BD/SNの音を前に出すための知識 トランジェントとは? はじめてのドラムサウンド day2

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みなさんこんにちは。ドラムサウンドメイキング、楽しんでいますか?

前回はドラムの構造などの基礎知識から、イコライザーと音量調整でドラムの音を組み立てる方法を紹介しました。ジャズやクラシックよりの世界では演奏のダイナミックレンジ(音の大小の幅)をそのまま使うので、実質的にはイコライザーと音量調整だけで仕上げることも少なくありません。原音忠実、聞いている音に近い音の再現という面でイコライザーと音量調整のテクニックは非常に重要であると言えます。

しかし今日のPOPSや歌謡曲では、もっとアグレッシブな、原音から離れてもインパクトのある音が求められます。音楽のジャンルが変われば求められることも変わるのです。

今回の内容は、POPSや歌謡曲、世間一般でよく聞く音楽のジャンルで必要なアグレッシブな音作りの基礎を紹介していきます。

動画はこちら!

音を作っていく前に 〜ドラムをまとめてコントロールする〜

ドラムの音をまとめてコントロールできるようにしましょう。

ラムというのは複数の楽器が集まってひとつの楽器を構成しています。従って、音量や音質も「ドラムごと」調整できると便利であり、音の統一感も出しやすくなります。

複数のトラックをまとめてコントロールするためには、「バス(BUS)」という信号をまとめるための新たな信号経路を作ります

バスというのは「信号が流れる場所」のようなニュアンスで、バスドラムやスネアドラムなど個別の信号を「バス」という場所に一旦流します。「まとめトラック」のようなものだと思えば良いでしょう。Cubaseでは「グループチャンネル」という名称で扱われており、DAWによって名称は違いがあります。

Cubaseの場合はドラムの各トラックを選択(Shiftを押しながら必要なトラックを選んでいきます)した状態で右クリック。[トラックを追加>選択したチャンネルにグループチャンネル]を選択します。

グループチャンネルを作成する

グループチャンネル(バス)が作成されました。

グループチャンネルのフェーダーを操作することでドラム全体の音量を一括で調整できるほか、普通のトラックと同じようにエフェクトをかけることもできます。

ドラムを一括コントロールできるようになりました

整理しておくと、信号の流れは以下のようになります。

グループチャンネル(バス)を理解して使いこなすことでミキシング作業のスピードが格段に速くなりますので、ぜひ使ってみて下さい。プロとアマチュアの差のひとつに作業スピードがありますが、スピードの違いを生み出しているもののひとつがバスの使い方だと考えています。

ちなみに、GarageBandではバスというものがありません(作れません)。GarageBandは素晴らしいソフトウェアですが、ミキシングをレベルアップしていく時に2つの大きな欠点があり、そのひとつがバスが使えないことです。

トランジェントというもの

ここ何年かでメジャーになった言葉のひとつにトランジェント(Transient)というものがあります。

「トランジェント出す」とか、「トランジェントを正確に捉えている」などの活用をされます。人によって解釈がバラついていることもあり、正確な定義をしようとすると議論の対象になるでしょう。アタック(立ち上がり)部分に含まれるノイズのような音だとか、アタックとは異なる何か、などの解説が多いのですが、実際にトランジェントを感じたことがない人にはわかりにくいなと感じていました。

モダンな言葉なので僕も最初は理解できませんでしたが、トランジェントをコントロールするエフェクトを扱っていくうちに気づきました。トランジェントというのは昔は苦労して色々な方法で音から取り出していた音の成分のことだ、と。(昔からやっている人には理解してもらえる感覚かなとw)

わかりやすく表現するのであれば、

音が目立つか目立たないかを司る成分

だと理解しています。

アタック音とはちょっとニュアンスが異なり、アタック音の中のひとつの成分とでも言うべきものです。

が!

世の中ではアタック音やリリース音のカーブ(ADSRと言います)とほぼ同義語として扱われていることも少なくないです。

「アタックのトランジェントを出す→アタック音を強める」

のようなニュアンスで使われている印象を受けます。ここは定義を定めることよりトランジェントを体で理解することにしましょう。

実際にトランジェントをコントロールした音を聞いてみて下さい。僕は「Waves Smack Attack」というプラグインを使ってトランジェントをコントロールすることが多いです。

Waves Smack Attack

Cubaseでは標準のプラグイン「Envelope Shaper(エンベロープシェイパー)」でほぼ同等の事ができます。

Cubase Envelope Shaper

使い方は似たようなもので、アタック(=音の立ち上がり)とリリース(=音の減衰)を個別に音量コントロールできるものです。音を前に出したかったらアタックを強く大きく、後ろに下げたかったらアタックを弱くといった使い方をします。使い方が簡単すぎて説明することが無いくらいです(;・∀・)。

