簡単にサビが盛り上がる裏技!?マスターフェーダー・オートメーション[難しさ:やさしい vol.107]歌ってみたMIX/パラミックス
ミキシングがうまくできるようになってくると、次の課題は演出。楽曲を盛り上げるテクニックが重要になってきますが、最も役に立つのはオートメーションになるでしょう。その中でも最も簡単で、かつ裏技的なテクニックがマスターフェーダー・オートメーションです。プラグイン不要、わずか0.5dBの操作で盛り上がりを作ることができます。
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目次
マスターフェーダーを動かしても良い?
マスターフェーダーとはミキシングされた音が出力される直前、ミキサー最終段にあるフェーダーで、全体の音量を一括してコントロールすることができます。動かしてはいけないと思われがちですが、そんなことはありません。特に楽曲のダイナミックレンジ(楽曲内での音量差)を演出するためには有効な操作子となります。
マスターフェーダーを動かす上でひとつだけ覚えておいていただきたいことは、「0dB以上に設定しない※」ということです。
各トラックのフェーダー(チャンネルフェーダー)の場合、0dB以上に設定し、レベルオーバーが発生したとしても、出力されるまでに音量調整されればレベルオーバーが発生しません。※近年のDAWの場合
しかしマスターフェーダーの場合は最後のフェーダーなので、0dB以上に設定し、レベルオーバーが発生すると音が歪んだマスターファイルが出来上がってしまいます。
以下は実験です。
1kHz 0dBのサイン波(テスト信号)を発生させ、サイン波のトラックを0dB、マスターフェーダーを0dBで出力すると以下のようになります。

右側が出力された波形ですが、波形の頂点が平らになっていない=歪んでいないことがわかります。
では次に、チャンネルフェーダーを1.0dBに、マスターフェーダーを-1.0dBに設定してみました。

0dB>0dBで出力した時と同じく、波形が平らになっていない=歪んでいないことがわかります。チャンネルフェーダーは1.0dBなので一旦歪んでしまうのですが、マスターフェーダーが-1.0dB設定=下がっているこによって、元の大きさに戻っているのです。
(これはDAWの浮動小数点処理による恩恵なのですが、難しいのでここでは割愛します)
では最後に、チャンネルフェーダーを0dBに、マスターフェーダーを+1.0dBに設定するとどうでしょう。

波形の頂点が平らになっているのがわかります。これが歪んでいるという状態で、元々のキレイなサイン波形が破壊されていることがおわかりいただけるでしょう。
つまり、チャンネルフェーダーの音量設定や音作りによる歪みはマスターフェーダーで回復できるのですが、マスターフェーダーは最後段なので、歪んでしまうと回復させるセクションが存在しないのです。
まとめると、マスターフェーダーを動かす場合は、0dBを超えないように動かすことが要点となります。
※仕組みを正確に理解し、レベル管理を正しくできる場合は0dB以上に設定することもできます。
サビ以外を下げるオートメーション
前項の「0dBを超えないようにする」を満たしつつ、サビが最も盛り上がるようにオートメーションを書いてみましょう。必然的に、サビ以外を下げるというオートメーションになります。この時に変化の幅を大きくしすぎるとわざとらしい変化が出てしまいます。フェーダーオートメーションは最低限の幅で、かつ変化を感じられるように行うのがコツです。
サビで0dBに戻す
マスターフェーダーにオートメーションを行う場合は、最大で1.5dB程度の範囲を目安にしてみてください。ということで、サビ以外を1.5dB下げるオートメーションを書いてみます。

この曲の場合は61小節目からサビとなり、60小節目はブレイク。ボーカルだけとなっています。この隙間を活用してフェーダーを動かし、不自然さを感じないようにしています。1.5dB違うだけですが、かなりサビのインパクトが大きくなるのがわかります。
サビが終わったら-1.5dBに戻す
そしてサビが終わったらマスターフェーダーを-1.5dBまで戻していきます。戻すタイミングがやや難しく、題材曲では74小節目のサビ終了で約0.5dB下げ、間奏終了〜2番Aメロの間で1.0dB下げ、元の大きさ(-1.5dB)に戻しています。

変化を感じさせないことがコツです。目をつぶって聞いた時にマスターフェーダーが動いたように感じる場合は変化のカーブまたはタイミングに修正を加えましょう。
また、変化の量も1.5dBと決まっているわけではなく、楽曲によって異なります。0.5dBの時もあれば、1.0dBの時もあり、また、楽曲の中で何段階か細かく使い分ける場合もあります。試行錯誤して楽曲に合うように調整しましょう。
変化のカーブとタイミングが重要
以下はサビ頭でフェーダーを上げるポイントとカーブを変更したものです。この方が急激な変化なのでバレそうですが、意外とこちらの方がサビ頭での盛り上がりが出てきます。

このような急激な変化を使う場合のコツは、タイミングです。上記の場合はサビ頭にあわせて大きくなっています。この楽曲においてのサビ頭は、ボーカル以外の楽器が一斉に音を出す瞬間。ただでさえ瞬間的に音量(音圧)が上がりますが、更に加速させるようなオートメーションになります。
このように、元々の変化を加速させるタイミングであれば良い効果を出してくれるでしょう。
音質も変化させる上級テクニック
紹介した方法は、最終段のマスターフェーダーを変化させているため、音量の変化のみが発生します。ここから紹介する方法は音量というよりも音質・音圧の変化が起こることでサビを盛り上げる上級テクニックです。
マスタートラックではマキシマイザーをはじめとした様々な最終調整用エフェクト(プラグイン)が使用されます。このプラグインの前段にフェーダーを設け、オートメーションを行います。
Cubaseの場合は、各トラックのプラグインスロットに緑色の線があり、この線がフェーダーの位置を示しています。したがって、緑の線をインサートされているプラグインより前に移動することでフェーダーの位置を変更することができます。

題材曲では、以下の通り筆者の定番プラグインチェインが組まれています。
- T-RACKS Master EQ 432
- T-RACKS Precision Compressor
- Sonnox Oxford Inflator
- Waves L1+ Ultra Maximizer
上記の画像では、Master EQ 432とPrecision Compressorの間に線を移動しました。移動すると以下のようにフェーダーより後ろのプラグインの色がオレンジに変わります。オレンジ色のプラグインはマスターフェーダーの音量変化の影響を受けることになります。

一見コンプレッサーやマキシマイザーで音量変化が吸収されてしまいそうですが、程よく変化が残ります。加えて、コンプレッサー・マキシマイザー等に入力される音量が変わることで、コンプレッサー・マキシマイザーのかかり方が変化し、音質変化が生まれます。多くの場合、倍音が増える方向に変化するため、サビだけ倍音が多い=目立つという状態を作ることができます。
結果、サビで音量と音質の変化が生まれ、盛り上がって聞こえるという仕組みです。
参考までに、ProToolsの場合、マスターフェーダー位置がマスタートラックのプラグイン前段に固定されているので注意が必要です。ProToolsでプラグイン後段にマスターフェーダーを設けたい場合はTrim等の音量のみ変化させるプラグインを最終段にインサートして、プラグインに対してオートメーションを書くと良いでしょう。
ProToolsのみ変わった仕組みになっているので、今回の記事はCubaseを題材としました。