大きくすると音が残らなくなります。本当に音を消したい時は、スロープを大きな数字に設定するということです。スロープの設定値はLCFによって様々ですが、以下のようなイメージで設定すると良いでしょう。

  • -6dB/oct:一応LCFをかけておきたい時。思いの外低音が残ります。
  • -12dB/oct:ちゃんとLCFをかけたい時。筆者は-12dB/octで使うことが最も多いです。
  • -18dB/oct:低域にガッツリ消えてほしい時、-12dB/octで効果が感じられない時。
  • それ以上:本当に消えてほしい時(笑)。マスタリングで超低域成分をカットしたいときなど、確実かつ大胆にカットしたい時に使います。

低音担当パートを決めましょう

さて、LCFが理解できたら、次はどの音にどの程度使うかを考えましょう。この時に役に立つ考え方が、「低音担当者を誰にするか」という思考回路です。

楽曲には、アレンジによって様々なパートがあります。アコースティックギターとボーカルだけの曲(アレンジ)もあれば、楽器の数を数えるのが面倒なくらい楽器数が多いアレンジもあります。ミキシングにおいては、それぞれのパートが何を目的に作られているのかを考えると音を整理しやすくなります。

ここでは、以下の構成の楽曲におけるベースというパートの役割を考えてみましょう。

ドラム/エレキベース/アコースティックピアノ/エレクトリックピアノ/オーバードライブギター/ボーカル

この構成におけるベースパートの役割は楽曲の低音部分を支えることでしょう。エレクトリックピアノはコード感を出し、ギターは曲を彩り、ピアノは妖艶な雰囲気を曲に与える。などなど、それぞれのパートにはそれぞれの意味と与えられた役割があるはずです。

ということは、お互いの楽器が役割を全うできるようにすれば、自ずとスッキリと整理された音になってくるのです。それぞれの楽器で最も大切にすべきことは何かということです。ベースの役割が低音を支えることだとすると、全てのパートが同じように低音を出していると、ベースの役割を邪魔することになり、ベースの低音も聞こえなくなります。例えば、ピアノの低音とベースの低音がぶつかると、お互いが干渉して両方ともよく聞こえません。

また、ある楽器に「出してほしい帯域」と「実際に出ている帯域」は異なります。例えばピアノのきらびやかな高音を期待して作ったフレーズの場合でも、高域だけが出ているわけではありません。高音を期待したフレーズでも低音は出てくるわけです。こういった、アレンジの目的と実際に出ている音の差異を整理していくことはミキシングの大きな役割と言えます。

ベースしかいなければベースはよく聞こえます。しかし他のパートが入ることでベースが聞こえにくくなる。つまりは、誰かがベースの仕事を邪魔している訳です。

LCFで交通整理をするのです。

これを踏まえて、楽曲における低音を誰が受け持つべきかを整理して、担当者以外が出している低域をLCFで整理していきましょう。こういうイメージです。

Ovationというギターがバンドサウンドで愛される理由

この話は完全に筆者の経験による余談なので、参考例として聞いてください。

Ovationというアコースティックギター(エレアコ)がありまして、バンド演奏において愛されるギターです。特徴的なのはボディがプラスチック(樹脂)でできており、一般的なアコースティックギターとは一線を画す音がします。

一方でMartinのD-28という有名なギターがあります。でっかいギターで、音も大きく、低音から高音までよく鳴ります。故に弾き語りでは絶大なパフォーマンスを発揮するギターです。

この2種類のギター、単品で聞くとD-28の方が良い音に聞こえると答える人が多いでしょう。大きな音で、ワイドレンジだからです。

しかし、バンド楽曲で使うとOvationの方が聞き取りやすいという事が起こります。理由は、Ovationの方が音が絞られているからです。D-28はバンドサウンドにおいては情報量が多すぎるのです。バンドにはベースがいて、低音がすごくよく出るD-28より「程よく低音が出る」Ovationの方がマッチングが良かったのです。

同じように、生音だとそうでも無いのに、録音して他の楽器と混ぜると抜群というアコギもよくあります。これは、そのアコギが出している音が他の楽器と混ざった時にちょうど良い帯域にまとまっていることが多いです。用途を絞って作られたギターという訳です。

この事例にはミキシングで大事にすべきポイントが含まれています。

レコーディング・ミキシングエンジニア以外の方は「楽器単体の音で判断して音を作ってしまう」という傾向があります。単体で聞いて「いいな!」と思った音をそのまま出してしまうために、他の楽器が入ってきたときにイメージが崩れてしまうのです。

ミキシングとは取捨選択。すべてを大事にしていては、結局何も聞こえなくなってしまうのです。楽曲制作者とは異なる視点で客観的に楽曲と音を聞き、どの低音が必要なのかをよく考えてみましょう。

※もちろんアレンジや演奏法、曲の構成、環境など様々な要因ですべての事例において上記のような結果になるわけではありません。適材適所、客観視の重要性を説明するための「事例」です。

LCFで大胆にカットした音を聞いてみましょう

まず、楽曲において低音を担当する楽器をひとつに決めてください。そして、それ以外のパートの低域をLCFで大胆にカットして音を聞いてみてください。「300Hz, -12dB/oct」くらいの設定で、ドラムとベース以外の低音をカットしてみてください。以下の画像では、左から6-8トラック目がアコースティックピアノ、エレクトリックピアノ、ディストーションギターです。かなり激しくLCFでカットしているのがわかります。

※このまま完成ではなく、とりあえずやってみようというコーナーです

ここで質問です。

全パートを再生した状態で、LCFをかけたパートの音をよく聞いてください。その楽器の音に、、、、聞こえますか?例えばピアノにLCFをかけた場合、LCFをかけたあとの音はピアノに聞こえますか?それともピアノ以外の楽器に聞こえますか?