トランジェントを大きくすると当然音量も上がってしまうので、出力がオーバーしないように注意しましょう。オーバーする場合は[OUTPUT]を下げましょう。Waves Smack Attackの場合は、[Guard]というスイッチを入れるとレベルオーバーを防止してくれます。

余談ですが、音が出てからなくなるまでのカーブをADSRと言い、それぞれAttack time/Decay time/Sustain level/Release timeの頭文字です。シンセサイザーでの音作りで出てくる用語ですが、音のことを理解するのに役立つので覚えておきましょう。Sustain Levelだけが音量であとの3つは時間を表していることがポイントです。

  • Attack Time(アタックタイム):音が始まってから最大音量になるまでの時間
  • Decay Time(ディケイタイム):最大音量に達してからSustain Levelに落ちるまでの時間
  • Sustain Level(サスティンレベル):音が維持される・伸びる時の音量
  • Release Time(リリースタイム):Sustain Levelから音がなくなるまでの時間

これらのADSRで描かれる曲線のことをエンベロープ(Envelope)と言います。

音のエンベロープ(ADSR)

何が言いたいかというと、最近のミキシングではこのトランジェントやエンベロープを操作することができるようになり、サクっと音の前後感を操作できるようになったということです。ドラムの音を前に出したかったらトランジェント・エンベロープをいじってみよう!ということです。

ドラムの音を作る上では便利な技ですので、ぜひ覚えておきましょう。

コンプレッサーとイコライザーで同じことをやってみる

トランジェントシェイパーで前後コントロールしても良いのですが、僕は「あるプラグインがなくなったら音が作れない人」を育てるつもりはありません。持っているものだけで自分の音を作れることはとても大事なことだと思います。

そして、色々な方法で目的の音を作れるほうが表現できることも多くなります。

ということで、トランジェントシェイパーの音を覚えたら、トランジェントシェイパーを使わずに音のアタックやリリースをコントロールして音の前後をコントロールすることを覚えていきましょう。

まずはコンプレッサーの動作についておさらいです。コンプレッサーは音量の自動コントロールという役割と音質を変化させる役割がありましたが、ここではまず音量の自動コントロールという役割に注目していきます。

アタック部分を目立たせるにはアタックタイムをきっちり設定する

トランジェントを含むアタック音の部分が目立てば音が前に出ます。コンプレッサーでアタック音を目立たせてみましょう。

アタック音が大きいというのは、アタック音以外を小さくすれば同じ状態になります。

また、コンプレッサーのアタックタイムというパラメーターは次のような意味です。

Attack Time:コンプレッサーが動作し始めるまでの時間

コンプレッサーが動作すると音が小さくなりますから、コンプレッサーが動作する前にアタック音を通過させてしまえばアタック音が大きく、その他が小さいという状態を作れます。以下の波形を見てみて下さい。

コンプレッサーをかけたスネアの波形(下段)

上段は原音(スネア)、下段はアタックタイム:5msでコンプレッサーをかけた音の波形です。赤く囲った部分で約5ms。赤い枠の中(アタック音)は変化がなく、その後ろの音には変化がある(波形が小さくなっている)ことがわかります。これがコンプレッサーでアタック音を目立たせた状態です。

ちなみにこのスネアの音、音がなくなるまでは約250ms(薄い青色)、主要な部分は約50ms(赤枠)という長さでした。

このスネアの音の長さは250msだった

ここで覚えるべきは、ドラムの音のというのは上記のように非常に短い音であるということです。

アタックタイムを50msに設定したらどうなるでしょうか?

そうです、コンプレッサーが動作する頃には音が小さくなっています。

ドラムにおいて長過ぎるアタック・リリースタイム設定は意味がないのです。

ということで、以下のような設定でスネア・バスドラム等にコンプレッサーをかけてみましょう。

  • Ratio(レシオ):5:1 もしくはそれ以上
  • Attack Time:5〜7ms
  • Release Time:自動(なければ50ms)

この状態でスレッショルドを下げていきます。また、アウトプットゲインはメーターが赤くならない程度に上げましょう。コンプレッサーを強めたければスレッショルドを下げていきます。また、サスティン(胴鳴りの伸び)を強調したければリリースタイムを短くしていきましょう。

アタック部分・トランジェントが目立ってきたのではないかと思います!