これが意外と、、、、ピアノに聞こえるんです。低音がいなくなっても、ピアノはピアノなんです。ギターも同様。アコースティックギターの低音をカットしても、やっぱりアコースティックギターの音に聞こえるんです。「低音が〜」という感想は、ギターの音を知っているミュージシャンの感想なのです。ぜひやってみてください。

この実験でわかることは、大胆にカットしてもその楽器だということは認識できるということです。ギターの音をスカスカにしてもギターはギターなのです。一般リスナーならなおさらでしょう。

さて、カットした状態で全体の音を聞いてみてください。いかがですか?やたらとスッキリ聞こえませんか?
ベースラインがはっきりと聞こえ、むしろ低域が豊かになったように聞こえることもあると思います。お互いが干渉せずに役割を全うできるというのはとても重要なことなのです。

LCFを調整していきましょう

現状ではさすがに低音が寂しいということも多いでしょう。もちろんです。ここからLCFを調整して低域を作り込んでいきましょう。

具体的には、すべての楽器を再生した状態でLCFを弱めていきます。周波数の設定を300Hzから次第に下げていきましょう。どこかでベースとぶつかり始め、ベースが聞こえにくくなってきます。ベースが聞こえにくくなってきたら下げすぎなので、ちょっと戻して止めましょう。

ベースを低音担当とする場合は、概ね200Hz以下の帯域でベースが主役になっている必要があります。他の楽器の周波数設定は120-200Hzの間くらいで調整していくと良いでしょう。120Hzでも寂しい場合は、スロープを-6dB/octにしてみましょう。

音を聞いてみてください。スッキリした音が作れたのではないでしょうか?まずはスッキリした音を体験し、作る方法を覚えること。ここからです。あとは弱めていけば良いのです。ぜひ積極的にLCFを使って、どのような音になっていくかを体験しましょう。もちろんすべての曲に使える方法ではありません。曲によります。しかし、LCFを理解することでミキシングの世界が変わって見えるはずです。

今週の宿題

今週の宿題は、こちら!

マルチトラックの素材をLCFとボリューム調整だけでミキシングしてください。

素材はマルチトラックであればなんでも大丈夫です。ご自身の曲でリリース済の曲など、音をよく知っている素材がベターです。

使って良いエフェクトはLCFのみ。あとはボリュームとパンだけ使ってミキシングしてみてください。
練習なので最後までガッツリ作り込まず、音量バランスだけ取れれば十分です。

実はですね。かなり作り込めるのですよ。LCFだけで。

ぜひLCFの威力を思い知ってください。

今週の耳トレの解答

今週の耳トレの問題はこちらでした。

原音に対し、4つのLCFがかけられた音源があります。300HzのLCFがかかっている音を選んでください。

正解は、Bです!

消去法で考えれば比較的簡単だったのではないでしょうか。どのあたりの周波数をこうするとこうなる、みたいな感覚値を身に着けておくと、次第に頭の中で音が作れるようになってきます。実際に音を出さずにミキシングの段取りを考えられますので、作業速度がアップしますし、完成度も高くなります。

最初からは無理ですが、聞こえている周波数がいくつ?というのを考えながら日々過ごしていると段々と当たるようになってきます。やってみてくださいね!

AからDまで、以下のような設定でした。

音源A

音源Aは500Hzでした。500Hzまで切ってしまうとかなりスカスカ感が出ますね。

音源B

音源Bが300Hz。このあたりは、LCFかかってるねぇ、くらいの領域ですね。

音源C

音源Cは120Hz。原音にこれより低い帯域の音があまり含まれていなかったため、120HzのLCFだとそこまでカットされている感じがしませんね。

音源D

音源Dはなんと750Hz。ここまで来るとスカスカです。シンバルなどの金物、シンセ音などにはこのくらいのエグい設定を使うことがあります。


さて、ローカットフィルターについてお届けしてきましたが、いかがだったでしょうか。

まずはスッキリとして音が作れるようになってみましょう。すると、かなり世界が広がります。一旦スッキリした音が作れたら、LCFを弱めるもよし、スッキリをキープしていくもよし、様々な選択肢が出てきます。不要な音が整理されているかどうかは、プロとアマチュアの差が大きい部分でもあります。演奏でも同じで、プロの演奏というのは余計は音が少ないものです。

その曲に必要か、不要か。

センスと言われるものは突き詰めると要不要の仕分け能力です。LCFを使いこなすことは仕分けの第一歩と言えるでしょう。仕分けなので、捨てるわけではないのです。見極めること。これが大事です。

ぜひスッキリした音を一度体験してみてくださいね。

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