コンプレッサーの種類を変更する

通常のコンプレッサーで音の変化がわかってきたら、コンプレッサーの種類を変更してみましょう。ビンテージ系のコンプレッサーに変更することで、音量変化だけでなく音質の変化も大きくなり、音が目立って迫力が出てきます。

Cubaseの場合は標準付属の「Vintage Compressor」というエフェクトを使ってみましょう。設定値も以下の画像を参考に設定してみて下さい。注意点は、出力がレベルオーバーしやすいので、右の出力メーターをよく監視しましょう。オーバーする場合は[OUTPUT]を下げます。

Cubase Vintage Compressor
  • INPUT:ビンテージ系のコンプレッサーではスレッショルドを下げるのではなく、入力を上げていくという操作をします。スレッショルドと同じだと思って下さい。
  • RATIO:画像のように4種類から選んで使うスタイルです。ドラム系なら4か8で良いでしょう。
  • PUNCH:音がいい感じに太くなるボタンです。とりあえず押しておいて下さい。
  • AUTO:リリースタイム設定が自動になります。

このコンプレッサーはUrei 1176というコンプレッサーがモデルになっていると思われます。FET系というカテゴリのコンプレッサーで、派手なかかり具合とエッジの効いた音質が特徴。ドラムにはよく合います。1176をモデルにしたコンプレッサーは他社でも非常に多くあります。

1176をモデルにしたコンプレッサー T-Racks Black 76

Wavesにも1176をモデルにしたCLA-76というコンプレッサーがあります。

CubaseのVintage CompressorやWaves CLA-76にある[MIX]というつまみはパラレルコンプレッションという技のためのつまみで、コンプレッサーがかかった音とかかっていない音を混ぜることができます。

コンプレッサーをかけるとトランジェントやアタックは出てきたのに、原音の元気さや迫力が失われることがあります。このような場合に[MIX]つまみを戻して原音を混ぜてみましょう。DRYは原音、WETはコンプレッサーがかかった音のこと。DRY側に2〜3割程度回すと音に元気が出てくることがあります

なお、ビンテージ系のコンプレッサーはそれぞれ音に味があって、かけるだけでいい感じになるということです(苦笑)。色々なものを使ってみて、自分の好みのコンプレッサーを探しておきましょう。それが自分の音になっていきます。

筆者ドラム用(スネア、バスドラム、タム用)のお気に入りは以下のコンプレッサーです。

  • Urei 1176系コンプレッサー
  • Fairchild 660系コンプレッサー
  • Waves H-Comp
  • Sonnox Oxford Compressor

ビンテージ系イコライザーでトランジェントっぽいものを出してみる

最後の仕上げに、イコライザーでトランジェントがありそうな帯域(苦笑)を上げてみましょう。ここではビンテージ系のイコライザーが適しています。筆者はWaves VEQ4が大好きでよく使います。

Waves VEQ4

お持ちでなければ普通のEQでも十分効果があります。

上記の通り、4.5kHzあたり(3.5〜5kHz)の帯域をグイッと持ち上げてみましょう。基本的にはシェルビングで良いでしょう。高域がうるさくて気になるようだったらピーキングEQで同じあたりの帯域をブーストしましょう。(生ドラムでシェルビングを使うとハイハットがうるさくなってしまいます)

この帯域は「耳当たりの良し悪し」を司っています。この帯域が出ていると音量が小さくても大きく感じます。また、大きすぎると「痛い」と感じる帯域でもあります。トランジェントシェイパーのアタックコントロールと似たような効果が得られるでしょう。


いかがだったでしょうか。

重要なのは、自分の操作に音のリアクションがあることです。

ミキシングが進んでいくと、「操作しているのに音が変わらない」という事態に直面します。この時に理論的な音作りがなされていれば対処法を導き出すことが出来ますが、AI任せで考えずに音作りをしていると見事に行き詰まります。

なぜ聞こえるのか、なぜ聞こえないのか。考えてAIを使うことが重要なのです。

仕組みを理解しながら音作りをしていくことで懐の広いクリエイターになることができると思います。ドラムの音は色々なことを勉強しやすいので、ドラムの音作りをきっかけに音を掘り下げて考えてみて下さい。色々なことがわかってくると思います。

次回は他の楽器が加わることを考慮して音を改造していきます。そうなんです、ここまでは序の口。ドラムだけでいい音にするのは比較的簡単なのです。他の楽器が入ってきて、他の楽器を立たせつつリズムを感じる音にする。これが!難しいのです。

ということで次回もお楽しみに!

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